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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
243/334

ナチュラルでチート

>BOCCHI


 皆さんは「姿三四郎」という()()を読んだことはおありだろうか?

 読んでる人と語り合いたい。


「三四郎、出てくるの遅くね!?」


 みたいな感じで。


 いや実際、半分ぐらいかなぁ。姿三四郎出てこないんだよ。

 で、前半部分では恐らく嘉納治五郎の話。一応、名前を変えてあるんですけど、その意味があるのかどうか。


 それで姿三四郎が出てきてからなんですが、思うわけですよ。

 これは賛同者は少ないと思うんだけど、


「あれ? 三四郎出てくる前の方が面白いんじゃない?」


 と。


 実際、檜垣……だったかな。アイツとの再戦が終わった当たりで投げ出してしまいました。

 

 じゃあ、前半はどう面白かったのかというと「柔道」という武道が創設されていく描写もさることながら、本気で“頭で考えて”強くなっていく部分が、とてつもなくワクワクするんですよね。


 術理――という単語が小説の中に出てきたどうかはすでに定かでは無いですが、とにかく、身体の動き方、動かし方、全てに理論がある。


 「姿三四郎」はキッパリと小説なので、技術書だったり指南書だったりはしないわけだから、そこまで詳しくは描かれてはいないと思う。


 それでも「柔道」なるものが、如何に技術を設計していったか?

 それを感じることが出来る……というわけで、ちょっとやってみた。


 “デネヴ”――マリエルさんの叔父さんというのは、実は近衛騎士だったんだよね。

 それで神聖術の資質が見出せない姪を気の毒に思って、剣とかの得物を使わない武術――組み討ち術とでも言うのだろうか――の手解きをしていたと。


 ……そういえば“手解き”も武術由来の言葉だったか。


 で、俺はそれも“壊れスキル”に経験させようと要らぬ欲求に駆られた。

 我ながら、まったく懲りない。


 そのマリエルさんの叔父さんと組み合って、頭の中で何かしら公式を思い浮かべてみる。

 で、最初の内は、力任せに堪えてるだけだったけど、自然と「自護体」とか、先述の「姿三四郎」とか思い出したのが……良かったのか悪かったのか。


 気付けば出来ていました、一本背負い。


 もちろん、柔道に携わり研鑽されている方々には土下座をしたい。


 いや色々考えたんですよ。

 体格的に大外刈りは厳しそう。内股は道着なくて大丈夫なのか? 巴投げは体格も含めて無理がある。小内刈りとか、袖釣り込みとか、そんな繊細な技はとても畏れ多い。


 ……いや一本背負いが簡単だとは言いませんよ。


 ただ端から見てると、どういう感じに身体を動かせば良いのかわかった気になるでしょ?(賛成求む)


 そこから例の“壊れスキル”がやってしまいました。

 どういう風に身体を動かせば良いのかわかる――というレベルじゃ無くて、もう自動的オートマティック


 宇○田ヒカルか!


 とツッコミを入れたくなったね。

 この調子で行くと「山嵐」まで、でっち上げそうだからそこで中断。


「西郷の前に山嵐なく、西郷の後に山嵐なし」


 とまで謳われた山嵐をでっち上げる事はさすがに出来ない。

 俺も「蛸足」ではないし。


 ……と、ここまでは良いとしよう。


 問題は、だ。


 そんな様子を見ていたマリエルさんが、あっという間に一本背追いをマスターしてしまったことだ。

 見取り稽古と言えば良いのかな?


 もちろん、マスターは言い過ぎだろう。

 一つの技を研鑽し続け、それでもまだ理想を追い求める方も多いと聞く。

 だから、十分実戦に使えるレベルに到達してしまったと言うべきなんだろう。


 それを近衛騎士の叔父さんから聞いて、伝聞のままで深く考えずに、


「転がすことが出来るのなら、後は頭を踏み付ければ勝ちを決することが出来るな」


 と、安全靴らしきものを用意した。

 ええ、某ライトノベルで提唱されている必勝法ですね。


 だが、この必勝法。真理なだけに影響力がもの凄かった。


「すぐに! 今すぐ騎士団に伝授を!!」


 まなじり決したルシャートさんの、恐ろしいこと恐ろしいこと。


 それで、改めて状況を確認しに例の練習場に顔を出してみると――


 ――乗馬服姿のマリエルさんが、騎士を投げ飛ばしている光景を目撃してしまった。


 ……その後、銀色に光るブーツで騎士の頭の横を踏み付けるところまでしっかりと。


 おわかりいただけましたか?


