第10話
家を出るとき多少の飲み食いはしたが、あれからなんやかんやで8時間近く経過していた。
床は硬かったが、緊張の連続で疲れていたのか、仮眠のつもりが、割とがっつり寝てしまった。
そして今回もまた、喉の渇きで目が覚めた。
スキルで作った不思議部屋にいれば、たしかに安全だ。
新鮮で美味い水はいくらでも手に入るようになったし、トイレも完備だ。
実感はまったく無いが回復もしているらしい。
だが、ずっとここに引きこもっているわけにはいかない。
なぜなら、その理由がいまこのときもお腹の辺りでぐぅ~っと抗議の声をあげているからだ。
言ってしまえばお腹が空いている。
喉を潤すことで多少は気を紛らわせることはできるものの、根本的な解決には至らない。
時間的に外を覗いた限りでは、まだ暗くはなっていなかった。
ここらで食料調達にいくべきだろう。
幸いなことに、歩いて10分圏内にそこそこ大きなスーパーがある。
ドアから出て、周囲を見回すと、なぜか自分が倒したはずのモンスターの死体が
跡形も無くなっていた。
死体のあった場所に、半透明の紅いビー玉のようなものが落ちていた。
「ドロップアイテムか、まぁただの紅いビー玉かもしれないが、とりあえず拾っておこう」
紅いビー玉を拾ってポケットに入れておく。
周囲を見回し、ふと空を見上げると夕焼けが綺麗だった。
暗くなる前にと、急いでスーパーへと移動する。
スーパーの近くへ来たが、ここに来るまであれだけ遭遇していたモンスターの姿を
一匹も見かけなかった。
空はだんだんとうす暗くなっており、なぜだか背筋にぞくぞくと嫌な予感がする。
抜き足差し足忍び足でこっそりとスーパーに近づき、中をそっと伺う。
店内は暗く、モンスターの姿もなく、誰も居ないように見えるが、商品はだいぶ
荒らされているように見えた。
電気が来ていない自動ドアを、誰かがこじ開けたのであろう隙間からそっと店内へと入る。
店内に入ると、何かすえたような臭いが鼻をつく。
電気が止まったことで、生鮮食品は悪くなっていく一方であろうが、まだ腐るというほどではないだろう。
ということは、この臭いは何か別の原因があるということになる。
気を引き締めなおして、店内を用心深く進む。
途中に持ち帰り用のマイバッグが売っているコーナーがあったので、ひとつ拝借する。
清算していないマイバッグに、かさばらなくて、なおかつ日持ちする食料品を詰めていく。
先に入った人がいるのであれば、真っ先に無くなっていると思っていた缶詰がまだそれなりに
残っていたのは嬉しい誤算であった。
おおよそ何事もなく無事に食料を集め終わり、ホッと一息ついた一瞬の気の緩み。
肩から腕にかけて、一瞬焼けるような熱さを感じ、手を離したわけではないのに、
利き腕ごとマイバッグがどさっと床に落ちたのを見た。
藤次は咄嗟に、その場から転がるようにして逃げだした。
重症ほど、ショックで痛みが来るのが遅いという説がある。
小さい傷ほど痛いが、それは体が自然治癒しようとする痛みであるらしい。
とっさに痛みを感じない傷こそまずいと誰かが言っていた。
そして藤次は、腕に痺れるような違和感は感じているが、痛みをまだ感じていなかった。
痛みが来る前になんとか逃げなければ、このまま殺されるだろう。
背後から何かが猛スピードで追ってくる気配がする。
だが後ろを振り向いている余裕はない。
咄嗟に商品棚の角を曲がり、さらに別の商品棚の間を走っているところで、従業員専用の
扉から、こっちに必死の形相で手招きしている人間の姿が目に入った。
どこをどう走ったかまったく覚えてないが、フェイントをかけ、モンスターを引き離すことに
成功し、なんとか従業員専用の扉へ転がり込んだ。
「いいわ、施錠して!」
そんな女性の声を聞いたような気がして、どこか安心したのか、突如襲う腕に走った鋭い痛みと、
失血による貧血のような症状で、藤次は気を失った。
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