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いまさら好きだと言われても、私たち先日離婚したばかりですが。  作者: 山田ランチ


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第34話 死を纏う者

少し遡り


「このままで済むと思うなよ。絶対に王位は渡さん! 絶対にお前らに復讐してやるからな!」

「陛下! 危険です! そんな得体の知れない……」

「うるさい! 手を離せ!」


 半裸の女は弾き飛ばされると一緒に飛んできた小瓶を握り締めた。


「それを渡せ! 早くしないとあれが来てしまう!」

「陛下に死んで欲しくありません」


 すると灰色の髭が生えた口元が歪んだ。


「誰が死ぬか。いいから寄越せ!」


 女は持っていた小瓶をおずおずと差し出した。



「殿下! こんな事をして誰が許すとお……」


――ザシュッ。


 血飛沫と共にぐらりと大きな体が倒れていく。王宮の中はすでに血の海になっていた。今倒れた男は室外の様子を知らなかったようで、斬られながら廊下に這い出て行き、倒れている兵士達の死体に驚いたような表情のまま絶命していた。


「アデル殿下、宜しいですか?」


 騎士が王の寝室を押し開けると、中から何人もの女達が飛び出していくる。そして廊下を見て更に悲鳴を上げ、散り散りになっていった。

 踵が鳴り、足音が奥にある寝室に近付いていく。そして寝室を覆っていた天蓋のカーテンを剣で切り裂いた。カーテンには剣に付いていた血が滲み、大きな切れ間からはまるで切り取られた悪夢の一部のような光景が広がっていた。


「すでに自害していたようですね。手間が省けて何よりです」


 広いベッドの上ではグロースアーマイゼの国王グレブがすでに絶命していた。手には空になった小瓶が一つ転がっている。その横には身を小さくして怯えているまだ若い女性がじっとアデルを見上げていた。

アデルは赤く染まった手袋を剥ぎ取ると、倒れている国王の首元に手を当てた。


「本当に死んでいるようですね」


 するとおもむろに剣を上げ、横たわる体の心臓目がけて剣を振り下ろした。体は衝撃で跳ね、血がどんどんと染み出してくる。すると女はさっきまでの怯えた姿とは似ても似つかない様子で立ち上がると、一人でベッドを降りた。褐色の肌は一糸まとわぬままどんどん進んでいく。そして衣装部屋へと消えていってしまった。


「バラバラにしますか?」


 騎士は増援の気配に気を配りながら明らかに死んでいるはずの国王を凝視した。


「十分でしょう。これではいくら仮死状態でも生き返れる訳がありませんから」


 すると奥の衣装部屋から異国の衣装を纏った褐色の肌の女性が戻って来た。


「早く行くぞ。このままではあなたは王殺しの逆賊だ」


 廊下に出ると倒れている男の腰から剣を抜き取った。そしてその背に突き刺した。


「こいつはずっと気に食わなかったんだ。王の女である私をずっと見下していた」

「一回でいいんですか?」

「剣が駄目になる、勿体ない」


 そういうと先をどんどん進んで行ってしまう。


「殿下、あの御方は一体……」

「我々の協力者ですから心配無用ですよ。さあ、目的地へ向かいましょう」





「こんな所にこれ程の空間があったとは全く気が付きませんでした」

「そう簡単に見つかる訳にはいかないですからね。だからこそ守られてきた秘密です」


 グロースアーマイゼ国の地下に広がる洞窟は元々自然に出来たこの洞窟の上に王宮を建てたと言われていた。


「無駄話をするくらいなら足を動かせ。追手が来るぞ」


 後ろからせっつくような声に、アデルはぴたりと止まった。ドンという衝撃と共に苛立った女の声が上がる。しかしアデルは目の前に広がる空間をちらりと見た。広くないその空間には石の台座がある。左右に溝があり、その中央は丸く掘られていた。アデルは兵士から水筒を受け取ると溝に流していく。水は溝に沿って進み、やがて中央の丸い窪みに溜まった。


「早く指輪を貸せ!」


 アデルは王妃の指輪を渡すと、自身も王の指輪を中指に嵌めた。力を込めて手を握ると、指輪の中から隠し針が飛び出し、アデルの掌からは血が滲んだ。女も同じように掌を握ると、血が流れ始める。二人は右にアデル、左に女が手首に伝う血を流した。


「やはりお前じゃ駄目なようだな。見つけているなら早く連れて来い」


 その時アデルの頬がきつく動いた気がした。


「駄目なのは私ではなくあなたかもしれませんよ」

「それなら代わりを連れてくればいいだけだろう!」


 ドンッと突き返された指輪がアデルの胸に押し付けられた。





 洞窟を出て王の寝室の方へと戻っていくと、そこには元老院を構成するこの国の重鎮達が首を揃えて待っていた。


「アデル殿下、御身を預からせて頂きますぞ」

「まさかお祖父様が出向かれるとは思いもしませんでした。あの姿を見て清々したのではありませんか?」


 すると一歩前に出ていた老人は震えながら周囲を見渡した。


「血は争えないという事ですな」


 その瞬間、アデルは剣を振り上げた。


「我々を殺すのもまた、過去に幾度となく起きてきた粛清と称した虐殺と何ら変わりないではないか」

「この国は力こそ王の証なのでしょう? そして今私の手の中に指輪があります」


 その瞬間、元老院の間でざわめきが走った。


「殿下、まさか、まさか指輪を手に入れたのですか?」


 アデルは見えるように対の指輪を掲げた。

 

「しかしそれではまだ足りませぬ」

「だから今一度ジュブワ王国に向かいます」


 元老院の老人達は一気にざわめき出したが、一人、また一人と頭を下げ始めた。


「戻ったら戴冠式を行いますのでその準備をしていて下さい。あなた達にもそのくらいは出来るでしょう?」

「待て! その奴隷をどうするつもりか? 死を纏う一族だぞ!」


 褐色の肌の女は持っていた短剣を投げた。剣は老人の頬を裂き、床を擦った。


「実に古臭いお祖父様らしい発言ですね。この者は連れて行きます。あなた方のような獣から守らなくてはなりませんので」



 真夜中に組まれた隊は、指輪を求めに行った時とは比べ物にならない程に小さな集まりだった。


「国王にならなければ私に動かせるのはせいせいこれだけとは皮肉なものですね。王子の名が泣いていますよ」

「駒になるな。大義があるのなら胸を張れ」

「あなたのように侮辱されても? 先程の言葉、代わりにお詫びします」 

「お前が謝る事ではないからその謝罪は無意味だ」

「大義など別にありませんよ。王子に生まれた以上これしか生きる術がなかっただけです」


 すると女は頭から被っていたマントの隙間からちらりと顔を覗かせた。


「アイシャだ」


 そう言うとマントは戻され、また顔が隠れてしまう。褐色の肌は特に夜は闇に沈み見えにくくなっていた。

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