第21話 メンバーカードの更新
俺は思わず聞き返した。
「パーティーを組めって……まさかさっきあいつらに言ったのは」
「私が冗談で言うと思った? 本気なんだから!」
「おい、勘弁してくれよ。なんでお前達とパーティーなんか!」
「もう、今更断らせないわ。あなたのその強さ、間違いなく本物よ。あなたとパーティーを組めば、どんな強敵だろうが、どんな難関なダンジョンだろうが踏破できる」
「ふざけないでくれ! 俺はそんなこと、まっぴら御免だ」
「あらそう? 嫌でも拒否するつもりね。じゃあ、このヤドゥークリ草はいらない。あなたに返すわ!」
シモーヌは俺が渡したヤドゥークリ草をつき付けた。
「それとこれとは関係ないだろ!」
「関係あるわ。そもそも、ギルドの依頼で手に入れた報酬というのは、本来他人やほかのパーティーに渡すなんて、ご法度なんだから!」
「そんな決まり知るかよ。少なくとも俺には関係ない」
「関係ないだなんて言わせないわ。それがこの世界のギルドの、いや冒険者の掟なのよ!」
冒険者の掟とか何だよ。変な屁理屈をこねて説教されるのとか、一番勘弁してほしい。
「あなたは私にヤドゥークリ草を渡してくれた。これはすなわち、私達とあなたがパーティーだから可能なことなのよ」
「あぁ、全く! そんな屁理屈が通ると思うかよ!」
「おいおい、どうした。さっきから何を揉めてる?」
あまりに大声を出してしまって、ついにエンリケが戻って来た。
「マスター、いいところに来てくれたわ。私、今日からこのゴーイチさんとパーティーを組むことにしたの」
「ほう、それはそれは。強力な新メンバーなことだ」
「おい! 勝手に話を進めるな!」
「あなたは黙ってて! マスター、ということで彼を私達のパーティーへ加入するための申請を、正式に行いたいと思いまして……」
「ふむ、それはいいが……肝心の本人の意向は?」
「もちろんお断りだ」
俺の答えは変わらない。だがシモーヌは待ってましたと言わんばかりに、持っていたヤドゥークリ草を高く掲げた。
「このヤドゥークリ草、彼からもらったんですよ!」
「なに? それは本当かね?」
シモーヌの奴、ギルドマスターという権威のある第三者にその証拠を見せびらかすつもりか。まずいな。
「いや、その草は……俺のじゃない」
「はぁ? 今さら何とぼけるつもり? さっき君に与えるって言ってたじゃない!」
「……俺はそんなこと一言も」
「あぁ、わかった。ゴーイチと言ったか、君はシモーヌとパーティーを組むつもりがないんだな?」
エンリケが話の分かるやつみたいで助かった。俺は即座に頷いた。
「だそうだ、シモーヌ。残念だが……パーティー加入の申請は本人の同意がないと……」
シモーヌは項垂れた。今度こそあきらめたかな。
「……このヤドゥークリ草は、本当に彼からもらったんです。信じてください」
「お前、まだそんなことを……」
「それに彼は、二度も私達を助けてくれました。一度目は昨日のキングオーク、二度目はさっき鍾乳洞で……」
「いい加減にしろ! ただ助けてやっただけじゃないか」
「シモーヌ、気持ちはわかるが……本人の意向が優先だ。諦めろ」
エンリケが諭して、遂にシモーヌはそれ以上反論しなくなった。なんとかおさまったか。
だけどこの女のことだ。もしかしたら、まだ俺に付きまとうかもしれない。油断はできないな。
「マスター、ちょっといいですか?」
受付嬢のファティマがエンリケの後ろから声を掛けてきた。どうやら鑑定が終わったようだ。
と思っていたら、なんとエンリケとコソコソ話を始めた。そして俺の方をじろじろ見ている。なにか悪いことでもしたか。
「……ゴーイチ、ちょっといいかな?」
「もうヤドゥークリ草の鑑定は終わったのか? それでいくらくらいになる?」
「いや、鑑定じゃなくてな……その前にまだ確認すべきことがあった」
「確認すべきこと? 一体何が言いたい?」
エンリケは咳払いをした。
「ギルドのメンバーカードをまだ見せてもらっていない。出してもらおうか」
「……メンバーカード?」
「おいおい。君も冒険者なら、ギルドのメンバーカードは持っているだろ?」
