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パティスリー コリン・ヴェールの平穏日常

「やったぁ! 」

 職業適正証取得試験の合格発表で、翠の嬉々として歓声が響いた。

「何をはしゃいでいるのかしら。まだ、最低資格を取ったに過ぎないのよ? 」

「イリス、この国の人間なら合格率8割かもしれないけど、翠は言葉だけでもハンデなんだから。」

 翠の浮かれた姿に不満そうなイリスをガトーが宥めた。

「これから先、上位資格を取得していくライバルが途中で脱落でもしたら、張り合いに欠けるもの。ところで、この試験に合格するまで結婚式を延ばしていたのでしょ? 日取りはいつにするの? 」

「えっ!? まだ合格決まったばかりだから何も決まってないよ。これから。」

 翠の言葉を聞いてイリスが肩を落とした。

「この国には『朝出来る善い事は夕方を待つな。』『今日出来る事を明日に延ばすな。』って言葉があってね。出来る事は先に延ばさない。いいわ、あなた方の結婚式、コンフィズリー アイリスが全面プロデュースしてあげる。」

 これには翠もガトーも驚きを隠せなかった。

「でもイリス、今は社長じゃないんでしょ? そんな勝手な事言うと拙いんじゃない? 」

「なら私が認めましょう。」

 翠の疑問にイリスの後ろにいた銀縁眼鏡の男が答えた。

「お会いするのは初めてですね。コンフィズリー アイリスでイリスが復帰するまで社長を務めるエトワル・プラティーヌと申します。」

「そう言えば、社長就任と同時に現場復帰したらしいね。」

 ガトーが右手を差し出すと、エトワルも、握り返した。

「先輩、お手柔らかに。」

「ガトー、知り合い? 」

 もともとアイリスに居たガトーが知り合いでも不思議は無いのだが。

「翠、まだガトーなんて呼んでるの? 貴女も、もうすぐガトー夫人(マダム・ガトー)になるのよ? いい加減、名前プレノンで呼びなさい。」

「し、式が済んだらね。そ、それじゃまたね。」

 イリスの言葉に翠は、自分の質問にガトーが答える前に行ってしまった。仕方なくガトーもエトワルとイリスに手を振って翠の後を追っていった。

「あぁ悔しい。翠なんかより私を選んだ方が絶対に良かったのに。逃がした魚は大きかったって後悔させてやるんだから。」

 多分、逃した魚が大きかったのはイリスの方だとエトワルは思った。だが、そのお陰で今の立場がある事に多少感謝していた。エトワルが就任後も、パティスリー コリン・ヴェールがある地域以外では売り上げは順調だ。ケーキという性質上、極端に遠くまで買いには行かない。だが、この現状は名実共に洋菓子界の最高峰と呼ばれたアイリスの牙城の一角が崩されたと思われても仕方なかった。ただ、アイリスのCEOもCOOも好意的に捉えていた。大きくなり過ぎた企業に傲りが出ないように。相手が大き過ぎない個人経営店だからこそ、互いの良さも出る、と。それから一ヶ月後、パティスリー コリン・ヴェール主催、コンフィズリー アイリス全面プロデュース、町役場後援、町の農協協賛で、町の祭りの一環として、翠とガトー、そして楂古聿とクレモンティーヌの合同結婚式が執り行われた。

「翠、今日のところは、おめでとう。ガトーは諦めたけど… でも私は… アイリスは負けたままでは、いないからね。」

「うん、ありがとう。切磋琢磨して、お互い、私たち自身の手でも、美味しいケーキが作れるようになりましょうね。」

 翠とイリスの間には以前のような蟠りは無かった。

「ガトー、楂古聿、両先輩。僕らも彼女たちに負けてはいられませんね。」

「エトワルに、そんな事を言われるとはね。」

「ホント。あと2、3年先だと思ってたぜ。」

 そんな様子をアイリスCEOアベルとCOOアーテュも微笑ましく見ていた。やがてチャペルの鐘が鳴り響き、翠のブーケトスをイリスが受け止めた。


後書きという名の言い訳


プロット時点では翠とガトーのさらっとした恋愛を縦軸に、悪役令嬢イリス率いるアイリスからの妨害工作を横軸に展開する予定でした。性格設定のミスとか、構成のミスとか課題を抱えて、このような終わりになってしまいました。これに懲りずに別の作品でお会い出来ると嬉しいです。


凪沙一人 拝

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