103. 報奨
アリアとキャロライン、スタークにカインの四人はキャロラインのカフェで久々にお茶をしていた。
「やだ、カイン様、チョコレートが服に…」
チョコレートフォンデュのチョコをカインが騎士の白い制服にこぼした。
「うわ、ヤバ…。制服にチョコレートが…マリウス団長に怒られる。アリア、これ、きれいにして」
「もう、相変わらずだわ、お兄様ったら」
アリアは笑いながら水魔法でチョコレートのシミを綺麗に洗った。
「…だって、久々なんだもん、チョコレートフォンデュ」
カインは少し恥ずかしそうに言った。
「そうだな。なんだかんだ、忙しかったからな。キャロライン、あれからレオはどうしてる?」
スタークは紅茶を飲みながらキャロラインに尋ねた。
「急に髪色が栗色に変わったから、皆びっくりしてたけど、元気ですわ。意外に面倒見いいから、皆、レオのこと、お兄ちゃんって懐いてるんです」
「それは良かった」
「マリウス団長もキャロラインの義足に慣れたみたいだし、騎士団の負傷者も、もうほとんどが復帰してる」
「明日は叙勲式だもの。ラジール国王が騎士は全員に勲章と報奨を下さるなんて、すごいことよね」
「スタークとアリアは望む物を何でも貰えるんだ。アリアは何をもらうか決めた?」
カインの質問にアリアは口いっぱいに、チョコレートを付けたスコーンを頬張りながら首を傾げた。
「…別に欲しいものなんて思い浮かばないわ。全部持ってるもの」
「キリア隊長はユリアさんと新婚旅行に行く休暇を二ヶ月貰うみたいだよ」
「わぉ…二ヶ月」
「カインは?」
「ん、僕も欲しいものは特にないけど、この際だから、皆で旅行もいいかな。一週間、アリアとスタークとついでに父上の財務省の休みを僕が希望するんだ。キャロライン、都合つく?」
「! もちろん!」
「キャロラインが一週間もいなくて大丈夫なの?」
「アリア、優秀な経営者は、自分がいなくても商売を回せる者なのよ?」
「さすが、キャロライン」
「スタークは?何を報奨でもらうの?」
アリアの質問にスタークはニコッと微笑った。
「秘密。…多分、俺のが一番、要求としては大きいかもな」
「?」
「アリアは何を頼むか、俺が報奨を貰った後に決めればいいよ。別に報奨は明日言わないといけないわけじゃないし」
「それって私にも関係あるのかしら?」
スタークはアリアの口元に付いたチョコレートを指で拭い、ペロッと舐める。
「そうだね、アリアがちゃんと約束を守ってくれたら、関係するかも」
「約束って?」
カインの質問にアリアは少し照れながら小さい声で答えた。
「…結婚?」
「何今さら照れてるの?するでしょ、そりゃ」
キャロラインの突っ込みにアリアも反撃する。
「だって、そんなこと言うなら、キャロラインとお兄様はいつするのよ?」
「え!?わ、私は…ほら…」
「僕はもうプロポーズしたんだけどね。あと半年待ってくれって」
「今回の災難で街の復興を優先して、孤児院の経営や、事業がもう少し落ち着いてからと思って」
「僕は全然大丈夫。いつでもいいや」
カインはそう言って笑う。その器の大きさにキャロラインは感謝して微笑んだ。
「プロポーズ…」
カインの言葉にハッとしてアリアはスタークを見た。
「私…もしかして自分からプロポーズしちゃったのかしら?」
「え?!」
カインとキャロラインはアリアを見る。
スタークはニッコリと満面の笑みを見せた。
「そうだね。アリアのプロポーズ、ぐっと来たよ。全部終わったら、結婚してあげるって。」
からかうようにスタークがそう言うと、アリアは顔を赤くして恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
「アリアらしいわ」
「男前だな、アリアは」
「もう、からかわないでよ」
