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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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さらに秩序を乱して終了

 ムラタが変化せた銃。

 果たして、それは普通の拳銃と変わらないように見えた。


 だが、そんなありきたりな銃をムラタがこの局面で出現させるわけが無い。

 残りは金色の竜、ただ一頭。


 であれば、必然的にその銃は金色の竜を“処理”するために出現させたに違いないのだから。


『げ、下郎……』


 金色の竜が、何かから逃げるように、そう告げた。

 それで答えがわかったところでどうしようも無いというのに。


「あ、これ? 短針銃ニードル・ガン。前に海ででっかい蟹を消失させたから、大体俺の思ってる性能みたい。だけど、ちょっとこれでは……」


 言いながらムラタはさらに銃を変化させた。

 先ほどまで使っていた、アサルトライフルに似た形状に。


「ああ。やっぱりこの形態も作られてはいたのか。ファーストインプレッションって怖いなぁ。と言うわけで、これで処理するから」


 言いながら出し抜けにムラタは引き金を引いた。


 硬質な響きが充満するかのように思われたが、今度は様子が違う。


 ブシュ。


 という、空気が漏れたような音が響くだけ。

 

 しかし訪れた変化は、さらに理不尽なものだった。

 金色の竜の頭部に生えていた角が消失したのであるから。


『な、何を?』

「なにをって、金になりそうなところから念入りに潰していってるだけ」


 言いながら、さらにムラタは引き金を引く。

 残された金色の竜の角が、1本残らず、消え失せてしまう。


「仕組みを言うなら、固い短い針を無数に叩きつけてるだけ。それだけで対象はボロボロになるんだよ。それこそ血液もな。そういう武器」

『ぶ、武器……』

「ああ、そういう概念は無いか。本当にお前らサタンと同じだな」


 ムラタが、ガシャコン! と短針銃ニードル・ガンをリロードする。


「何処まで神経来てるのコレ? 暴れられると面倒だからな……まぁ、翼から行くか」

 

 ムラタが金色の竜の翼――その皮膜を消失させてゆく。


「――一神教で悪魔とか、まったくやってられないよなぁ。全部神様のせいだから、悪だなんだの言ってる奴、全部悪“役”の仕事だもの。本気で“悪”とか言ってたら、それはもう、ただの重度の中二病だから」


 再びムラタが翻訳スキルに無理を強いる。

 リロードを繰り返し、短針銃ニードル・ガンの照射を続けた結果、金色の竜の翼からは皮膜が完全に失われた。

 残るのは、骨だけになった見窄らしい翼だけ。


「では、神経があるのか試してみよう」


 躊躇無くムラタは残る骨に短針銃ニードル・ガンを突きつけた。


『ま、待て』

「ジッとしてくれるなら待っても良い」


 と言いながらムラタは引き金を引く。

 発射音は今までと同じだった。しかし、その後の音に変化が現る。


 何か湿ったような音。

 そして血の臭い。

 それがまさに血煙となって周囲に充満する。


『痛い! 痛い!! 痛い!!!』


 骨しか無くなった翼をばたつかせ、その場でジタバタを暴れ始める金色の竜。

 その巨体で暴れ回るのだから、小さき人間ものとしては、当たり前に恐怖する。

 ムラタの「翻訳スキル」無茶振り対策に、耳を塞いでいたゴードン達の腰が一瞬浮くが、至近距離にいるムラタがまったく動じていない。

 

 やおら左手で暴れる金色の竜の右腕を無理矢理固定すると、空中で“足踏みステップ”。

 途端、ムラタの身体が落下する。

 それでもムラタは金色の竜の右腕を離さないものだから、必然的にその巨躯すらも同時に倒れることになった。


「……そうだった。やっぱり併用は無理か」


 落下したはずのムラタが、まったく平気な顔で金色の竜を組み伏せていた――そう考えるしかないような構図で。


「しかし、お前ら痛みに弱いなぁ。今までの竜種(お前ら)の薄っぺらさが見えるよ」

『ガァアアア! オ、オ、ゴォィォオオオオ!!』


 ムラタの“踏みつけ”をまともに食らった金色の竜。

 もはやここから逆転の目は無いだろう。

 すでに、言葉も発することも出来ないでいる。


 ムラタは事のついでとばかりに短針銃ニードル・ガンを、本格的にぶっ放し始めた。

 その度に金色の竜の身体が()()()

