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≪D:mode はい、こちらAI鶴姫でございますが?≫


「真穂さん!!真穂さん!!!」

長い導線を辿ればマイクに繋がっています。

それはSASUKEから伸びているもので、普段あの子に話しかけるたびにつかっていたものです。

それを持って何度も声を出しています。彼の切迫した背中に、私は言いました。

「繋がらないの?ねぇ…?!」

「何回もさっきからやっている。OSも変えていろんなアカウントも試したけど…くそっ!」

後方のPCで彼は思いっきり拳を机に叩きつけます。

衝撃で乗せているトランプの塔が崩れ落ちた。

長時間ぶっ続けで彼は必死に端末と向かい合って電話をしながら対応に追われています。

私は、『アヴァロン』ゲームの画面を食い入るように見つめていました。


A画面では幾矢も叩き伏せるトラントの姿。仲間を援護するマリアのライフルを構える姿。

C画面ではその二人の動向を眼で追う、樋口与六の姿。隣にいるケイの姿もあります。

B画面。その二つのカメラとは全く様子の違う静かな一室で、

老人に泣きつかれながらも宥めすかして、いつものようにその頭に機械端末を装着し、

ケイとの視界を共有させている真穂の姿があります。


あの子が今この状態になっても、まだ視界を共有することを望んだ選択。

それ自体はきっと喜ばしいことなのでしょう。

自分以外の他人を冷たい眼差しで突き放してきたあの子。

ここにおいてあの子がこのゲームに参加した意義を、育みつつある姿。

眺めるのは不安でした。あの子が壊れてしまわないか、自暴自棄になってしまわないか。

期待がありました。大人になったあの子はそれでも昔よりは随分と強くなっていたから。

でもそれも続けてはいられなくなりました。

オンラインキャラクターがもう少しケイが優しければ。

あの子がもっと早く、他人の気持ちに踏み込んで入れたならば。

私が…あの子に正体を明かせる勇気があったならば。

あの子はとっくにこのゲームをクリアできていたのかもしれません。

だとしても続けたいIFの物語があっても、それは現行が安全だったら上の仮定の物語。

「くそったれ!」と言いつけたあと、彼は両手で頭を抱え項垂れています。

やがてこちらの方へ椅子ごと方向を変えて振り返りました。

汗がたくさん流れています。目がこちらを見ていますが、口から言葉を出しません。

沈黙のまま、私の方を見上げています。泣きたい気持ちを堪えながら彼に尋ねました。

「…状況は?」

「アヴァロンに、ウィルスが二つ流された。一つはインフィニティ。もう一つは…ユダ。

消去にかかっているが、インフィニティが邪魔してユダを消せない。

インフィニティを消したくてもユダが邪魔してこちらからではなんともできない。

賞金稼ぎの仕業か、大企業に秘密裏に雇われたクラッシャーかなにかの類がプレイヤーにもAIにも、

いや最悪オンラインキャラクターに染み込ませていたのかもしれない。

一部回線が正常なAIがいるがその一人を除いては皆、今の俺たちの同じだ。

担当プレイヤーに接触が持てない。つまり状況が伝えられない」

「どういうことに、なるんですか」

「まず一点は現行クエストにおいて、敵襲来の魔物が無限にわいてくる。

倒してもその絶対数が減らない。…悪夢はずっと続き、朝も来ないってことさ。

もう一つ、加えて内側からは裏切り者がウィルス感染を起こしたオンラインキャラクターは次々と数を増やす。

ゾンビゲームみたいなもんさ。噛まれたら感染するってね。でもそれらを操る誰か個人がいる。

するとどうなるか…?この国の島国ブロックではもう…その個人以外はクリアできない。

