第13話 異世界返りの元勇者がボランティア活動をするんだけど、なにか質問ある?
「ほんほん、なるほどね~」
一通りの説明を聞き終えると、北野京子は興味深げに相槌を打った。
場所は九重家の剣一郎の居室である。
件の大衆食堂でばったり出くわした彼女を「少し話をしませんか」と誘ったのは、女神だ。
直感的に、この人物が剣一郎の現状を打破する鍵と成り得るのではないか、と判断したからである。
「魔王を倒して燃え尽きちゃったー、ってわけだ?」
ショートヘアを揺らしながら、剣一郎へ声を投げる京子。
「自分ではよくわからないのですが、おそらくは…」
元勇者の青年がこたえる。
「そういえば、わたしの叔父さんも定年した直後に、同じようなことを言ってたなぁ……『仕事だけが生き甲斐だったのに、もうなにもやることがなくなった』って」
興味をひかれた女神が尋ねる。
「そちらの方は、その後どうなさったのですか?」
「このままだと鬱になりそうでヤバかったから、奥さんが地域奉仕活動に連れて行ったんだって。で、今はそこで指導員的なことをしてるらしいよ」
女神はしばし黙考したのち、口を開く。
「つまり仕事に代わる、社会に貢献できる場所を作ったということですね」
「まあ、そんな感じだと思うねー」
女神はちらりと剣一郎の様子をうかがう。
元勇者は、床に正座して一心にやり取りを聞いていた。
彼なりに打開策を見出そうと懸命なのだろう。
そんな剣一郎に、ふいに京子が質問する。
「ケンイチロー君は、今週の日曜日ひま?」
「とくに予定はありませんが」
「それならさ、わたしの参加してるボランティア活動に行ってみない?」
「は?」
剣一郎は目を瞬かせて、彼女を見つめ返す。
その時、居室のドアが勢いよく開いた。
「おにいちゃん! 通販で注文した人間用の首輪とリードと鞭が届いたから、いつでもヒーマン・アニマル・ロールプレイができるよ!」
大声でそう告げたのは、剣一郎の妹の灯里だった。
肩で切りそろえたショートとよく動く大きな目がチャームポイントの中々の美少女である。
その愛らしい少女の口から、おおよそ愛らしくない言葉が流れ出てくる。
「ほら、この前、『俺のパートナーをやってくれ』って灯里に頼んだでしょ? ずいぶん悩んだけど、灯里はおにいちゃんの欲望を満たすために、全力で協力することにしたから! これからはおにいちゃんを『ぽち』って呼んで、犬扱いしてあげるからねっ!」
「………いやお前、お客さんの前でいきなりなにを言ってるんだ?」
「え!?」
彼女は、そこで初めて女神らに気付いたのか、ハッと口元を手で覆う。
「初めまして灯里さん」
「おじゃましてまーす」
挨拶をする二人に、なぜかひどく狼狽した顔になる。
「……女っ気が一ミリもなかったおにいちゃんが二人も女の人を連れ込んでる? しかも、通販の道具が届いたタイミングで?」
小さく息をのむ妹。
「まさか多頭飼いしたくて? いいえ違うわ、多頭飼いは一人のご主人様が複数の性奴隷を飼うやり方……今回のケースは逆で、一人の性奴隷が複数のご主人様に飼われたいはず。ってことは、多頭ご主人様プレイ!? そんなの灯里も聞いたことがないわ…」
虚空を睨み、ブツブツ言い始めた妹に、剣一郎は頭を抱えた。
女神は、話に聞いていた以上の彼女の怪物ぶりに、無意識に壁際まで後退る。
「妹ちゃん、おもしろwwwwwwww」
京子だけが、ケラケラと腹を抱えて笑い転げていた。
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数日が経ち、日曜日。
剣一郎は京子に連れられて、ある施設の前に立っていた。
『希望の未来』
そう記された門の向こう側には、なだらかな丘へと繋がる中庭と、落ち着いた色合いの宿舎が見える。
「ここが……」
剣一郎の言葉に、京子がくるりと振り返って告げる。
「そう。ここには色んな理由で家族と暮らせなくなった子供たちが住んでるの。今日は、その子たちに会いに来たんだよ!」
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