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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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許されざる洒落

>BOCCHI


 時々出現するわかりやすいジョンバール分岐点。

 ああ、いや分岐点では無いか。とにかく、一気に色々な事が判明した日から3日ほど――


 まず俺は心の中で、


「やったねムラタ! これで仕事が減るよ。後はマリエルさんから逃げるだけだし前祝い」


 と、銘打ちながら王家主催のパーティーを開いた。

 時々やってくれと言われているし、何より俺が祝いたかったんだ。


 ……なんてことは無く。


 普通にギンガレー伯を酔いつぶす為だけに、パーティーを開いたわけだ。

 そしてストローでマティーニ飲ませて、ほんの数分で撃沈させた。


 ストローで酒飲ませると、洒落にならないと昔「あ○さん」で読んだことがあったけど、本気で洒落にならない。これで死んでくれるならそれはそれでいいか、と観念してしまいそうになるヤバさがあった。


 が、幸か不幸か、そしてそれが誰の運のものかはわからないが、ギンガレー伯は生き延びた模様。

 元々、神聖術もあるしな。

 しかし、酔いつぶれただけで神聖術使うという発想もなかったらしく、ギンガレー伯は自分の屋敷に引っ込むことになり――そして、その護衛も手空きになった、というわけである。


                  □


 ヨハンを抱き込むのに必要なものは、アーーーー! とライ○マン嶋○輔の叫び的な展開では無く、所謂タイマンだった。

 ハーヴェイツが仕事の先を読んで、ヨハンについて感じていた印象がそれで有り、結局の所、実力(ぼうりょく)を示すのが1番手っ取り早いという結論に達したというわけだ。


 この簡単な話の前では俺も抵抗出来ない。

 そんなわけで、一時ギンガレー伯の護衛から離れたヨハンとタイマンを行うのは、深夜王都の港湾地区。


 俺の目の前には本来の得物らしい長剣……いやバスタードソード(バッソー)かな? それを手にしたヨハンが動きやすい革鎧姿で立っていた。

 夜空に浮かぶは下弦。

 何か、雰囲気たっぷりだなぁ。


 なんというか今、俺の頭の中は「天○素材でいこう。」の亀岡○美の台詞が浮かんでいた。


 ――強い者に絶対服従するなんて、こいつらは実は動物。


 ……みたいな台詞。


 実際、腕力が強い者に従うなんて、まったく進化の跡がみられない。


 それに加えて、日本には「戦闘力」なる謎の単位で、ますます戦闘を簡単に解釈してしまう頭の不自由な方々が多いからな。あれは漫画をわかりやすくするためだけの手法ギミックで他の漫画とか、ましてや現実に……


「おい、それで良いのかよ」


 俺の思考を遮るようにヨハンが尋ねてくる。

 遮るのが当然の義務のようにも思えるが、それは気のせいだ!


「ああ。“槍”は俺のいた世界では“兵器の王”と呼ばれているからな。これで全力だ」


 うん。

 やはりネゴシエイトの基本、


 ――わて、これでカツカツですねん堪忍して下さい


 精神は大事。

 それに、こういう感じで対応した方がヨハンを抱き込むのには適しているらしい。


 ……兵器の王、というのは嘘じゃ無いけどな。


 だから俺は穂先をヨハンに向けた槍を構えた。

 ええと、なー、とか、らー、とか「拳○」の神槍・李書文の漫画でしか動かし方知らないんですけどね。


「わかった。じゃあ、行くぞ!」


 冷えた夜の空気に、裂帛の気合いがこだました。

 戦う前の手続き(ごちゃごちゃ)はもう済ませてある。


 あとは――戦うだけだ。


 ヨハンはバッソーを両手で構えながら自分の身体でそれを隠す。

 そして次の瞬間には、地面の上を滑空するように間合いを詰めてきた。

 

 なるほどバッソーの間合いを隠すためだったか。

 みんな違ってみんな良い。


 ……ということで、やはり人それぞれの戦い方があるんだな。


 事のついでにそれを“壊れスキル”に覚えさせながら、俺はもう1つの“ついで”に着手する。

 

 ヨハンの間合いから外れるように後退しながら、近くにあったお粗末な倉庫を破壊したのだ。


「何せ俺は素人ですからね! 何でも利用させて貰いますよ!」


 そんな建前も忘れずに。

 本当のところは再開発に向けて、取り壊しの必要があったからだ。

 だから倉庫の中は、キチンと避難済みです、念のため。


「てめぇ!! やることが無茶苦茶だ!」

「それでも何でも、勝たせて貰う!」


 と応じたところで、ヨハンもまた躊躇いなく倉庫の残骸を叩き壊してきた。


 ――ご協力感謝!


 何てことは「言わ○いけどね。」(最悪のからかい上手)


 これで、本命の“ついで”に手を付けることが出来る。


                 □


 実際、ヨハンの攻撃はなかなか大したものだと思うよ。

 俺はとにかく槍の使い方がわからないから、身体全体で破壊する。


 ヨハンはとにかく、剣で叩きつぶす。

 まぁ、元々は西洋の剣みたいだしね。


 その威力もさることながら、驚くべきはその持久力だな。

 俺には剣筋が見えているので、苦戦に見えるように出来るだけギリギリで躱し続けているから、それほどではないが、ヨハンといえば全力で()()()し続けている。


 ……これで、何故身体が保つのだろう?