現在、陰陽の虚現に辿りついているキャラクターはいない。首位獲得になるわけだ」

「違うの!!違う…!!私が知りたいのは」

「分ってる。分ってるよ」

言葉を切った後、彼はトランプを掴んでいました。

幾つもあるトランプの中から弘樹はハートのエースを拾い上げます。

「…このゲームにおいて、もしこの状況が改善されない場合、永遠に参加プレイヤーはクエストを続けることになる。

でもいつまでもこの計画を続行するには金がかかる」

ハートのエースを、彼は破ります。

そして違う絵柄の同じハートのエースを持っていました。

「どういうこと?わかんないです」

「計画は強制終了。アヴァロンの停止…しかし正規の手順を踏まない為に、

プレイヤーの特に脳内に大きな負荷をかける恐れ大だ。後遺症として最悪、生涯寝たきりになる」

「そんな…」

「この参加プレイヤー達は、ある意味人生を買われている…。倫理的には問題だが、

それも金と権力がなにかで代替し、そのクレームの口を塞ぐだろう」

「でも!!」

力なく、私はその場に膝をついました。

視界のすべての色が褪せ、何か異質な感覚の中思い出していたのは…このゲームが始まる前のこと。

AIの仕事を引き受けた彼。その試験者に私のログを使ったあの子の履歴がありました。

五年くらい、経つでしょうか。

もしかしたら、仲直りできるそんな期待があったのかもしれません。

髪を撫でつける手がありました。

それから自然な仕草で掌が私の頬をそっと触れてきます。

「雅之…どうしよう。私、あの子を傷つけてその上…」

「大丈夫だ」

「どうして?どうしてそんなこと言えるの?」

「…唯一コンタクトがとれるプレイヤーとアクセスを探している」

「一人のアクセス解析に半日かかるほどのセキュリティとシステムなのに?」

「俺一人じゃないみんなだって」

「その間にあの子が」

(えみ)

両肩をしっかり持たれ、私の目を覗きこむ雅之。

いくら大好きな人に名前を呼ばれても、私の心がおさまらないのです。

「…雅之お願い」

「あぁ…心配しないで待っていて、ね?」

明るい声で返してくれた雅之は私を強く抱きしめた後、

本業のPCに方へと向かっていきました。

もう一度、アヴァロンの様子を映し出すSASUKEの画面を眺めます。

次第に厳しい顔色になっていく、彼等の様子を

祈るような気持ちで見つめるしかできませんでした。


***


人間の姿恰好をしています。

しかし、その皮膚はなにか灰色の皮膜でおおわれており、ところどころ赤黒く光っています。

両眼は白目をむいており、頬は痩せています。

言葉という言葉を話しているわけでもなく、唸り声をあげながら

本能のままに生きる者のその血も肉も求めて突き進み続けている様子。

信心深いとはほど遠い本能が彼等を動かしているのはわかっていますが、

まるで狂信者のような盲目さを物語る程の数、統率、しぶとさでした。

別所でそれを眺めています。

眺めた後、それを私はケイに伝えました。

「与六君は?」

「私の視界のなかにはいますが、あんまりあの化粧男の襲撃話ひろげるものでもないです。

ヴィンゲートの件はまだ秘密に」

言うと、彼は腕組みをし何か考え事をしている素振りを見せた後、尋ねます。

「マリアさんの視界を、彼女のプレイヤーさんから教えて下さることは可能ですか?」

(ちょっとそれはできそうにありません)

「何故です?」

(おじいちゃん、ちょっとボケててなんだか私のことも与六君のことも誰かと間違ってるみたいなんです。

それほどボケが進んでて、その…正直ゲームを理解しているのかも怪しいです)

「でもならばどうしてここまで勝ち残っているんですか?」

(…うぅん、わかりません。まぐれじゃないですか?)

「…ふーん。お嬢様もその程度ですか」

(はい?)

