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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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コミケ準備会の深い闇の形

>BOCCHI


 寺銭――


 この言葉を知らない日本人は……まぁ、いるか。

 簡単に説明しておくと、博打が行われる施設の使用料みたいな物だ。


 ここが第一段階。

 そこから何故、「寺銭」と呼ばれるのか?


 ……まで考えないと「ボーッと生きてんじゃねーよ!」と叱られてしまうことになるだろう。

 俺が知ったのはいい年になってからなので、確実に叱られるな。


 つまり、それほど話は簡単というわけで、博打が行われていたのが「寺」と言うだけのお話。

 では、何故「寺」なのか?


 ここから少しばかり面白くなる。


 江戸時代でも博打の取り締まりが行われていた。

 だが、その時に多く対象になる町民を取り締まるのが「町奉行」というわけである。


 これもまた簡単な話になるが、江戸時代の役職には「寺社奉行」というものもある。そして、こっちの方が「町奉行」より偉いんだこれが。

 そして「寺社奉行」と言うだけあって、管轄は寺とか神社とか。


 つまり寺の中で町人が悪さをしても、町奉行側は手を出せないのである。


 上手く出来てるなぁ、と感心するのと同時に宗教の駄目っぷりも、よくわかる歴史の一コマだ。


 織田信長が決死の思いで坊主を黙らせて、徳川家康がタヌキの知恵で分断統治に目星をつけた。

 だがそれでも、いらないことを続ける宗教界。


 日本に限らず、キリスト教――一応カトリックにしておくが――の神父やら司祭やらが、小さい子においたをし続けたり、概ねろくな事はしてない。


 これは一神教――いや、それのみならず信仰対象を1つに絞り込んだ宗教は、あっという間におかしくなる。

 ……というか、おかしくなることに何故気付かないのか? とは思う。


 信仰する対象を1つに絞り込むと、その対象はどうしたって完全無欠な存在になってしまう。

 何しろフォローしてくれる存在を、自分で排除してしまったのだから、そうならざるを得ない。


 だとすれば、人は気付かなければならないのだ。


 完全無欠の神の言葉を、完全無欠では無いと定義されている人間が完璧に伝えられるはずが無い!


 ……多分神学とかは、それこそ人を殴り殺せそうな分厚い本で、この辺りの理屈をまとめていると思われるが。それはもう無駄なあがきだ。


 普通に想像力がある者なら、必然的に無宗教になる――なるしか無い。

 実際に、宗教関係者のヤバさは枚挙に暇が無いわけであるし。


 翻って、異世界はどうであるか――


 有り難いことに、一神教では無かった。

 一神教だと……まず一番に全員殺していた可能性があるな。

 そこは確かに幸運だったのだろう。

 

 この国では主神扱いの女神アティール。

 だが神はそれだけでは無い。


 今注目して欲しいのは「トールタ神」だ。

 以前、北東区画に教会がある事は伝えたと思う。

 俺が現在いる場所はまさにこの教会。


 目的は――同人誌即売会である。


             □


 当たり前に大聖堂ほどの大きさは無い。

 ここは支店みたいな物だからな。ただ、それでも王都は王都。


 街の教会、と言う規模では無い。


 教会に馴染みがないから、適切な説明は出来ないが、デザイナーマンションで建築士がイキリまくって設計した建造物という説明が一番近い様な気がする。

 打ちっ放しのコンクリートとかで覆わせる感じの。


 だが、そうもいかないので壁面は赤いレンガで覆われている。

 この色味がトールタ神っぽいらしい。


 大きさはリンカル邸でゴードンが住んでいた部分ぐらいはあるな。

 つまり上に高いわけでは無く、なかなか横に広い造りだ。ただ敷地は目一杯使っているらしくて庭の様な物は無い。


 なんというか……実に事務的な建物だな。

 minecraftで言うところの「豆腐建築」でないだけマシなのかも知れない。


 その事務的な建物の中で、さっぱり書類整理が行われていなかったことも説明したとおり。

 俺はそういった事情を抑えた上で、王宮に勤める事務官を派遣した。


 もちろんタダでは無い。


 ……最初にタダだとと匂わせはしたけれど。


 で、俺が乗り込んで、責任者――こっちでは司祭とか言わないらしい――に礼拝堂の使用許可を取り付けた。

 何故礼拝堂なのかというと、一番広いから。

 他に理由は無い。


 で、そんな風に段取りを整えて乗り出したのが組織だ。

 ノラさんの手配なので、乗り出ささせた、と言うのが正確なところ。

 

