冤罪で処刑された令嬢は嗤う
あれから学園では色々なことがありました。
あっと言う間に3年間は過ぎ、本日晴れの日に卒業式を迎えています。
こんにちは、本日お相手させていただきますのは私、エレノア・ミレディ公爵令嬢。
再び皆さんとお会いできたことを嬉しく思います。
卒業式は粛々と進み本日最大のイベント、卒業パーティーが催されております。
一度目の人生では、このパーティーで冤罪を掛けられ投獄させられました。
しかも陛下が他国の王族の婚儀に招かれているのを良いことに、王太子が権威を振るい碌な取り調べもなく処刑されたのです。
この日を迎えることは、前回とは全く違った人生を送る私でも怖い事でした。
それを乗り越えこの会場に足を運べたのは、私を支えてくれた親友と今私をエスコートするお方、私の婚約者の、隣国の第3王子ルドルフ・ローゼンシュタイン様のおかげです。
2度目の人生で、やたらと私に絡んでくるようになった王太子が私に話しかけてくるのを避けるために、偶々近くにいた生徒に--ルドルフ様に話しかけたのがきっかけです。
思わぬ大物に話しかけてしまって、おろおろとする私にルドルフ様は優しく対応してくださいました。
親友のアミールたちのフォローもあって私はルドルフ様との仲を深めていくことが出来ました。
今とても幸せです。
そうそう、あれからの親友達のことも簡単に説明しておきますわね。
アミールは前回、皆さまにお会いした直後に開催された王妃様主催のお茶会で運命の出会いを果たしました。
お相手は王弟殿下です。
婚約者の気持ち悪さに気分が悪くなり、庭園の片隅で蹲っているところをを介抱して下さったのが王弟殿下だとか。
何でも私たちがしていた、『今、最も王都でホットな男性』という議論を聞いていたルーク・ハイランド公爵令息が、自分もランクインしようと熱心にべたついたエスコートをされたそうです。
アミールの潔癖症はルーク様やトリシャさんにのみ発症するらしく、私たちや王弟殿下といても何も問題はありません。
日頃の行い、その身の潔白さが関係しているのかもしれませんね。
ルーク様の不貞は有名でしたので、王弟殿下の権力も相まって簡単に婚約は解消されたそうです。
王弟殿下とアミールは歳が16歳程離れていますが、前世の人格と融合してグンと精神年齢の上がったアミールには丁度良いのだとか。
王弟殿下も王家の政略上の理由で長年婚姻を制限され辛い思いをされたことでしょう。
今は仲睦まじく過ごされております。
ユーリはもちろんアレン様と婚約を結ばれました。
ユーリが前世を覚えていることは1年ほど前に打ち明けてもらいました。
驚きましたがアラン様との運命の話を聞くと、なるほどと納得するほどの睦まじさです。
レオン・ロードスター侯爵令息はトリシャさんと一緒になるために、ユーリとアラン様の関係を逆手に取りユーリ側が有責の婚約破棄をしようとしたそうです。
ですが辺境伯家は警備、捜査のプロです。
すでに学園でのレオン様の不貞の詳細を調査済みでした。
逆に侯爵令息有責の婚約破棄を突き付けたそうです。
ロードスター家も騎士団長の家計です、公にしていないだけで情報は掴んでいたのでしょう。
ご当主は反論をせず受け入れたそうです。
その後、レオン様はくだらない令嬢に易々と捕まった愚か者として、廃嫡され卒業後遠方の砦で修行し直すのだとか。
本人が反省されているかは、また別のお話ですが。
リリアはミネラルファンデーションなるものを作り、それが爆発的な人気を博しました。
傾いていた子爵家は今や裕福な資産家となっています。
原料の仕入れ先の男爵家のエドガー先生と政略的な婚約を結びなおすことになりました。
リリアもエドガー先生もまんざらでもない様子です。
ですが今になって学園でダニエルさんがリリアの婚約者は自分だと駄々をこねられましたが、リリアが耳元で何かを囁くと静かになって了承されました。
ヘレンはなんと驚いたことにギデオン・ヘンドリック公爵令息と婚約いたしました。
何でもギデオン様は替え玉の件も、ダイアナがグレッグさんを慕っていたこともご存じでした。
もともと好みのタイプであったダイアナと婚約できたことを喜んでいたのに、蓋を開けたら婚約者は別の男性をずっと目で追っている現状に耐え切れずに冷たく接していたそうです。
そこへダイアナの実家のクライス公爵家から別の令嬢が送られて来ました。
しかもヘレンはダイアナと見た目のタイプが似ています。
寧ろ情熱的で少し激しい所のあるダイアナより、落ち着いていて控えめなヘレンの方がギデオン様には合っているそうで、そのまま乗っかることにしたそうです。
責任を取ってクライス公爵家はそのままヘレンを公爵家の養子にして、ギデオン様との婚約を継続することに致しました。
ヘレンはまだ慣れない様子ですが、ギデオン様は時折幸せそうな顔を見せるようになりました。
一方、本物のダイアナはというと、無事グレッグさんと結婚し幸せに暮らしています。
もうすぐ子供が生まれるそうです。
アミールが言うにはグレッグさんは、隠れキャラというものらしいです。
南の国まで逃げた二人は、そこでグレッグさんがその国の王族のご落胤という事が判明しました。
いまでは大公家の跡取りとして、日々精進して過ごしているそうです。
そう言えば先ほどから会場が俄かに騒がしくなってきました。
理由は明白、あの方たち--王太子と側近達が入場してきたのです。
王太子は1年半前に婚約を結ばれた美しい女性を傍らに置いてご満悦顔です。
婚約が決まる直前まで、それはもう私にご執心でしたけどね・・・手のひら返し恐るべしです。
ですがまぁ、ルドルフ様と仲良くなったのは王太子のお陰ですから良しとしましょう。
この婚約者の女性の名前はローゼ・クロノフ様。
ルドルフ様とは反対に位置する隣国の美貌の第2王女。
前回の人生ではルドルフ様のお兄様の第二王子ウォード様の妃となった人でした。
王太子はずっと私を婚約者にと望んでいて、他の婚約者が決まることを拒み続けていました。
ですが見た目以外特に取り柄があるとは思えないトリシャさんを慕っていたことがある方です。
きっかけさえあれば直ぐに手のひらを返すことは分かっていました。
ローゼ様はそれはもう儚げな美しさを持つ、この世のものとは思えないほどの美貌の姫君です。
彼女の姿絵を見せただけで王太子が即決したと聞いています。
ふふっ、何度も言いますが少し前まで私にご執心でしたよね?