 血煙と共に。


 ムラタは発声器官があるであろう頭をまず消失させる。

 それから順繰りに、金色に身体を消していった。


 その光景はやはり作業。

 そして最後に残った右腕を消す。


「ふぅ……やっぱりビーム……いや金だしなぁ。ビーム弾く可能性もあるし……準備が無駄にならなくて済んだ、と前向きに考えよう」


 言いながら再びムラタは宙に浮かぶ。

 そしてそのまま、ディベータへと近付いた。


 ムラタは味方のはず――であるのに、ゴードン達の心が落ち着かない。

 むしろ竜種ドラゴンを相手にしていたときの方が、覚悟は決まっていたような気もする。


「……え~っと、質問はあるかな? この武器に関しての説明は聞こえていた? うんじゃまぁ、特に聞くこともないだろう。あいつらの解体はそっちにませるぞ」


 そのムラタは肩をすくめながらゴードン達に語りかけてきた。

 ムラタ自身が何やら戸惑うように。


「――これで、終わりなんだよな?」


 ゴードンが辛うじて問いを発することが出来た。

 それは、どこか熱に浮かされたように。

 その言葉が持つ意味を投げ出すように。


 だが――


 果たしてその言葉はムラタを変化させた。

 どこか怯えたように見えた様子が一変して、やるべき事を見つけた――そんな“気付き”に縋るように危うげな笑みを浮かべる。


「困ったぞゴードン。仕事は終わってないらしい」


 そんな事を口走りながら。


「え?! 終わってないのか!?」


 パーティーリーダーであるという自覚からか、ザインがいち早く立ち直った。


「いや、大規模な部分は終わりでしょう。“大暴走スタンピード”の本体はメオイネ領で騎士達が潰しました。ドラゴンは今見たとおり。俺の感覚では、多分これで終わり」

「そ、そうか……」

「終わりか……」

「あ、皆さんに伝えなくては……」


 「ガーディアンズ」の面々が、ムラタの発言で次々に現状を再確認する。

 しかし1人、ゴードンだけは……


「……『終わってない』とは?」

「どうにも、あいつらの様子が気に掛かる。逃げなかったのは何故だと思う?」


 不意に2人の問答が始まった。

 「ガーディアンズ」の間に再び緊張感が戻る。


「単純に君が逃がさなかっただけなんじゃ無いのか?」

「それは確かにそうだったのかもしれないが……逃げようとする素振りが見えなさすぎた。となると、普通に考えると?」

「……もっと上位の存在がある?」


 そのゴードンの“回答”にムラタは頷いて見せた。


「しかし……いや、やはりまだ“大暴走スタンピード”は終わったということで間違いないのでは?」


 この後さらなる竜種ドラゴンが現れるのなら、一緒に……


「……その保証は無いんだった」


 兵理に逆らう、逐次投入を繰り返しているからこその“大暴走スタンピード”がああいった形になる。

 となれば――


「あ、相手がドラゴンである以上、俺の管轄だから改めて対策練る必要は無いよ。俺が対処すれば済むことだから」


 その言葉で、今度こそ「ガーディアンズ」の面々の愁眉が開いた。

 ムラタが請け負うと言った以上、少なくとも竜種ドラゴンからの脅威に頭を悩ませる必要は無いいはずだからだ。


 何しろムラタの“埒外”ぶりをしっかりとその目で確認した所である。

 どう転んでも竜種ドラゴンが問題になるとは思えなかった。


 やはり人類は救われた――


「……対処?」

「そう対処」


 再び、ゴードンだけが気付いてしまった。

 ムラタの言葉に秘められた言葉の意味を。


「具体的には?」

「ドラゴンの絶滅」


 微笑み合うゴードンとムラタ。

 そして次の瞬間、ゴードンの額にびっしりと脂汗が浮かんだ。


 一方で「ガーディアンズ」の表情に喜色が浮かんでいる。

 それによって、少なくとも“大暴走スタンピード”の脅威からは確実に解放されるのだから。


「絶滅?」

「まぁ、それほど上手くへ出来ないだろうけどな」


 顔色を失うゴードンの重ねての問いにムラタは笑顔で応じる。


「俺は絶滅させることを恐れない。片方でペスト菌絶滅を喜びながら、野生動物の保護を声高に訴えるようなみっともないダブルスタンダード状態にはなりたくないからな――やはり目標は絶滅だな、うん」

「待ってくれ」

「いや待たない」


 言いながら、さらに上空にムラタが浮かび上がる。

 そして、その上空には再び現れた赤い翼竜が舞っていた。

 同時に聞こえてきたムラタの呟き。


「こいつ潰すのは……いや残しておいた方が……」


 その呟きでゴードンは確信した。

 ムラタの狙いを。


「サー・ゴードン。一体どういうことですか?」


 ザインが詰め寄る間に、ムラタが翼竜に跨がり南方へ向けて飛び去ってしまった。

 もはや何もかも手遅れだが――少なくとも説明は必要だろう。


 ゴードンは呪詛でも唱えるように、言葉を紡いだ。

 自分自身の心を保つために。


「……竜種ドラゴンは“大密林”の支配種族だ。その力で“大密林”に秩序をもたらしていると考えられる。そんな竜種ドラゴンがいきなり消失してしまえば? 当たり前に“大密林”に大混乱が起こる。ただでさえ“大暴走スタンピード”で崩れていた秩序は完全に崩壊」

「し、しかし、それは歓迎すべき事なのでは?」


 たまらず、ルコーンがゴードンに確認してしまった。

 そのルコーンにゴードンは疲れた眼差しを向ける、


「……そう思うならそれでも良い。あんまり言うと私がムラタに処理されてしまう」


 そう言ったきりゴードンは黙り込んでしまった。

 

 ゴードンはそれ以上説明することを避けた。

 それは間違いなくムラタの意志に反する。


 支配者がいなくなったことで“大密林”はこれから混沌の極みに陥るだろう。

 謂わば、モンスターが全て“手負いの獣”になるということ。


 そんな場所にウカウカと乗り込めば、まず生きては帰ってこられない。

 つまり“大密林”からの恵みを手に入れることが出来ないというわけだ。


 ゴードンが推し進める開拓が進めば状況が変わってくるだろうが、果たして“大密林”の混乱もどこまで続くことになるのか……


 だが、とにかく人類を脅かしていた“大暴走スタンピード”は、消滅した。

 今はその事実を頼りに笑みを浮かべるしか無いのであろう。


 ――“埒外”は“埒外”と割り切って。

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