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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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ムラタからの救援要請

 王都が夜の帳が降りる頃――


 ムラタはまたも王都の北東地区に姿を見せていた。

 マドーラの夕食を準備してからの外出であるので、結構遅い時間である。


 だから目の前で「ガーディアンズ」の双子が、ガツガツと夕飯を食べている光景に、ムラタは眉を潜めていた。


 ――「子どもは早く寝ろ」


 ということなのだろう。


 つまりここは「ガーディアンズ」の家だ。

 そしてムラタは何故か、おさんどんをしている。


 “料理番”としてはうってつけのような気もするが、実際には料理と呼べるものは何もしてないのだから、難しいところだ。


 ブルーには「オムライス」。

 キリーには「スパゲティ・ミートソースwithミートボール付き」。


 それぞれ大盛りを用意していた。


 ザインの前には「天ざる」だ。

 見た目以上に年齢がいっているのかも知れない。

 それでも、蕎麦よりも天ぷらの方に注意が向いてはいるが。


 そんな風に油物に対する畏れを知らぬ姿勢。

 ……やはり若いのかも知れない。


 ルコーンの前には「ビーフシチュー」。

 その他、副菜にバケットなどが並んでおり、なるほどこれは見栄えのする夕食風景と考えて間違いないだろう。

 そしてムラタが用意しない、グラスワインを味わっている。


 その向かいに座るロームも酒精アルコールを味わっていた。

 どうやらスコッチのような色合いの蒸留酒らしい。


 ただ、一緒に食べているのはチョコレートケーキ――所謂「オペラ」と呼ばれる風味が強い物を、フォークで切り崩している。


 残るサムは、何故かラーメン。

 トウモロコシというトッピングと漂うバターの香りから察するに「味噌ラーメン」で間違いないのだろう。


 そんなサムを見ながらムラタから、


「……それ、美味しいですか?」


 と、とんでもない一言。


 だが、ムラタに食事を“用意”して貰うのが初めてでは無いのだろう。

 サムは特に怪訝に思う事も無かったらしく、分厚く切られたチャーシューを噛み千切りながら、ムラタに応じた。


「ああ! 間違いなく旨いぞ、これは」

「……そうですか。俺食べたことないんですよね。味噌汁を食べてるような気がして」

「味噌汁、嫌いなのか?」


「味噌汁は好きですよ。ただそれとラーメンと合わせる発想が出てこなくて……」

「実際にあるから、その“壊れスキル”で作れるんじゃないのか?」


「ええ。味噌ラーメンという物は旨い、ということで充分に発展した料理なんですが……どうにも忌避感が強くて……」


 何とも煮え切らないムラタ。

 対するサムにしてみれば、当たり前に、その忌避感が理解出来ない。

 すぐさま丼にフォークを差し込んで、鹹水の効いた黄色い麺を豪快にすすり上げていた。

 

 ちなみにザインもフォークで蕎麦を食している。

 ザイン、サム、ブルー、キリーはソファに半端に腰掛けて、ローテーブルの上に食器を並べて貪っているから、もはや箸を試そうなどという余裕はない。


 女性陣はキチンと食堂のテーブルで。

 そしてムラタは、換気扇の下でタバコを燻らせていた。

 一仕事終えた、という雰囲気を漂わせている。


 さて、廃人になりかけていた「ガーディアンズ」も今では仕事をしていた。

 基本的には騎士団の鍛錬に付き合っている状態だ。


 メンバーが一斉に王宮に勤め始めたわけでは無く、最初は双子、ローム、サム、ザイン。

 そして最後にルコーンの順だ。


 なし崩し的に“そういうことになってしまった”という状態である。


 確実に肉体労働となるザインとサム、それに食べ盛りの双子がこれほど健啖になるのも仕方の無いことかも知れない。

 最初はムラタも、抵抗無く食事を用意していたのだが、


「あのですねぇ。こんな無茶苦茶が普通だと思わないでくださいよ。料理してくれる方が、どれほど苦心していることか。特に、一人づつバラバラのメニューなんてあり得ませんから。他でこれを基準にしないで下さいよ」


 と、言い出して後、渋るようになっていた。


 だが、いよいよ「ガーディアンズ」出立の日取りも決まり、今日はムラタからもお願い事がある。

 そんなわけで大盤振る舞いと相成ったわけだ。


 もっともムラタの目的から考えると、お願いしたいのはルコーンとロームの2人についてだけなのである。

 大人(おとな)組であれば、別に居て貰っても構わないのだが子供に対しては微妙なところだ。


 そんなわけで、


「食べたら、眠るんじゃないか?」


 という、甘い希望的観測で現在いまに至っている。

 さて、果たしてどうなることか。


               □


 幸いなことに、それぞれが熱心に仕事をしていたようだ。


 ムラタが訪れたのを幸い、新たなゲームを用意して貰おうと双子は考えたようだが、流石に睡眠欲には勝てない。

 すぐに、コックリと船を漕ぎ始め夢の世界へと旅立ってしまった。


 その2人をサムが寝床に放り込むと、そこは流石にサムも大人らしくムラタの雰囲気を察したらしい。


 その他、家事を片付けるために席を外した。

 残る3人――特にザインは居心地が悪そうだったが、パーティーへの依頼の可能性もある、ということで残ったらしい。


 この辺り、ムラタとしても有り難い話らしく、そのまま話を切り出した。


「……かなり持って回った切り出し方になるんですが」

「いつものことなのでは?」


 と、つっけんどんに応じるのがルコーンだ。

 実際にマドーラと面会し、別にムラタに害されているわけでは無いと納得はしたものの、冷淡な態度にさほど変化は見られない。


 この辺りマドーラのことが問題では無く、ムラタがパーティーメンバーを立ち直らせた事に含むところがあるのだろう。

 それをロームが取りなしている。

 