ですがそれでこそ、ローゼ様の姿絵を王太子に見せるように暗躍した甲斐がありました。
それはそうと今王太子が引き連れている側近方は、以前とはガラリと変わっています。
王太子の側近は私の親友達の婚約者でした。
ですが皆さん廃嫡されたり婚約者が変わった事によって、王家側からの見直しや本人の意向で様変わりしたのです。
側近ではありませんが、ダニエルさんに至っては数か月前に学園を去られました。
リリアとエドガー先生はファンデーションを始め色々な化粧品、それに他の商品と次々に事業を起こし現在では王都一の商会になっています。
その煽りを受けてダニエルさんの商会は現在かなり傾いてしまったようです。
それはそうと随分と前から入場されていたトリシャさんは、ルーク様にエスコートされているのかレオン様にエスコートされているのかよく分からない状況で何やらずっと揉めていました。
そこへ王太子が従兄弟であるルーク様に挨拶するために近づかれると状況は一変しました。
そもそも王族が自分から挨拶って・・・絶対ローゼ様を自慢しに行きましたよね。
王太子がローゼ様を紹介すると、ルーク様もレオン様もローゼ様に目が釘付けとなっています。
顔は赤く呆けるような表情で一言も発することが出来ていません。
それを見たトリシャさんはローゼ様を睨みつけ二人を引っ張って行こうとした所、二人がびくとも動かなかったため、走って別の取り巻きたちの所に行ってしまわれました。
まぁ浮気男なんてそんなもんですよ、トリシャさん。
前回の人生ではトリシャさんは王太子とその側近達の心を欲しいままにされていましたが、かなり変わってしまいましたね。
低位貴族の多いトリシャさんの取り巻きたちは随分と人数が多いようです。
トリシャさんはこの大人数の方たちを一体今後どうされる気でしょうか?
南の国の方ではハーレムなる物が在るそうですが、そういった愛の形もあるのでしょうか?
男性と女性の立場が逆転していますが・・・成り立つのか気になるところです。
それに低位貴族と言えど、すでに婚約が決まっている人がほとんどです。
あんな大勢の婚約者達から睨まれて、今後社交界では戦場並みの熾烈さではないでしょうか。
しかもトリシャさんが高位貴族狙いだったことは、流石に男性の皆さんも気づいている様子です。
丁寧にトリシャさんをエスコートしながらも、男性同士が目くばせするその表情が何とも怪し気に見えましたが・・・。
・・・見なかったことにしましょう。
会場にダンスの音楽が鳴り始めました。
王太子が意気揚々とローゼ様の手を取り、ホールの中心へと向かっていきました。
ルドルフ様も私の手を取り、ダンスホールへと導いてくださいます。
前回の人生では成すことのできなかった道が今、開いていきます。
ホールには既に親友達と婚約者達が笑いあって私達を迎えてくれました。
その幸せに、私の口元には自然と笑みが零れました。
あっそうそう、前回の人生では卒業式の少し前に、ローゼ様がウォード様を惨殺したことで大きな騒ぎとなりました。
この方、病的なまでの束縛癖をお持ちなのです。
アミールの前世の世界ではそれをヤンデレと言うらしいですが、彼女の場合デレと言うものがあるかどうか・・・。
その場合、ヤン・・・何と言うのでしょうか?
とにかく彼女の場合、男性が少しでも他の女生と話したり触れたりしただけでも激高し、何かをしても許すという事がありません。
ひたすら我慢し、怒りのボルテージを上げていくのみなのです。
ですが、婚姻を結ぶまではそのような素振りは全く無かったと伝え聞いています。
ですがまぁ、ユーリの言葉を借りるなら『何事も心がけ次第』ですから。
末永くお二人がご一緒できることをお祈りしますね。
どうぞ、お幸せに・・・。
それでは皆さん、また逢う日まで。