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2章33話 狂った結末のようです

残酷な描写があります

「なっ……」

「……少しの間、眠ってくれればそれでいい。僕の用事は君達ではないんだから」


 少し前に付けた仮面で顔を隠す。

 割と声を変えてみたけどバレないものだな。まあ仮面のせいで声がくぐもっているのと、こんな低い声は村人が聞いたことがないからだとは思うけど。


 面識はない人を魔眼で眠らせていくけど心が痛むことはないね。別に殺すわけではないし、いわば奪還作戦のようなものだから。当初の考えを曲げてまで何かをするつもりもない。


 村人達にはブラッドウルフの恐怖に怯えてもらう。……一回だけダンジョンに全員を転移させてシロの餌にすることは考えたけどさ、大してメリットもないんだよね。村人というだけあって雑魚ばっかりだから。


 シロが成長するにはたくさんの死体があった方がいい。でもそれってMPで代替出来るし楽に死んでもらうのは少し違うと思う。他人を苦しませた分だけ苦しんで死なないとね。


「それにしても広いな。イフのサポートがなかったら迷っていたぞ……」

「……普通は村の中に地下を作る人なんていない。それに村人に守らせる必要もないです」

「やっぱりグルだったんだろうね。僕にはもう関係がないけどさ」


 そういう意味ではミスには感謝しないとね。僕とロイスを出会わせてくれて、加えて喜ぶべきことではないにせよ、ロイスの心の闇を抉るようなことをしてくれたんだから。


 ロイスにはいつか親離れが必要になってくる。それが早まっただけだ。死者を忘れることはしてはいけないけれど、ただただ縋るだけの毎日を送ることは僕ならば望まない。


 家庭環境が複雑だったから、といえばそれまでだけどさ。


「やましいことがあるんだろうね。……でも犯罪歴はなかったんだけどな」

【直に行っていなければ犯罪歴はつかない時があります。俗に言うバレなければいいという考え方ですね】


 なるほど、そんな裏道があったのか。

 そうだよね、そうでもなければ僕がやっていることも犯罪になるだろうし、ミス達のロイスの父に行ったことは立派な恐喝になる。


 そりゃあ、許されざる行為だとしても誤魔化せる理由が必要になるよね。そのせいで嫌な目に遭う人も多々いるんだけど。


 まあ今回は自分を正当化する意味ではないけど因果応報だ。そのうち僕にも返ってくるんだろうな。嫌だな嫌だな。


 僕にも犯罪歴がついていないからバレなきゃいいに該当しているんだろうね。そもそも吸血鬼と人とではステータス表記も変わってくるのかもしれないけど。


 地下はいくつかのブロックに分けられていてお目当ての存在も最奥にいることが分かっている。まあテンプレ通りだよね。大切なものほど奥に閉まっておくという。


 さすがに配慮しているのか、最奥までの道は綺麗で臭いも臭くはない。少しだけ獣臭さがあるくらいかな。……動物が好きな人なら全然耐えられるし、むしろいい匂いに感じられる。


「……檻の前にミスがいるみたいだね」

「……でも弱い。支障をきたすほどの力はないです」

「……僕やシロを止められる存在なら、とっくにブラッドウルフを撃破しているよ。力もないのにデカい態度をとる、本当の弱者によくあることさ」


 弱いものは痛ぶり強いものには巻かれる。

 人の根底にはそんな考えがあるとは思うけど、これはさすがにやりすぎでしょ。プライドが大切でも人としての守らなければいけない尊厳まで失いたいとは思わない。


「……それにしても代わりが来ないな。こいつをどうしたいんだ。あいつらが来るまで三日はあるのに。……もしここが冒険者にバレたら……それこそこの村どころか全てが終わってしまう」


 声が聞こえた。

 檻の前の椅子に座っていたミスがそんなことを口走る。ミスのいうあいつらという存在こそが黒い方の人達なんだろうね。……関わりたくないなぁ。


 一応は聞けるだけのことを聞いてみるか?

