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『D:mode ウィザードプレイヤー』


走る。


天のキメラが内部から壊そうと飛来してこようが。

それを迎え撃つもの、斬りかかる者がいようが。

まだ各門がやぶられていない。けれど、さっきから轟音が二方向から響いている。

その凶悪な刃を振りまわすものもいれば、かぶりついて食べている姿もある。

「君は?!どうしてここにいる!!」

爆炎が立ち上り、良く見ればそれは弓矢だった。

火弓を扱うその弓兵姿の身軽な服装の男は俺の傍に降りてきて目くじらを立てる。

「えっと」

「12班のやつだろ?離れるんだったらお前の相棒つれてないと危ないだろうが」

と、彼は休みなしに弓筒から弓矢を射る。

三本器用に指で挟みこみ、拡散射ちを終えるとこつんと俺の頭を小突いてきた。

「東と西の門が破られるのは時間の問題だ。

他のプレイヤーは、避難民と共に退避している。ここにいれば無駄死にするだけだ。ひけ」

「後ろ!」

男は腰の剣を抜くと、手早く魔物の目を斬り縫う。

目を抑えてのたうちまわる魔物の、その急所を目がけ、弓兵は射た。

こちらを振り向いた弓兵は口笛を吹いた後、少々ご機嫌に笑いかけて言ってくる。

「ナイスアシスト、サンキューな。さ、じゃあサービスだ。一緒に避難先に連れて行ってやるさ。走れるか?」

「駄目だ!俺…トラントのとこいかねぇと!!」

顔を顰められた後、東の方を見た弓兵。

その横顔から戦況が芳しくない事を察した俺は、弓兵の脇をぬけていこうとした。

「待った!ったく、わんぱく坊主だな」

「はなせって」

「待てって!どうしたよ!!大丈夫だろ?ってか、おい!」

「駄目だ!!!」

わからない。トラントがやられるわけでもないが、万が一とも言えない。

あいつは「騎士」だし、めっぽう強いし。

でも。でもなんだ、この予感は。

襟足を掴まれバタバタするも、放してくれる気配はない。

「じゃあ、行くぞ。走れよ」

放したかと思えば弓兵は方向を俺が向かいたい先―東門へ歩みを向ける。

「どうして?」

「さぁな、気分だ!!」

快活に笑って弓兵は「先行け」と指さす。

俺も手ごろな木製の棒を手に持つと走って行った。

炎が噴きあげる。人々の悲鳴が聞こえる。

煙が目にしみるのを我慢して俺は真っ直ぐ走っていく。


どうしだろう?こんなに急ぐのは。

―― 兄ちゃん ―――そいつはいつも俺に不意に襲いかかってくる。


金時計の所為だろうか、トラントが何処にいるかわかる。

――兄ちゃんって呼ぶな――俺はたしなめながらもそう呼ばれることが嫌いじゃなかった。


あいつなら大丈夫だろ?そうだろ?それに長距離なんて得意じゃないんだ。

――― じゃあおじちゃん? ――言い返せば憎まれ口を挿むのは愛情不足。


だけど走る。息が切れ切れだけど止まらないわけにはいかない。

 ―俺は26歳だ。まだ若いだろうが―こうやって受け答えされているだけで補足されてる。


「与六!やべぇとまれ!!キメラだ!!!」どうして俺は止まらない。

―オレさ、あんた達が嫌いだった。でも―でも「補足されている」なんて誰が決めた?


