純文学死すべし。慈悲は無い
>BOCCHI
おのれゲ○ン・ビジョ○ーーー!!
……と言うわけで、アスハムお兄さんだよ。
もう何度目になるかわからないが――ちゃうねん。
ただ妹バカを通り越して、妹キ○ガイに相応しい名前が、コイツ以外出てこなかったんです。
そこまで野球選手に詳しいわけでは無いので。
ちなみに、妹の名前が本当にカリンかどうかは定かでは無い。
カレンだったっけ……? あるいは全然違っている可能性も高い。
だって「森の熊さん」から「ボ○ノーク・サ○ーン」という名前のMS出すような御大ですよ。
あとは紫電改とかさぁ。
間違いなくネーミングについては、どうでも良いと思っているに違いない。
つまり、どれほど愉快な名の妹になっているのか、わかったものでは無いのだ。
と言うわけで俺の妹となっている女性の名前は本当はロジーという。
……本当である保証は無いが、それが一番彼女に馴染みが深いと言うことだろう。
え?
姉は駄目なのかって?
そんなキヨナリみたいな事を……
ハッキリ言おう。
俺は俺の上位者がいる状況が大嫌いみたいだ。
そんなわけで必然的に“妹”しか選択肢が無かったわけである。
次の質問は恐らくこうなるだろう。
――そもそも女性と組む必要ある?
あるだろ!!
そうじゃないと“男”の俺が積極的に関わりたい、みたいなことになっちゃうでしょ!!
……いや、それで腐男子を論いたいわけでは無いんですよ。
ただ、どうにも俺にはその手の素養が全く無いですし。
それに、腐女子に対するのに異世界の熟成度で男が近付いて行ったら、
「俺の事務所に顔出してみる? ウチからは○○さんもデビューしてるから」
みたいな輩であると警戒されてしまう事は間違いない。
アンジェリン嬢も結構良いところのお嬢さんであるようだし。
だから女性を“挟む”ことは必然だったわけです。
むしろ、ロジーさんがすっかり取り込まれる可能性を危惧していたわけだが、これが上手い具合に落ち着いた。
この趣味を嫌うわけでは無く――ノラさんは嫌っているな、確実に――かと言って、好きでも無く。
丁度良い距離感で「仕事」してくれている。
それでいて手当をはずむと、素直に嬉しそうな表情を浮かべる。
実際に嬉しいかどうかはわからないが、それでスポンサーの機嫌がよくなることを熟知していることは間違いないだろう。
実にやりやすい。
さてアンジェリン嬢は、どうなるかな……
「――当たり前の話だが、まず君が書きたいものをかくように」
ちなみにアスハムは先天的に偉そうなので、こういう口調にすることにした。
「それで……良いの?」
「良い。というか、そこのとこは我が最愛の妹が愛して止まない部分だ。決して変えてはいけない。そこは絶対守るように」
「そうだよ! アンジェリン先生はそこが素敵で、耽美で、尊いんだから!」
良いフォローだ、我が最愛の妹よ。
勝手に大義名分製造器と名付けてしまっても良いだろうか?
……しかし“尊い”なんて言葉が通じるとはなぁ。
百合豚どもが使う単語みたいで気持ちが悪い。百合豚が発生したら今度こそ殺そう。
「そ、そうよね。カリンもキリーと伯爵の組み合わせが好きだものね」
おおぅ……
だがまぁ、こういう時でも腐女子の“習性”は健在なのかな?
とにかく狙い通りではあるんだが。
とにかく「脅して、すかして、また脅す」の第2段階までシークエンスは完了だ。
つまり次は脅すターン。
「……だが、他の事は厳しい」
「き、厳しいって」
「君の作品読ませて貰ったが、この突然出てくる蝸牛はいったい何だ?」
俺が途中で投げ出した“例のアレ”である。
「そ、それは……」
「君のやりたいことはわかる。そういう感覚を描くことで、受け手とそういう感覚を共有したいという狙いがあるのだろう。そして、それによって意表をつくことも出来る」
俺がそう告げた瞬間――
アンジェリン嬢の表情が固まった。
うん、当たり前の話だけどそこまで計算して書いてないだろうね。
言ってみれば正しく“新感覚派”なのかも知れない。
思ったように、好きなように書いてたらああなったのだろう。
だから、こっちでまとめてカテゴライズしてやる。
それで不調になる可能性もあるが、別に俺、編集やるつもり無いしな。
……いや、編集ならそうやって使い潰すことを何とも思わないに違いない。
さて、もう少し褒めておこう。
この辺、例の3段論法――使い方間違ってる――を綯い交ぜに使いたい。
「だが、その前の炭造りについては随分細かく書いているな。俺の知る限り、あの描写はかなり正しい。この部分はどうしたんだ?」
「あ、それはノウミー出身の人がいたから話を聞いて……」
やはり取材か。
浴場建設に際して結構な数のノウミー出身者が王都にやって来たからな。
だが、実際に取材をする行動力。
……それと対象に対する想い。
確実に素質はあるんだろうな。
「――そこまでは見事。それだけに蝸牛が唐突すぎる。なぜ蝸牛を出した?」
ここからは脅すターン。
「そ、それは“蝸牛みたい”だっていう書き方が、ピッタリと来たから」
比喩という概念が無いらしい。
劇とかでは普通にあると思うんだがなぁ。
多分、その辺が整理されてないのだろう。
で、俺のやりたいことは整理では無い。
俺のやりたいことは――純文学をぶっつぶす!!
