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第五話「趣味でブキを選ぶのもいいかもよ?」

 鄙びた邸宅に、妖怪一人。サティスファクション都である。

「どうも、ゲーマー“妖精”、サティスファクション都です。ちゃんとオマージュ元の導入もしないといけないわよね」

「オマージュってなんなの、都ちゃん」

 そう問うのは、犬飼美咲である。今日も癖っ毛がもさもさして撫で心地が良さそうである。その頭をそっと撫でながら、サティスファクション都は言う。

「パクリ」

「パクリ。……いいのかそれ」

 そう言うのは美咲と一緒に付いてきている城茂美である。

 茂美の言葉にサティスファクション都は鷹揚に首を振る。

「オマージュ。オマージュよ、城?」

「いや君、さっきパクリって……」

「どうでもいい事はさておき!」

 サティスファクション都は美咲に問うた。

「美咲、『スプラトゥーン』の方はどうかしら?」

「え? ああ、うん、楽しいよ! でも……」

 少し表情の曇る美咲に、サティスファクション都は続けて問い掛ける。

「でも?」

「前にも言ったけど、ランクも上がると更になんだよ。どういうブキを使えばいいのかで迷ってるの」

「ブキで悩む、ね。それは当然あると思います案件ね。というよりも、『スプラトゥーン』ではまずそこから悩むべきね」

「そういうものなの?」

「戦うための手段であるブキは前に大別した以外にも一つ一つのブキに得意な部分と苦手な部分、出来る部分と出来ない部分があるわ。その中から自分にベストフィットするのを選ぶのも、『スプラトゥーン』をしていく上で避けては通れない道ね」

「なんだか仰々しいね」

「仰々しく言ったからね」

 サティスファクション都は悪びれも無くそう言うと、湯呑みを手にする。

「簡単に言うと、楽しいプレイの為には楽しいブキを選ばないといけない、ってことかしらね」

 そしてずぞぞー飲む。

「前回前々回でサブとスペシャルを学んだから、ここでとうとう行きましょうか。“趣味からブキを思うように選ぶといいかもよ?”ってことでやっていくわよ?」

 美咲がパチパチ手をたたく。茂美も腑に落ちない顔でパチパチ手をたたいた。

 

「さて、美咲。ブキ選びに迷っている訳ね?」

「うん、どういうのを選べば、だよ」

「ちなみに今ランクは?」

「丁度ガチマッチ? っていうのが出来るようになったよ」

「ランク10ね。この間買ったわりには早いわね」

「えへへ」

 妙に照れる美咲を可愛いなあ、という目で見ている茂美を横目で見てながら、サティスファクション都は告げる。

「ランク10なら結構色々使えるけど、今はどういうブキを使ってるの?」

「この間言われたから、結構わかばシューターしてたけど、どうも違うな、って思ってからはスプラシューターだね。偶にスプラローラーコラボとかに浮気したりしてる」

「前に言った使い易い辺りね。チャージャーは?」

「当たると楽しいね! でも当たらない……」

 しょげる美咲も可愛いなあ、という目で見ている茂美を更に横眼で見ながらサティスファクション都は告げる。

「とりあえず、ランク10なら大体のブキは触れるわね」

「そうなの?」

「ええ。シューターからスピナーまで、大枠の7種類には全て触れるわ。だからランク10でも使えるブキは結構な量になるわね。とはいえ、もう少しランクがいるブキはあるけれど」

