第20話
しんと静まり返った駅構内、木のバットが床に転がっているのが見える。
また戻ってくることを考えて、ひとまずバットはそこに転がしておくことにする。
いまはとりあえず金属製のゴルフクラブを手に持ち、駅の出入口へとひた走る。
周囲を警戒していたが、そのまま何事もなく、無事に外へと出られた。
明かりのほぼ無い駅の構内から日の光の下へと出ると、こんな状況でも少しほっとする。
藤次は周囲を見渡すが、こんな時に限ってモンスターの一匹すら居ない。
盗賊スキル内にあるであろう【索敵】スキルがあれば、離れているモンスターを補足することも
可能なのだろうが、それが無い以上、足を使って走って探す他はない。
いや、高い場所に登り、目を使って探すというのも手だが、モンスターといえど生き物であり、
発見してから現場に移動するまでの間、そこに居続けるという保証もないので、やはり足で探すのが
この場合は正解だと思うのだ。
駅の周囲にモンスターがいない理由は、それだけこの場所が危険地帯だからとも考えられる。
駅構内での体験が無ければ、こんな風に考えることすら無いのだろうが、あれだけ強い
モンスターの縄張りであるのなら、ここからなるべく離れた場所である方が
モンスターと遭遇しやすいかもしれないと藤次は考えた。
走って、ただひたすらに走って、30分ほど離れたところで、瓦礫に腰をおろして休憩する
豚人間(これ以下オーク)の集団を見つけた。
すぐに物陰へと隠れて、様子をうかがう。
少なくとも見えているだけで5体はいる・・・・・・これは無理だ。
ゲームではそれほど強敵ではないかもしれないが、それぞれが武器として石槍を持っている。
何やらブヒブヒとオーク語とでもいうような言葉で談笑しているところを見ると、それなりに
知性もあるようだ。
藤次は、どうにかオークが一匹だけにならないかと身を潜ませて様子を窺う。
そこで最悪なことに、自分が隠れているのと反対側から一匹のオークが近づいてくるのに気が付いた。
しかもそのオークは、肩に人間を一人抱えていた。
6匹。
もうダメだ、これは別の獲物を探すしかない。
そう思って静かにその場を離れようとしたとき、何やらオーク語での激しい言い争いが始まった。
なんだ?
「びひぃ! ぶひぶひ! ぶーもぶーも!」
「ぶぶーひ、ぶーも、ぶうぶう!」
肩に担いでいた人間を地面に降ろしたオークが、談笑していたオーク5匹と何か言い争いをしている。
オーク語は分からないが、しばらく様子を見ていると、お互いが石槍を構えて威嚇し始めた。
どうも捕獲してきた人間をどうするかで揉めているのではないかと推測する。
肩に担いできたオークは、よだれを垂らしているところを見るに、たぶん食べるために人間を
捕まえてきたのだろうが、5匹のオークははちきれんばかりの股間を振っているところ見るに、
つまり性的な行為に人間を使いたいと主張していると思われる。
下種野郎め・・・。
まぁそれを冷静に見ている俺も同類だが、機会があれば全員殺してやる。
それに、もしやこれは、漁夫の利を突けるチャンスなのではないだろうか。
だが5対1では、数の暴力で食欲オークの方があっという間にやられてしまうだろう。
がんばれ食欲オーク! 性欲オークなんかに負けるな!
そう心の中で応援した瞬間に、5匹の中でも一番後方にいた性欲オークの1匹が付き出した石槍が
仲間だと思われた性欲オークを一突きで刺し殺した!
あいつ、寝返りやがったっ!
食欲が性欲に勝った瞬間だった!
「ぶヒィッ!?・・・ぶぼぶぼぼぉぉ・・・・・・」
腹から槍を生やしたオークは、口から大量の血を吐いて、その血によって酸欠に陥ったため、
後半の言葉が尻すぼみとなる。
仲間の突然の凶行に、残った3匹が驚きから後ろを振り向いた瞬間、食欲オークの鋭い槍の一撃が
一番前にいた性欲オークの命を刈り取った。
頭はあまり良くないようだ。
食欲オーク2体が、性欲オーク2体を挟み撃ちにする構図が出来上がったわけだ。
そこからさらに乱戦となり、結局勝ったのは運が味方をした性欲オーク1体だけであった。
「ぶもぉぉぉぉぉっッ!!!」
傷だらけの血まみれになった性欲オークは、腕を振り上げて勝利の雄叫びを上げた。
そして大量の血によって興奮しているのか、そのまま勝利の景品である人間の所まで
のっしのっしと歩いて行く、その後ろを藤次はコソコソとついていく。
馬鹿めが・・・。
慎重に後ろをついて行きながら、仲間割れで絶命したオークが持っていたであろう獲物、
藤次は不器用ながらも、金属製のゴルフクラブを右腕の脇で挟んで持ち、左手で血まみれの石槍を
1本拝借していく。
オークはよっぽど興奮しているのか、まったく後方に気づく様子が無い。
だがまだ手を出さずに、いつでも攻撃できる位置にある物陰に隠れて様子を見る。
性行為に及ぶ、それは生物である故、絶対に避けられない一番無防備となる瞬間を狙う。
そんなことを考えていた藤次は、突然思いがけない言葉を聞くことになる。
「くっ、殺せ!」
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