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終 章

 一ヵ月後。

 ウーノは星間船のハッチを開け、久しぶりの太陽を浴びた。

 彼の体は軽度とはいえ筋肉の断裂と骨折を起こしており、入れ替わるように完治したリタに散々世話をされてしまった。

 ようやく治療が終わり、今朝レニーに自由行動を許された。

 来星時に破壊した壁はすっかり元通りになり、町の姿を隠してしまっているが、その下には彼ら専用の扉が取り付けられており、そこから、リタが現れた。

「あ、ウーノくん! おはよー!」

 彼女はウーノの治療が終わった後も、お手伝いとして星間船に通っている。それにはどうしても恩を返したいイルザの希望もあった。

 レニーは彼女の素直さを気に入り、ウーノと共に色々と勉強させている。物事を吸収し易い時期でもある為、ぐんぐんと知識を伸ばし、今では町で一番の知識を有していると言っても過言ではない。

 パタパタと駆けてくるリタを待って、ウーノは挨拶を返した。

「おはようリタ。今から浄水施設に行くけど、一緒に来るだろう?」

 魅力的な提案にリタは首をぶんぶんと縦に振った。

 星間船から電力を充填した浮遊車に乗って、二人は町へ入る。川沿いに大きなタンクが幾つも並んでおり、その隣には農耕地が広がっている。

 多くの住人達が開墾や水撒きを行っており、最初に作った畑は芽で緑色に染まっている。

 タンクの近くに降り立つと、丁度検分に来ていたダニロが出迎えた。

「やあウーノさん。体はどうだ?」

「もう大丈夫です。優秀な看護師がついて居ましたので」

 褒められ、リタが照れたように両手で口元を覆った。その様子をダニロが微笑む。

「それはよかった。皆も心配していた」

「後で挨拶に回る予定です。それより……」

 ウーノはタンクを見上げた。ダニロが資材をかき集め、レニーが組み立てた浄水装置だ。

「調子はどうですか?」

「ああ、完璧だ。住民の中には地下水よりこっちの水の方がいいと言うものまでいるぐらいだ」

「量は十分ですか?」

「ああ、もう泥水を飲む者はおらんよ。だが、農地を広げるにはまだもう少し欲しい所だな」

「先輩に買い付けを頼みましょうか。通信機は持ってきています」

 レニーは数日前から他の町に浄水器の設置に行っている。ウーノは自分の回復を待つように強弁したが、ベッドに寝転んだままの彼に止める術はなかった。

「うむ……」ダニロは言い淀んだ。「今度嬢ちゃんの向かった町は、ちょっと特殊なのだよ」

「特殊とは?」

 そんな話は聞いていないとばかりに声のトーンが跳ね上がる。ダニロは申し訳なさそうに白状した。

「あの町は管理者達が強欲でな。浄水器など受け入れないだろうと言ったのだが、兵士を数人引き連れて言ってしまった」

 ウーノは呆れ果てた。ついこの間死にかけたばかりなのに、学習能力がないのだろうかと訝しむ。

「レニーさまが危険なんですか?」

 リタは心配そうな瞳でウーノを見つめる。彼は彼女の頭を撫でて、ダニロに向き直った。

「ちょっと今から先輩を連れ戻しに行って来ます」

 ダニロは苦笑しつつ頷いた。ウーノはリタの手を引き、浮遊車に乗り込む。

「レニーさまの所に行くんですか!?」

 彼女の瞳は一転キラキラと輝いている。

「うん、いっぱい説教しないとね!」

 サディスティックな決意を載せて、浮遊車はグングンと高度を上げると、わき目も振らずに飛び去って行った。


 レニーは腕を組んで様子を見ている。

 町の管理者達の館を住人達が取り囲み、怒声を上げ続けている。

「浄水器の設置を認めろ!!」と言うのが彼らの主張だった。しかし、窓から顔を出す太った男は「得体の知れん浄水器などいらん! 地下水で十分だ!!」と言って引き下がらない。

「こりゃ一生平行線だぜ」

 隣に並ぶフリックが肩を竦めて言う。

「水が独占出来なくなるのが嫌なだけだろう!!」

「うるさい!! 今まで町を守ってきたのは誰だ!!」

 双方のやり取りはすでに1時間が経過している。

「私もまさか、あれほど自分の利益に執着する人間がいるとは思わなかった」

 レニーは怒りや呆れより、むしろ関心している様子だった。

 町に浄水器を無料で提供するとの提案を、管理者は激怒して蹴った。訳が判らず街中に留まっていると、住人が話を聞きつけ、あっという間に今の状況に陥ってしまったのだ。

「人間はびっくりするぐらい分かり合えない生き物ですからね」

 どこか達観したように、後ろから現れたディータがのんびりと感想を口にした。レニーは苦々しく返事をする。

「けど、嫌でも協力するしかない」

「説得しますか? あれはダニロのじいさんより数倍頑固そうですよ」

 うんざりした様子のディータに向かい、レニーは胸を張った。

「この星に来て判った事が一つある」

「なんですか?」

「人間は一人じゃ大した事は出来ない。何かをなし得るには他人の協力が不可欠だ。だけど、自分の意思や思いを誰かに伝えるのは簡単じゃない。不可能と言ってもいい。……だったら」

 腰に釣っている収束光拳銃を抜き放つ。強化プラスチックの表面が、太陽を反射してキラリと輝く。

「巻き込めばいいんだ」

 フリックとディータは声を上げて笑った。

「それいいですね。面白そうだ」ディータが楽しげにプラズマライフルを構える。

「星ごと巻き込んでやろうぜ」鼻息荒く、フリックがディータに倣う。

 三人は館に歩を進める。

 レニーは力強く頷いて、収束光拳銃を空に向けた。

 彼女の意思に従い、どこまでも真っ直ぐな光の柱が、空へ空へと伸びて行った。

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