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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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ムラタは“異世界”向き?

 “木のうろ”が無慈悲に断言する。


「何しろ、まずお主が普通とはかけ離れておるし、そこでまず話がおかしくなる」

「い、いや俺は“向こうの世界”でも充分におかしいと言われていたんだ」


 ムラタが必死に訴える。

 決して自慢にはならない事を、述べ立てて。


 それを“木のうろ”が、タバコを吹かしながら斜めに見やる。


「……だが、上手いことやっていたと言いたいんじゃろ?」

「そ、それは……そうだが……」

「それは、お主の周りに普通の人間が沢山いたからじゃろう。お前はそれを見て真似するだけで良かったはずじゃ。それぐらいのこと、簡単にこなすじゃろうしな」


 ムラタが黙り込む。

 身に覚えがあるのだろう。


「……それを見越しているから、儂らに“質問”してきたんじゃろうが。そもそもお主の質問の仕方がアテにならん」

「そもそもなんで、親父さんなの?」


 そのミヒーロの質問が助け船になったのか、ムラタが復活した。


「“木のうろ”は商売柄、色んな連中相手にしてるだろうから、上手い具合に“真ん中”ぐらいの意見を言ってくれるんじゃないかと思ってな。“木のうろ”の考えでは無く、こっちの世界の代表的な考え方を答えてくれるだろうと」


 そのムラタの言葉を聞いて“木のうろ”の目が細められた。


「あたしは? あたしも探してたんだよね?」

「女性の意見はとても貴重だ。それも貴族でも冒険者でも無い、街に住む女性の意見を聞かせてくれるアテが……」

「あ~ね~……」


 ミヒーロの目尻が下げられる。

 そのまま“木のうろ”へとミヒーロの視線が向けられた。


「親父さん、とにかく答えるだけ答えてあげたら? 後はカケフさんの問題だし」

「まぁ……たしかにの」

「わかった。出来るだけ具体的にやってみよう」


 ミヒーロに乗っかるようにして、ムラタが続けた。


「そうだな……ああ、ズレを確認しても良いか。例えば村とかで生活してるとする。そこにモンスターが襲いかかってくる」

「ふむ」


 “木のうろ”が素直に相槌を打つ。


「その時、村の子供達がモンスターを倒す――というか殺してしまう。これ、何か問題があるか?」

「ないな」


 即座に“木のうろ”から答えが返ってくる。


「これの相手がモンスターでは無く盗賊の類いなら?」

「子供がそういうことが出来るのか? という部分もあるが、とにかくやれたのなら、問題なかろう」

「その辺りは、自分の身を守るための訓練を多少は受けていたことにしてくれ」

「そういうことなら……まぁ」


 ムラタから流れ出る言葉の羅列に圧倒され、“木のうろ”も流れるように答えていく。


「じゃあ、そういう風に訓練を受けた子供が街……この王都にいたとしよう」

「ふむ」

「で、盗賊というか不埒者が教会みたいな人が集まる場所に襲撃を掛けてくる。そこで、その子供は訓練していたこともあって、それを何とかしようとする。結果、不埒者を殺す決意を固めた――問題あるか?」

