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第7章:昔の思い出

 翌朝、村に明るく澄んだ陽光が降り注いだ。液状の黄金のように村全体を包み込む朝日だった。


 昨夜の混乱の後、意外とすっきりした気分で小さな宿を出た。長い白髪は邪魔にならないようゆるく三つ編みにし、簡易の革装備も裏で軽く洗って少しだけ綺麗になっていた。


 村人たちはすでに起き出して、悪魔襲撃で壊れた柵や家屋の修復を始めていた。しかし俺が広場に姿を現した瞬間、すべてが止まった。


 一斉に視線が集まり、目が大きく見開かれ、囁き声が野火のように広がった。


「あの娘……太陽の下を歩いているぞ!」


「肌が……全然焼けていない!」


「上位吸血鬼か? 貴族の一人なのか!?」


 あっという間に人だかりができた。好奇心旺盛な農夫たち、数人の衛兵、母親の後ろから恐る恐る覗く子供たち。真紅の瞳と雪のような白髪が、真昼の陽光の中でひどく目立っていた。


 老婆が震える指を俺に向けた。


「子よ、お前は吸血鬼貴族の血筋か? 高位の血統でなければ、太陽の下で灰にならずに歩けるはずがない!」


 屈強な鍛冶屋が近づいてきて、魔力感知を働かせたのか顔を真っ青にした。


「この魔力量……とんでもない! 見た目だけの少女のはずがない。いったい何者だ……?」


 俺は慌てて小さな両手を上げ、後ずさった。


「えっと、上位吸血鬼じゃないです。貴族でも絶対にないです。ただの……普通の吸血鬼、かな?」


 その答えがさらに火に油を注いだ。


「普通!? 下級吸血鬼が、進化も血の儀式もなしに太陽の下を歩けるなどありえない!」


「しかもこの幼体が、人間の血を飲まずに? 昨日は普通の子供みたいに肉パイを食べてたぞ!」


 村人たちの驚愕は本物だった。感嘆する者、恐怖する者、中には聖人か伝説の生き物でも現れたかのように跪く者までいた。


 俺の忍耐が限界に近づいていた。賢者が警告していた通りの展開だ。異端であることは本当に面倒くさい。


「ちょっと、みんな。俺はただ通りかかっただけで、昨夜は悪魔の召喚士を倒しただけなんだ。大げさに——」


 質問の波が次々と押し寄せてきた。


「本当の年齢はいくつだ?」


「血は飲んだことがあるのか?」


「コウモリに変身できるのか?」


 真紅の瞳がピクッと痙攣した。苛立ちが沸き上がる。失礼なことを言い返そうとした瞬間、聞き覚えのある声が人ごみを切り裂いた。


「もう十分だ!」


 セラフィナ・ヴェイルが村人たちを押しのけて現れた。銀の鎧は磨き上げられ、金髪は綺麗にまとめられている。騎士団長の威厳が一瞬で周囲を支配した。人々は敬意を込めて道を空けた。


「彼女は昨夜の私の救命恩人であり、客人だ」

 セラフィナはきっぱりと言い放った。「これ以上の質問は私に直接するように。各自、仕事に戻れ。村の修復はまだ終わっていない」


 不満げにブツブツ言いながらも、村人たちは散っていった。ただし、何度もこちらを振り返ってはチラチラ見ている。


 セラフィナは優しく、しかし真剣な表情で俺に向き直り、肩に手を置いた。


「来て、リリス。二人で話しましょう。あなたの……状況はもう村中に知れ渡ってしまったわ。すぐにこの村の外にも広がるはずよ」


 彼女は広場の端にある大きな木の下の静かなベンチへ俺を連れて行った。人目から離れた場所だった。座ると、彼女は俺の小さな体、長い白髪、青白い肌をじっくりと観察した。


「まずは昨夜の礼をもう一度。あなたの助けがなければ、あの守護精霊に潰されていたわ。それでは……正直に話しましょう。あなたは普通の吸血鬼ではないわね。上位吸血鬼や貴族が太陽の下を歩けるのは、古代の血統と強力な進化の結果よ。彼らはある程度まで血を必要としなくなるし、人間と同じように普通の食事も取れる。でもあなたは……」


