48話 シーミナ
まさか……こう来るとはな……。
意味の分からない場所に来たと思ったら、今度は全く知らない人物が現れ、さらにそいつが神シーミナだと言う。
突然の情報量の多さに、頭が上手くついていかない。
それにしても、こいつが反射の神シーミナか……。
なんか思ってたのと違ったな。
「あれ? 驚かないの?」
「そんな驚くことではないだろ。それにしても、なんで俺と神シーミナが会ってるんだ? お前は俺の魂のはずだろ?」
「まあそうなんだけど、ここは生の世界と死の世界の間みたいな場所だからね。だから会っても別に可笑しい事はないよ」
「え、じゃあ俺は今……本当に死にかけってこと?」
「そうなるね」
どうしたもんだ。
そんな瀕死の状態で復活しても、ハーシュを止めることなんて出来るわけがない。
だが、そうだとしてもハーシュを止めなければ皆がやられる。
一体俺はどうすればいい。
「君はハーシュを止めたい。そうだよね?」
「ああ、その通りだ」
「ならいいね」
「何が?」
「僕はフネアスを止めたい。君はハーシュを止めたい。僕達の目的は一致している」
一致していると言われたところで、何かが変わるわけでもない。
結局俺の力不足でハーシュに負けるだけだ。
俺が反射の力を完璧に使えていれば良かったが、現実はそう上手くいかない。
「ハーシュの中に眠るフネアスの魂は、今完全に我を失っている。だから僕がフネアスを正気に戻す」
「僕が? そんなの無理だろ。だってシーミナは俺の魂だ。だから何もする事が出来ない」
「いや、出来る」
どうやって、と言おうとする前に、シーミナは俺のことを指差した。
「君を使ってだよ。ライ・サーベルズ」
「俺?」
「そう。君の体を僕に貸してくれれば、絶対にフネアスを止めて見せる。絶対に、必ず」
その目は俺を真っ直ぐ見て、嘘偽りのないものだった。
必ずフネアスを救う、とでも言っているような感じだ。
「本当に止められるのか?」
「勿論だよ。僕なら出来る」
「そうか。なら――」
俺の力だけではハーシュを止めることがまず無理だ。
だけどシーミナの力があれば、止めることが可能かもしれない。
「協力させてもらう」
◇◆◇
「げほっ……! はぁ……はぁ……」
ダメだな……もう体がまともに動かない。
全力で戦ったのに、フネアスには勝てなかった……。
はは、おかしいなぁ……。
あの子……あんなに強くなかったはずなのに。
ヘルラレンは地面に横たわり、暗い空を仰ぎながら目を細めた。
殺されなかっただけマシなのかどうか分からないが、もう体を動かす事は出来ない。
最悪な状況だ。
フネアスが向かった方向的に、多分リリル達の方に向かったはず。
困るなぁ……リリルはあまり戦えないんだから。
小刻みに震える足をなんとか抑え、右腕を軸にして立ち上がる。
歩こうとするが、まるで自分の足ではないように動かない。
それでも私が戦わなければ。
力をほとんど使ってしまったヘルラレンは、下級悪魔が数を集めれば勝てるかどうかもわからない。
それでもヘルラレンは前へ進む。
フネアスを止めるために。
◇◆◇
「フネアス? なんでこんなことをするの?」
リリルは目の前に浮かぶ者に向かってそう問う。
だが、待ったところで返答はない。
「逃げてください……リリルさん……」
「僕を呼ぶときは様を付けて呼んでよね。これでも僕は神なんだから。それに――」
リリルは覚悟を決めたような瞳で、目の前に浮かぶ者を睨みつけた。
「君達を置いてはいけないよ」
だがそんな覚悟は、フネアスとなったハーシュになんの影響も与えない。
踏まれる未来の小さな虫に、突然牙が生えたところで、踏まれて死ぬという未来が変わることはない。
フネアスは槍を作り出し、リリルの心臓に向かって飛ばした。
リリルがその速度に反応する事は出来ない。
出来る事があるとすれば、ただ踏まれるのをジッと待つだけだ。
「あれ?」
だが時として、決まっていた未来が変わる場合がある。
もし、足を下ろす位置を少しでもずれればどうなるか。
答えは至って簡単だ。
踏まれて死ぬはずだった存在が、死ぬことなく生き続けるのだ。
「間に合って良かったよ」
真っ直ぐ向かっていっていた槍は、リリルの胸に突き刺さる寸前のところで止まり足元に落下した。
突然の出来事にその場にいる者は状況を飲み込めず、声のした方を向いた。
「久しぶり。リリル」
「ライ?」
「いいや、今はライじゃないよ。僕は反射の神シーミナだよ」
「え? シーミナってどういうこと……?」
「急に言われても意味が分からないよね。さっきライと――」
「邪魔だ」
だがそんな久々の再会も、今のフネアスは許さない。
今度は五十本以上の槍を作り出し、シーミナに向かって放った。
しかしそんな状況でも、シーミナの余裕は崩れない。
「危ない!」
「大丈夫だよ。だって僕は――」
向かって来ていた槍はさっきと同様、リリル達の前で完全に停止した。
「本当に反射の神だからね」
シーミナはフネアスに向かって手を伸ばすと、それに応じるように槍が同じ速度で向かっていった。
自分の放った攻撃が返ってくるという、ありえない光景に一瞬同様しながらも、背中に生える翼を広げて自分の身を守った。
槍はその翼を貫くことなく消滅していく。
「お前は何者だ」
「僕は君に救われた神だよ。フネアス」
「私は誰も救っていない」
「忘れちゃったか。なら今度は、僕が君を助ける番だね」
◇◆◇
ヘルラレンはズキズキと痛みが走る腹部を抑え、時々下級悪魔を殺しながらフネアスの所へ向かっていた。
フネアスはどこに行っちゃったんだ……?
早く見つけないと、取り返しのつかない事に――。
「え!? ジューザラス!?」
「なんだよ……てめぇか……」
血まみれになって横たわっているジューザラスを見て、一瞬ギョッとしたヘルラレンだが、頭を左右に振って駆け寄った。
「刺されてるじゃん」
「仕方ねぇだろうが。悪魔の連携がキモ過ぎたわ……」
ジューザラスがここまで傷を負ってしまうということは、相当の強さを持った上級悪魔だったのかな。
「というか、この傷どうにかしないと……」
「傷は焼いて塞いだから平気だ。問題はねぇ」
何も平気そうではないし、問題はありまくりだ。
「行くぞ」
「行くってどこに!?」
「決まってるだろ」
顔に付着した血を左手で擦り、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。
「悪魔を皆殺しにだ」