 マリエルさんは、儂が育てた……わけじゃ無いんですよ。


 ここ、大事なところですから。


                □


 乱暴にざっくりまとめると、マリエルさんこそは本気のチートキャラであるらしい。


 順番に行くと、そもそも組み討ち術に関しては“手解き”のレベルじゃ無かったようだ。

 この辺りはマドーラの侍女として有り難い話である事は間違いない。


 だからこそ、俺も安全靴もどきをでっち上げたわけだが……これって俺が状況を悪化させてるような気がするな。


 で、その侍女方面。


 これは正確に言うと、侍女では無い。

 正式に侍女として雇い入れるわけにはいかないからな。何しろ「サマートライアングル」の“デネヴ”としての活動をやめたわけでは無いし。


 ただ、元々弱者救済活動にも熱心に取り組んでいたマリエルさん。

 マドーラに生理対策と、さらに性教育関係もしっかり行ってくれたらしい。

 キルシュさんの証言によると、だが。


 流石に、田舎と王都ではやり方も違ったらしく、その面でもキルシュさんが言うには、随分助けられたらしい。


 で、元々マドーラの意志など無視するつもりであったんだけど、どうもマドーラとの相性も良いらしい。

 仲良く、等と言う表現はあの引き籠もりお姫様には似合わないが、どうやら心地よい距離感をお互いに即座に掴んだようだ。


 マリエルさんは優しく接したわけではなさそうだが。

 だが、その行動基準、発言にしっかりと芯が通っていたようで、対応しやすいらしい。

 もちろん、あの娘(マドーラ)の事だから、


 ――如何にして裏をかくか


 とかにも心を砕いているのだろう。


 何より助かったのは、ノウミー3人娘の監督も行ってくれているところだな。

 いや、全部まとめて3人娘などと言っては問題がある。

 メイルとクラリッサさんの監督だ。


 “敵”は分断して対処すべき、という基本的な戦理を理解しているとしか思えない、アニカを抱き込んでの対処。

 流石としか言い様が無い。


 ……俺は理屈はわかってても実行しないから。


 で、先にも説明したが「サマートライアングル」としての活動にも抜かりは無い。

 というか抜かりがなさ過ぎる。


 フルートの練習にも真面目に取り組み、今ではソロを任せても大丈夫らしい。

 それに教会絡みで練習する機会があったのか、声楽についても一日の長があった。


 だがそれで、1人だけトップに立つわけでは無く“ベガ”“アルタイル”をコーラスで支えることも忘れない。


 掛け合いについても、言うこと無しだ。


 最近、舞台ステージに注目店舗、あるいは職人を引っ張り上げて紹介するなんて演目を増やしたのだが、MCを任された“デネヴ”が仕切る仕切る。


 最近はホリケンみたいに見えてきて、俺が眉を潜める“アルタイル”もしっかり制御。

 その反面“ベガ”の天然ボケのような言動には、匙を投げ出して、観客からのイジリにも対応しているという。


 ロデリックさんの話によると、舞台構成にも積極的に参加しているらしい。

 アシュリーさんも、ネリーさんもそれに釣られて、ドンドン提案をしてくれているらしい。


 だが、マリエルさんは自分が迷惑を掛けたことを忘れることも無いようで、一歩退いた姿勢を崩そうとしないらしい。


 俺みたいな歪んだ目で見ると、


 ――それを言い訳にして、全体を俯瞰する立場に収まっているのでは?


 とか考えてしまうが、それはそれで有り難い話である事は間違いない。


 で、その一歩退くことになる原因。


 “例のアレ”絡みね。


 実は、マリエルさんは「かすがい同盟」の支持者ファンであったらしい。

 ええ、もちろん掛け算の前後という意味で。


 もう、お解りのことと思うけど、俺の仕掛けは「掛け算の前後によって始まる諍い」が基本的な骨子だ。

 これが果たして異世界でも発生するのか?


 この辺りが不可分なわけだが、当然ながら他にも手は打ってはいる。

 打ってはいるが……順調ではあるらしい。

 もちろん諍いが大きくなる方向に。


 そこに現れたのが、マリエルさんという“転向者ころび”だ。

 

 つまり「鎹同盟」から「車輪会」へと。

 恐らく、これは対立を激化させるだろうと見込んでの指示だったが、これまた図に当たった。


 3人娘が煽るまでも無く、リナさんが随分とテッペン来ているらしい。

 石川数正が転向したときの徳川陣営のごとく(諸説あります)。


 何しろ、その銀髪で正体はバレバレだからね。

 “膝下会”の秘匿性が、今のところ外部への流出を抑えているが。


 一方で、マリエルさんは別に自分の趣味じゃ無い掛け算を何とかしようと考えた結果――元々、俺が騒動へのペナルティでそう指示したんだけど――さらに会誌の研究が進んだらしい。

 

 要素を分解して、再び構築するという荒技。


 それがアンジェリンさんのお眼鏡にもかなって、今では「車輪会」のナンバー2でもあるのだ。

 流石に“膝下会”へ赴く暇は無いが、ネリーさんに字を教えながら、作品を作り出している。


 ……汚染とかそんな事を考えてはいけない。


 で、だ。


 俺でもビックリするほどの激務ぶりであることはお解りいただけたと思う。

 本人は、


「“休み”って何ですか? 美味しいんですか?」


 というぐらいの勢いで、俺の言葉を躱し続けている。

 その点も含めて、やはり彼女はチートキャラ。


 それは現象として受け入れるとして、だ。

 問題は彼女の“動機”だ。


 流石に、それに気付かないほど鈍くは無いつもりだが……


 ……さて、俺はどうやって躱したものかな?

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