目覚め
隆生の叔母・真由美が目を覚ましたのは七時になる少し前だった。
いつもの様に簡易ベッドから降り、凝り固まった身体をほぐして窓際まで歩くとカーテンを開いた。外は秋晴れで雲ひとつ無いライトブルーの空が広がっている。そろそろ紅葉も見ごろになってくる時期だ。
「隆生おはよう。早く起きないと紅葉見逃しちゃうわよ。角館はこれからかしらねぇ。隆生と角館に行ったのはあなたが幼稚園の頃だったかしら、覚えてないわよね。あそこは古いお武家さんのお屋敷があって風情がすごくあるの。あなたと行った時はそれはもう桜が綺麗だったのよ」
ベッドの隣に座って手を握るのが日課だった。真由美はその日も同じように隆生の手を握った。そこでいつもと何かが違うことに気がついた。
隆生の手が温かい。これまではまるで生気を感じない温もりの少ない手だった。しかし今は血の巡りを思わせる生きた温かさがあった。これは快方に向っているに違いないと真由美は嬉々としながら、ふと隆生の顔を見た。
「…て…る…」
真由美は自分の目と耳を疑った。ほんの少しだが唇が動いた。声が聞こえた。かすれて弱々しかったが間違いない。
「隆…生…?」
「おぼ…え…てる…」
そして握っている手が、僅かにだが握り返しているのが分かった。
「隆生! 隆生わかる? 叔母さんよ、私が分かる?」
小さく口許が笑ったのを見るや、真由子は急いでナースコールのスイッチを幾度も押した。それさえもじれったくなって直ぐに病室を飛び出して叫んだ。何事かとやってきた看護師長は状況を察し、その場に集まったナースに次々と指示を出した。
慌しく行き交う白衣達の中で、
真由美は喜びにむせび泣いていた。