「……いや、取りあえずは無いな」


 言いながら“木のうろ”が、タバコをふかす。

 そのまま“木のうろ”が続けた。


「一体何の話じゃ? そんなもの誰に聞いてもそうなるじゃろ?」


 傍らでミヒーロも頷いている。


「……ところが俺のいた世界では、これがおかしいという意見が結構あったんだよ。世界というか俺の国の、恐らく一時期の事だとは思うんだが」

「意味がわからん」

「そっち側の理屈で言うなら“子供があっさりと殺すという判断に至るのがおかしい”ということになるな。おしなべて言うと」

「ますます、わからんぞ。なんじゃそれは?」

「……とにかく、俺の感覚がこっち向けだということは確認出来た」


 “木のうろ”の疑問には答えずに、ムラタは勝手に結論を出してしまった。

 今まで、不機嫌そうだった“木のうろ”の表情が、次第に別なモノへと切り替わりつつあった。

 得体の知れないモノを見るような……有り体に言えば、何かに恐怖しているような表情だ。


「それじゃこういうのはどうだ? 住んでる場所はあまり関係ない。それであにいもうとが母親と暮らしているとする」

「こ、今度は物騒じゃ無いみたいだね」


 ミヒーロが、半笑いの唇で口を挟む。

 だがそれで、ムラタは重大な事を思い出したらしい。


「あ、忘れてた。兄の方が、実はさっき言った母親というのは実は叔母さん。だけど本当の両親は亡くなっていて、それで叔母さんの娘と共に育てられ生活してる」

「やっぱり物騒なことがあったの?」

「……え~っと」


 そこで何故かムラタの言葉が止まる。そのまま上を向いてしまった。

 何やら記憶を掘り起こそうとしているらしい。

 不安げにそれを見つめるミヒーロ。そのまま声を掛けようとしたところで、ムラタが顔の向きを元に戻した。


「――その辺りは忘れた。病気で亡くなったとかそういう感じだと思ってくれれば、取りあえずそれで話は進められる」

「わ、わかった」

「で、どういう続きなんじゃ?」


 “木のうろ”が先を促す。


「で、ある時兄が戦場に行く。これは徴収されたというものでは無く自分の意思だな。かと言って、凄く危険な戦地に行ったわけでも無い。むしろ安全だったはずなんだが、そこまでの行程が不安定なモノでな。事故が起きて兄は意識不明で寝たきりになってしまった」

「ははぁ」

「で、それで何を思ったのか妹が兄と同じような行程を辿って戦地に行こうとしている。というか行き続けている」

「なんじゃと?」


 そこで“木のうろ”が片眉を上げた。

 その反応を見て、ムラタが嬉しそうな表情を浮かべた。


「やっぱりおかしいのか? この話」


 そして、そのまま勢い込んで“木のうろ”に詰め寄る。

 すると、今度は逆に“木のうろ”の表情が、元に戻った。


「……待て待て。今度は妹が兵に取られた可能性もあるな」


 その“木のうろ”の言葉にムラタが途端冷めた表情になった。


「いや、こっちも志願しただけだ。妹は自分の意思で、安全かどうかもよくわからない道を進んで戦場に行く」

「……となると、その母親はどうなっておるんじゃ?」

「そうだよな!?」


 またムラタが復活した。

 浮き沈みが激しすぎる。


「俺もおかしいと思うんだよ。兄の方は突発的な事件――じゃなかった事故だから、これは仕方が無いとして……」

「お主、なにやら良からぬ事を――」


「この状況で妹を戦場に行かせるのおかしいよな? ましてや自分の実の娘だぞ。この辺り、親なら利己的になって娘を守ってもおかしくないと思うんだが、どうだ?」

「う、う、うむ。その点は確かに……」


 “木のうろ”がムラタに圧倒される。


「そうか、やっぱりおかしいか。これなら、俺はこっちの方が上手くやれるかも知れないな」

「……お主の世界では、その母親がおかしいと言うことにならんのか?」


 何やら慄然とした面持ちで“木のうろ”がムラタに尋ねる。


「いや、あまりそう言う声は聞かなかったな。俺の身近では、この母親の異常性について話されたこともあったんだけど、大多数の意見として母親のことは誰も気にしてなかったな」

「……何という」


「誰も、この“物語”のその部分を気にしなかったみたいでな」

「何じゃと? 物語?」

「俺は最初から、そういう話をしている」


 そう言ってムラタはそっくりかえった。

 そんなムラタを見ながら“木のうろ”がタバコをテーブルに押しつけて消す。

 顔中の皺を総動員するような渋面を浮かべながら。


「……なんじゃ、そういうことか」

「考えてみてくれよ“木のうろ”」


 途端、熱が冷めた“木のうろ”にムラタが、良い笑みを浮かべながら追いすがる。


「物語なんだぞ。現実よりは好きな事言いやすい状態で、その母親に対する苦言がほとんど出てこなかったんだ。この状況をどう思う? それが俺が元いた世界の“現実”だ」


 ムラタの笑みが――


 いつからか“質”を変えていた。


 ただの質問であったはずだ。

 今も、その形式に変わりは無い。


 ただ、もはやそれは答えを欲しての事では無い。

 いや、言葉としての“答え”ではなく、こちらの“反応(こたえ)”こそが本命であるかのような。


 そんな錯覚を“木のうろ”は覚えた。

 いや果たしてそれが、錯覚なのかどうか――


「……とにかくじゃ」


 “木のうろ”が言葉を紡ぎ出した。


「お主の世界は随分おかしいようじゃの」

「ああ、えっと……この場合は世界で良いかもな。世界中で大人気でさほど外れては無いと思うし」

「物語が? ……ああ、そう言う場合もあるか」


 一瞬、訝しげな表情を見せた“木のうろ”であったが、すぐに思い直した。

 子供達に聞かせる、童話の類いを思い浮かべたのであろう。


「とにかく助かったよ。俺の世界はおかしくても、こっちでは通用するみたいだし」

「それも釈然とせんが」


「ミヒーロもありがとうな。お礼はすぐに届けさせるか、俺が持ってくるかするからな」

「う、うん」


 そんなミヒーロと“木のうろ”を置き去りにしてムラタは店を出て行ってしまう。

 忙しいのは間違いないようだ。


「……ますます、おかしい具合になっとるな、あやつ」


 ため息をつくように“木のうろ”は呟き、ミヒーロは肩を落とす。

 まるで嵐のような訪問であった。


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