 彼女は言葉を選びながら続けた。


「血を全く飲んでいない。昨日は人間の食べ物を心から楽しそうに食べていた。そして昨夜は召喚士の生命を吸い取り……魂まで喰らっていた。あれは並外れているわ。貴族でも難しいことよ。ほとんどの吸血鬼は魂だけで生き続けると狂うか弱体化する。でもあなたは健康そのもので、むしろ強い……」


 俺はベンチの上で居心地悪そうに体を動かした。短い足がぶらぶらと宙に浮いている。


「ええ……まあ、そうやって生きてるんです。血より魂のほうが味がいいし」


 セラフィナの目が好奇心で優しく細められた。


「リリス、本当の年齢はいくつ?」


 俺は一瞬迷ったが、外見に合う一番安全な嘘を吐いた。


「うーん、もちろん14歳です」


 セラフィナはゆっくり首を振り、小さく微笑んだ。


「外見は確かに十四歳くらいに見える。でもそれはおかしいわ。あなたの力、儀式も進化もなしに太陽に適応したこと、魂を喰らいながら普通の食事も取れる能力……これらは遥かに長い時を生きてきた者にしか見られない特徴よ。何世紀もの経験を持つ者の」


 彼女は少し身を乗り出した。


「本当のことを教えて。あなたは本当に何年生きてきたの?」


 答えようとした瞬間、賢者の声が頭の中に大きく響いた。まるで声に出して話しているかのように。


『主の魂暦年齢は、前の人生とこの世界での時間を加味すると、500年を超えています。体は新しくとも、魂は転生プロセスにより五百数十年分の重みを持っています』


 俺は凍りついた。


「はあ!?」

 思わず高い声で叫んでしまった。「五百歳!? 賢者、冗談だよな? 本当だよな!?」


 セラフィナが俺の突然の叫びに目を丸くした。


 賢者は淡々と続けた。


『冗談ではありません、主よ。前の人生である白秋としての35年と、転生時の魂の定着方式により、時間的加重が発生しています。異世界転生者としては珍しくもないケースです』


「うそだろおおおおお!!」


 小さな手で頭を抱え、長い白髪が顔に落ちた。衝撃がトラック並みに突き刺さった——皮肉なことに。


 セラフィナが心配そうに俺の肩を掴んだ。


「リリス? どうしたの? 誰と話しているの?」


 俺はほとんど聞こえていなかった。頭の中がぐるぐる回っていた。


 五百歳超え。見た目は十代の少女なのに、この世界の基準では魂が古代級。なるほど、だから「弱い」吸血鬼のくせにMEとSPが異常だったのか。完全適応が馬鹿みたいに強力だった理由もこれか。


 すると突然、もっと深いところで何かが蠢いた。


 俺のものではない記憶が、フラッシュのように目の前に浮かび上がってきた。


 白秋としての記憶でも、森での九ヶ月でもない。


 もっと古い。遥かに古い記憶。


 血に染まった戦場、血色の月。人間、悪魔、吸血鬼、Elfの軍勢がぶつかり合う。叫び声と魔法の爆発が空を埋め尽くす。


 長い白髪と真紅の瞳を持つ小さな少女——自分とほとんど同じ見た目——が丘の上に立ち、涙を流しながらその光景を見つめている。小さな人形をぎゅっと抱き、震える体で。


「お母さん……お父さん……」

 少女の声が、痛いほど頭の中に響いた。


 場面が激しく変わる。さらなる戦争、裏切り、燃える大城。成長した白髪の少女が炎の中を走り、必死に牙を剥いている。


 そしてすべてが真っ暗に——純粋な闇の虚空へ。


 視界がぼやけた。


 世界が回った。


「リリス? リリス!」


 セラフィナの声が遠く聞こえる。


 小さな体がふらつき、足から力が抜けた。ベンチから前に倒れ込んだが、地面にぶつかる前に強い腕が俺を抱き止めた。


 真紅の瞳に黒い斑点が舞う。


『主! 魂の揺らぎを検知! 元の器の記憶が浮上しています。意識を保って——!』


 賢者の警告が遠ざかり、暗闇が俺を飲み込んだ。


 最後に聞いたのは、セラフィナが心配そうに助けを呼ぶ声だった。


 それから意識が途切れた。


 再び意識が戻ってきた時、記憶は断片的だった。


 俺は柔らかいベッドの上に横たわっていた。おそらく村長の家か、癒し手の部屋だろう。窓から陽光が差し込み、顔を温かく照らしている。頭がハンマーで殴られたように痛んだ。


