何も始まらない
夢の続きを考えていた。授業中いつも校庭を見ていた、そこに巨大な怪物が降って来たらそのときは飛び出してそいつを倒すのだといつも考えていた。そんなことは起こらないとわかっていたけれど。
カガナ――彼が通う高校は街の中央に位置していた。田舎の自宅から40分かけて電車で通い駅からは並木道が続いていた。2つ先の角を曲がると大きな幹線道路とそこに併走する形で路面電車が走っていた。
授業中、余所見をしていた彼の背中を鉛筆で突いた。カガナは驚き体が一振り上下に震えたが静かに声には出さなかった。振り返ると後ろの席の美人、中村レイが紙切れを差し出していた。
紙切れを広げるとこう書いてあった。
「カガナ君って宇宙とか好きなの?」
カガナは急いで返事を書いて後ろでに差し出した、それは程なく受け取られ彼はまた背中が突かれるのを待った。
中村レイは光る黒髪が肩まで伸び、目はややつり気味で一見気が強そうに見える顔立ちである。
再び背中が突かれた今度は鉛筆ではなく指で、その感覚にカガナはわずかに仰け反る。
「今度映画あるよね」そうして授業中の無言の会話は続いた。
「うん楽しみ」
「ねぇ」
「何?」
「見に行かない?」
「いいよ」
カガナにとって高校生活でもっとも楽しい授業中の出来事だった。休み時間にその様子を目撃していたカガナの友人、アルは顛末を問い詰めた。
「てめえ、レイさんとお話しやがって羨ましい! 何、一緒に映画を見に行く……許せねえ、許されねえ」アルは笑っていた。
映画の日取りは一週間後、高校から最寄の路面電車で新市街の映画館まで放課後行く約束をした。宇宙に人類が取り残されそれを助けに行く物語とあらすじでは紹介されていた。綺麗な画を取ることで有名な監督の作品だった。彼女に誘われなくてもいずれカガナは見に行くつもりであった。




