4話:魔王様対魔王様とか夢の対決ですね(棒)
始まったのが唐突ならば、終わりは一瞬だった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
小さく丸まって謝りながらシクシクと泣いている推定魔王と、その魔王の肩に足を乗せて首先に剣を突きつける勇者の筈の魔王様。
魔王が火の玉を放って、それを真央が剣で斬り払い、一瞬にして間を詰めたと思ったらなんの躊躇もなく魔王の足を斬りつける。魔物と違って人型であるのに、である。それも今まで戦の無い平和な日本という国に生きていたはずの普通の高校生が、である。
この時点で私はドン引きだった。
しかし流石魔王なのか、そこでは勝負はつかなかった。魔王は即座に足を治癒魔法で治した。しかしその時にはすでに腹に剣をぶっ刺されている。やはり真央に躊躇が無い。王子様や護衛騎士さん達も引いている気配がする。
たまらず逃げようと後退する魔王の角を掴んだかと思うと、素手でボキリとへし折り、魔王が悲痛な叫び声を上げた。思わず治癒魔法を発動しかけるぐらいに、切なく、悲しい声だった。私はこの時点で目を覆った。
そして争う音が聞こえなくなったので目を開けた先が、前述の状況である。
魔王が弱いのか、真央が強いのか……私には何も言えない……。
「俺たちを元の世界に戻す方法は知らないのか?」
「ごめんなさい分からないんですごめんなさい」
「ま、真央? 魔王さんも分からないみたいだし、他の手を探そうよ?」
「他の手……とりあえず、魔王を殺せばいいのか?」
そう言って剣を振り上げる真央を、魔王は逃げる気力もないのか、剣を見上げるだけで動かない。
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ」
「いやいや、躊躇いなさすぎでしょーが! 腹にぶっ刺すし、殺そうだなんて……!」
「……あぁ、そうか。お前は、自称神に会ってないんだったな」
「待った。その口ぶり、真央まさか会ってるの?!」
「会った。つい先日」
「なんで?! 私会ってないんだけど! てか会ってるの教えてよ!」
「教えた所でどうなるんだ? あの自称神も、帰る方法は何も言わなかったぜ。その代り、スパッと魔王を倒せるようにプロテクトを施したとか言ってたが、お前には無いみたいだな」
「だって私会ってないから! というか、そういう大事な事、もっと共有しようよ! 真央って昔っから一人で突っ走ってちゃうんだから、後を追いかける私の気持ちも考えてくれませんかねぇ?!」
「断る」
「ですよねぇー!」
立っているのも疲れて、思わずその場にしゃがみこむ。自然と魔王と目線がぶつかる。うるうると滲んだ瞳に、私の姿が歪んで写っている。
プロテクトだとかよくわからないけれど、どう見ても同じ人間に見えるような相手を、平然とぶっ刺せるようにするなんて、無茶苦茶な神様だよ、まったく。大体、なぜ私に会いに来ないで真央にだけ会っているのか。万が一にも面倒くさいという理由だったら、神だろうが邪神だろうが殴りかかる自信がある。
「魔王さんは、なんで魔物を召喚しているんですか?」
「この世界は、不完全な世界なんです……この世界の物質だけでは、世界を維持できない……だから、他から魔力を取り入れる必要があって。でも、必要なものを必要な分だけ呼ぶことができなくて、どうしても無駄なものが入ってきてしまうんです」
「それが魔物?」
「はい……魔物は、不純物の塊。魔力に余計なものが混ざって出来上がったもの」
「どうにかして魔物は来ないようにはできないんですか?」
力なく首を振る魔王に、過去に試しているような気配を察してそれ以上突っ込めない。
「魔物は、貴方が人を襲うよう嗾けているのではないのですか?」
背後から、王子様の硬質な声が聞こえる。魔王はのっそりと顔を上げて、王子様の姿を見つけると自嘲気味に笑った。
「まさか。そんな意味のない事はしない。魔物は魔力の不純物、その本質は魔力。魔力を糧に大きくなる。そして人間は、微かに魔力を持っているから、魔力と魔力が反応し合うのだろう。その証拠に、時には魔物同士で共食いもするが、不純物よりも純粋な人間の魔力の方が好きなんだろう、だから人を襲う。そして人間が寄り集まれば、魔物が感じられる魔力も大きくなるのだから、人の密集した場所を襲うのは必然」
「でもその理論なら、魔王さんも魔法を使うのだから魔力はあるわけで、襲われるんじゃないの?」
「私は……魔物を生み出した親みたいなもので、魔物達もそれが分かっているのか私には襲い掛かってくる事は……ほとんどありません」
「たまにはあるのか……」
「月に一回程度」
「思ってたよりも多い」
魔王が魔物の生みの親であるのは間違いがないみたいだが、世界を維持する為ならば仕方がないというか、しょうがないというか。魔王さん、悪くないよね? 悪いの、やっぱり自称神様の邪神なんじゃないかなー、という気がしてきたのですが。
「なら、魔物が生まれた時にテメェで始末すればいい」
真央の言葉に、魔王さんはチラッと真央を見上げてから今度はチラッと私を伺い見る。
「でも魔物は、時々……多少……ごく稀に、言う事を聞いてくれるので」
「月一で襲われてるのに?」
「月一以外はずっと大人しいんです。じゃれついてきたりする事もあって」
魔王さんの頬が少し緩む。
なるほど、こやつ、ぼっち拗らせすぎて襲ってくるのに魔物が可愛くなっちゃってるのか。
「じゃあ、どうして魔王さんは人間を嫌うの?」
私の質問に、魔王さんの緩んでいた頬が引き締まる。そしてキッと強い力で私を見たかと思った瞬間、真央に殴られてすぐに瞳を潤ませた。なんだかごめんなさい。
「世界の為に仕事をしていたら、天敵の勇者を召喚して、殺そうとしてくる相手を好きになれると思いますか?」
「そうだね、無理だね」
なんだかもう、私たちを召喚した神様ってのは、邪神で確定ですよね? 魔王さん可哀想すぎない?
「そんな話を、信用できると思いますか?」
王子様は、厳しい表情で魔王を睨み付けているが、嘘だったとしたら魔王さん名演技過ぎませんか? ただの魔王にしておくのは勿体ないと思いますが。
まぁ、確かに同情させてこの場を切り抜けるという手も考えられない事は無いのだけれども、私には魔王さんの話を嘘だとは思えない。何故と言われても困るが、私の下に一向に現れない自称神の方がよっぽど疑わしいではないか。
「ねぇ、真央」
「断る」
「まだ何も言ってないんですけど?!」
「どうせお前の事だから、魔物狩りしながら自称神を探し出そうとか、そういう話だろ」
「その通り過ぎて何も言えない……!」
「だが、自称神を探すのは、いいかもしれないな。この間会った時は、話を誤魔化されたような気もするし、締め上げれば何か吐くだろ」
流石魔王様、自称神すら締め上げるつもりのようです。
その時は私、止めに入らないので自称神様、心して待っていてください。