⑫『選抜クラス発表! 熱狂の学内とメリアの苦悩』
「え~みなさん、突然ですが、この度、高等部に於いて選抜クラスを発足する事となりました」
試験翌日。突然空中に現れた映像から、学長イクスの唐突な全校通達が始まり選抜クラスの試験概要が発表された。
「選抜クラス? なんだそれ?」
最初は、生徒たちの反応はいま一つだった。また面倒な試験が増えるのか、と誰もがけだるげに聞いていた。
しかし、イクスの朗らかな声で放たれた次の一言でアカデミー内は文字通りひっくり返るような大騒ぎとなった。
「選抜クラスの講師については、六英雄のリーアさんと私、イクスが中心に講義を行います」
「「「!!!!!!」」」
一瞬の静寂の後、地鳴りのような歓声が上がった。
「六英雄が直接指導だと!? マジかっ!!」
「あの生きる伝説から魔法を教われるチャンスなんて、一生に一度あるかないかだぞ!?」
「また、試験は一ヶ月後。初級部から超級部まで、すべての皆さんに受験する権利を与えます。
それまでは、一切の授業を自習とします」
「!? こうしちゃいられねぇ! 今すぐ寮に戻って魔導書を一から読み直しだっ!」
講師がイクスとリーア。その事実だけで試験の憂鬱さなど世界の彼方へ吹き飛び生徒たちは目の色を変えて色めき立った。
一ヶ月間すべての授業が自習になったことも彼らの火に油を注ぐ結果となった。
校舎のあちこちから上がる興奮の声をメリアは窓辺で頬杖をつきながら完全に他人事として眺めていた。
すると、イクスがさらに笑顔を輝かせて言葉を続けた。
「自習期間中、不明な事は講師が質問に答えますので、遠慮なく質問して理解を深めてください。
あ~、それから、今回編入したメリア君はリーアさんの直弟子ですので、分からない事は彼女にも聞いてみるといいでしょう」
「メリア!? あの一番後ろの青髪の子か!」
「試験では学長が作ったゴーレムを、一人で超級魔法を使って倒したんだとか?!」
「しかも受験生全員を吹っ飛ばして説教したって聞いたぞ!」
(!! あのクソエルフ! なんて余計な事を!! 早くトンズラしないと!!)
全校生徒の畏怖と好奇の視線が一斉に自分に集まる気配を感じ、メリアは内心で激しい怒りを沸き上げながら全力でその場から逃げ出す準備を始めた。
一刻も早くこの場から去ろうと出口の扉に手をかけた、まさにその時。
背後からじっとりと張り付くような、まるで地縛霊に呪われたかのような声で話しかけられていた。
「……メリアちゃん……」
「ひっ!? さ、サラ! どどど、どうしたのよ!?」
振り返ると、そこにはどんよりとした暗雲を背負ったサラが立っていた。
「ひどいよメリアちゃん……。リーア様と知り合いだったのを、ずっと隠してたなんて……」
「! い、いや、それは……! あんな馬車の中で『実は私、六英雄のリーア様と知り合いです』なんて言ったら大騒ぎになるじゃない!
悪気はなかったんだよ! ほんと、ほんとだからっ!」
「「「「「「・・・・」」」」」」
サラはメリアの必死の言い訳が右耳から左耳へと抜けているのか、普段の可愛らしい顔に全く似合わない奈落の底のような恨めしい目でメリアをじぃぃぃっと見つめ続けている。
(いや〜〜! その目やめてぇ〜〜! 夢に出る!!)
冷汗を滝のように流しながらメリアは脳細胞をフル回転させて最大の妥協案を叫んだ。
「! あ、そ、そう! 実はね、この間、アカデミーを案内してくれたのお礼にサラがリーア様に弟子入りできるように、私から紹介してあげようと思ってたの!」
「!?え? ほんとに?」
サラの目のハイライトが、一瞬で戻ってきた。
「う、うん、ほんとだよ! ほんと! 試験が終わって落ち着いたらちゃんと紹介してあげようと思ってたの。だから、お願いだから機嫌直して!」
それを聞いた瞬間、サラの表情が一気に春の陽気へと早変わりした。
「そうだったのね! ありがとうメリアちゃん!」
「うん、リーア様に弟子入り出来るよう、私からもお師匠様にお願いするから!」
「ありがとうメリアちゃん〜〜! メリアちゃんが天使に見えるよ〜〜!」
「そ、そんなに感動しなくてもいいよ……」
抱きついてくるサラを苦笑いで受け止めながら、メリアはふと、リーアのあの「地獄の修行」を思い出し背筋に寒いものを感じた。
(……もし本当に弟子入り出来たら、私のこと、悪魔の使いに見えるんじゃないかな……)
そんなこんなでアカデミーから逃げる様に脱出した後、メリアはさっそくサラを連れて、居候先であるリーアの屋敷を訪れた。
「わぁ……! ここが、あのリーア様の家……!」
サラは門をくった瞬間から、聖地巡礼に訪れた信者のように目を輝かせ、震えている。
「そう。一応、他のみんなには内緒ね」
「そんなの、もちろんだよ! にしても、こんなに大きなお屋敷に、リーア様は一人で住んでるの?」
「う、うん……リーア様ともう一人、二人で……」
「二人で!? リーア様を独り占めするなんて、なんて贅沢な奴! 一体どこのどいつよ!」
「そ、ソーデスネ。あはは……」
(それ、私だなんて言いづらい・・・)
サラが激しい嫉妬の炎を燃やす同居の対象が、まさか目の前の自分だとは言えず、メリアはぐったりと精神を削られながら、テンションMAXでのサラと共に屋敷の扉を開けた。
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