 恐らくこれが“報償”がもたらす特典なんだろうな。

 それを今さら不思議には思わない。

 何せ俺自身が“壊れスキル”によって、この不条理を体験済みだ。


 むしろ、時にはその刃を槍の柄で受け止めながら積極的に不条理を受け止めてみた。


 これで俺が普通の状態なら、


「――人間の力じゃ無い!」


 とか、愕然と出来るんだけどな。


 残念ながら、俺はもう普通じゃ無いんだよな。


 むしろ愕然としているのはヨハンの方で、自棄になって俺に打ち込んできている。

 俺は示現流の立木か!?


 ……とか思ってしまうが、適当なところで吹っ飛んでさらに取り壊しを――


 げ!? 吹き飛んでる最中の俺に間合いを詰めてきた。


 そんな無茶苦茶を可能にする報償! そして世界システム


 そんなDBみたいなことやりやがって。

 ジャ○プで読んでた頃から面白いと思ったことは一度としてないとうそぶいていたが、嘘です!

 実はこの辺りの戦闘は面白かったです!


 とか、告白してる間にバッソーの刃が迫ってきた。

 このままだと、自動的踏み潰しが発生してしまうな。

 それはそれで――いや、ここはあれだ!


 ――藤子・F・不○雄先生の言うとおり!!


 ……良し来た!


 俺は体勢を立て直すことが出来ないはずの()()に踏ん張って、槍の柄で以て、バッソーの刃を受け止めることが出来た。


 本気でこの“壊れスキル”は――いやこれは違うのかも知れない。

 だが、それが可能になるという「結果」だけは確認させて貰った。


 逆に、信じられないという表情を浮かべているヨハン。

 

「な、なんなんだ!? てめぇは!!」


 俺が知りたい。

 だがこれで、取り壊しにも慎重に……


 俺はヨハンの周りに出来上がりつつある、空気の渦を“感じ”ていた。

 何かのタメ? とも思ったが、ヨハンの攻撃が緩んでいるわけでは無い。

 俺への攻撃を続けながら、次の手の準備を行える。


 ――これは、想定以上にヨハンの力量が高い。


 そう判断するしか無かった。

 俺はさらに、目に力を込めヨハンの攻撃の隙間を探す。


 その隙に、攻撃をねじ込みたいわけではない。

 その僅かな隙に後退して、ヨハンとの間に間合いを開きたかった。


 ヨハンにそのタメ攻撃を放たせるために。

 それによって、ヨハンの心を折るために。


 ――今回も殺しちゃ駄目なんだよな、遺憾ながら。


 そしてその隙は訪れた。

 理由はわからない。あるいは単純にヨハンの疲労が積み重なったせいなのかも知れない。


 今度は丁寧に俺はヨハンとの間合いをとった。

 その間合いにねじ込むようにして、ヨハンがバッソーを突き出す。

 

 その切っ先が俺の身体に届くような間合いでは無い。

 だがヨハンの周囲で渦を巻いていた空気が指向性を与えられ、研ぎ澄まされ、俺に向かって牙を剥いた。


 俺はそれを()()ながら、自らの手の中にある槍の穂先を向けた。

 その穂先で、空気を迎撃するわけでは無い。


 俺の目論見は、なー……もしくは、らー。

 つまりは垂直方向へと、槍にえげつない回転力を与えて攻撃をいなす技術。


 ……そういうことを李書文はやっていたんだよな、漫画では。


 というわけで“壊れスキル”の補正も含めて――はい出来ました「なーらー」。


 そのあまりのことにヨハンは目を向いた。

 多分だけど、それなりに自信があるスキルだったと思うんだよね。


 何しろ俺が改めて「冒険者、根切るべし! 慈悲は無い!」と決意を固めるほどには危険な攻撃だもの。

 こんな物騒な連中が野放しにされた状態では、治安もへったくれも無い。


 だが俺の“壊れスキル”の方が、輪をかけてとんでもなかったようだ。

 俺の「なーらー」によって、せっかく集められ、物理的必然によって熱を帯びていた空気が雲散霧消。

 全て無かったことにしてしまったのだから。


 ……これがホントの「なーらー判定」(やめなさい)。


 実際、何も無くなったわけでは無く、倉庫の残骸が広範囲に広がっている。

 そんなかつての倉庫たちが木造であったこともあって、見事に発火してるし。


「……さて、どうしますか?」


 潮時のような気がしたので、声を掛けてみる。

 いくら何でもヨハン(向こう)も疲労の極致のはずだ。

 ワンダー○モのように。


 ……うん、そうだね。ここまで思考がとっちらかってるからには、俺も疲労の極致でありたい。


 何しろ三徹だし。


「……やるに決まってるだろ!」


 そんな俺の願いはいつものように届かず、ヨハンはまだめげてくれないらしい。

 まぁ、届ける先があの女神ばかだからな。


 となれば、届かない方が幸いか。


 俺は、クルリと槍を回した。

 いい加減“壊れスキル”がやらかしているに違いない。


 ここからは全力でお相手しよう――取り壊すべき倉庫はまだまだ残っているぞ!


                    □


 ということをやっていたら、本当に朝日の中で物理的に手を組んでしまった。


 ……吐いて良い?


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[良い点] ネタ盛り込み祭りですなw
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