30話 これは自分の問題
ジューザラス達はいつの間にか言い合いを止めて、静かに俺たちの方を見ている。
このピリついた空気……久しぶりだな。
ジューザラスが森の支配者を倒した時と似たような感覚だ。
あの時は、ただ神を見ているだけだったが今は違う。
俺は神と戦わなければならない――。
「行くぞ」
グラの凛とした声と瞬間、音もなくその場から姿を消した。
神の動きを目で追うことは不可能に近い。
だからどうするか。
答えはこうだ――。
「へぇ……」
「やっぱりこうすれば見つけられるな」
背後に回り込んできたグラが手を伸ばしてきた腕を俺は難なく躱した。
目視することが出来なければ避けれないか?
否。
目で見えないなら、感じれば良い。
今までの経験を生かしてあらゆる可能性を導き出し、それに加えて体で感じる。
それをすることが出来れば、目で捉えられなくても何の問題もない。
グラは一気に俺と距離を詰めて攻撃を畳み掛けてくる。
武器を使わないグラはひたすら拳や足で攻撃してくるが、ジューザラスとやっている俺からしたらこんなもの慣れっこだ。
「ジューザラスが強くなったと言うだけはある」
グラは戦っている最終だというのに全くキツそうではない。
むしろ余裕そうだ。
顔面に向かってくる拳を顔を右に傾けて躱し、そのままグラに向かって一歩踏み込んだ。
グラにどれだけ攻撃しても躱されることは分かっている。
だったら、グラが想像できないようなことをすれば良い。
俺だって簡単に負けられないんだよ!
「はぁぁぁ!!!」
俺は剣を頭の上で構えて、グラの頭を目掛けて振り下ろした。
だが、それは当然ながら躱されてしまう。
でもこれで終わりじゃない。
ここからが本番――
「あ、やばい」
このままだとバランスを崩す……!
気持ちが入りすぎて余計な力が入ったからか……!?
それか、体がこの技に追いついていないのか……どちらにしろ、とにかく体勢を立て直さないといけない!
前に倒れかかってしまった体を元に戻そうとするが、勢いを殺すことが出来ずそのまま下に下がってしまう。
やばい……このままじゃ……!
「余の攻撃を避けれただけでも褒めてやろう。次からは気持ちだけ先走りしないようにするんだな」
倒れかかる俺の背中に向かって、グラの拳が振り下ろされてくる。
俺の負けだ……。
「なーんてな」
「……っ!」
俺は右足を出して倒れるのを防ぎ、下で引いていた剣を一気に上に持ち上げた。
グラはこれを予測出来ていなかったらしく、反応がほんのわずかだけ遅れて頬から血を流した。
どうやら俺の罠に上手くはまってくれたようだ。
俺がしたことは、こけそうな感じを出すという単純なこと。
あぁ、それだけかと簡単そうに感じるが、実はこれが結構難しい。
適当にやればすぐに気付かれてしまうだろうし、あまりにも本気でやるとそのまま体勢を崩してしまう可能性もある。
そのため、体勢を崩す演技というのは中々難しいものなのだ。
「余に傷をつけるとは……ライも最初に比べれば強くなったものだ」
「それはどうも」
「ライと初めて会った時は、なぜか全身から血を流してボロボロだったな」
こいつ……こんな時に嫌なことを思い出させやがる……。
「ライとはそこそこ長い時間共に過ごしたが、未だに余とライが出会った日、ライに何があったか余は知らない」
「そうだな。確かに話したことはないな」
「余とライにはまだ何か距離を感じる。なぜあの日のことを話さないのだ」
あの日、俺は他の勇者に殺されかけた。
この出来事を確かに話すべきなのかもしれない。
だが、本当に話して良いのだろうか。
もし話してしまったら、まるで助けを求めているかのようだ。
実際今こうやって特訓してもらっている時点で、色々と助けてもらっているようなものなのだが、やっぱりあの日のことは出来る限り自分で解決しれければいけないと思う。
これは俺の問題だ。
グラ達を巻き込みわけにはいかない。
「申し訳無いけど……あの日の出来事は俺の問題だからな」
すまない……グラ。
こんなこと言われても納得できないよな。
だけど許してくれ。
これは俺の問題なんだ。
「はぁ……そうか……」
「本当にすまな――」
「だったらそうだな」
「え?」
グラは不敵な笑みを浮かべると、空中に何かを造り始めた。
「ここからは本気でぶつかるとしよう。私に本気を出させたことを後悔するんだな」




