5話:勇者って基本武力解決
自称神様探しは、魔王討伐よりも難航を極めた。
おそらくあそこだろう、という予測はできているのだが、そこに入る許可が全く下りない。だがそれも仕方がないのか、なんせ彼らが崇める神様を、真央は締め上げようとしているのだから。
「すみません、やはり神聖教会からは断られてしまいました……」
神官に掛け合ってくれていた王子様が、肩を落としながら謝ってくれるが彼が悪いわけではない。教会側に私たちの目論見がバレている理由は、偏に真央と私の責任である。
「いい加減許可なんていう穏便な方法は諦めて、夜に忍び込んだらどうだ?」
「サナも行くのか? それなら一緒に行くぞ!」
堂々と不法侵入を提案するのは我らが魔王様である真央で、その隣でシュパッと手を挙げたのはこの世界の魔王様である。
そう、教会が私たちの考えを察したのは、一度堂々と剣を片手に乗り込もうとした真央と、真央にボコられて怯えていた魔王を放っておけなくて連れてきてしまった私が原因なのである。
教会内に、武器の類は持ち込み禁止らしく、入ろうとした瞬間に大勢の神官たちに押しとどめられた。
さらに教会の敷地内は魔力が封じられるらしく、魔法が使えない。私の祈りの力も減衰するらしく、傍若無人な真央も流石に諦めて撤退した。
魔王を拾ってきてしまったのは、偏にボコられた魔王に同情してしまったら懐かれたのである。
真央に折られた角は魔王の治癒魔法では治らなかったらしく、この角が魔王にとってはとても大切なものだったらしく、さめざめと泣いていたので、ちょっと試してみたらニョキッと生えて治った。
そうしたら、ものすごく懐かれた。
どれくらい懐いているかというと、四六時中べったりくっついてくるのでまた真央に角を折られたぐらいには懐かれた。そして私が治してまた懐かれるという悪循環。
最近になって、やっと真央の前では大人しくしている事を学習してくれた。
そんな感じで、お城に魔王を連れ込むのは流石に申し訳なく、王都の片隅の空き家を借りて真央と私と魔王という、両手に魔王の状態で暮らしているのだが、王子様が真央と魔王の監視という名目でちょこちょこ遊びに、いや彼にとってはとても真面目な気持ちでやって来てくれているのだろうが、私にとってはちょっとした癒しである。
「もっと穏やかな解決方法ってないのかなぁ」
「勝手に拉致って武器握らせて、さぁ戦えと言ってくる相手に、穏便な話し合いは望めないだろ」
「平和的解決を目指そうよ……仮にも勇者じゃない……」
「勇者だからこそ武力解決なんだろ」
半泣きの私に、王子様がそっとハンカチを差し出してくれる。ほんと、こういう所が癒しである。真央も魔王も見習ってくれたら……と思ったけれど、不気味過ぎて差し出されたハンカチを受け取れないな、と気づく。
「諦めろ」
「いやいや、そんな簡単に諦めないで」
「こちらから何度も話はしたが、交渉の余地もないと切って捨てたのはあっちだろうが」
「そうだけど」
「お前は早く帰りたくないのか?」
真央の言葉に、思わず声がつまる。
「サナ、帰ってしまうのか?」
縋ってくる魔王を、真央がその角を掴んで引きはがす。王子様は、そっと目を伏せた。
「帰りたいよ……でも、もし今度も、帰る方法が分からなかったら」
帰りたくないなんてことは、ない。でも、神すらもその方法を知らなかったら。
帰れる可能性が、ゼロになってしまう。
「もし本当に神が知らなかったら……その時は、俺が――」
「サナが帰ったら、俺はまた独りになるのか? そんなのは嫌だ、俺もついて行くからな!」
魔王が、真央の言葉を遮り抱き着いてくる。視界が真っ黒に埋め尽くされたが、すぐに真央によって魔王が引っぺがされて視界が戻る。隣の王子様を見ると、憐憫の表情で真央を見ている。その顔やめなさい、真央に見つかったらぶっ飛ばされますよ。
「いいか佐奈、とにかく今夜決行だからな」
力の委譲はしていないので今の真央は標準的な力の筈だが、こめかみを拳でぐりぐりされている魔王が、悲痛な呻きを漏らしている。申し訳ないけど、私には助けられません。
「……分かった」
怒れる魔王様の前に、私は頷く事しかできなかった。
*
子供も大人も夢の世界に旅立つ漆黒の闇の中、私は真央に抱えられつつ教会の中を真央と魔王が足音も無く駆け抜ける。最初は自力で走っていたのだが、遅いと真央に言われてこうなった。米俵みたいに担ぐのだけはやめてくれとお願いしたら、小脇に抱えられた。何かが違う。
時々警備の神官が歩いているのを、陰に潜んでやり過ごしながら奥へ奥へと進んでいく。
最初は王子様もついてくるつもりだったようだが、真央が断っていた。流石に王子様がコソ泥みたいな真似をするのも駄目だろう。なら勇者は良いのかという気もするが、勇者パーティに魔王が参戦している時点で普通じゃない。
神官達だけが入れる聖域という教会の奥で、ふと空気が変わったのを感じた。真央を見上げれば、真央も何か察したのか足取りを遅くし、一歩一歩確かめるような歩みに変更した。ならば私を下ろしてもいいのではないだろうか?