 礼拝堂という物は、とにかく座席が並べられているのが、実に厄介ではあったのだが、その辺は組織のお家芸“裏取引”を基本にして、何やらシステムをでっち上げた様だ。


 ……とある運営のやり方が何処からか漏れた様な気もするが。


 参加者は入場証代わりに簡単なワッペンを購入して貰う。

 その他は自由だ。

 運営には川原景虎――もとい、組織から抽出した警備も一応配置しておく。


 もちろん、素養のある腐女子だ。

 この即売会を無事に運営することに、しっかりと意義を見出してくれた様でその辺は安心している。


 ……本家なら“取り置き”とかで優遇出来るんだが、こっちは魔法だからな。安易に取り置き優遇は出来なかった。


 ここまで環境を整えたことが功を奏して――今ところ順調に進んでいる様だ。


 礼拝堂であるから、机がないんだなこれが。

 その代わり参加者の配布をする側が、膝を提供する。


 そして、その膝の上でやり取りが繰り返され、合意に至れば交換と相成るわけだ。

 交換するのは金だったり、会誌ほんだったり。


 ……思った以上に裏取引っぽくなってるなこれな。


 時折野獣の唸り声みたいなのが響き渡るが、警備に睨まれる前に、参加者が勝手に自重を呼びかけている。


 一応、場所柄を考えて、

 

 ――静かにする様に。

 ――目立たない様に。


 と、呼びかけていたわけだが、こちらも浸透している様だ。


 今のところは、と俺の覚悟も決まっているが。


 さて、俺はそんな様子を何処から見ているかと言えば普通に隣の部屋だ。

 懺悔室みたいなのがあれば、うってつけなのだが、さすがにそんなものは無い。


 隣の部屋――恐らくはただの準備室みたいな部屋に息を殺して、観察を続けているわけだ。


 これも事務官に片付けて貰った成果だな。


 様子を直接観察する理由は、誰を、もしくは、何処にてこを入れるか。

 つまり現在の人気を確認するためである。


 単純に部数だけで判断出来ない。

 何しろ刷るのに、手間が掛かるからな。

 つまり完売し(ハケ)たあとに、どんな状況になるかを確認しておきたかったわけだ。


 これはちょっと、人任せには出来ない。


 何しろシャッター前サークルには“優遇”を施さなければならないからな。


 絶対に抽選に落ちない!


 という感じの。


 “本家”の抽選については絶対変なはずなんだが、ここは本気で触れない方が良いらしい。

 その手の関係者に話を振ったら、


「ヤロウ……タブー中のタブーに触れやがった……」


 と言われた。

 本気マジのモードで。


 ……と、こっちもマジらしいな。


 参加者の中に、かなりの数で夜のお店で働いているお姉様方が含まれていると報告は受けていたが、俺が見たところ予想以上に多い。


 さすがに会誌制作する時間的余裕は無い様だが、買い手としては潜在能力が半端ではない。


 金持ってるしなぁ。


 このままパトロンになる可能性もある。


 この方面からアプローチかけるのもありだな。


 問題はお姉様方と、メインターゲットである貴族の子女が個人的な繋がりを持ってしまった場合。

 お父上の悪行――悪行とは限らないが――が、ご家族に筒抜けになってしまう可能性。


 なにしろコンプライアンスとか無い世界だからな。

 夜の店の方で仁義が発生していれば良いのだが……


 やはり不確定要素が多すぎるな。

 この段階でカチカチに対策取ってしまうのも問題だと思って、ほとんど手を加えてないが、一体どうなることやら。

 割と諦めモードです、はい。


 一応無駄な抵抗と言うことで「トールタ神」の教会を会場にはした。

 何しろ「トールタ神」

 つまり女神では無い。


 ――そう男だ。


 と言うわけで、無事にターゲットになってくれて、辛抱堪らずに、


「お願いです。なんでも言うこと聞きますから!」

「ん? 何でもって言った?」


 という影向ようごう小芝居が始まることになれば、俺はさっさと手を引くんだけどな。

 この際、神に連帯責任を取らせると言うことで。


 だが、多分そういうことにはならない。


 偶像崇拝の慣習が無いみたいで、そういう立像みたいな物は教会には無いんだよな。

 絵は……やはり見あたらない。


 あの女神ばかに比べると、神様リテラシーが高いみたいだしな、トールタ神は。


 多分こっちは望み薄で、やっぱり今までの計画を進めるしか無い無いんだろうな。


 さて、もう少しだけ観察してノラさんと……


 ……アイツ……見たことがあるな。 

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