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楽士伯の姫君は、歌わずにいられない  作者: 汐の音
十四歳篇 学院での日々

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106 平和のすすめ。

 合唱を終えてから(しばら)く他の女生徒とも歓談し、ゆっくり教室を出るとグランとレインが待っていた。エウルナリアは、慌てて二人に駆け寄る。


「ごめんね、二人とも一階だったのに…!先に、図書の塔で待っててくれても良かったんだよ?」


 ここは二階の端。遠回りさせてしまったことを申し訳なさそうに謝ると、なぜか二人とも、物凄くいい笑顔になった。

 同じ頃、教室から出た他の少女達からちいさく歓声があがり、背中や後頭部に注目を感じたが……まぁいいか、と流す。

 赤髪の長身の少年と栗色の髪の美少年も、やはり、周囲の視線は黙殺して順に答える。


「いや、目の前で連れてかれたショックから、なかなか立ち直れなくてさ」


「はい。反省しました……何しろ、候補者の全容が()()()形で判明したわけですから。警戒はどれだけしても、し過ぎとは思えません。

 皇女様も、そう思いませんか?…特に、双子の弟君に関しては」


 レインはにこやかに、主の後方から遅れてやって来たゼノサーラに水を向けた。

 相変わらず弁の立つ従者だな、と皇女は苦笑する。


「…そうね、シュナに関しては弁護のしようがないわ。でも、選ぶのはエルゥで、期限は卒業の日でしょう。もっとどっしり構えたら?」


「……構えているだけでは、(いくさ)には勝てないと思いまして」


 ばちばちばち、と。

 少女のわりに背が高いゼノサーラと、最近また伸び始めたレインの視線が宙でぶつかり、派手に火花を散らせている。

 ―――ように感じたエウルナリアは、首をすくめてグランの隣へと移動した。


 腕組みしつつ、その様子を静かに眺めるグラン。廊下の窓際に背を預け、紺色の双眸を細めて口許に笑みを浮かべてはいるが、眉が下がっている。思案げな面持ちだ。


 そっと、エウルナリアも同様に窓際に寄りかかり、赤髪の幼馴染みに話し掛ける。

 かれの顔は、あえて見ない。

 視線は銀の皇女と従者の少年に固定してある。


「……グランも、同意見?」


「いや、俺はもう少し平和的」


 右隣のやや上から、フッと軽い笑い声が漏れ聴こえたことに、少女は少し安堵した。

 安堵した柔らかい気持ちのまま、目許を和ませて、ピリピリと剣呑な空気を漂わせる眼前の二人に、臆さず緊張感のない声を投げ掛ける。


「ねぇねぇ、サーラ、レイン。どうせお喋りするなら、歩きながらにしよう?御者さん、また待ちぼうけさせちゃうよ」


 (いささ)かのんびり過ぎる響きではあったが、二人の大切な友人から戦意を喪失させるには充分な威力があったらしい。二人揃って数拍の沈黙の(のち)、息を吐き、肩を落としている。


「誰のせいだと思ってんのよ…」

「お喋り、というわけではないんですが……」


 話す内容は違うが、タイミングは(おおむ)ね一緒。

 既視感を胸に沈め、笑みを深めたエウルナリアは「ん。じゃあ行こう。ね、サーラ?」と、最近仲良くなりつつある友人の顔を覗き込み、その手をとった。


 (たちま)ち、ぐっと押し黙る銀色の皇女。

 遠巻きに、先ほどとは異なる色合いの歓声が沸いた。



 ――不毛なる戦い、一時休戦。




   *   *   *




「え?明日は午前、ダンスなの?」


 ゼノサーラと手を繋いで歩みながら、グランと会話をする。――彼女はこういう時、なぜかとても大人しい。


「あぁ。時間割変更の案内が掲示板に貼ってあった。明日は朝から、中央講堂の二階だってさ。あー、燕尾服とか……めんどいな…」


「…正装も、要るの?」


「らしいぜ」


 ちら、とレインに青い視線を向けると、やはり、かれも困ったような表情で灰色の視線を返した。


 (やばい……!)


 主従の心の声が、おそらく合致した。


「どうしよう……ダンスの勉強は、ぜんぜんしてなかった」



 ぴたり。

 問題発言とともに立ち止まった令嬢に向かい、一行のみならず周囲の視線も、ざっと集まった。


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