「そうなんだ。で、都ちゃん」

「何かしら、美咲?」

「ぶっちゃけて、あたしはどのブキを使うべきなのかな?」

 興味津津できらびやかな目付きも可愛いなあ、という目で見ている茂美を横目で見ながら、サティスファクション都は聞く。

「美咲、一つ聞くけど、あなたは倒す派? それとも塗る派?」


「倒す派と、塗る派?」

 美咲はぽかんとして返す。今一つ伝わっていないようだ、と理解したサティスファクション都が具体的に話す前に、茂美が補助を入れてきた。

「要は、相手を倒すのが楽しいのか、それとも塗るのが楽しいか。それを聞いているんだな」

「それが、ブキ選びと関係あるの?」

 受けるサティスファクション都はこくり頷く。

「ブキには大体得意なところとと苦手なところがあるわ。それがそのまま倒すのに向くか、塗るのに向くかに別れるの。まあ、万能に近いブキもあるけどね」

「そうなんだ」

「で、先の問いよ、美咲。あなたは、倒すのが好きなの? 塗るのが好きなの?」

「うーん、どっちだろう」

 考え込む美咲に、茂美が補助線を引く。

「まあ、難しく考える必要はないよ。そのブキを一生使わないといけない訳じゃないしな。それこそ、日によって違うブキをするのだってありだよ」

「ブキに対するやりこみは当然違ってくるけど、そこを気にし過ぎても面白くないわ。いつでも変えれるんだから、気軽に選んでいけばいいの。とはいえその為の補助線は確かに必要なのよ。だからこそ、美咲。塗るのが楽しい? 倒すのが楽しい?」

「そうだなあ、今は塗る方が楽しいかな?」

「成程ね、それなら……」

 話しながら起動していたWii Uで、キャラクターのセットアップ画面を写すサティスファクション都。そして、ブキを選ぶと試しうちを選択した。

「今選んだのは?」

 美咲の問いに、サティスファクション都は答える。

「これはシューターの部類の“N-ZAP89”。通称赤ZAP。メインウェポンの射撃の速射と、サブウェポンののスプリンクラーの補助的な塗り能力の高さ、そしてとどめのスペシャルウェポンがトルネードという、極端に塗り特化。まさに塗る為に生まれたようなのブキよ。それだけだけでも、だけど更にもう一つ特徴があるの」

「既にお腹いっぱいだけど、まだ何かあるの?」

「ええ、それは射撃移動が他のブキより速いこと。ギアパワーは分かるわよね?」

「あ、うん。衣装に付いている、能力をアップするやつだよね?」

「それのヒト速、つまりヒト状態速度アップをたくさん付けると、それが更に強化されて下手するとイカ状態より速いんじゃないか、というレベルになるわ」

「聞くだけでピーキーな感じがするね」

 美咲の言葉に、サティスファクション都は頷く。

「基本的に相手を直接倒すのがメインしかないし、そのメインも射程は速射とはいえ短めで威力も低めだから、倒すのには苦労するわ。でも、その機動力によって相手陣地や隙のある場所に目がけて行って、塗ってかく乱するのがハマると堪らない楽しさがあるし、撃ちあいでも小器用に回避しながら戦えるのも楽しいブキなのよ!」

 目が爛々としているサティスファクション都に、美咲はちょっと気押されながら、やんわりと言う。

「うーん、ちょっとピーキー過ぎる気がするなあ」

「でしょうね」

 わりとあっさりと引き下がるサティスファクション都に、美咲と茂美は肩すかしをくらった。

「すぐ引くね」

「さっきも言ったけど、時に切り替えて使う、くらいの気持ちでいいからね。折を見て触ってみるだけでも、目先が変わるのを覚えておいて?」

 そう言うサティスファクション都は素早く操作してブキを切り替える。

「次は、“プロモデラーMG”か。成程確かに」

 納得する茂美だったが、すぐに「いや待て」と制止する。

「それもピーキー過ぎないか?」

「そうかもね」

 サティスファクション都は首肯。しかし話が見えない美咲は「どういうこと?」と尋ねる。答えるのは茂美だ。

「シューター系のブキ、“プロモデラーMG”、通称銀モデはメイン射撃の速射性が極めて高いブキだ。その射撃の速さと集弾性の“低さ”で、瞬時に広範囲に塗れるのがポイントのブキだな。シューター系の塗りブキというと、このブキが筆頭に上がるくらいには塗れるブキだよ」

「でも、これもピーキーなの?」

「そうね」

 サティスファクション都が受ける。

「先に言ったけど、集弾性が低いのよ。集弾性というのはつまり弾がどれくらい真っ直ぐ飛ぶか、集まるかってことだけど、それが低いからあちこちにばらけちゃうのよね」

「つまり?」と美咲。

「狙った所にきっちり当たらないということだよ」と茂美。

「そうね」とサティスファクション都。

「きっちり当たりきらないその上に射程に威力も低いから、倒す力が弱いのよね。ゼロ距離射撃だと連射の速さが活きるし、集弾性が低いから逆に避ける所に当たる場合もあるんだけど、弱点を埋めることはできない利点ね」

