『D:mode ウィルス:ユダ発見、確認した』
色素の薄い男だった。
茶色の長髪に切れ長の瞳。身長は高く、その服装は真穂さんとかあの爺ちゃんと違う。
明らかにファンタジーにかぶれた奇天烈な姿恰好をしていた。
「やぁ同志よ」
と俺に笑い掛ける。
その態度に顔色を変えた弓兵はその矢じりの先を俺と男と双方に向ける。
「だから、向けても意味ないんだよ。君たちみたいなクズが僕等に傷一つつけることだってできやしないんだってば」
少女が手を向けるその矛先は弓兵だった。
小さなシャボン玉みたいなそれが弓兵に飛んでいく。
ゆっくりゆっくり飛んでいく。しかし、しっかり弓兵を狙って飛んでいく。
「トラント!」
「駄目だ!!弾け!!!!」
俺が叫び、弓兵が続く。
その言葉を、トラントは続く。もう一つの銅剣を拾い上げ、シャボン玉を突き刺す。
「手を離せ!!!ナイト!!!」
弓兵の言葉にトラントは剣を離した。
シャボン玉がその剣先に触れた途端、そのシャボン玉は割れるどころか無数の触手を飛ばす。
銅剣に纏わり、付き、その部品から無数の文字コードが飛び出していく。
「ちっ、邪魔するなぁ。弓兵、消されたいのか?せっかく生かしてあげてるのに」
忌々しげに眺める男の顔に、弓兵は軽口調子に言ってやる。
「…俺のマスターはあの嬢ちゃんだけなんでね。あんたに従うと拗ねそうだからな」
「どういうこと」
「あいつはあのオンラインキャラクターを使って、自分の支配できるキャラクターを増やしているんだよ…西門は全滅。
トラントっていう旦那だって今、俺が叫ばないと取られるとこだったんだってば、理解した?」
「…えっと」
「そしてプレイヤーはこいつの手で直に怪我を負った。
仲良く近づいてキャラクターだけ奪い取ってそれから…。うちの嬢ちゃんもやられちまってな…。
それより答えろ。そしてあんたは俺の敵か味方か」
弓兵の言葉に俺は迷う事も無く応える。
「俺とあいつを一緒にすんなっ」
「だとしたら、とっても嬉しいんですけど、俺としてはね」
弓兵が俺に並び、トラントはその前で最後の剣を取り出す。
銀色の剣は輝きをもってその刃の獲物を男と少女に定めた。
男は悲しそうに弓兵に言う。
「僕の名前はローザ。北島ローザリアというんだ。残念だよ、弓兵君。
君のマスターは君の正体を見抜き、君の本来の力を解放してくれた。とても強力な手駒。
しかし僕に協力をしなかった。だから…今、避難民と共にいるんじゃないかな?」
「あぁ、お前が直に射し込んだナイフでな。目醒めないんだが、どういうことだ」
「…ふふふっ、大丈夫。彼女は永遠にこのクエストの中で生きられる。君もね」
「……」
「彼女と仲良かったじゃん?一緒にいれるよ?現実って言うものが彼女を傷つける。
けれど君は彼女に何にもしてあげられない。でもここでは守れるよ。そうだろ?弓の名手」
「…あんたに名前を呼ばれたくはない」
「じゃあ呼んでやるよ!!君の名前は…」
言葉端より先に、弓が鳴る。
「ジェーン!」
しかし矢じりは少女の首に刺さっただけだった。主を庇ったのだろう。
ジェーンの首に弓兵の矢が深々と突き刺さり、その鮮血が首を染める。
顔色一つ変えぬローザは、そのままジェーンに何かを命令した。
だが弓兵はその隙を与えずローザの避けた軌跡を縫う弓矢を放つ。
が、通るわけもなく、それはローザいの前で透明になり消え去った。
「当たらないと意味がないよ」
「……っ」
弓兵のもとにジェーンの剣が向けられる。
それをトラントが受け止め、弾き飛ばすとジェーンは体勢を崩しながらも、小さな気泡を放つ。
先程のそれと寸分たがわぬものだ。
そらがトラントの顔の眼前に現れたのだ、俺はトラントを後ろに引っ張る。
トラントはその気泡を避ける事が出来た。
でも俺に当たる。けれど、これはキャラクターにあたるものでそれほどプレイヤーに影響はない。
「弓の兄ちゃん!」
俺はそこらへんに転がっている弓を拾い上げる。
弓兵はそれを見た途端、俺の背後に回り込んだ。
慣れない手つきで、弓の鉄部分を持ち、もう片方の手で矢と弦を摘み、引く。
その手に力強く添えられたのは弓兵の両手。
矢先はしっかりとローザを捉えていた。
「ジェーン!!!」
ジェーンと呼ばれるローザいのオンラインキャラクターは、
阻止するために俺たちに向かって、炎の九弾を撃ちはなってくるが
トラントがそれをことごとく斬り飛ばす。
粉塵が巻き起こり、視界が見えない。
けれど、弓兵は迷わずその俺の指先を操り、矢先を動かす。
「嬢ちゃんは、榊 勇伊っていう。なんていうか我儘でさ。
俺も結構困ったわけだけど、寂しがり屋の甘えん坊だったんだ。