警備を何度かやり過ごし、教会の一番奥と思われる、身長の五倍はありそうな大きな扉の前で、真央はやっと私を下ろしてくれた。そして徐に剣を鞘から抜き取る。魔王も固い表情で扉の先を睨み付けている。これは何かいる奴か、と私も念のため身構える。
真央が扉に触れれば、まるで私たちを歓迎するように扉が独りでに開く。何とも凝ったギミックである。
「こんな夜更けに誰かと思えば、貴方達でしたか」
部屋の先、大きな十字架とステンドグラスを背に立つのは、私達を召喚した張本人、紫髪の神官だ。王子様が名前を言っていたような気がするが、生憎興味がなかったので覚えていない。
「ここは、許可無き者が入ってもいい場所でな無いのですが、魔王を連れてくるような非常識な聖女様達には、そんな事を言っても通じないのかもしれませんね」
「俺達はアンタに用は無いんだが、邪魔をするつもりか?」
「私は、貴方達が魔王を倒すつもりだというのなら、邪魔なんてしませんよ」
真央と、神官の視線が火花を散らすようにぶつかり合う。
この緊迫した空気感は、なるほど裏ボス戦前としてバッチリである。なんちゃって魔王戦との差が凄い。凄すぎてアホな事しか考えられない。
「魔王はもちろん、倒すつもりだ」
真央の言葉に、魔王がぶるりと体を震わせる。過去のあれこれを思い出したのだろう、可哀想に。
「おや、そうですか? 私の眼には、貴方のすぐ横に、その魔王がいるように見えますが」
「俺は俺が思う、魔王を倒すつもりさ。俺の横に居るのは、アホと小物だ。目が悪いんじゃねーのか」
「では、貴方が思う魔王というものは、一体どんなものなのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「自称神を名乗る誘拐犯だよ」
真央がそう言った刹那、神官の手から稲光のような光が真央に向かって走る。それを真央はすげなく剣で斬り払う。
「魔法は使えないんじゃないの?!」
「神に仕える我らの力まで、封じられると思いですか? 力を封じられるのは、我らの神に仇をなす者達だけですよ」
それはいくら何でもズルすぎるだろうと叫ぶ前に、真央の手が私を後ろへと下がらせる。
「佐奈、祈れ」
「でも、祈りは――」
「他の事は何も考えるな。ただ、俺の事だけを考えて祈れ」
ぐっと、言葉を飲み込む。なんだその発言、魔王様の癖に勇者し過ぎではないか。
「魔王、佐奈を死ぬ気で守れよ」
「言われなくとも」
「でも、流れ弾でお前は死んでもいい」
「ちょっと見直したらすぐそれかよ!」
魔王ちょっと泣いてるじゃん! 実は何だかんだ言って魔王も真央に心開いてきてるのに! 流石魔王様だよ!
そう思いながらも、後ろに下がって目をつむって、一心に祈る。
真央が負けませんように――真央が傷つきませんように――真央が、真央がまた、昔のように笑ってくれますように――。




