第8話「もうちょっと状況をみると、更に塗れるようになるかもよ?」
どこかの都市の住宅街。その一隅にある邸宅に、黒髪をさらりと流した女性が。サティスファクション都である。今日もちゃぶ台を前に座っている姿勢は様になっている。優美ですらあった。
そんなサティスファクション都に付き従うように対面に座っているのが、犬飼美咲である。その横に城茂美、ちょっと遠くの畳の間に、ニシワタリがのそべっている。
「シャケ負けたデスヨー」
どうにも『スプラトゥーン』のフェスの結果に落ち込んでいるらしい。
「ワタクシ、相当勝ってたデスヨ? 100番入らなかったデスケド」
「こればっかりはどこまで個人の力が及ぶか分からないからねえ。実際の所、得票も勝率も僅差だったから、強い人も弱い人も均等に居た結果、微妙な差として今回の勝敗があった、と言うべきでしょうね」
「そう言う意味では、『スプラトゥーン』のプレイ層も幅広くなった、というべきだろうな」
茂美の言葉に、サティスファクション都は頷く。そして、視線は美咲に。
「さて、美咲。今回のフェスはどうったかしら?」
「うん、お祭りって感じだったね! シオカラーズ可愛かったよ! いつもと違う曲でバトルするのも楽しかった!」
その言葉と表情に、サティスファクション都、茂美、ニシワタリは「うわーっ」と視線を逸らす。
「どうしたの?」
「いやあ、初心者の眩しさって本当にあるのね。浄化するかと思ったわ」
「ああいう頃が、自分たちにもあったんだよなあ。どうして……」
「目ガ、目ガー!」
三人が一様に謎のダメージを受けているようであった。それはさておき、と美咲が口を開く。
「でも、フェスでは中々勝てなかったよ。塗る戦いは慣れているつもりだったけど、どうにも上手く戦えなかった気がする」
「成程、自分の力が及ばなかった気がする訳ね?」
「うん」と美咲。
「成程成程。なら今回はそこらへんをお題にしましょうか」
「でも、どういう内容にするんだ? 『スプラトゥーン』において、塗ることは結構範囲の広い話題だと思うが」
「デスヨ、サティスファクション都。あまり広いと話がまとまりマセン。既に怯え入っているという情報もアリマス」
「誰がよ」
「誰かがデス」
それはさておき。
「じゃあ、今回は一味違う塗りというのを考えていくと言うのはどうかしら」
「一味違う?」
茂美の訝しげな視線を、サティスファクション都は動じずに受ける。
「そう、一味違うやつよ。ということで題しましょう」
“もうちょっと状況を見ると、更に塗れるようになるかもよ?”
と、またもどこからか出てきたホワイトボードに書かれていた。
「状況判断、か。何か秘策はある話なんだろうな?」
茂美の依然続く訝しげに対し、サティスファクション都はやはり動じない。
「そう難しい話でもないと思うわね。ケーススタディっぽくやっていけばいいのよ」
「……?」
「つまり、こういう場合よ。例えば一回やられた時はどうしていくか、とかそういうのを考えていくのよ」
「一回やられタラ、勿論リスポーン地点付近の塗り残しを潰すデショ」
「とっとと前線に戻って援護じゃないのか?」
「ほらほら、そう言うことよ」
「?」とする二人に対し、聞いていた美咲が代わりに答える。
「場面場面でどう動くべきか、が分かればいいってことかな?」
そうね、とサティスファクション都。
「今の喩えなら、やられた後の動きはどうするべきか、というのにはいくらかパターン分けが出来るのが分かるわね?」
「だが状況次第、だな」
「そう。でも、どういう状況なら、というのはセオリーでしかない。その中で如何に塗るか、という話をしたい訳よ」
「状況判断を塗るを考えて、と言う訳か?」
「そうね。美咲、試しに聞くけど倒すのに自信はある?」
サティスファクション都の問いに、美咲は渋い顔をする。
「前よりは出来るようになったけど、苦手意識はやっぱりあるね。それが原因で勝てなかったのかな?」
その言葉に、サティスファクション都は首を振る。横に。
「ナワバリバトルに関して言えば、それが原因とは、単純には言えないわね。ナワバリに置いて必要なのは、塗る力と、生き残る力よ。倒す力もあればいいけど、無くてもどうにかなるの」
「塗る力と、生き残る力」
美咲の言葉に、サティスファクション都は強く頷く。
「だから、まず最初の喩え、一回やられたらどうするかの話をしましょうか」
“やられたらどうする?”とホワイトボードに。
「とはいえ、それ程多くのバリエーションはないんじゃないか?」
