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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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ムラタの裏を突く

ビッグサイト(大きな敷地)とは……当たり前のような気もしますが」


 ムラタの言葉に対して翻訳スキルは半端に仕事をしたようだ。

 そう訳されてしまうと、マリエルも戸惑うことしか出来ないだろう。


 何しろ「膝下会」の為に大きな敷地の候補を挙げていたのであるから。

 だが、流石にマリエルは即座に察した。


「あ……もしかして、ムラタさんの世界の大きな倉庫か何かの名称ですか?」

「いや、あれは倉庫では無かった気がしますね。そう使うことも可能だったんでしょうが、本来の目的は商品の展示スペースだったかと」

「……それって、公会堂と同じ?」


 みかんをつまみながらアニカが言葉を挟んできた。

 それにムラタは頷いた。


「基本的なところは同じだと思う。俺の知っている限り、ずっと屋台が出ていたような覚えがあるな。商品については広さもあって、さらに大規模だったけど」

「……例えば?」

「浴場建設したときに、こっちでも色々道具使ってただろ? 足場とか。ああいう物を展示するんだ」


 それでアニカは納得したようだ。

 このやり取りについては、マドーラも聞いていたらしく、相変わらずモニターから目を離すことはなかったが、しっかりと頷いている。


 ……ニョキニョキが上手く育っていった事について頷いたわけではないと信じたい。


 そこにマリエルがいささか不機嫌そうに――彼女は何とかムラタから敬語で対応される状態から脱したいという望みがある――さらにビッグサイトについて質問していった。

 もちろん「膝下会」で使えるかどうかを、検討するためである。


 ここで感情にまかせて発言すればムラタとの距離はますます開いてしまうのは明らかであるから、何とか自衛した形だ。


 そこで2人で、港湾地区における倉庫建設の有用性。

 ビッグサイトのような巨大なスペースを内包した建造物の是非について、マドーラへの講義も含めてのディスカッションが行われた。

 コタツに足を入れながら。


「……となると、キルシュさん、クラリッサさん」


 不意にムラタが2人の名前を呼んだ。


「はい?」

「何か問題が?」


 同じくコタツに入っている2人が反応した。


「港湾地区で会誌が配られている、売っているといった場合、そこにわざわざ出向いて買いに行きますか?」

「ちなみに港湾地区に向かうためには歓楽街の側を通らねばなりません」


 ムラタの質問に、マリエルが的確すぎるフォローを入れた。

 ちなみに自分がこの質問から省かれていることについては、当然のことながらその理由を察している。

 会誌についての熱狂度の問題だ。

 メイルは0で、マリエルは200と言ったところだろう。


 もちろん満点は100であることは言うまでも無い。


 そんなわけでキルシュもクラリッサもムラタの質問の意図を掴むことが出来た。

 そして腕を組んで、むむむ、と考え込む。


 この時ばかりはマドーラも視線をモニターから外している。

 ちなみにアニカが省かれているのは、智が勝ちすぎているからだろう。


「それは恐らく……」

「ええ、恐らくですが……」


 2人はほとんど同時に口を開いた。

 そして、


「「行くと思います」」


 同じ答えに辿り着いたようだ。

 それに思わず顔をしかめるムラタ。当然だ、と言うように頷くマリエル。

 メイルとアニカは、悠然と茶を啜っている。


 マドーラは……キルシュの答えだけ確認すると、再びモニターに視線を戻していた。

 道路の拡張工事を始めているようだ。


 果たして、港湾地区の再開発と同時に大きな道の建設も視野には入っているが、それについてはまだ手を付けていない。

 資材については海側から運んでいるので、王都内部に関してはまだそこまでの再開発が為されていない――つまり、歓楽街のややこしい場所を通らなければならない事には変わらないのだが……