 ……新しい情報とかは出なさそうだし、ぶっちゃけて言えば僕が折れてイフに聞けば一発だしね。……でもまぁ、一応ということで。


「その話を詳しく教えて貰えるか?」

「なっ、お前、は……」


 よくよく考えてみると僕のスキル構成ってバランスがいいんだよね。例えば魅了を完了させる為にも相手の弱体化は必要だけど、それは呪魔法で何とかなるし、魅了が解けるまでにはかなりの時間を必要とするからね。


 まぁミスにはそれすらも必要がないんだけど。


「……完了っと。それじゃあ、詳しい話を教えて貰えるかな?」

「はい、私はーー」


 その後に語られたのは聞くに耐えない愚痴と陰口の連続だった。やれロイスの母親を嫁にもらおうとしていただの、やれロイスが産まれたせいでロイスの母が死んだだの、やれロイスの父がいなければ自分のものになっただの。


 でもこれっておかしいことだよね。

 ロイスの母親はこの村の生まれではない。というか、ある程度稼いだから村に隠居したのにそこでこんなことに巻き込まれるなんて災難にも程があるだろ……。


 要はミスが勝手に思い込んだことでロイスの父親を殺して、その母親が大切にしていたロイスにすら魔の手を伸ばした。


 最後の一言に関しては僕は聞きたくもないことだったしね。


「ーー後もう少しでロイスを奴隷に出来ていたのに」


 僕は気がついたらミスの頭を蹴りあげていた。

 生易しい力ではない。本気で頭を撃ち抜いていた。

 蟻が人に踏まれるとどうなってしまうのか。簡単なことだ。腹が潰れてしまう。じゃあ蟻をミスに見立てて頭という一点に強烈な人の重みのような攻撃が加えられるとどうなってしまうのか。


 簡単にミスの頭は撃ち抜かれて顎の付け根に抉れた跡が出来る。僕は小さく命が尽きない程度に回復をかけて再度、詳しい話を聞いた。


 これも聞かない方が良かったのかもしれない。

 僕と良い戦いをしてそして強くなったロイスなら村を守れるだろうという考えだったようだ。ロイスは強いと言っても子供で簡単に騙せるだろう、弱いところをつけば、親のことを話せば簡単に懐柔するはずだ、と。