「それは君、安易な逃げだろう。せっかく出身者の経歴を調べ作品に奥行きが出ているのに、自分で台無しにしてしまって」
「うう……」
さっきもそうだったが、アンジェリン嬢も自分の書いたものが整合性が乏しいのに気付いているらしい。
これなら、まだまだ救いがある。
真性の「純文学ッカー(造語:配点5点)」なら、この段階で、
「そんな事、文章の美しさに何の関係がある?」
と、何故か上から目線で返してくるからな。
勝手に、自分たちの関わっている方が上位に位置すると規定して。
そんな、お前達の脳内設定なんか知るかーーー!!
と言うわけで、叩きつぶしたいところなんだが……
「兄さん、黙って聞いてれば好き勝手言わないでよ! 先生の生み出すものはとっても美しいじゃない! 先生を否定しないで!!」
ここでアンジェリン嬢の擁護者登場。
はい予定通り。
ここで自らの代弁者を見出したことでアンジェリン嬢のモヤモヤが解消されるというわけだ。
人は、言語化されたものに弱いからなぁ。
……それにしてもロジーさん、上手い。
前歴は夜のお仕事かな?
「だが最愛の妹よ……」
「なによ!? 反省したの兄さん? 先生の素晴らしさがわかったの?」
実に良い感じだ。
上手い具合に、アンジェリン嬢がロジーさんに自らを仮託している心理が手に取るようにわかるぞ。
表情、わかりやすすぎる。
では、最後の締めに行こう。
「――最愛の妹よ。落ち着いて聞いてくれ。このままでは、いつまで経っても日向に出ることが叶わないんだ。ここで高みを目指し、社会的な地位を獲得すれば……」
「すれば?」
あ、ここちょっとミスってるなロジーさん。
間が悪い。
「……すれば、お前が美しいと感じる物語が多くの人に読まれるようになる。聞けば、あまり広まっていないようでは無いか」
「そ、それは……」
顔を伏せるロジーさん。
それと同時に、アンジェリカ嬢も顔を伏せた。
……たやす過ぎないだろうか?
純文学書く連中なんか総じて人間のクズなのに、この辺では不安を覚える。
だがまぁ、目指すのは純文学では無いしな。
「俺はここでしっかりと忠告することで、アンジェリカ嬢に正当な評価がされるように、世の中を変えたいんだよ!!」
世の中。それは即ちトールタ神の御許で行われる即売会。
そして正当な評価とは、その即売会で大きな潮流の中心に立つこと。
……オタサーの姫とは、似ているようで違う感じ。
そもそも貴族を題材に選んでいるところで、危ないんだがなぁ。
この辺り、
「好きなのに、何故いけないの!?」
と、「好意有理」みたいな中国共産党もビックリな理論を持ち出してくる可能性がある。
これが突き進んでしまうと、簡単に「ゴキ腐リ」に転落してしまうからな。
ま、今回は取り締まる側が、完全に俺と“ずぶずぶ”だから、その危険性はないんだけど。
「わ、私やってみるよ」
お、アンジェリカ嬢が覚悟を決めたらしい。
予想通り、決意表明は我が最愛の妹に向けてであったが、これで充分だろう。
「本当ですか先生! それじゃあ、私も精一杯手伝います!」
「う、うん、お願いするね」
手の平返すのが早すぎないか、とも思うが、この場合はこれで正解。
考えさせてはいけないのだから。
「世に出した物は、訂正できないだろう。次の作品は?」
「あ、まずカリンさんに……」
「わかった」
そこは素直に譲っておく。
決して、出てきた量にビビったわけでは無い。
……アンジェリカ嬢、素直に凄いな。
だが、これで純文学を書こうとするような危険な芽を摘むことは……いや、まだ油断できない。
1匹見つけたら、2、3匹は出てくるのが純文学ッカー。
今のうちに、均しておかなくてな。
では最後の仕事。
「『白黒』は習得できそうか?」
……そこで黙り込むなよ。
まぁ、その辺ドノヴァンに頼んで楽にして貰ったし大丈夫だろう。
駄目なら、また適当に面子を集めるしか無いな。
俺、とりあえず今のところは編集だし。
――だけど善人の編集って物理的に存在出来ない気もするんだがなぁ。