「……ではせめて午前中に開催という流れで計画を進めます……そんなに行きたいですか?」

「そうですね。お話を伺う限り、今度は随分広い場所で行われるのでしょう? なら、色々と見て回れますし、挨拶も出来ますし……」


 誘われるようにキルシュがそう答えて、途中でハッとなって、自らも口を塞いだ。

 どうやら知らぬうちにすっかり“腐って”しまったらしい。

 ムラタもそれに気付いたが……一瞬、視線をマリエルに流す。


 元凶にまで思い至ったらしい。

 だがそれ以上は何も言わず、宙を見上げながら、何やら考え始めた。


 ここから先の計画を立て始めたのだろう。


「ムラタさん。私からも報告よろしいですか?」


 そんなムラタに遠慮するようにマリエルが声を掛けた。


「はい? ああ、今の話とは別ですね」


 そのムラタの反応に、マドーラを除く全員が意外そうな表情を浮かべる。

 どこでムラタがそう考えたのかわからなかったからだ。


 実のところ、その理由にはムラタの感覚的な部分が多く含まれていて、しかもその根っ子には、


「マリエルなら、会誌についてこの場ではこだわらない」


 という信頼に似たものがムラタの中で出来上がりつつあるからだろう。

 だからこそ、この2人の間では高速でショートカットされたような会話になってしまうのだ。


 そして実際“別の話”でもある。


「実はアシュリーさんが心配していまして」

「心配……もしかして、彼女のご身内の話ですか?」


 だが、マリエルもムラタにずっと追いついていけるわけではない。

 あまりにもムラタがダイレクトに、それもピンポイントで正解を口にしたことで、彼女も驚きに目を見張った。


「……以前のトラブルで、彼女がご家族のことで何かしら心配事があったように見受けられたこと。そして浴場では、メオイネ領の産物を扱う事になっていること。ですから故郷の方々からお話を聞く機会が多くなったのでしょう。それで当てずっぽうで口に出してみました――それで何があったんですか?」


 あっさりと種明かしするムラタ。

 それと同時に、自分の“当てずっぽう”が正鵠を射ていること察しているようだ。


 ムラタにとってはさほどの難事では無いのであろうが、この高速処理ではついていくのも難しい。


「心配されているのは彼女の姉についてなんですが」


 マリエルは怯みながらも、ムラタに向けて説明を続ける。


「お姉さん、ですか? 確かにそういう情報はありましたが……」


 マリエルの健気さが功を奏したのか、ムラタの速度が緩んだ。

 どうやらムラタの意表を突くことに成功したらしい。

 

 マリエルは、一息つくように声を潜めた。


「……どうもギンガレー伯のお手つきになったようでして」

「お手つき? お姉さんが?」


 そしてさらにムラタは意表を突かれる形となった。

 元より、ギンガレー伯にはそういう形で調子を乗らせる様に誘導してきたのである。


 だが、辿り着いた先が完全にムラタの想定外だった。

 「サマートライアングル」の誰かに手を出す。

 そういった展開こそ、ムラタは期待していたのである。


 別に「サマートライアングル」に身体を張れという計画では無い。

 ギンガレー伯が、王家所有の浴場専属の癒やし手。

 そこに手を出すという形を期待していたのである。

 

 もちろん、簡単にそういった状況を作り出せないことはムラタも弁えていた。

 だからこそ十重二十重に策謀を巡らせた。


 だが、アシュリーの姉とは。

 流石にそれでギンガレー伯を糾弾するわけにはいかない。


 せいぜいがメオイネ公との間に軋轢が発生する可能性があるが、あくまで軋轢レベルだ。

 一気に追い詰めるには、あまりにも――足りない。


「しかし、ギンガレー伯はわざわざアシュリーのお姉さんを呼んだ? わざわざ姉妹を……秀吉じゃあるまいし……大体、衆道の……」


 今度は、このギンガレー伯の動きについてムラタがまったく見当がつかない様子だ。

 そしてそれはマリエルも同様らしい。


「そうです。アシュリーさんもその辺りを気にされていまして。果たして何処から姉のことを知ったのか? それはロデリックさんからかも知れませんが、実際に王都に呼び寄せているようで」

「王都に? ……ああ、それは当たり前の話ですね。でもそれを、アシュリーさんは知らなかった?」

「そうです。それを、今日浴場に顔を出した故郷の方々からお聞きになったみたいで。彼女も随分戸惑っておられて……」


 2人揃って首を捻る。

 どうにもギンガレー伯の思惑が読めない。


 ただ単にアシュレーの姉を見初めただけ。

 そういう可能性もあるが、到底そんな偶然を信じられるような状況では無い。


 であるなら、当然何かしらの陰謀があると考えるべきなのだが、果たしてアシュリーの姉をどう使うのか?

 使うのなら、その武器をひけらかしてアシュリーにせまる。

 これが初手になるのではないか?


 その後、どのように変化するとしても姉を人質にアシュリーに関係をせまる。

 この方向であるなら、アシュリーにどういった状況かまず知らせるのではないか?


 何にしてもまず行われるのはアシュリーへのアプローチ。

 それが常道だと2人には思えたのだ。


 しかし、ギンガレー伯にそういった動きある事は確認されていない。

 となれば、やはり2人も首を捻るだけで、ギンガレー伯の思惑がわからないのである。


 だが――


 ここにギンガレー伯の手口を知る者がいた。

 言うまでも無くノウミー3人娘である。


 3人が3人とも、コタツに入ったまま顔色を青くしていたのだ――

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