茂美が言う。然リとニシワタリ。
「リスポーン地点が大体塗られていたら、攻める以外に無いかと思いマスガ」
「そこの判断の切り分けが、まず重要なのよ。なんのかんので私たちはその辺慣れてるじゃない? 発売から一年近くやってるし。でも、美咲はまだまだこれからな訳よ。このゲームの初級者な訳だし」
「確かに、状況判断はどのゲームでも必須デスガ、『スプラトゥーン』は3分の間に劇的に、それも場合によっては何度も変わりマスカラネ」
「でも、この辺りは熟練していくしかない分野じゃないか? 簡単に話せるとは思えないが」
「まあね。城の言う通りではあるわね。でも、もっと場面を切り分けて考えれば、比較的話し易いかもしれないわよ?」
「……例えば?」
「やられた時に、どこを見るか、という話にしたらどうかしら? 美咲、あなたはやられたら、何時もどこを見ているかしら?」
ふられた美咲は、質問に答えようと思いだそうとするが、しかし。
「ギアに色々付いているなあ、くらいしか見てないね。後、相手の名前とか」
そこで、茂美がああ成程、と。そして言う。
「美咲、その状況では、見るべきはもっと違う所だ」
「え、他にどこを?」
「ゲームパッドだよ」
サティスファクション都が頷くと、ホワイトボードに書き込む。“ゲームパッドを見る”。
「ゲームパッドを見るの?」
「ああ、ソウデスネ」
受けるのはニシワタリだ。
「やられた状況では、まずしばらく動かせマセン。だから、ゲームパッドを見て、マップの塗られている状況を確認するのがオススメデスヨ」
「勿論ギア構成を見るのも重要ではあるが、それよりまず塗り状況を確認して、これからどう動くかを考えるのがいいんだ」
「そうね。そこで、まず自分の陣地、塗られている部分を確認するのは大事なのよ。それを見てから、どう動くか、というのもね」
「……どうだったらどう動けばいいのかな?」
おずおずな美咲に対して、サティスファクション都は優しく接する。
「それくらい自分で考えなさい?」
眼光鋭く。
「ヒッ」
「……優しく接しろよ」
「冗談よ、冗談。まず最初だから、色々と例示してみましょうか。まず、自分のリスポーン地点が塗られていない場合。これは当然塗っておくべきね。相手の進行速度とかも加味したいところだけど、まず塗っておくのはそんなに悪い選択ではないわ」
「でも、やられたら皆も塗るよね?」
「その通り、塗られてしまっていては、細々とある部分程度しかないから、もっと前に出るべきタイミングね。でも、ここでもゲームパッドを見るのが有効な手筋な訳よ」
「どうして?」
「そこから、スーパージャンプで飛ぶか、イカで行くかの選択をするからよ」
そう言って、サティスファクション都はホワイトボードに書き込む。”ジャンプか、イカか”。
「塗る場所を求めて前に出るには、どの道この二つしかないからね」
「スーパージャンプは高性能な移動手段デスガ、着地に相手がいると着地狩りされる場合がアリマス。しかし、一秒でも早く、であるこのゲームとしては、それを捨て去るのは勿体ナイ。そう言う時、味方の状況が塗りの形で分かってくるノデスヨ」
「塗り合いな状態の場所に飛ぶのは自殺行為、ということ。逆にそうなっていない場所は安全、ということだな」
「その辺が分かってくると、中級者と言えるわね」
「成程ー」
美咲が感心しているのを見つつ、サティスファクション都は続ける。
「やられてリスポーン地点に戻るまでにゲームパッドを見るのは、この前に行く時にもう一つ役に立つわ」
「まだあるの?」
「あるのよ。塗りの進行方向で、相手がどの辺りを攻めているのかが分かるの。塗っている部分のせめぎ合いが、大体の相手の侵攻具合だから、上手くやればその裏をかける場合もあるのよ」
「相手を無視して進んで相手陣地を塗る。所謂裏取りだな」
そうね、とサティスファクション都。“裏取り”とホワイトボードに。
「ただ前線に出て撃たれて負けるなら、相手の裏をかいて塗りを広げる、というのも立派な戦法よ」
「……効果はあるの?」
「ケースバイケース」
サティスファクション都は素直に答える。
「結局相手も塗る訳だから、中々上手くは決まらないわね。でも、撃ちあいが苦手というなら、そういう選択肢もあるというのも、覚えていていいと思うわね。結局、ナワバリは塗った方が勝つわけだから」
「成程なー」
「さておき、次の局面ね」
ホワイトボードに記載される。
“残り30秒。どう動く?”
