2章”新宿北今川事件”3
今回は短めになっております。よろしくお願いします。
今川は松永らから逃げていた。思っていたよりも敵が強い、という誤算はあったが未だ計画の成功は揺るぎない、そう今川は確信している。瀬名、朝比奈、岡部は奴らに負けないくらい強いし、万が一、いや億が一、彼らが負けたとしても自分がいる。自分なら奴らごときに遅れは取らない。それにこちらにはこの計画の共謀者かつ作戦担当でもある酒井忠子もいる。彼女の智謀ならどんなに不利な状況に陥っても乗り越えられるに決まっている。そんなことを思い、口に微笑を蓄えていた今川の表情は拠点に戻り、驚愕の表情に変わった。大量にとったはずの人質は1人たりとも残っておらず、代わりにいたのは人質を任せた同志たちが横たわる姿とスーツを着た3人の警官だった。
黒田ら4人は人質の元へと向かっていた。
「班長は、最低限、とおっしゃっていましたが人質のまわりの敵は徹底的に叩きます。いいですね」
黒田の号令に蒲生は答える。
「それが副班長殿の意思なら尊重するさ、第一、こうなることも松永の予想通りだろうしな」
黒田は最後の言葉につっかかる。
「予想通り?予想通りってなんですか!」
黒田の叫びに井伊は目を丸くする。
「あら、気づいていらっしゃらなかったんですか、副班長」
「え、え、え?」
透明化している細川も発言の意図が分からず思わず声を上げる。
「ん、お前ら分かってなかったのか。いいか、松永の真意は、おっともう敵さんと遭遇か。黒田、おっと副班長か、この話の続きは松永本人から聞いてくれ。さてとやるか!」
そう言って蒲生は臨戦態勢に入る。
「え、ちょ、くそ!」
黒田は釈然としない感情を怒声にのせ気持ちを切り替え、敵に向かって行った。
「なんだ、雑魚だらけだったな」
蒲生は手を払いながらそんなことを言う。
「人質も全員、無事に解放できました」
人質を逃がす役割を担った細川と井伊が戻って来てそう黒田に報告する。
「そうですか。何かおかしな点はありましたか?」
黒田は聞く。
「ええ、誰にも怪我などは無かったんですが何ていうか、妙に怯えてるというか....。いえ、テロなんかに巻き込まれて怯えるのは当然なんですが少し異常とも言えるような怯えようで....。」
細川はどもりながら報告する。
「わざわざ報告するほどということは相当に怯えていたのか。どういうことなんだろうな?」
蒲生は首を傾げなから言う。
「....皆さん、考えるのは後にしましょう。敵の大将のお出ましのようですよ」
井伊はそう言いながら背後を見据える。そこには驚愕の表情の今川が立っていた。
今川とて何もない一般人をテロに連れ出したわけではない。勿論、全員手練れと言えるような人間だ。少なくともたったの3人、3人にのされるような軍ではない!今川は驚愕、怒り、動揺などに彩られた混乱した感情を必死に整理する。
「あんたがテロの大ボスか。覚悟はいいな?」
腕を回しながら蒲生は今川へと向かう。それを黒田が止めた。
「待ってください、投降するかどうか確認するのが先です」
それを聞き、今川は怒鳴る。
「投降だと!?笑わせんな!そんなもんするわけねーだろ!」
「今し方、味方から連絡を貰ったんですが貴方のお仲間は既に班長たちに倒されたそうです。もう諦めて投降してください。今ならそんなに罪は重くならないはずです。」
黒田は今川に冷静に状況を報告する。だがその報告は今川を激昂させる助けにしかならない。
「黙れ黙れ黙れ!俺は社会のためにこの計画を遂行したんだ!仕事も捨てて、家族も捨てた!こんなとこで諦められるわけねーだろがあああ!!」
そう叫ぶと今川は懐から黒い液体の入った注射器を取り出し腕に刺した。
あああああ、という絶叫のあと今川の様子が変わる。目は真っ赤に充血し、肌は黒くなり息も荒々しくなる。体型は大きくは変わってないようだが危険度が増したのは明確だ。
「こいつはまずいかもなあ。副班長殿、ここは2人でやるぞ!」
蒲生はそう叫ぶ。黒田は了承の頷きをし、刀を据えて目前の奇怪とも言える今川の前数mほどに構えた。
松永と大浦は前田の元へと急いでいた。
「前田さん、大丈夫でしょうか....」
大浦は不安気に呟く。
「....無事であって欲しいとは思うがまあ覚悟はしておいた方がいいかもねぇ....」
松永は本気かジョークか分からないようなことを口にする。
「そんなこと言うのやめて下さい!」
大浦は松永に怒りの声を上げる。
「申し訳ありません、私が早急にこのことを分かっていればこんなことには....」
無線越しの佐竹が申し訳なさそうに言う。
「....相手はどうやら精神操作系の能力覚醒者だ。佐竹君がそんなに気に病むことではないよ」
松永は佐竹に励ましの言葉を投げかける。
「いえ、私の力不足が招いた事故であることは明白です。こんなことでは警察失格です....」
佐竹はそう言って更に落ち込む。
「....そうやって腐っているのが君の仕事か?佐竹君。」
松永はいつになく真剣な口調で無線越しに話しかける。
「君の仕事は事件に一枚噛んでたと思われる精神操作を持つ能力覚醒者の調査、そして”組織”の調査だ。反省するのはそのあとにしたらどうだい?」
松永の叱咤に佐竹は、はっとする。
「....申し訳ないです、班長。少し弱気になっていたようです。今すぐに調査を始めます」
そう言って佐竹は気を持ち直し、調査を始めた。
「うん、それでいい。それで佐竹君、前....」
「前田さんの位置なら班長にデータを送っておきました」
「安心したよ、どうやら完全に本調子だね」
そう言って松永は大浦と共にデータでは後230mほどと表示されている場所へ向かった。
次回で今川事件は最後となります。
ピンピンしてるように見えますが松永はちゃんと(?)怪我してます。
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