パクりにパクリで八つ当たり
「そもそも原点と言えば『少女○命ウテナ』であるのかも知れない。最終回で無数の剣が飛び回るという構図がな。しかし、それのパクリとは流石に言わない」
ハッキリ言おう。
これは確実にムラタの八つ当たりだ。
「しかし『幻想○滸伝Ⅱ』に登場する“黒き刃の紋章”Lv.4どん欲なる友――あれをパクったことは許せない」
と、ムラタが必死になって主張しても、この世界の者にわかろうはずが無い。
端的に言ってしまえば、ただただ迷惑なだけだ。
「あれを具現化するには地道なレベルアップが必要だし、自分で使用できるチャンスも少ない。つまりは知らぬまま、通り過ぎてしまう可能性すらある。だがそれに付け込むようなあの所行。到底看過できない」
言いながら、ムラタは周囲に浮かべた剣と共に黒い鱗の竜に近付いて行く。
周囲の竜種達をまったく無視する形で。
竜種にとってはそれはまったくの不遜極まりない行為……だったはずだ。
そのような振る舞いをした“人間”には報いを受けさせる。
それが当然の対応。
……もちろん竜種を無視する人間など、今まで存在した事は無いのだが。
とにかく竜種達は、この人間を許してはならない。
それはわかっている。
わかっているのだが……
動けない。
完全に人間に呑まれていた。
まずブレスを無効化された。
それだけなら、そういった事を為す人間は確かに居た。
児戯に類するものであったが。
しかしその後が、まったくの理解不能だ。
あの塵芥にも等しい人間が、完全に竜種を力で上回り、あろう事かそのまま投げ飛ばしてしまった。
“大密林”の奥地では、時折竜種に挑みかかってくる巨大なモンスターもいる。
だが、それらモンスターに手こずることさえ無かった。
それほど竜種とは隔絶した存在なのだ。
では、その竜種を子供扱いした上で、さらには投げ飛ばしたあの人間。
一体どれほど隔絶した存在であるのか。
その上である。
あのわけのわからない“光の柱”。
あれを自由に使いこなせるとするなら……
竜種達は有り体に言って、震え上がっているのである。
より強きものに従うという野生の本能のままに。
ムラタはそんな現状を把握しているのか、いないのか。
ゴードンとの折衝の結果、次の“獲物”と認定されてしまった黒い竜こそ、この場でもっとも可哀想な存在であるかも知れない。
「……そもそも『○姫』は良かったんだよ。あれほど解くのがもったいなくなるゲームは他に無かった。しかし『空の○界』。あれはいけない。第六章がおかしすぎるんだよ。何故、魔術を教える者がいる可能性を式は気付かないんだよ。この登場人物の知能レベルを落として、ドラマチックを装うとか手口が安易。もっとも俺が読んだのはコ○ケで買った奴だから、講○社の編集が仕事をしたのかどうかは知らないが」
言うまでもない事だが、現在翻訳スキルが凶悪な音響兵器と化して竜種達の精神を苛んでいる最中だ。
ディベータの上の人間達は、ゴードンの指示でしっかりと耳を塞いでいた。
もしムラタの言葉が聞こえていたら――赤茶けた竜のように、口の端から泡を吹き出していた可能性もある。
そしてムラタの文句はまだまだ終わらない。
「――それで『Fa○e』だよ。確かに、アーチャーの正体について早々に目星を付けたのは俺が悪かった。それで、当時の知り合いを慌てさせたのも俺が悪い……いや、あれも『Dra○on Kni○ht4』のシナリオのまんまだという弊害もあったしな。一概に俺ばかりが悪いとは流石に判断出来ない」
何やら納得したようにムラタは1人で頷いている。
“ドラゴン”という単語が出てきた事で、さらに翻訳は複雑怪異を極めていたのだが。
その影響で赤茶けた竜がついに逃げ出した。
生物としての本能が、恐怖によって不具合を起こしたのであろう。
翼をもがれたのとはまた別の個体が、空へと舞い上がったのである。
「じゃあ、ビーム・マ○ナム」
ムラタは懐から引っ張り出した拳銃を再び変化させた。
今度は、両手でしっかりとホールド出来る、中々の大きさだ。
そして――
ピィィンドギュズーーーン!!!