「これはさっきよりも中々に複雑な状況だな」
茂美の言葉に、サティスファクション都はそうね、と頷く。
「でも、重要なタイミングでしょう?」
「タシカニ。ここ一番の勝負所ではアリマスナ」
「もうちょっと状況を限定した方がいいんじゃないか? このままだと状況の範囲が広すぎるぞ」
「なら、デカライン高架下、ほぼ五分五分の状態、共に味方がいない、としましょうか」
“デカライン高架下”“五分五分”“共に味方なし”とホワイトボードに記載される。
「この状況で残り30秒。さてどうするかしら、美咲?」
「うーん」
美咲はしばらく考えて、そうだね、と切り出す。
「中央に突撃!」
「わりとウォーモンガーね。でも悪くないわ」
「わりとウォーモンガーだな。無理がある」
「わりとウォーモンガーデスナ。ただし、ブキ次第デショウカ」
各々に好きかって言う。そこからまず、ニシワタリが切り出す。
「想定ブキは何デス、美咲サン?」
「最近使ってる、シャープマーカーだよ」
「成程。それなら特攻もありデショウ」
「そうか? 味方の復帰を待って、一気に行くべきじゃないか?」
「それは城の想定がチャージャーだからデショウ? 塗りブキならきっちりと前面に攻めきるべきデスヨ」
「そうか?」
「そうデスヨ」
「そうかなあ、いや、ここは言いだしっぺの都くん、君の意見を聞こうっ!」
「そうデスヨ。話をふった本人に答えを聞きマショウ!」
話の方向をふられたサティスファクション都は、悠然と答える。
「美咲の想定なら攻めるのはそんなに間違いじゃないけど、でもちょっと待って欲しい。この場合、場にいるのは自分だけじゃないのよ?」
「……そうだね、相手の人が一人、残ってるんだね」
「そういうこと」とサティスファクション都。
「だったら、どう動けばいいか、というのは分かるわよね?」
サティスファクション都の問いに、美咲は、うう、と唸り、そして言う。
「やっぱり、相手を倒すの? それは苦手なんだけどなあ」
その言葉に、サティスファクション都は、首を振る。横に。
「違うわ美咲。その局面だからこそ、塗るのよ」
「どこをどういじったらそういう答えが出てくるんだよ」
茂美は困惑顔の美咲を見ながら、そう言う。それに対して、ちっちっちっ、と人差し指を振るサティスファクション都。
「前線に出ていくのは、当然塗られているのが中央付近だから当然だとしても、そのまま戦うよりは、多く塗っていく方が勝利には貢献出来ると思うのよ。それに、美咲のように想定ブキがシャープマーカ―なら、ゲージを溜めてボムラッシュを狙う方が倒す方向にも役に立つわ」
そしてそもそも、とサティスファクション都は付け加える。
「中央に行くというのは悪くないんだけど、それよりも相手の裏をかく方が、この場合は有効だと考えるわ」
「どういうこと?」
美咲の問いに、サティスファクション都は答える。
「塗り状況が五分なら、正面から攻めるよりも横道から相手の裏を取る方が、塗れる場所も多いし、ゲージも溜まり易いじゃない? ゲージが溜まれば、ボムラッシュで更に一気に塗れるわけだから、ここはファイナル裏取りが正答だと、私は思う訳」
「それは結局あなたの趣味デショウ、サティスファクション」
訝る視線を受けても、サティスファクション都は余裕だ。
「当然そうよ? でも、悪い選択肢かしら?」
「……そこそこデスネ」
「……そこそこだよなあ、どこまで行っても」
「え? そんなことないでしょ?」
「あたしは、いい案だと思ったけど」
美咲の言葉に、他の三人は、つまりサティスファクション都も、うーんと苦い顔。
「やっぱりそこそこなのかしら」
「自分で言いだしたのに弱気になるなよ」
「そうだよ、都ちゃん。言ってることの正当性はともかく、説得力はあったから」
