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五九 義虎大将軍大暴れ!

 ばっと、赤き翼を雄々しく広げ、空へ舞い上がり大音声(だいおんじょう)、つい先刻まで重傷で動けなかった戦人が、炎を吹き飛ばし名乗り上げる。

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは気高き大高句麗(テェコグリョ)軍と断固揺らがぬ盟を結びし大大和(だいやまと)軍が総大将にして、偉大なる英雄《雷神(いかづちのかみ)》大将軍が誇りし大いなる雷を受け継ぐ大和国大将軍《猛虎》《建御雷(たけみかづち)》空柳義虎なり! 我が光り輝く首を取りて、生涯豪遊が財に埋もれんとす猛者がおるなら進み出い! ほれどうした、黄華に(おとこ)は一人もおらぬか、将軍幾人まとめて来てかまわぬ、いざ抗いようなき格の違いを見せ付け後々まで語り草としてくれようぞ、さあ出会え、出会ええい!」

 あからさまな挑発である。

 __されど実は罠とかなんもないよ? 狙いは二つ。

「来たな骨虎、漢じゃないけど強い子はいるんだぞ!」

 哪吒(なた)が突進し、火尖槍(かせんそう)をくり出してくる。

 __うぃー、やはり……。

 義虎も猛進し、偃月刀(えんげつとう)一閃、突き飛ばす。

 一つ目の狙いは、黄華将それぞれの性質を推し量ることである。ふつう挑発するならば罠がある。どう対応してくるかで三通りに分けられる。

 壱、警戒せず憤るままに突っ込んでくる者。

 弐、警戒し怒りを抑えとどまる者。

 参、警戒しつつ己が戦技を信じ挑みにくる者。

 __哪吒は壱かな、ちなみに義虎は参ね?

 びっと、義虎は翼をさばき回避する。猛然と黄飛虎(こう・ひこ)が斬り込んできた。

 __鎮国武成王(ちんこくぶせいおう)と見た、参か。

「よくぞ来た。我が息子の仇、討たせてもらおう」

「されば再会できるよう、冥土へ案内いたそうぞ」

 黄飛虎がとって返し、七つの武器を唸らせ攻めたててくる。一撃一撃が大きく、激しく、そして重く、受け流すだけで腕がしびれる。左目を赤め速力倍化を噴き、右目を白め視力強化を詰め、気張って追わねば追いきれない。

 __至極、上等。

 電光一閃、大刀を砕き割る。

 __剛力と手数なぞ速力と本能で覆してくれる。

 斬り込み、打ち付け、突き出し、跳ね上げ、薙ぎ払う。

 __義虎の武術はどの教本にも載っとらんよ、一から一〇まで独学で研鑽して研鑽して研鑽しまくってきたこの偃月刀さばき、見切れるもんなら見切ってみせな!

 鎌が斬り上げてくる、体ごと放り込む柄で払う。そのまま回し鋸歯刀(きょしとう)を弾き飛ばし、大斧を巻き込む。黄飛虎の視界が塞がり懐への道が開けた一瞬で、体を丸め、狼牙棒(ろうがぼう)を蹴り付け踏み台にし弾丸と化し、心臓を狙う。

 防がれた。黄飛虎の胸が盾へ変わっている。手がしびれる。

 そこを正拳が強襲してくる。

「わしを忘れてはおらんかの」

 大武神たる姜以式(カン・イシク)が跳躍し、神威を打ち込み押しのけてくれた。

「かたじけのうござる、して敵本陣はいかが動きましょう」

 義虎は高く宙返りし、憧れる姜以式との会話を中断させてくる哪吒の刺突をかわす。

「斬る」

挿絵(By みてみん)

