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占いの館

 頭が、真っ白になった。


 二人の姿を、ボーッと目で追っていく。


 歩道橋を渡り終え、その姿が見えなくなり、初めて僕が涙を流していたことに気が付いた。


 ……えっと、どうすればいい。


 この世界に来てからテンパってばかりだ。


 このままじゃ精神が保たない。



 ……そうだ。こういう時、うってつけの場所がミラプリにあるじゃないか!



 僕は右腕で両目を拭い、横断歩道を渡って真っ直ぐと駆け抜けた。


走ったお陰で1分も経たないうちに目的地へ到着。


 50年以上前に建てられたであろう、青い瓦屋根の古い民家。


 ここが、占いの館である。


 大きく『占』と書かれている紫色の、のれんをくぐる。


 「おや?」


 黒いレースの花柄が付いた服を身に纏った老婆が、すぐ目の前に現れた。


丸い水晶を小さな木の台に置いて、これまた小さな木の椅子に腰掛けている。


「珍しいお客さんだねぇ」


 彼女が、『占いばあさん』と呼ばれる人だ。


「お前さんみたいな若造はあんまり来ないのだけども……」


 そっか、やっぱり来ないんだ。


 ミラプリやってる時は、見飽きる程お世話になっていたのにな。


「ごめんなさい、こんな朝から来てしまって……」


「別にいいさ。ここに来たってことは、なんか占ってほしいんだろ?」


「はい……。とりあえず、今日の運勢をお願いします」


「あいよ」


 そう言うと、占いばあさんは水晶の前に両手をかざして、中をじーっと凝視した。


いつも思うが、こんなので本当に未来が見えるのか甚だ疑問である。


「おや……。今日のお前さんの運勢は、吉だね」


「え、ほんとですか!?」


「不満かい?」


「いや、そんなことないです!」


 むしろ、めちゃくちゃ嬉しい。


 この占いは大吉・吉・小吉・凶・大凶という5段階の運勢が出ると決まっている。


ゲーム内で初めて占いの館を訪れた場合、必ず『小吉』が出るように設定されているのだ。


いきなり『吉』が出るというのは、チートを使わない限り有り得ない。


「この後、どんなことが起こるんですか!?」


「アタシに訊かれてもわからんよ。神様だけが、知っていることさね」


 あれ、いつも何が起こるか言ってくれるんだけどな。主人公じゃないから?普通に悲しい。


「それにしても……」


占いばあさんが首をひねる。


「初めてだねぇ、新規のお客さんで吉が出るなんて」


「やっぱりそうですよね!?ホントに小吉じゃないですよね!?」


「あぁ。小吉ではないぞよ。というより、お前さん」


 占いばあさんが訝しげな顔で僕の目を真っ直ぐ見る。


「なぜ、小吉が出ると思ったのかね?」


「あ、いや、それは……」


 マズい。僕は新規のお客さんだった。ゲームの設定言っちゃダメじゃん!


「な、なんとなーく。なんとなーく、です」


「なんとなく……」


「もしかしたらなぁー……みたいな?」


 占いばあさんは表情を変えない。うわぁ、変な空気になった。こんなんばっかりかよ。


「……なぜ、占いの館へ来たんだい?」


「へ?あぁ、えっとですね。朝からちょっと……いや、かなり嫌なことがありまして。


それで、占いの館で占ってもらって、今後どうしたらいいかアドバイスをもらおうかなぁ、と思いまして」


「ほほう。アタシがお前さんにアドバイスかい」


「そうです。いつもやってますよね?」


「いつも……?」


え、やってないの。っていうか、また『いつも』とか言っちゃったし。ヤバいこわいどうしよう。


「……ちょっと、変なこと聞いていいかい」


「ひゃ、ひゃい。大丈夫です」


 なんだろう。死ねとか言われるのかな。


「お前さん、どこから来たんだい?」


「えっと、ファニーマートとカカスの辺りから」



「お前さん。この世界の住人じゃないんだろう?」



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