2章34話 幸福に包まれるです
2章の最後の話です。
起きた後に僕達が見たものは無残に転がった村人達の死体だった。特に感じることもない。あったとしても本当に恨まれていたんだなぁ程度だ。
ウプウは約束を守ってくれていた。
証拠に僕達の方へは一度たりとも向かって来てない。隣で見ていたロイスは何か言いたげだったけど無言を貫いている。もしかしたら刺激が強すぎたのかもしれない。
このまま死体を残しておいてもアンデット系の魔物になられても困るので風魔法で一箇所に集めておいた。その中には子供の遺体もあったけどロイスに敵意があったのは変わりない。幼い頃からの教育は後を引くからね。死ななくても、そのうち攻撃されても待っているのは地獄だろうから哀れみはない。
アンデットになる条件は大まかに三つある。一つ目は強烈な恨みがあったまま死んだで、村人達ならブラッドウルフか僕に恨みを持ってもおかしくない。これは満たされるよね。
二つ目に死体の処理がなされていないこと。処理は簡易的でもいいから何かをしておけばいいらしい。例えば土葬とかね。しっかりとやるのなら僕のように聖魔法と火魔法の合成魔法で聖火で火葬すればいい。
三つ目は何者かによる闇魔法による蘇生だ。これに関しては僕にはなんにも対処が出来ない。でもしっかりと火葬をしていれば蘇生は不可能らしいけどね。
ただし人の道を外れたビースとミスに関しては火葬をせずに、ただ地中に埋めておいた。いやー、魔法があると簡単に穴が開けられて楽だねぇ。
「……仕事も終わったし帰ろうか」
「……うん。アレだよね……僕だけ生き残ったのはギド兄のおかげだよね」
核心づいたロイスの言葉に喉が締まる。
本当に勘のいい子供だ。そうでもないと生き残れなかったんだろうけど。……それのおかげだなんてなんの因果だろうか。
「バレたか。……ほら、昨夜のうちに向かって来たブラッドウルフは倒しておいたんだ」
「……そうなんだ」
僕はダンジョンで倒したブラッドウルフの首を見せてロイスに微笑む。
「どうした? そんなに悲しそうな顔をして」
「……もう会えないような気がしているだけだよ。ギド兄がここに来る理由はもうないから」
「ロイスがいるじゃないか。ここにいるのなら僕は遊びに来るよ」
「そうじゃないんだ。……お父ちゃんの仇が取られたはずなのに……心は晴れないしギド兄はどこかへ消えそう。……心細いんだよ」
「それはないよ」
「なら! ……あの時の話はまだ消えていないの?」
あの時の話……。
頭をどれだけ働かせても思い出せない。
「……この村から僕を出してくれるって。僕はこんな気持ちを抱えたままでここにはいられないよ。……村の残骸を見る度にいろんなことを思い出してしまうから」
「その程度なら構わないよ」
「……ギド兄の役には立てないかもしれないよ?」
「だからなんだ。弟兼息子のロイスを見捨てる理由にはならないだろ」
「僕はギド兄のように、お父ちゃんのように冒険者になろうと思っているんだ。ずっとは一緒にいられないし、ギド兄を上手く利用しようとしているかもしれないよ」
「それならそうすればいい。一度でも家族と認めた奴に裏切られるのなら見抜けない僕が悪いだろ。それにされてから対処をすればいいからね。後、出来ないことを言っても説得力はないよ」
ロイスは「そうだけど」と口を尖らせた。
本当に馬鹿だなぁ。僕にだって家庭環境で培った人を見る目くらいはある。それなりにその力も信用しているからね。使っても見抜けなかったのなら僕が悪いじゃないか。
人に親切をするのなら見返りを求めるな。裏切られる心を持て。大好きな文豪はそんな言葉を残している。僕のこれは親切ではないかもしれないけどロイスに裏切られるのなら仕方が無いと思っている。
僕は小さくロイスのデコピンをした。
最小限まで威力を抑えたものでロイスにも衝撃しかきていないはずだ。
「付いてきたいんだろ? それなら付いてこい! またここに来た時にお父さんの墓前で成長した姿を見せつけてやれ!」
「……うん!」
ちょうど村人達の火葬が終わった時にロイスの大きな返事が聞こえた。強い風が吹いても消えないような強い声。僕はロイスの頭を撫でてから家へと戻る。
引越しの準備も終えて空間魔法で街の近くまで戻る頃には陽は僕達の真上まで来ていた。夏の蒸し返すような暑さが僕を襲ってくるけど不快感は感じない。肌の上を走る汗すらも心地よく感じてきた。
僕はギルドに入ってすぐにセストアに、ジオさんとの話をする場を設けてもらうように頼んだ。昼食頃ということもあってすぐに設けて貰えるようになり、いつもの場所へと連れていかれた。
「それで話とはなんだ?」
開口一番にジオさんは苦い顔をしながら聞いてきた。確かにさ、僕がギルドマスターと話す時は嫌な話の方が多いけどさ。……そんな顔をしなくてもいいじゃん!