「ハハ。ちゃんと改めてプロポーズするから、待ってて」
「…」
アリアは少し照れながら首を縦に振った。
四人は久々のティータイムを楽しんだ。
翌日、王宮の広間にはラスタ王国の騎士団七十名が全員集められ、一人一人に金一封と勲章が与えられた。タウロスとジェイドも現役の騎士と同じように扱われた。
魔法士や治癒士、そしてユリアも貢献を称えられた。
マリウス、キリア、スターク、カイン、そしてアリアが呼ばれ、報奨をラジール国王に賜る。
マリウスは報奨を辞退し、キリアとカインは予定通り、休暇を申請した。欲がないなとラジール国王は笑い、快諾した。
スタークの番になり、スタークはラジール国王に片膝をつき、頭を下げた。
「何を望む?」
ラジール国王の問いにスタークは顔を上げ、こう言った。
「爵位と、領土を願います」
意外な答えに、周りがざわつく。
「爵位とは…ステイサム公爵は継がないのか?」
ラジール国王の問いにスタークは首を横に振る。
「祖父、ヘラルド卿が引退すれば、まずは父が継ぐでしょう。それに、私には優秀な兄が二人います。ステイサム公爵家は安泰でしょう」
「そうか、まぁ、お前の功績を考えたら爵位も領土も与えても誰も文句はあるまい。どこの領土を構えたいのだ?」
「…ジオルグの領土を願います」
「!?」
その場の全員が耳を疑った。ジオルグは同盟国連合が介入している、国ではなく、言わば宙ぶらりんの状態だ。
アリアは驚きを隠せず、スタークの横顔を見つめた。
「今、ジオルグは同盟国の管轄です。いずれはどこかの国に吸収されるはずです。ジオルグは王政が途絶えて十五年、統治する者もなく、国としては崩壊し、機能していません。ラスタ王国がジオルグを吸収し、そこを私に領地として与えてほしいのです」
周りがざわつき、ラジール国王は顎髭を触りながらアリアをチラリと見て、ジェイドを見た。
ジェイドはフッと微笑ってラジール国王に頷いた。
「…ジオルグの統治は決して楽ではないぞ?貴族は腐敗し、奴隷制度が根強く残っている。ネリのせいで賊も増えたはずだ。」
「はい、だからこそ、ラスタが建て直すべきだと思います。今回の戦いでラスタは同盟国の中でも大きな働きをし、その存在を示せたはずです。魔薬工場の壊滅、ネリ将軍の討伐も我が国がしたのならば、他国も納得するはず。治安も経済も不安定な今、ジオルグの平民達に安心して暮らせる日常を与えるのはラスタ王国の役目だと思います」
「…そうだな。魔聖騎士であるスタークがいなければ、ラスタもこの程度の被害では済まなかったはずだ。同盟国も異論はないとは思うが…交渉次第か。…騎士達は騎士の務めを立派に果たした。今度は国王である私の仕事だな」
ラジール国王はそう言って深く頷いた。
「スターク・ヘリオス・ステイサム卿、今回の功績により、爵位公爵、ジオルグの領地を報奨として与えることを約束しよう」
「ありがとうございます」
スタークは深々と頭を下げた。
スタークはホッとしてアリアの顔を見た。アリアは目に涙をため、それがこぼれ落ちるのを必死に耐え、震えていた。
スタークはアリアの前に歩み寄り、跪き、手を差し出した。
「!」
国王や、貴族、そして騎士団がいる公衆の面前でスタークの声が響いた。
「アリア、結婚して下さい。君の笑顔が見られるように、一生幸せにする。そして、ジオルグの人達が平和に暮らせるよう、一緒に建て直そう。俺と…ずっと一緒に生きて欲しい」
「スターク…」
アリアは我慢しきれず、ポロポロと涙を流しながら笑った。
「もちろんよ、嬉しい…!」
そう言って手を取り、スタークに抱きついた。
「まさか…国王の前でプロポーズするとは…な。我が国のいや、大陸全土の危機を救ったこの二人に祝福の拍手を!」
ラジール国王の言葉に会場いる全員が、祝福の拍手を惜しみなく贈った。