再び硬質な音が響き渡り、亜光速の銃弾が瞬時に赤茶けた竜を灼いた。
いや、灼いたどころでは無い。
確かに焦げ臭くなりはしたが、この臭い元、つまりは竜の巨躯が消失してしまっているのだ。
――他に説明のしようが無い。
空中に取り残された翼だけが虚しく落下して行くのだから。
「これはそこそこ使えるなぁ。それで、何処まで話したっけ……そうそう金ピカの話」
一方でムラタはまだ続けるつもりらしい。
今、ただの一撃で竜を屠った――いやそれ以上に“消失”させた。
それなのに、そんな事はまったく大したことでは無いと言わんばかりに、自分のやりたいことを進め続けている。
常識を凌駕した神経であった。
「そもそも、あいつ必要か? 『伊○の影丸』で言ったら……ああ『バジ○スク』といった方がわかりやすいのか? そういうことをしてる最中に、いきなり出てくるんだぞ? 俺は萎えたね。考えれば、あの瞬間こそが俺が信者をやめた瞬間だったのかも知れない」
この場合、ムラタの言葉で肝心な事は、何一つ“わかりやすく”はなっていない、ということであろう。
しかし、竜種達はもう逃げ出す事も出来ない。
いや、あるいは金色の竜だけは逃げおおせる可能性が存在……するかも知れないが、それを察することが出来るのか。
そして、察したところでそれを実行に移せるのか。
「で、だ。初見では気付かなかったよ。これは俺が悪い。だけど“どん欲なる友”を完全にパクっておいて、いかにも自分がオリジナルという態度は頂けない。そしてそれを崇め奉る信者共もだ」
尚もムラタの繰り言は続く。
「そもそも、あれの何が魅力的だ? 叙事詩では苦悩する様に心を寄せた確かな英雄王であったのに、あれではただ強い言葉を使うだけの三下だ。何処に魅力を感じろと? まったく虫酸が走る。そんな奴を“金持ってる”と言うだけで選ぶ女性声優にも怖気が走る」
ムラタの視線が金色の竜へと向けられた。
「……お前は、あのバカを思いだすから、まったく気にくわない。それに何だ? 確か“下郎”とか言ってたな。その言葉遣い、カッコイイとか思っちゃった?」
そのまま、金色の竜を睨め上げる。
「あれも“雑種”とか言ってたな……あれもおかしな話だ。そもそも自分が神と人間の雑種だろうに。前頭葉でも膿んでる設定なのか、あれは?」
『そ、そんな事を……』
金色の竜が何とか言葉を紡いだ。
確かに「そんな事を言われても」と訴えたくなる気持ちもわかる。
――しかし相手は“埒外”なのだ。
「……とにかくお前の処理はこの後だ。俺もしゃべり続けて、正直しんどい」
果たして、その言葉を救いと感じてしまうほどに竜種達は錯乱していた。
「金色――KOGを思い出していたら、随分違った……いや最終的にはクリス○ィン・Vを思いだすから、どっちにしても俺の機嫌は損なわれる。とにかく先に進めよう」
そう言いながらムラタはディベータに向かって右手を挙げた。
その姿をみて「念動」を維持していた双子は、保持していた剣を一斉に黒い竜へと殺到させた。
そのまま剣によって黒い竜が串刺しにされる。
……などと言うことはもちろん無く。
ムラタがでっち上げた剣は、黒い鱗に傷を付ける事さえ出来ずに、バラバラと落下していった。
本来なら、この光景こそが竜種と人間の間に横たわる力の差であるはずなのだ。
「うん、まぁ、こんなものだろう。そもそもあれが全部の大元を持ってるとか言ってるのも気にくわないしな。ここで俺が、それを追認しても仕方が無い。あのダッセェ、剣だか工具だかわからん得物については、本気でどうででも良いし」
しんどい、と言いながらムラタの文句は留まることを知らず。
そして、その文句に併せて今度は右手に長大な剣を出現させた。
両刃の細い刀身の剣で、意匠にも凝ったところは無い。
そして――
ザッシュ!
黒い竜の横を通り過ぎたと思われた瞬間。
想像するままの肉を切り裂く音が響き渡り、そのまま黒い竜の首が落ちた。
自らの頸が消失したことを気付かないかのように、黒い鱗を持った巨躯はそのまましばらく立ち尽くしていたが。やがてその身体も力を失い、膝から崩れ落ち、そして単純な2択によって、左側に倒れた。
そこで周囲はようやく気付く。
今、黒い竜の命が刈り取られたという事実を。
「ゴードン、それでなんとかやりくりしろよ」
一方でムラタはあくまでマイペース。
最初に翼をもいだビームラ○フルを発生させて、硬質な響きを連続で発生させていた。
そして、その音が響く度に赤茶けた竜の身体が消失して行く。
焦げ臭さと共に。
「手間を掛ければ、これぐらいは出来るんだよなぁ。青いのはどうだ?」
と、改めて青い鱗の竜に銃口を向けて引き金を引いた。
もちろん青い竜は抵抗出来るはずも無く――
ガッヒューーーーン!!
ガッヒューーーーン!!
ガッヒューーーーン!!
三斉射でケリを付けられてしまった。
たったそれだけの事で、青い竜は世界から消え去ったのである。
それを成した張本人の表情には何の感情も浮かんでいない。
淡々と作業をこなしたと、自分がやった事を考えているに違いないのだ。
あれだけリンカル領に恐怖と絶望をまき散らしたはずの竜種であるのに。
何という理不尽。
何という異常。
「……さてと」
そう呟きながらムラタは金色の竜へと向き直る。
右手の銃をさらに変化させながら。