「いえ、こちらのことです。さて、お嬢様何やら私の危惧していたことが起こっています。

お嬢様はそのままそちらの位置にいて下さいね。足手まといですから」

(…はぁ、言われなくても行きませんよ)

言い切りました。

すると、一間置いてケイは「へぇ」と言います。

問えば「相変わらずなので安心いたしましたよ」と笑って言います。

なんのことだかよくわらかないのですが、ケイはそれ以上何も言わず私に言いきるのでした。

「私は生き残ります。きっとそういう運びになりそうですからね。

でもそしたらきっと多かれ少なかれトラントやマリアさん、他のみなさんは全滅します。

…佐助さんと連絡はとれないのですね?」

言い切りの物言いに、私は嫌な予感を思いながらも肯定します。

するとケイは与六君の傍に近寄りました。

「なんだよ」

物凄く不快そうな顔でケイを見上げます。

ケイは空気を読まない態度で与六君に微笑ましく表情を作り上げると、

「AIさんと連絡はつきますかね?」

「…どうしてそれを知ってるんだよ、お前が」

「つかなかったらビンゴです」

「どういうことだよ」

「…このクエストは罠です。困りましたね?どうします?」

「………」

「手を組みますか」

「お断りだ」

「はて?」

ケイは、きっとわかっているのでしょう。

私もわかります。与六君が次に続く言葉。


「またお前達が仕組んでいる可能性だってあるだろうがよ」


ケイの視点を通した上なので気のせいかもしれません。

睨んだ与六君の眼差しがあまりにも変わらず真っ直ぐで、

けれどもどこかなにか…危うさの漂う光を見たような気がしました。


***


画面の中のAを見つめています。

トラントとマリアが防戦に回っている場面です。

その善戦している様子が次第に押されているように見えるのは誰の目から見ても明らかでしょう。

どうしてか。

そんなの見ればわかります。

倒しても、それは立ち上がっていくのです。

どれほどぼろぼろになっても歩き続けるその様は異様にして不気味でした。

「くそっ!!誰も繋がらない…!誰か!…くそっ!!!」

雅之の声が後ろから聞こえます。

このままだとプレイヤーはどうなるのでしょう。

その予想が嫌な方へ嫌な方へと膨らんでいき、止まりません。


― 私を、置いて行くの? ―


あの家を出て行く最後の日、あの子が。

私に告げた言葉を…この時になって明確に思い出します。


「真穂…」


あの子姉として、もう現れる資格はないかもしれない。

それでも、私なりにあの子の幸せを遠くから願っていました。

私のせいで全ての期待を背負い続けた子。

私のおかげで全ての苦痛を気にせず生き続けた子。

彼女は私にとって理解者で、私は彼女にとって相談相手だった。

でも私があの子を放り出し、傷つけたのでしょう。

あの子の、他人を見つめる目がとても怖く、恐ろしいと感じてしまっていたから。

PCのSASUKEの文字をなぞります。

私ともう一度あの子を繋げてくれたAIという存在の仮の名前。

今はもうその名前越しでもあの子に助けを差し伸べる事が出来ない。


― 鶴姫!敵残存が減っていない。全軍の状態は!? ―

≪難しい!というか撤退してください!!ってトラントさん止めて!マリアさーん≫


女性の声が二種類。

この部屋に響きました。雅之は私を見、私は雅之を見ます。

一回頷いたあと、雅之はマイクを握り直し、その音声のSASUKEに繋げます。

【もっしー!私、真穂様のAIなんですけどぉ!!ちょと困ってるんですぅ!ってか事態最悪なんですぅ!!

助けて下さーい。って聞こえます?】


沈黙を置いた後、多少戸惑った声が響いていました。


≪はーい、私、鶴姫です!ええっと、どちらさまですか?困ったって?≫

この限定エリア全テストプレイヤーのアカウントの中で唯一、コンタクトのとれる

AIとプレイヤー、オンラインキャラクターの名前が画面に表示されます。


AIは鶴姫。プレイヤーは司馬如水。戦士のマリア。

プレイヤーは別所にてクエストを観測参加。

その隣には、真穂がいました。


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