魔王の悩み(後半、魔王視点)
「う、ん…?」
『あ、目が覚めた?』
「???」
『ユーレンシア!大丈夫?おーい』
「貴方は……サン?サン!!」
私は思わず飛び起きた。随分と大きくなっているけれど、その面影と独特の声音は変わっていない。
『良かった!ユーレンシア!』
「サンーーーー!」
思わず腕を伸ばして抱きしめたサンは、「わわ」と言って慌てた。
「あ、ご、ごめん…つい」
『ううん。具合は大丈夫?これ、飲める?』
綺麗なゴブレットに薄茶色の液体がゆらめいている。「ありがとう」と言って飲んだそれは、麦茶に近い味わいだった。
「サン…ここは?イチとニイは?」
『ここは、魔王城の客間だよ。イチは魔王様と話してるんじゃないかな。ニイは……』
その時、コンコンと扉が叩かれた。
「あ、ちょうど来たみたい」
首を伸ばして扉の方を見ると、褐色の肌が覗いた。よく見ればそれは細身の女性である。
『ユーレンシアが目覚めたんだよ!ニイ!』
『本当か!?』
細身の女性は持っていた籠を落として、ベッドに駆け寄って、私の顔をまじまじと見た。
『ああ!ユーレンシア!!どんなに心配したか!』
「えっと……?」
『ん?どうしたんだ?』
「はじめ…まして?」
『なんの冗談?僕だよ、ニイ!』
「ニイ?……って、え?ええーーーーー!?ニイ、女の子だったの!?」
✳︎ ✳︎ ✳︎
『魔王様、ユーレンシアが目覚めたそうです』
「報告ご苦労。イチ、お前も闇の聖女の所へ顔を出してやれ」
『あ…俺は…いえ、ありがとうございます。そうさせていただきます』
イチはきっちりと腰を曲げて一礼すると、キビキビとした動作で去っていった。
「ふむ、どうしたものかな」
あの人間の女は、どうやら二つの魂が介在していることに自覚していないどころか、核心を突くと混乱するらしい。
「全く。厄介だな」
二つの魂が融合している以上、こちらとしてはまだ魔界の住人として招くわけにはいかぬ。
「闇の聖女・ユーレンシアか…」
魔界堕ちしたのなら、誰かに恨まれ殺されたと言うことになる。聖女なのに?
(いや…)
あの魂の煌めきは、時として疎まれることもあるだろう。容貌がどうであれ、良くも悪くも目立つのだ。
(しかし、闇の聖女というにはあまりにも眩しすぎる)
どちらの魂だろう、と思う。二つあるうちの魂のどちらが、あんなにも眩い光を放っているのだ。
(そう、まるで、産まれたばかりの魂の煌めきのような…)
恐らく自我を持っている方が乗っ取ったのだろう。だがそれは決してあってはならぬことだ。そんなことをしでかしたのならば、死後の魂は現に留まり彷徨う御霊となるはず。だが、堕ちたとはいえ、私の前に来た。
(確かに、話してみて、そんなことをするような者ではなさそうだ。ではなぜ……。全く、とことん分からぬな)
ちらりと見る天井は、相変わらず薄暗い。
正直、こんな問題に心を砕くほど、魔界は豊かではない。
(私が無能なせいで…)
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