 セラフィナがベッドの横に座っていた。鎧は脱いでシンプルなチュニック姿だ。俺が目を開けると、ほっとした表情を見せた。


「目が覚めたのね。年齢の話をした直後に突然倒れたわ。大丈夫?」


 俺はゆっくり体を起こし、こめかみを揉んだ。長い白髪が枕の上に乱れている。


「……多分。大丈夫だと思う。ただ……変な記憶が。俺のじゃない……でも今は俺のものなのかも?」


 セラフィナが眉を寄せた。


「記憶? 今の人生より前の?」


 俺は曖昧に頷いた。転生の全容をまだ説明する気にはなれなかった。


 賢者が再び、いつもより慎重な声で俺だけに語りかけた。


『あの断片は、この体の元の魂——あなたが転生した器のものです。大賢者の進化と高い魂点により、抑圧されていた記憶が目覚め始めています。慎重に。急ぎすぎると現在の性格に影響が出たり、不安定になる可能性があります』


 俺はため息をつき、小さな青白い手を見つめた。


「最高だな。五百歳超えのロリ吸血鬼になった上に、他人の戦争トラウマまで頭に入ってきた」


 セラフィナが首を傾げ、俺の独り言に困惑した様子だった。


「リリス……もし本当に何世紀もの重みを背負っているなら、あなたは見た目以上に特別よ。今、村中が『太陽の吸血鬼』で持ちきりだわ。奇跡と呼ぶ者もいれば、新たな災厄だと恐れる者もいる。今は私が守れるけど、安全に旅をするなら早く首都へ向かうことをおすすめするわ。そこでなら、あなたのような強者は冒険者ギルドや王国の特別機関に登録できる。自分の正体についての答えも見つかるかもしれない」


 俺は考えた。ここに留まれば質問と面倒事が増えるだけだ。首都なら図書館、もっと強い相手とのレベル上げ、グランドセージの封印解除の手がかりもあるかもしれない。


 それに、セラフィナは信頼できそうだった。強く、誠実で、なぜか俺を守ろうとしてくれている。


「分かった」

 俺は短い足をベッドから降ろしながら言った。「首都に行こう。でもその前に……朝飯だ。また本物の飯が食いたい。それと、秘密裏に五百歳の十四歳に見える吸血鬼に合うちゃんとした服も」


 セラフィナは小さく笑い、立ち上がって俺に手を差し伸べた。


「本当に変わってるわね、リリス。いい意味で。分かったわ。村が落ち着くまであと二日で出発しましょう。物資は私が手配するわ」


 彼女が準備のために部屋を出ていくと、俺は窓の外の陽光に満ちた村を眺めた。


 ガラスに映るのは、可愛い白髪の赤い目の少女。


 しかし内側には、何世紀もの重みがのしかかっていた。ゲーマーだった人生、九ヶ月間の過酷なサバイバル、そしてこの体の元の魂が持っていた悲劇的な過去の断片。


 俺は拳を握り、盗んだスキルと大賢者の力が体内で唸るのを感じた。


「五百歳超えか……いいぜ。魂の年齢がそれだけあるなら、弱いままでいるつもりはない」


 賢者の声が、温かく承認するように返ってきた。


『その意気です、主よ。これから先はさらに大きな試練が待っていますが、一緒にすべてを解き明かしましょう』


 俺は小さく微笑み、牙を少し覗かせた。


 村は俺を奇跡か怪物と見ている。


 首都が、俺が本当に何者なのかを決めるだろう。


 今はただ、転生したゲーマーが生き延びようとしているだけだ——ついでに蜂蜜ケーキをもう少し味わいながら。


 あのフラッシュした記憶が、俺の新しい存在に絡みつく遥かに大きな謎の、ほんの始まりに過ぎないなどとは、この時はまだ知る由もなかった。


 その謎は、いつか世界全体を揺るがすかもしれないものだった。



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