 ザインは、もはや諦めの境地だ。


「では遠慮無く」


 対するムラタにしてみれば、そういったルコーンの態度の方がありがたいのだろう。

 そのため飄々と、話を先に進める。


 ……それがまたルコーンを意固地にさせている原因ではあるのだが。


「――貴方たち(ガーディアンズ)で、ご婦人を紹介できるアテはありませんか? 性格は温和で出産経験がある。子どもを育て終えて、さぁ、これからどうしよう、みたいな感じが目安になるんじゃないかと」


 その言葉に、3人が視線を交わす。

 もちろん心当たりが無いわけでは無い。


 冒険者稼業を続ければ必然的にコネが増えていくし、それぞれ個別の知り合いの中で思い当たる人物もいる。


 だが、ムラタの意図がわからない。

 要求の形としては具体的ではあるのだが、何故そういった人物を求めているのかがわからないのだ。


 そんな空気をムラタも予想していたのだろう。


「簡単に言うと、マドーラの侍女を募集というか……いや侍女とも言い難いんですが……」

「それ、キルシュさんには?」


 ロームが当たり前にそう尋ねると、ムラタはしっかりと頷いた。


「もちろん確認してます。ただ、そのですね……」

「侍女の仕事以上のことを求めているのか?」


 続いてザインが声を上げた。

 それもまた自然の流れだろう。

 だがムラタは、頭を掻く。


「それが俺にはわからないんですよ――ええと、ルコーンさん、ロームさん」


 不意にムラタが2人の名を呼んだ。


「は、はい?」

「うん?」

「例の会誌。これで思い当たりますか?」


 そのムラタの言葉に、女性陣2人が顔を見合わせる。

 ザインは徹底的に排除されている近衛騎士団に入り浸りすぎて知らないようだ。

 それに何より――性別が違う。


「それがですね。隠し通すのも無理があると。なら、そちら側に接する前に正しい知識を、と。マドーラはそういうお年頃ですし。で、キルシュさんも、その方面では自信が無いと仰るわけで……彼女も“お若い”ですから」


 なるほど、と色々なことに頷けるし、ムラタが極めて真面目だということもわかったが、問題解決までの難易度はますます上がった気がする3人。

 ザインも、わからないなりに“年頃”という言葉で、概ねのところを察したようだ。


「それにですね。“月のモノ”ですか。これも出来れば頼りになる先達の助けがあった方が良いだろう、とキルシュさんから提案もありまして」


 翻訳スキルはキチンと仕事をしたらしい。

 3人が神妙に頷く。


「……その……殿下は?」

「あ、まだらしいんですが、そういう心構えがはしておかないと……」

「君の“スキル”で……」

「これから先、俺におんぶでだっこでは将来的に困りますよ。やはりちゃんとした知識を身につけさせるべきでしょう。かと言って、ここで貴族達の紹介という“紐付き”を頼りにするのも危険ですから。それでそちらに……」


 思った以上に、難しい話になっているようだ。

 3人がキリーのことを、思い浮かべたかどうか。


 とにかく、親身になって考えることが出来たのは間違いない。

 自分たちに話を持ってくる前に、当然3人娘にも相談したのであろう。

 だが、王都ここは彼女たちの地元では無いし、伝手と言われても困ったに違いない。


 それについては「ガーディアンズ」も同じ条件ではあるのだが、何しろ「ドノヴァン」という前例がある。

 リンカル領での伝手はないか?

 

 ……そういったムラタの心境も3人には察することが出来た。


 そういった認識が、しみ通ったあとルコーンがため息をついた。


「――やはり聖堂に話を持ちかけるべきでしょう。冒険者ではなく、弱者救済に力を入れている神官であれば“そういう”方面にも明るくなりますし」

「そうなんですか?」


「孤児に対して、そこで躊躇していたのでは始まりませんから。出立前に、私から話を持っていきます。あとは殿下に相応しい方を選んで下さい」

「あ~、えっと……いや、その方が良いですね。俺の名前が必要なら使って下さい」

「それはもう」


 “女性”関係の問題であるだけに、ムラタの名前をおおっぴらに出す方が話がややこしくなる可能性がある。

 やはり、先に関係者ルコーンの目で見極めたからの方が、良い結果が導き出せそうだ。


 なんとか展望が開けてきたらしく、それぞれが胸をなで下ろす。

 その中には、ムラタに対して対決姿勢だったルコーンの軟化を喜ぶ理由もあったのだろう。


 だが――


「なぁ……結局、最初の“会誌“というのは……」


 今度はザインが火種を抱えてしまった。

 女性陣からは、ジト目で睨まれるザイン。


 助けを求めるようにザインがムラタに目を向けると――


 ――ムラタの姿は消えていた。


 どうしても「ガーディアンズ」に対しては不義理をするのが、ムラタの運命らしい。

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