「まずは依頼を終えました。その話とロイスの冒険者登録をしようと思ったんです」
「おお、なんだ。てっきり村人に怒りを覚えて全滅させたのかと思ったぞ」
勘が鋭い……。
それに近いことをしたんだけど用意していた話でもしておこう。……まさか僕が手を下したとは言えないしなぁ。
「勘が鋭いですね。とりあえずはロイスの冒険者登録をお願いします」
ジオさんは顔をしかめてからセストアにロイスを連れて戻って行った。多分、ロイスには聞かせられないと思ったんだろうね。
「それで詳しく教えてもらえるかな?」
「えーと、まずはロイスにこの話は教えています。それとこの件は僕が村人達を殺したのではなく、村人達の中の数人が裏で糸を引いてブラッドウルフの子供を盗んだことから始まりました」
パンっと一番重要そうな、イフに持っていくように言われた書類を提出する。
「村長ビースと闇ギルドの繋がりが書かれているものです。早めに調査団を出しておくのが吉だと思いますよ。今ならブラッドウルフも撃破した後ですから」
書類の横にブラッドウルフの頭を二つ置く。
「……空間魔法を覚えているのか」
「魔法はそれなりに得意ですからね。子供に関してはさすがに殺せませんでしたけど、親は確かに殺害しました。調査団が高ランク冒険者である必要はないはずです」
「……書類も確かに重要なことが多く書かれているな。ビースとミス……その他数名が関わっていたのか」
「気に病む必要はないかと。これは巧妙に隠されていました。闇ギルドも情報を得るのに時間がかかるでしょうから、今のうちでしょうね。いくつかの書類も残っていますし」
「全滅には何も言わなかったな。死体はどうしたんだ?」
「しっかりと火魔法で火葬しました。そこも抜かりありませんよ」
ジオさんは少し顎に手を置いて考えた後、「分かった」とだけ答えた。もっと詳しく話さなければいけないと思っていた僕には拍子抜けで驚いてしまったよ。
その後はセストアとロイスが戻ってきて、ジオさんはセストアに何かを言ってからお辞儀をして部屋を後にした。
「冒険者登録は出来たのか?」
「うん、お姉さんがいっぱい助けてくれたよ」
「そっか、ありがとうございます」
「……仕事ですから」
絶対、嘘だね。
セストアのロイスを見る目は明らかに可愛いものを愛でる時の目だ。確かにロイスは可愛いけど渡さないからな。親として、兄として。
「では、付いてきてください。依頼の報酬を渡します」
「えっ……ここでは渡せないんですか?」
「その似合わない敬語はやめてもらえますか? 耳障りです」
「……ごめん」
「……冗談ですよ。これだから真面目な人は苦手なんです」
セストアには言われたくないよね。
The真面目の人に言われても別に傷つかないよ。……嘘です、少しだけ傷つきました。
「セストアさん……綺麗なのにそんなこと言ったらダメだよ」
「……ごめんね、ロイス君」
「ギド兄も何か言ってあげてよ! セストアさんは綺麗だよね?」
……あのー、なんでそんなに期待した目をしているんですかね。ロイスはまだしもセストアにまでされる理由がないんですけど……。
「……綺麗だとは思うよ」
「だとは、ですか……」
「うん、笑った方がもっと可愛いからね」
「笑う……」
あー、絶対に笑い慣れていないね。
ぎこちないというか、能面の口角だけを上げたような感じだ。なんだろう、感情のない人形が笑うと怖いよね。そんな感じがする。
僕にしてはいい例えだったと思う!
さすが僕だね!
「だから、こうだよ」
「あっ……」
「うん、かーいーかーいー。これならモテるね」
セストアの惚けた顔って初めて見るな。
ただ口元を指で上げただけなのに。……いや! セクハラじゃん! ヤバい……信者に近い人達といるせいで感覚までおかしくなってきている……。
「ごめん!」
「これくらいなら……嬉しいだけです」
笑ってくれた。
さっきとは違う自然な笑み。
なにこれ……可愛すぎかよ……。
「……かわいい」
「えっ……あっ……うっ……もう! 早く行きますよ!」
恥ずかしいのか、急いで部屋を出ていってしまった。……その割には玄関で待っていてくれているみたいだけど。
「……イチャイチャし過ぎです」
「……ごめんね。宿に戻ったらいっぱいイチャイチャしようか」
「一日中……ですよ?」
怖いけど頷いておく。
許してもらわないと僕の心が持たないからね。
全員でセストアとところまで向かって冒険者ギルドを後にする。終始、顔を赤くしているセストアはクールな感じが消えて可愛らしかった。
連れていかれたのは大きな家だった。
セストア曰く領主とグリフ家からの報酬追加らしい。詳しい話は明日すると言ってセストアは戻って行った。
大きな三階建ての家でレンガ造りで部屋はかなりある。ロイスも含めて幸せに暮らせそうな空間。
「……ギド兄ってすごいね」
「僕もこうなるとは思っていなかったけど。まあ、くれるって言うのならありがたくもらおうか」
イフが言うにはグリフ家のセイラ救出の報酬も兼ねているようだしね。中の家具も自由にしていいらしいから、ありがたくもらっておこう。
「……疲れたな」
「ここ一週間は多忙でしたからね。……ベッドも広いようですし全員で寝ますか」
いや無理だからね……。
キングサイズのベッドでも寝れて四人だ。……あっ、はい。脳内じゃんけんでアミが勝ったんですね。
とりあえずはアキとアイリも寝れるように他の部屋からベッドを持ってきたようだ。シロはまあ、小さいから五人でも寝れるでしょ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
皆のいい匂いが鼻を刺激する。
今日は朝まで起きれなさそうな、それでいてゆっくりと寝れる気がする。どうか、この幸せが続くように、僕は明日からも頑張っていこう。
僕は意識を手放した。
ようやく長い2章が終わりました!
次は3章ですけどメインは今度こそセイラです。そして謎の多いおさ……ゴホン、あの人も出てくる予定です!
2章以上に面白い話にするつもりなので応援よろしくお願いします!
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