「あなたがどこの出身かは知りませんが、どこの国のギルドでもメンバーカードは発行されるはずですよ」
「ギルドでは冒険者はメンバーカードを提示する。一番大事なことだ。さすがに異国でもそのルールは徹底しているだろ?」
そうだった、二十年というブランクで完全に忘れていた。ギルドで依頼を達成した際には、受付でメンバーカードを見せないといけない決まりがあった。
「どうした? まさか持ってないとか言うんじゃないだろうな?」
「……いや、持ってる。これでいいかな?」
一応持っているのは持っているが、果たしてどうかな。
関所で憲兵に見せたときは白い目で見られた。なんといっても百年前のギルドカードになるからな。
「こ、これは……!?」
案の定か。エンリケは目を見開いた。隣でファティマも凝視して驚いている。
「……あの、マスター……これは?」
「ファティマ、鑑定は終わったのか?」
「いえ、実はまだですが……」
「ならそれを済ませろ。このカードの件は俺がやる」
「え? はい……わかりました……」
なんということか、エンリケはファティマに席を外させた。
「おい……どうなんだ? そのカードで問題ないのか?」
「……お前、異国から来たと言っていたな?」
「あぁ、そうだが……!?」
そこまで言いかけて俺は大事なことを思い出した。
そうか。俺のメンバーカードは、ほかでもないこのギルドで最初に作ってもらったんだ。
まずい。相手はギルドマスターだ。恐らく百年前のカードであっても、このギルド発行だと気づく。
俺としたことが。ここで嘘が一つバレてしまうと、のちのち面倒になる。なんとか誤魔化さないと。
「その……発行は確かこのギルドでしたのは覚えている」
「じゃあ、このギルドで発行した後で異国へ旅立ったのか?」
「……そうだな……」
「…………」
うまく誤魔化せたか。エンリケはしばらく俺を睨みつけた。するとしばらくして、俺にメンバーカードを差し出した。
「まぁいい……いずれにせよ、このメンバーカードは使えないな」
「は? 使えないって……どういうことだよ!?」
「旧式だからだ。残念だが……更新する必要がある」
今度はエンリケがカウンターの引き出しから別のカードを出した。俺のメンバーカードとは見た目が違う。俺のより一回り小さく、長方形は同じだがカードの周りが金属加工されている。
「これが新式のメンバーカードだ。ファティマはまだ新人だったから、そんな古いカード見たことなくてな。だから席を外させたんだ」
「そうか……更新ってどのくらい時間がかかる?」
「ざっと一日くらいだ」
「い、一日!?」
たかがメンバーカードの更新になぜそんなに時間がかかるのか。俺の世界では免許証の更新でも一時間もかからないんだぞ。
「いくらなんでも、それは……せめて今日中に終わらせてくれないか?」
「まぁ、即日発行はできなくもないが……費用がかかるぞ」
「それなら早くそれを言ってくれ。いくらかかる?」
「金貨一枚だ」
「き、金貨一枚? 高すぎないか?」
「無理を言うな。メンバーカードの更新は本来順番待ちだからな。その順番を割り込んで先に更新してほしいってことになると、不公平になる。だからそのくらい要求するんだ」
なんか屁理屈を並べられても今は議論する気も起きない。へたに騒ぐとまた目立つ。
「……更新しないと、ヤドゥークリ草の報酬は?」
「もちろんもらえない。あくまで有効なメンバーカードでないとダメだ」
「……わかった。これでいいか?」
幸いさっきバッカスからもらった金貨五十枚がある。一枚だけ手渡した。
「ありがとう。じゃあここで待ってくれ」
エンリケが奥の部屋へ入っていった。なんとかやり過ごせたようだな。
さてシモーヌはどこへ行った。振り返ったが、どこにもいない。帰ったのかな。
いや、依頼を受けに来たと言っていたからまだギルドにいるかもしれない。
いずれにせよ、シモーヌは厄介だ。ヤドゥークリ草の報酬をもらったら、とっととズラかってセリナと一緒にこの町を発とう。
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