それに…別に幻に逃げるわけもなく、だからと言って俺を架空として蔑ろにするわけでもなく、自分として捉えてた。
変わってるだろ?」
背後から弓兵が可笑しそうに話してくる。
こんな時に話す話でもないし、終わればいくらでも話ができるだろう。
「だからこそ、俺の正体が見抜けたのかもな。あんたは…あのナイトの人の正体分ってるのか?」
「……」
「沈黙か。肯定か否定か難しいところだな。でもいいよ。とにかく、会ったら伝えてほしい。嬢ちゃんの願い事叶えてやるってな」
弓兵を振り返る。
すると、悪戯っぽく笑う青年に顔があった。
赤茶色の髪からのぞく、優しげな緑色の瞳。それが俺を一瞥し、笑った。
それから厳しい目で煙の先を見やる。
煙が、晴れてきた。
「嬢ちゃんからの伝言だ!虚ろの主ぃはぁ?なに中二病っぽいこと言ってるのよ!!糞餓鬼様がってさ!確かに伝えたぜ!!!」
弓の先に赤く輝く光線が生まれていく。
次第に弓全体がその容貌を変化させていった。
弓自身の白木の美しく、銀色に輝く弦に光沢が集まっていく。
鮮血の赤。太陽が沈む最後に瞬く朱。
真紅の矢先の光が増していく。
「嬢ちゃんと組めて楽しかったし、案外好きだったかも…そう伝えてくれる?」
小さな声だった。
そして、大きな声で弓兵が叫ぶ。
「我名は史実在無きウィリアム・テル!貫けっ!!!!!」
赤い集束された赤光が解き放たれた。
それは煙を突き破って真っ直ぐ男に向かっていく。
俺というプレイヤーが手を貸したその弓先は男の胸に突き刺さった。
「やった!!!」
叫んで振り返ったが、そこには弓兵ウィリアム・テルの姿はない。
ただ小さな黄色いハンカチひらひら宙に舞い、地面の落ちていた。
***
黒龍の黒い角を掴み上げ、
小剣をナグサ―ルの首元に突き刺すが手応えがありません。
反応が変わらないのです。
舌打ちしたケイの横面をナグサ―ルの剣が横薙ぎに襲います。
( きゃっ!! )
「おや、乙女ですね」
悲鳴にコメントをこぼすと、ケイは体勢を崩しこみ、地面へ滑り落ちました。
追い打ちをかけるナグサールにマリアの銃弾が数弾あたります。
ナグサール自身にはなんにもないが、黒龍は咆哮を上げて苦しがっていました。
空から落ちるケイは、体勢を整えて砦の家屋屋根に落ちた。
青色の屋根が砕け、屋根裏の部屋に落ちたケイは「やれやれ」と笑って立ち上がります。
空を飛ぶ黒龍を見やり、
「私じゃなくて弓兵がいれば最適なんですねどね」と泣きごとを言っていました。
( トラントは? )
「あれが私に協力はあり得ませんよ。お嬢様がしゃしゃりでて、魅惑して与六君をたぶらかせばいいんじゃないですか?
年下はお嫌いですか?」
( 子供は嫌いです。遠慮がないから )
「私も、女と子供は嫌いです。図々しいから」
ケイは立ち上がり、その手を持っていた黒剣に伸ばします。
しかし、止めました。
( 使えないんじゃないんですか? )
「そうでした。全く…猫の手も借りたいくらいに大変だ」
ケイの余裕そうな態度に全く劣勢を感じさせません。
そう言えば彼はいつでもそうだった気がします。
なにかいつも軽く言ったり毒づいたりしています。
どんな時もでも、いつでも…。
「おっと、シャレになりませんね」
ケイの声に私は彼の視点を借りてみました。
真っ直ぐナグサ―ルがこちらに向かって来ます。
その黒龍の両の足をひろげてケイの方へと飛んできました。
視点が反転します。
宙にぶらさがった感覚でした。
外の空は混乱に満ちています。キメラが飛び交い、兵士たちは防戦をしています。
けれど数は確実に少なくなっていました。
オンラインキャラクターは何をしているのでしょう。
目を追えば…彼等は彼等で、仲間なのにお互いに戦っています。
疑問に思えばケイの声が言います。
「所詮ゲーム。貴方達は…現実の……賞金とか、そういうのに目がいってるのでしょ?」
( 違う!クリアしないといけないって思って…それだけです)
「それか幻想に興じるか。変わらないな人は…古今東西幻想を夢見る。私もそうだった」
( ケイ…? )
「勝ちますよ。ただ酷い戦いになりますし、場合によっては私は与六もマリアも裏切ります……。
その度にいちいちさっきみたいに声を上げられると気が散りますので」
視界にノイズが走りました。
あのドラゴンの討伐の時に経験したと同じでした。
たまらずそれを制止しようと口を開きます。
「それに、貴方は人を欺くのは耐えられないでしょう…。真穂、貴方の方が優しい」
珍しく優しい言葉に話す内容を止めてしまいます。
その暇を見逃さず、ケイは視界を強制的に私と切り離してしまいました。