「その弱みを、“チェイスボム”と“スーパーショット”でカバーするブキ、というのが銀モデだ。特に“スーパーショット”はポイント溜めやすいから他のブキより使う場合が多くなるのが救いだね」

「とはいえ、どっちもテクが要るサブとスペシャルだから、いきなり使うのは難しいかも、という意味合いも含めてピーキーなのよね」

「入手条件も、ヒーローモードをやってないと、だしな」

「ヒーローモード?」

 美咲が聞き慣れない言葉を聞いて戸惑う。そこに、茂美がフォローを入れる。

「一人プレイ用のモードだな。ジャッジ君の近くにあるマンホールからいけるんだが、知らなかったのか?」

「なんかおじいさんが顔出しているのは知ってるけど、行ったことなかったよ」

「その話はまた何時かするとして、次に塗りブキで上げられるのは、何がいいかしら」

「目先を変えて“パブロ”辺りはどうだろう」

 茂美の提案に「それね」とサティスファクション都。

「“パブロ”。これはローラー系の派生であるフデのブキね」

「ああ、暴風の」

「そう、暴風のね。“パブロ”はサブとスぺシャルの構成は“N-ZAP89”と同じ、つまりスプリンクラーとトルネードという塗り特化だけど、“パブロ”自体が特色が強いブキなのよね。フデの話をした時も言ったと思うけど、塗り移動がたくさん塗れない代わりにスピードがイカ状態と同じという素早さになるのよ」

「つまり、ヒト速積んだ赤ZAP以上の速さがあるんだな。赤ZAPが足下を塗れてない場合は足を取られるから少し移動が面倒な点があるんだが、“パブロ”なら塗りながら進めるから、その点で言うと赤ZAPより進み易いという利点がある」

「ただ前に振りまわすだけで広範囲に塗ることが出来るのも“パブロ”の利点ね。当然、振っている間は移動力ががた落ちるんだけど、範囲が広いから適当に塗るだけでも相手を倒せたりするのも強みね」

「ただ、振りまわして塗る場合はボタン連打が必要だから、指がつることもあるのが問題点だな。ブキの問題点というかプレイヤースキルの問題点だけども」

 聞いていた美咲がうーんと頭をめぐらして、そして言った。

「指がつるのは嫌かも」

「よね」

「だね」

 相変わらず引き際が素早い二人である。

「となると、次は……」

 そこで、あの、と美咲が切り出す。

「ちなみに聞くけど、倒す方が好きだったらどういうのを挙げたの?」

「倒す方? それなら……」

 そう言ってサティスファクション都は操作して、ブキを選択する。それは“.52ガロン”とあった。

「“.52ガロン”は二発当たれば倒せるというシューターの中では極めて威力の高いブキよ。その分連射力は低めで射程も長くはないけど、それでも二発で倒せるのは大きいわ」

「サブのスプラッシュシールドを使えばかなり局面を左右することが出来るのも魅力だ。インク消費量が多いサブだから、すぐにインク切れを起こす点は注意がいるけれど、それを補って余りある戦闘力になるね」

「スペシャルがメガホンレーザーだから、塗り能力の割にはすぐに撃てるのもポイント高いわね。メガホンレーザー自体が使いにくさがあるけど、使い方次第では十分使えるスペシャルだから、そこは研鑽が必要でしょうね」

「後は、チャージャー系がいくつかと、ブラスター系の“ホットブラスター”がどれも一撃必殺が狙えるから、倒すブキだね。ただ、どちらも癖の強いブキだから、しっかり使えるようになるには熟練を要するね」

「後はローラー系の“カーボンローラー”が倒すブキかしらね。ローラーとしては振る速度が速くて倒し易く、クイックボムとスーパーショットで遠距離もこなせる、理想的な倒すブキね」

「……なんだかすらすら出てくるね。そういうのを決めるコツとかあるの?」

「いいこと聞いてくれました!」

 美咲の言葉に、サティスファクション都は腕を二つ生やしてパンと拍手を打つ。

「塗る方か倒す方か分かるコツは前回前々回とした、サブとスペシャルを見ればわかりやすいのよ」

「若干言い過ぎだが、一理はある」と茂美。

「メインの能力だけでもかなり決まってくるけれど、サブとスペシャルで方向性が決定する部分は、確かにある」

 例えば、と茂美は続ける。

「“スプラシューター”と“スプラシューターコラボ”は、メインは同じでサブとスペシャルが違う、バージョン違いだ。“スプラシューター”の方はサブがクイックボムでスペシャルがボムラッシュ。メインとサブの強みがある近距離から中距離、ボム飛距離をつければ遠距離もある程度カバー出来る。ボムラッシュでの塗り力も高いから、塗るブキとも言える。ただ、どうしてもチャージャー類には厳しい部分もあるんだな」