 目にも止まらぬ速さで斜めに回転しながら勢いを籠め、偃月刀を叩き付ける。受けた火尖槍をへし折り突き落とし、地面をかち割り噴煙を湧き上げる。黄飛虎が口笛を吹いた。

「武成王は大武神を抑えよ」

 こちらを睨み据えたまま、総大将・聞仲(ぶん・ちゅう)が命じた。

五行侯(ごぎょうこう)。揃って出よ」

 __雷帝は弐。されど将軍五人一斉とはなんとも……。

「髄醒顕現『黄央意湿麒麟(おうおういしつきりん)』!」

「髄醒顕現『黒北志寒甪端こくぼくしかんろくたん』!」

「髄醒顕現『朱南神熱炎駒しゅなんじんねつえんく』!」

「髄醒顕現『青東魂風聳孤せいとうこんふうしょうこ』!」

「髄醒顕現|『白西魄燥索冥』《 びゃくせいぱくそうさくめい》!」

 黄色い黄梔子(きくちなし)色、黒い相済茶(あいすみちゃ)、朱い紅唐(べにとう)、青い呉須(ごす)色、白い胡粉(ごふん)色。天を突かんばかりにさお立って、輝く五色の麒麟が踊りくる。

 __光栄極まる。

「斬る」

 どっと、目にも止まらぬ速さで斜めに回転しながら義虎が赤くほとばしり、先頭を走る黄色い麒麟がのけぞった。将軍たちが動きを止める。

 分析するに足りたと、義虎は友へ目配せする。

 二つ目の狙いは、敵を己へ引き付け、談徳(タムドク)舞夢(ムモン)を救う時を与えることである。

 談徳が頷き、当世具足を纏い疾走していくのに前後して、黒い甪端(ろくたん)が麒麟を飛び越え、視界を埋めて突っ込んでくる。さらに朱い炎駒(えんく)、青い聳孤(しょうこ)も左右から怒涛のごとく向かってくる。

「斬る」

 甪端の巨体が弾け飛び、聳孤へ衝突したと見えれば、脚を払われ炎駒がつんのめる。そこへ襲いかかる麒麟が目玉を裂かれ絶叫し、甪端と聳孤も、躍りかかるそばから牙を砕かれ、喉を潰されのたうった。

「猛虎こそ、最も強き肉食獣」

 鍛えに鍛えた覇力甲を押し固め、研ぎ澄まされた速力を炎上させ、目にも止まらぬ速さで斜めに回転しながら縦横無尽に飛び回る、猛虎の欧撃が炸裂していた。

「草食動物ごときが束になっても勝てるわけないでしょう?」

 __うぃー、言ってみたかったんだよねこれ!

「凄い……どころではない。体高五〇メートルはある麒麟たちを圧倒するなど」

 談徳が身震いし、姜以式もうち奮えた。

「相当な修羅場をくぐってきたのじゃな」

「接近戦は危ういのう」

 いまだ白い索冥(さくめい)を動かさない《西伯侯(せいはくこう)姫昌(き・しょう)が呟いた。

「今こそ〈五悪陣(ごあくじん)〉を試そうぞ」

 義虎は聞き漏らさず頭をかいた。

 __胡散臭い。東西南北中央から囲い五種の害悪を放ち幽閉するとか?

「いらぬ! かように傲慢なる小僧、わし一人で屈服させてくれるわ!」

 虎の獣人である《北伯侯(ほくはくこう)崇侯虎(すう・こうこ)が怒鳴り、老練な《南伯侯(なんはくこう)鄂崇禹(がく・すうう)が制止するのを振り切って、滑空し甪端の上へ至るや、纏う冷気を極低温に巻き上げさせる。

 五行侯はいずれも麒麟たちと同じ角を伸ばし、脚を雲へ変えて飛翔する。

 だが飛ぶ速さは猛虎に遠く及ばない。

「うぃー、弟君と違ってつまらんね君」

 ぶっと、崇侯虎が血を吐いた。冷気が失速し、しかし誰もが凍て付いた。

 猛虎が崇侯虎を刺し貫いていた。

 冷気が巻き上がるやいなや、呑まれるに先んじその内側へ飛び込み、飛び込みながら相手の視線を追い死角から回り込み、鋭く偃月刀を突き出していた。

 __うぃー、されど急所は外した、反応されとったか……。

 ごっと、崇侯虎が大斧を叩き込んでくる。

 かわして腰を蹴り付け、偃月刀を引き抜き離れ、斬り込む体勢へ入る。

 受け流す。黄色い麒麟の馬蹄が狙ってきた。直後、麒麟が湿度を急上昇させる。

 __息苦しいね……朦朧としてきた⁉

「たかが湿気と侮るでないぞ」

 五行侯の頭目を張る《央伯侯(おうはくこう)鄧九公(とう・きゅうこう)が進み出る。

「高湿度が人体へ及ぼす悪影響は様々ある。特にそなたは激しく動いて戦うが故、体内に生じる膨大な熱を発汗により放出し続けねばならぬ。しかし高湿度は気化熱を阻害する。体内へこもった熱は劇的に体力を奪い、さらに血中濃度を高め血流を滞らせる。どうなると思う」

