102. 女神の帰還
レオはベッドの縁に腰掛け、アリアの額に手を当てたまま、三十分ほど微動だにしなかった。レオを包む淡い光が薄くなっていくと同時に、レオの髪色が銀色から栗色に変わって行く。
「…アリア!」
スタークがアリアの目から涙が頬を伝うのを見て慌てて身体を乗り出した。アリアの気を感じる。
「アリア、アリア」
スタークが呼びかけると、アリアはゆっくりと目を開けた。心配そうな表情でスタークとレオが顔を覗く。
「スターク…」
アリアはスタークの名前を呼び、両手を伸ばした。
「!」
スタークは目に涙をためながらアリアに抱きついた。
アリアの温もりにスタークは震えが止まらない。アリアはまるで子供をあやすようにスタークを抱きしめた。
レオはホッとした表情でベッドから離れた。アリアがレオを見つめる。レオは自分の胸に手を当て、ポツリと呟いた。
「…行っちゃったみたい」
レオの言葉にアリアはスタークを抱いたまま、微笑み、頷いた。
「レオ…ありがとう」
「スターク、そろそろ僕たちにもハグさせてよ」
カインの言葉にスタークはハッとして顔を赤くし、アリアから手を離した。
「ご、ごめん」
珍しく取り乱すスタークを見てカインとジェイドが笑う。
「おかえりなさい、アリア」
ヴィオラが泣きながらアリアにハグをした。
「ただいま、お母様…」
「あなたは私の宝物よ」
ユルゲイも涙を流してヴィオラの上からアリアを抱きしめた。
「…お母様も…お父様も、お祖父様もお祖母様も…カインもキャロラインもレオも、騎士団も…アナスタシア、そしてスターク…皆、皆、私の宝物だわ」
アリアはそう言って笑顔でヴィオラを抱きしめた。
二人はバルコニーに出て王都の街並みを見下ろした。空気は澄み渡り、白い三日月が街を照らしている。
明らかに一日一日、街の灯りは増えて行く。復興は順調に進んでいる。
「スターク…この石を見てあなたを思い出したの」
アリアは背後から自分の身体をすっぽりと抱くスタークにネックレスを見せた。
「アリアがいない世界は…まるで闇の中みたいだった」
スタークはそう言ってアリアが寒くないよう、マントでくるむ。
「…最期に触れたネリの記憶を見たわ。ネリが私を知っていたのは…まだ赤ん坊の私をお兄様が宝物のように抱いていたのを見たからよ。ネリは…私の従兄弟だったみたい。私達はその存在さえ知らなかった」
「君の兄上は…」
「いつも私を宝物だって言ってくれたわ。どんな時でも…私を見つけてくれた。五歳の時、私を守って亡くなったの」
「…今回もアリアを見つけてくれたんだね」
「ええ。スタークのことを思い出させてくれた。愛する人は私をなんて呼んでいたかって」
「…」
スタークはアリアをギュッと抱きしめた。
「ちゃんとお礼を言いたかったな」
「大丈夫…お兄様はまた生まれ変わって会えるわ。そんな気がする」
「…全ての出会いは偶然で、必然で必要なんだ」
スタークの言葉にアリアは頷き、振り返ってスタークの顔を見た。スタークはアリアの唇にキスをする。
「…」
「アリア…約束、守ってもらうよ」
スタークはそう言って微笑った。
「全部終わったら結婚してあげるって言った」
「言ったかしら?」
冗談まじりで少しとぼけるアリアをスタークは抱き上げた。
「わ、スターク?!」
「あと、全身にキスするから覚悟しといてって言ったよね」
「! だって、ここ王宮の来賓室よ?」
「関係ないよ」
赤くなるアリアを抱きかかえ、スタークはキスをしながら部屋に入った。




