続、ミナミの街は華やかに
もうすぐクライマックスです。少しはラブコメしてます!
夕方、太陽の光が赤みを帯び西日が強くなる時間に僕とカナエは難波に降り立った。僕達をここまで運んできた黒塗りのセダンを見送った所で、カナエに訪ねる。
「終わったん・・・かな?」
短いようで長い2日間、カナエからしてみれば3日間が終わったのだ。
「ああ、終わりや・・・これで」
外回りを終え会社に戻るサラリーマンやOL、講義を終えた大学生、これから演奏をするために移動するストリートミュージシャン、主婦、高校生・・・様々な人が僕達の横を風のようにすり抜け歩き去っていく。人混みの中で、僕とカナエは無言で見つめ合っていた。
カナエは僕の手を握ってこう言った。
「本当にありがとう。真っ先に私を守ろうとしてくれて、むっちゃ嬉しかったんよ。」
僕はカナエの手を握り返す。言葉は出てこなかったが、それでカナエには何かが伝わったようだった。
「なんとなく難波行ってって言ったんやけど、飲みに行かへん?」
パッと手を離し、カナエは笑顔でそう言った。
「ええな、僕は弱いけど。」
せやったな、と笑いながらカナエは歩き出す。
五分ほど歩いたところで、時間がまだ早く洒落たバーや若者が集まる居酒屋は空いていない事に気づいた僕たちは、難波から日本橋に向かう途中の大衆居酒屋に入った。カウンターには既に出来上がっている中高年が数組、立ち飲みでビールを煽りながら大声で今年の阪神タイガースにダメ出しをしていた。僕とカナエは奥まった所にある小さなテーブルに座り、適当な乾き物とビールを注文する。
「にいちゃんら、若いのにこんなとこ入るなんて珍しいやっちゃなー」
店主のおじさんが僕とカナエの注文を取りながら不思議そうに訪ねる。
「いやー、おっちゃんがメッチャイケメンやからに決まってるやん!」
カナエが笑いながら冗談を飛ばす。
「そんなん当たり前やろー」
店主はガハハと笑いながら、注文したビールの中瓶をテーブルにドンと置いた。メーカーのロゴが入った年季モノの僕のグラスに、カナエはビールを注ぐ。僕もカナエから瓶を受け取り、酌をする。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
二人でカチャリと控えめにグラスをぶつけての乾杯。苦手な筈の酒が、とてもおいしく感じた。
二時間半は飲んだだろうか・・・カナエの顔はほんのりと赤くなり、上機嫌に色々と語っている。
「いやな、私言うてんで!?その態度はなんやー!って、そしたら中村がな」
元来酒に弱い僕は、最初の一杯にはぐらりと来たものの、すぐに酔いは覚めたため、コーラでつまみを食べながらカナエの聞き役に徹していた。
「はー、笑ったわー」
カナエは満足したように言った。
「でも、どうしよ・・・」
ここで話は冒頭に戻る。
「あー・・・なんであんなこと言ってもうたんやろ」
退職願いの事だろう。
「就活頑張ってええ会社入ったんやけどなぁ・・・」
「言ってしまった言葉もう引っ込められへんよな」
僕は答える。カナエもそうだよね・・・と落ち込んで見せる。
「ただ、今回のことは社内外で一切漏らされへんようになっとるし、浜中部長は保留と言うてはったから、何とかなるんちゃう?」
この際退職の際の法的なものはどうこう言ってられないだろう。くどいようだが事情が事情だ。
「仮に何とかなっても、こんな事軽々しく言った自分がイヤやわ」
カナエは、半泣きでグラスのビールに口をつけた。
「飲んだる!こうなったら徹底的に飲んだるねん!」
まだまだ夜は長くなりそうだ。腕時計を見ると、時刻はまだ七時前だ。夕方から飲み始めたせいで、僕達の時間感覚は完全に狂っている。
「ねえちゃん、威勢ええな!」
突然の大きな声に驚き振り返ると、一升瓶を持った店主が立っていた。
「サービスやサービス!飲め飲め!」
空のコップを2つ、テーブルに置き、なみなみと透明な液体を注ぐ。
「オッチャン、おおきに!ホンマイケメンやん!」
調子が上がる一方のカナエ。やめてくれよ・・・と内心思いながらも、そんなカナエも魅力的だった。