 この考えがミスの独断ならどれだけよかったか。これを了承したのは他でもないビースで可能ならば僕達も捕まえようと考えていたようだ。


 まだ大丈夫だ。殺そうとまでは思わない。

 あの時のように安易に動いてはいけない。僕は今までの経験で心が強いと思っていたけど、それは勘違いだった。だから最大限の配慮をしてダメならそうすればいい。


 どちらにせよ、この村に未来はない。

 留まればギルドの監査で終わるし、動いたら恨みを買ったブラッドウルフに殺される。


 深呼吸をする。

 心を落ち着かせる。


「……お兄ちゃん、大丈夫だよ」

「……心配をかけたね。もう大丈夫だから」


 シロに手を繋がれてより早く気持ちが鎮まった。

 本当に感謝しか出来ない。


 僕は再度、ミスの顎を撃ち抜いてから放っておいた。次は加減した、死なない程度の威力だ。


 痛みにのたうち回るミスを尻目に檻に手をかける。ドレインで檻を斬るとただの檻ではなかったようでスキル、拘束を手に入れた。


「くぅーん……」

「大丈夫だよ。ここから出してあげるから」


 弱りきっている。

 魔物とはいっても、一度殺したことのあるブラッドウルフであっても生物だ。生きるためならまだしも苦しませるために捕まえるのとは違うよ。


 ブラッドウルフの子供を手に取る。

 ふわふわの毛が手に当たって少しだけむず痒い。


「……回復」

「くぅん!」


 即効性があってよかった。

 ……僕なんかに頭を擦り寄せてくるなんて。


【魔物は人よりも素直ですからね。それだけマスターの本質が良かったのでしょう】


 ……そっか。

 だからゾンビウルフっ娘達も僕のことを認めてくれたのかな。はは、ありがたやありがたや。


「出よう。後はシロに任せるよ」

「安心していいです。お兄ちゃんの考えているような最悪な結果は避けるから」

「出来のいい妹だね。かわいいよ」

「……任せてください」


 不服そうな嬉しそうな顔はなんでだろう。

 いや、でも嫌ならやめてって言うよね。ならいいはずだ。


 僕達は村長の家を後にした。

 いくつかの重要証拠を倉庫に入れて置き土産としてビースを蹴り飛ばしておく。人の皮を被った金の亡者にはこれくらいしても構わないはずだ。現に僕も被害を受けたからね。


 森に向かう。

 初めて行く畑の中心にそれはいた。


「……ガゥ」

「グルゥ……」


 シロは特殊な力として再現というものがある。これは食した、もしくはダンジョン内に作り出せる魔物を作り出すことが出来る能力だ。作り出すためにはいくつかの条件があって今は一体しか作り出せないんだけどね。


 それでも作り出した魔物の見た目はいくらでも再現できるし、スキル構成も臭いも同じに出来る。まずもって見抜くことは不可能だと思う。


 ドッペルゲンガーを作り出すようなものだからね。「昨日の僕は僕じゃないよ!」みたいなことが可能ってことだ。……おー、怖い。


「(お前は誰だ!)」


 イフに通訳をしてもらって僕がセリフを考える。シロだと足りないところがあるからね。一度見たことのある僕の方が適任だ。


「(この顔と傷を見ればわかるはずだ。それに嗅いだことのある匂いもあるだろ)」

「(……娘を助けてくれたというのか。それはありがたい)」

「(感謝される覚えはないな。同種として当然だ。どうもあの人族の集まりはいけ好かないからな。……そのせいで目にも傷をつけられた訳だが)」

「(すまない……我と同じような父親が嫌な顔をしながらも我と戦ったせいでな、この通り腹の傷が癒えるまでは攻められなかったんだ)」


 予想通りだった。

 ロイスの父親は全然弱くはないし戦いたかった訳でもない。僕の中での村へのヘイトがより高まる。


「(親なら当然だろう。村人のことは構わないがその親の守りたかった子供は見逃してくれよ)」

「(構わない。我とて幸せに暮らせればそれでいいからな)」

「(それなら行くがいい。後、これは礼だ。殺しに行くのなら私はお主を止めない)」


 僕は遠距離で子供を離して回復をかけてやる。これで全ての準備が整った。


「(さらばだ、同種よ)」

「(ああ、感謝する。……お主達のような人族が増えてくれればどれだけいい世界なのだろうか)」


 イフから一言だけ声が聞こえた。


【称号、魔物に認められし者を獲得しました】


 あの様子は僕の存在に気がついていたな。

 僕達って複数形にする時点でハリボテのブラッドウルフのことは指していないのだから。


「(本当にさらばだ。お主達が望むのならばいくらでも我を呼ぶがいい。我はウプウ、そのうち我の名前は世に知らしめられるだろう)」


 ここに来て伝説上の狼の名前に近いやつが現れたな。……イフ曰く真名と呼ばれる魔物の本当の名前らしい。称号と名前を呼べば自分の場所が相手に分かるらしいね。


 僕は少しだけ弾んだ心を深呼吸で鎮めて未だに起きてくれている仲間の待つ家へと戻った。その夜、遠くから悲鳴が聞こえてきたけど僕には関係がないよね。


 強いて言うのならもっと苦しませてから殺せばよかったのに、と思う僕は少しだけ狂っているのかもしれない。

次回、2章完結!

50話で終わらせられるなんて区切りがいい…。さては僕の来年の全運をここで使ってしまったというのか!


今年中には次話を投稿します。


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