「対して“スプラシューターコラボ”はサブがキューバンボムでスペシャルがスーパーショット。キューバンボムは近距離でも十分使える制圧力と牽制力が、ボム飛距離を使えば遠めにも活かせるし、それでもと言う時はスーパーショットの出番。近距離から中距離はメインで対応できるから、オールラウンダーで倒す向きのブキになる訳」

「つまり、メインの性能が、サブとスペシャルで更に方向が決まる、ということだね。成程」

 納得する美咲に、サティスファクション都はうむ、と頷く。

「だから先にサブとスペシャルの話をしておいた、って訳よ」

「ついでだから、メインの性能で塗るか倒すかの差も話しておいた方がよくないか?」

 茂美の言に、そうね、とサティスファクション都。

「メインの性能のどこで塗るか倒すか、というのはわりとハッキリしているわ。まず、何発で倒せるか。これが一発二発なら倒すブキ、四発以上なら塗るブキ、と考えてそう間違いではないわ」

「一発二発はガロン類、ブラスター系、チャージャー系、ローラー系、スロッシャー系だな」

「対して四発以上はZAPとかシャープマーカー、プロモデラーとかわかばシューターとか。後はスピナー系ね」

「間の三発はどういう風に考えるの?」

 美咲の問いに、そこはね? とサティスファクション都。

「次に考える性能である、連射速度と射程が絡んでくるわ」

 茂美が受ける。

「連射速度はどれくらいの時間で塗れる範囲を塗りきれるか、に関わってくるな。一発二発系は大体ここが遅く、四発以上は速い。三発系はまちまちだから、この部分で分かれてくる」

「射程も重要な要素よ? 長いのは主にチャージャー系とかスピナー系、短いのは主にローラー系という理解でいいわ。三発系はここでも分かれていて、例えば射程の短いボールドマーカーはつまり近接タイプ。塗るのも出来るけど、近ければ倒すのも出来る。という風にね」

「そこに更に集弾性とかを勘案していけば、塗るのか倒すのかの基本は大体分かる、と言うことだな」

「成程なあ」

 と、そこで美咲ははっと気付く。そもそもが解決していないことに。

「ねえ、あたしはどう言うブキを使えばいいのかが分かってないんだけど」

「そう言えばそうね。じゃあ……」

 そう言って、サティスファクション都は淀みなく新たなブキを選択し、試しうちの面を起動する。

「さっきの赤ZAPのバージョン違いの“N-ZAP85”、通称黒ZAP辺りはどうかしら」

「またピーキー?」

 サティスファクション都は首を横に振る。

「これは大分マイルドよ? メインの性能は赤ZAPと変わらないけど、こっちはサブとスペシャルが汎用性が高いの。スプラッシュボムとスーパーセンサーね。苦手な遠めをスプラッシュボムで補えるのと、スーパーセンサーのクイックリロードが合わさって、赤ZAPよりはかなり使い易い塗りブキよ?」

「……ちょっとやってみていい?」

「ええ」

 そう言うと、サティスファクション都はナワバリバトルを選択してから、ゲームパッドを美咲に手渡す。美咲はそのままプレイに入る。すぐに楽しそうにプレイする美咲を見て、ああ天真爛漫。とこぼしている茂美の奇態を見ながら、サティスファクション都は言った。

「今回はなんか横にそれたけど、とりあえずまとめると、塗るか倒すか、趣味で決めるのが一番簡単だ、ってことね。次回はギアパワーについて詰めていくから、宜しく」

 そう言うサティスファクション都を、茂美が何言ってんだこいつって顔で見ていた。

塗るか倒すか。趣味でブキを選ぶの楽しいよね? という回だったかなあ。

基本的にサブとスペシャルが分かると、方向性が見えてくると考えるタイプなので、こういう話となりました。メインから考えるのもまたありでありますが、個人的な傾向で書いたのでまあそういうこともあるなということで。

次はギアパワーについて、だといいなあ。

とかなんとか。

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