 __うぃー、脳へ酸素が届かんくなり熱中症に、すなわち……。

 麒麟が角を打ち込んでくる。

「失神すると? 片、腹、痛いわっ」

 ばっと、赤き翼を雄々しく広げ、空へ舞い上がり大音声(だいおんじょう)、一瞬にして切り落とし、尾で巻き取った角を掲げて豪語する。

「君らは誰の前に立っておるかを正しく認識できておらぬ。教えよう」

 かっと、猛虎は眼を見開く。

「大将軍という言葉のいかに重たきかを」

 刃を赤く、沸々と覇力を凝縮していく。

「黙れえっ! くそ生意気な若造が、もはや楽には死なせぬ。五悪陣を敷くぞ!」

 傷口を凍らせ強引に止血し、崇侯虎(すう・こうこ)が叫び散らす。よしきたと姫昌(き・しょう)が、おもしろいと鄧九公(とう・きゅうこう)が、やれやれだと鄂崇禹(がく・すうう)が、一斉に飛んで展開する。それぞれの麒麟たちへ降り、脚から連なる雲を広げ、巨獣を浮かび上がらせる。

「待たれよ、嵌められておる!」

 黄華国の誇る大軍師・姜子牙(きょう・しが)の息子でもある《東伯侯(とうはくこう)姜桓楚(きょう・かんそ)が見抜いてきた。なぜ、猛虎が空高く舞い上がったかを。

 __もう遅いけどね?

「斬る」

 電光雷轟、目にも止まらぬ速さで斜めに回転しながら崇侯虎を斬り捨て旋回し、鄂崇禹を斬り捨て旋回し、鄧九公を斬って捨てにいく。

「うぃー、斬る順番、間違えた」

「ああ、初めに斬られれば討たれておった」

 鄧九公が突っ込んでくる。打ち込まれる大刀を、奮然と、真っ向から打ち返す。

 斬り付ける寸前、鄧九公は周りの湿度を急上昇させ、猛虎の視界を霞ませ思考を滞らせ、かわす自分を追いきれなくしてきた。

 それでも当てた。

 __胸をかすめし程度なれど、さような小細工で、この狂戦士(バーサーカー)、猛虎の猛り狂わす本能が刃を振りきれるとでも思うたか⁉

 大きく宙返りし、翼を畳み、偃月刀を振りかぶる。

 東西南北から、風気、燥気、熱気、冷気が押し寄せてくる。

 霹靂閃電、鄧九公を打ち落とす。呑まれるより速く突貫し、湿気を突っきり偃月刀を叩き込み、防いだ大刀をへし曲げ突き飛ばしてやった。

「くっ、だから待てと言ったのだ」

「猛虎と空で戦うなぞ、気球に乗り猛禽を追うに等しい愚行だもんね?」

 呟く姜桓楚(きょう・かんそ)の首筋へ、偃月刀を突き付ける。

「……いつの間に」

「されど読んでも意味皆無だよ、対応できんだら」

 にっと、猛虎は嘲笑う。

 自分が地上付近にいれば、五行侯も地上から四方を囲い、中央を担う鄧九公だけが上空へ昇り、蓋をすれば済んでいた。そうさせまいと高く舞い上がり、空中戦へ誘い込んだ。さらに舞い上がる動作も、鄧九公が仕掛けた高湿度から逃れるための自然なものであるかのように見せかけた。

「見逃してやるから雷帝へこう進言しな」

 崇侯虎は傷を凍らせ、鄂崇禹は熱し、必死に止血している。鄧九公は哪吒と同様に、地面へ打ち付けられた衝撃が効いて立ち上がれない。姫昌は姜桓楚の命を気づかい、動けないでいる。黄飛虎も姜以式(カン・イシク)に足止めされ、助けに来れない。

 大将軍《猛虎》空柳義虎。

 __うぃー、どうだ⁉ 義虎一人が現れただけで、戦局一気にくつがえったよ⁉

 かっと、猛虎は眼を見開いた。

「退け」

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