「正当性はともかく……」
「傷広げてはいけません、犬飼さん。見てくだサイ。落ち込んでいマスヨ」
「フォローのつもりだったんだけど……」
「まあ、〆裏取りとか都くんの趣味だから、参考にする程度でいいだろう」
「でも、そうなるとこの問いの答えってどうなるの?」
「ワタクシとしては、美咲さんの回答が案外正鵠を射ていると思いマスヨ。サティスファクションみたいに相手のことを理解しているのに無視するのは無茶だと思いマスシネ。中央で塗り合い撃ちあいして勝つ、というのがオーソドックスですが、ゆえに一番まともな選択肢でショウナ。残り30秒では、仲間待ちするより前に出るべきデスシ」
「ブキがシューターなら都くんの説も悪くはないかもしれないが、30秒だからこそ落ちる訳にはいかないんだから、待ちも選択肢としてはありだろう。ガン攻めはむしろ害悪だ」
「言いマスネ」
「言うよ」
睨みあいバチバチしている二人を脇に置いて、美咲は言う。
「……とにかく、この状況は難しいと言うのは分かったよ。ある程度、自分の勘を信じるしかないのかな?」
「限定したわりにまだまだ状況が複雑すぎたわね、このお題。まったく。誰が言い出したのやら」
「「お前だよ!」」
「冗談よ」
悪びれも無くそう言うサティスファクション都。とはいえ、と続ける。
「あまり限定し過ぎても面白くないからね。ある程度ふわっとした中で色々考えるのがいいのよ。考えて考えて、到達することに意味があるの」
「あ、いい風にまとめようとしている」
「そうよ?」
悪びれも無くそう言うサティスファクション都。とはいえ、と続ける。
「今回もぐだぐだしたわね。ここら辺で、遊びに移りましょうか。美咲。私のプレイをちゃんと見て、どこをどう判断しているか、気付けるようになりなさい?」
そう言うと、ホワイトボードはどこかへと消え、ちゃぶ台の上のゲームパッドからゲームを起動するサティスファクション都。美咲は分かった、というと画面を見始める。茂美もニシワタリも気を抜いて、画面を見る。しばらくの後、やいのやいのと話し出すその空間は、まさしくゲーマーの集まりといった風情である。そんな中にいるサティスファクション都とニシワタリが、ふと後ろを見やる。そして言う。
「ということで、状況を見て塗る、と言う話になったかと思うけど、どうだったかしら」
「もうちょい限定的な場面を考えるべきデシタネ」
「だから、あれ以上縛ると面白みがないのよ。……まあ、それはさておき。次回はどうしましょうか」
「マップ攻略めいたのか、ブキ攻略なのか、ガチマッチについてとか、その辺デショウネ」
「そうねえ、美咲もそろそろ慣れてきてるし、ガチマッチの方の話をしてもいい頃合いかしらね。でも、まだ作者の人がガチマッチに慣れてないからねえ」
「とりあえずC帯の話は出来るデショウから、そこを述べればいいんデハ?」
「それか、もうちょっと上げてからでしょうかね。そうなると遠いのよねえ」
「まあ、そこは鋭意頑張ってもらいましょう。さておき、今回はここまでね」
「そういうワケデ、また次回」
「都ちゃん、さっきのはどういう意図で裏取り狙ったの?」
「ああ、あれはね……」
わりと時間がかかったわりにはぐだぐだですが、書きたい気持ちはきっちり書けたので、問題ない。
さておき、『スプラトゥーン』では状況が目まぐるしく変わるので、安定行動というのがあまりないのですが、目安としての動きというのはそれなりにあるので、そういうのが書けたかしらね、とは思っています。まあ、思うだけなんですが。限定し過ぎるとあまりにローカルな状況になってしまうんで、ある程度状況を見て動こう、以外言えないんすよ。まあ、それが書けたので満足、したぜ……。




