9.恥ずかしがり屋の北原先輩
ごめんなさい、日付け越えちゃいました(>人<;)
「ありがとうございますっ!」
昨日鏡に写して練習した自分の笑顔を思い出して、精一杯のスマイルをお客さんに送る。
(よしっ! 集中、集中!!)
もう何も考えない!
お客さんの事だけ考えるんだ!
私から少し離れた場所で北原先輩はもちろん、他のアルバイトの子みんなの動きを把握しながら指示を出している柄谷さん。
ここ一ヶ月は片時も離れず私の側に居てくれた。
でも今は本来のみんなが頼れる司令塔になって活躍している。
またその姿がカッコよくて……
足を引っ張りたく無い。
お客さんがいない時もカップを補充したりカウンターを拭いたり、出来る限りの事をやってみた。
「よし、俺と優さん先に休憩入るから、圭、杉田さんのフォローよろしくな!」
そう言って柄谷さんと花野井さんは私たちに背を向け二階に上がって行く。
「心配すんなよ! 花野井さんは彼女じゃないから。彼女はなんか男にあんまり興味ないみたい。キレイなのに勿体ないよなぁ」
北原先輩はホント事情通だなぁ……
生徒会長務めるにはやっぱりこれくらいのコミュ力がないといけないんだろうなぁ。
感心しちゃう。
「別に心配なんてしてないですよ。ただ、ずっと頼ってた人が側に居なくなってちょっと不安になっちゃっただけです」
とは言え確かに柄谷さんの彼女がどんな人なのかは気になるけど、今の私にそんな事考えてる余裕なんてない。
「花野井さん15分休憩だから、その後杉田の番。柄谷さん45分休憩だからかぶるだろ? よかったな!」
北原先輩に背中をトンと叩かれると、目線で私にお客さんの来店を教えてくれた。
ホント面倒見がいい。
こう言うちょっとした優しさが、元気をくれる。
こうして接客して居ても、まだ慣れなくてオーダーを揃えるのに時間がかかってしまうところを、「17日に新商品の洋梨ソフト美味しいんですよー」なんて他愛のない会話をしながらお客さんが待ってる時間を埋めてくれている。
「北原先輩、何気にいい人ですよね。なんだかんだ、頼りにしてます」
普段あまりにも『自分はスゴイ!』アピールしてくるからついスルーしがちだったけど、改めて感謝を言葉にしたくなった。
慣れない事に夢中になり過ぎて普段は全く見えてなかったけど、こうして影で支えてくれてる人がいる。
それがなんだか嬉しくて、擽ったくて。
北原先輩の顔をふと見上げると耳朶まで真っ赤になっている。
「ば、バカやろうっ! 先輩なんだから当然だろうがっ!!」
「先輩、顔真っ赤ですよ?」
そしてとっても分かりやすくて単純!
「杉田! 仕事に集中しろっっ!!」
『はぁ』と焦りのため息を吐きながらくるりと後ろを向いた。
褒められ慣れてないのかな??
普段威張ってる印象だった北原先輩が急に可愛らしく見えてきて、フワッと流れるあったかい空気が妙に心地よかった。