弓兵の声に反応が遅れる。角を勢いよく曲がる。

―あんた嫌いじゃない。初めてだ―人間にとって「愛情」が足りることなんてない。―


目の前に飛び込んできたのは無数の極彩色の鳥の羽を広げた姿。

獅子の顔と二つの双頭を持つ魔物。

その胴は硬いうろこでおおわれ、その脚は黒い斑模様の獣脚。尾は蛇が無数に蠢いている。

鋭利な歯が俺に向かってくる。

脚は笑っていたのに、退かなかったのは何故だろう。

――ある朝。テレビの画面を見ていた。―


「無謀なお子様だな!!」弓兵の声と同時に弓なりが鳴る。

その矢じりがキメラの片目に命中するが、ひるまないキメラはそのまま俺に向かってくる。

ひろげる口の奥に見える火炎。それがどんどん大きくなり、外に上っていくのが見える。

――見覚えのある名前が在る。俺は文字通り言葉を失っていた。―


「お前は俺の命令ならなんでも聞くんだろ!!ならこっちの来い!!こいつを倒せ!!」

キメラに向かって吠える。

あぁ、ケイの言う様に所詮俺は無力でなにもない。

それどころか現実に背を向けた臆病ものかもしれない。だけどな…。

―― 平淡に喋るキャスターの言葉が耳にはいっては頭に蓄積されていく―


「トラント!!!」

―― 椎名菅汰(しいなすがた)と呼ばれるその名を、見つめていた――

信頼なる相棒の名を告げ、瞑目もせず、俺は心の中にあった想い出を振り返っていた。

俺の「あいつ」と過ごした一年間はなんだったのか。

逆に言えば一年で「あいつ」のなにを解った気でいたのか。

それは物語れば可笑しくなる過去話に過ぎないのだが―。


炎がこちらに飛びかかってくる。

しかしそれが俺に届く事は無い。

縦切りに左右に飛散した。


立ちはだかるのは焦げた鎧に、

マントなどほとんど擦り切れた姿をした男だった。

手にしているのはクエストで手に入れた黒白の双剣。

その柄には梵文字が刻まれている。

無機質な調子であいつは言う。


「御命令、実行します」


言い終えるや否や、飛んだ。

地面を蹴り跳躍したと言うよりも、飛んだと表現する方がふさわしかった。

それくらい軽やかに天に飛んだのだ。

長い蛇の尾は無数の頭を騎士に向ける。

だがその歯牙一切が届く事も無く届く前に顔と胴を斬られて蛇に死が落ちるだけだった。

極彩色の翼六枚が騎士を覆う。

すると翼がどんどん斬られていった。羽毛が空を散り、四散していく。

ようやく騎士の姿が見えたと思えばそれを待っていたのは双頭の息だった。

氷息と炎息が双方から騎士を捉え、至近距離だからこそそれは避けようがない。

騎士は双剣を丸ごと双頭の口の中に入れる。

その剣がつっかえのように双頭の口を閉じさせない。

では息は解き放たれるままではと思えばその通り。

その息は双頭の歯牙まで出かかった。

「爆ぜろ!連剣!!」

騎士の言葉に従い、剣はその様式を変える。

無数の黒白の鎖となったそれは双頭の口道を容赦なく滑り落ちていく。

そのスピードの方が勝っていた。

息が出るよりも、鎖が双頭の脳に届くスピードが勝っていた。

双頭は力なく、首を項垂れさせる。

獅子の咆哮があたりに響く。

空気がびりびりと震え、音は耳に響いて痛い。

屈み伏せ、動けなくなる。

頭が割れそうなのに、騎士は何にも感じていないのか無心に戦っていた。

その胴体を駆けあがろうとすれば、飛翔され体勢を崩して地面に転がる。

いつの間にか空に逃げたキメラの傍に三体程の仲間が集まっていた。

騎士の手に武器は無い。

その時だ。

「あぶねぇ!屋内に入れ!!!」

弓兵の声に、騎士は俺の方に飛び退る。

抱えられると窓ガラスに飛び込み転がった。

弓兵も向かいの屋外の建物に滑り込んでいくのが見えた。

次の瞬間、外が蒼白く輝いた。

何が起こったのか眺めたわけではない。

だが窓から見えたのは雨のような光の光線螺旋。

それが降り注いだと思ったら、肉塊が嫌な音をたてながら地面に転がり置いていく。

「トラント…無事か」

「はい。しかし東門の防備は失敗。クエストが達成できません」

「馬鹿言うな。クリア条件は、避難民を守れ…だろ?」

「しかし、なだれこんだあの多勢を、誰が滅ぼせましょうか」

「お前でも無理だよな」思案顔の後、トラントは頭を振って解答する。

「対処が追いつきません。しかし、あれなら可能でしょう」

言ってトラントは外を見やる。

俺は外に出、顔を顰めた。弓兵もその光景に嫌な顔を示す。

肉塊の飛び散るその道間。不釣り合いな少女が立つ。

旗をただ抱えるだけの少女。その白旗も体液で汚れ、肉片で穢れていた。

こちらを見る表情は虚ろにして空。

あどけない少女の顔と姿。それだけに周りの光景は酷い。

肉片のピンク色が生々しく熱まで持っている。

焼いて切断されたのだろう臭いがする。

「どうだい?僕のウィザードの力は…ふふふっ」

少女の陰に現れたのは男だった。

それは与六に声をかけてきたあいつだった。

途端に、弦が鳴る音がする。

気付いた時には弓兵が尋常ならぬ形相でその男の方へ弓を射抜いていた。

だが弓は透過して消えるだけ。

「プレイヤーを傷つけることはできないよ?弓兵君」

愉快そうに男は見つめるが、それに対し友好的な顔色を弓兵は見せない。


「この、プレイヤー殺しがっ!!!」


吐き捨てるように言う弓兵に、男は愉快そうに言い放った。

「だってこれはゲームだろ?それに僕一回味わってみたかったんだ。命を奪う感触」


両手をひろげて無邪気に笑う男。

その仕草が「あいつ」と深く、色濃く俺の中で重なって見えた。


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