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最終話「人にゲームを教えるのは、とても楽しいかもよ?」

 その局面は突然訪れた。

 犬飼美咲と城茂美が、サティスファクション都の邸宅でひとしきりファミZAPの話をした後、交代で『スプラトゥーン』をやっていた、その時である。

 ドンドン! ドンドン!

 表玄関が打ち鳴らされる。

「なんだ? 騒がしいな」

「なんだろうね?」

 ドンドン! ドンドン! ドンドン!

「開けなさいであります、サティスファクション都! あなたが居るのは分かっているんでありますよ!」

「誰だ、あの声の主は」

「あー、あれはあたしがさっき会ってた、橘ミストルテンさんだと思う」

「……。その橘何某が、ここになんの用だろうか? わりと強硬な感じの声だが」

「なんだろうね?」

 ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!

 戸を叩く音が更に大きくなる。この段になって、ようやくサティスファクション都は事態に気付いた。明らかにだるそうな感じで、美咲達がいる部屋を通過して、玄関へと赴く。

 ドンドン!

「サティスファクション都! 我々を中に入れるであります!」

「別に閉じちゃいないから、入りたければ入ればいいのよ」

 玄関に到達して、怒鳴り声に辟易しながら、サティスファクション都は橘ミストルテンに告げる。

 ガラガラ、と玄関が開いて、先に美咲があった時と同じ黒服姿の橘ミストルテンと、他に数人の男女、これまた一様に黒服、が邸宅に侵入した。

「何か御用かしら、橘ミストルテン」

「今日は、妖怪互助会の監査としてここにやってきたであります」

 そう言うと、橘ミストルテンは何やら紙、というより羊皮紙の類の古い物を取りだして、サティスファクション都に見せる。

「それは……」

 眉間にしわの寄るサティスファクション都。それを戸惑いと見て取った橘ミストルテンは、居丈高に言う。

「そうであります。サティスファクション都。あなたが妖怪互助会に忠実に従うという“盟約書”であります。これを破ったら、封印される。そういう盟約でありましたな?」

 サティスファクション都は、軽くため息を吐く。

「で、“盟約書”なんて持ちだして、どうしたのかしら? 私が妖助に楯突いたとでも?」

 ふふん、と鼻を鳴らす橘ミストルテン。

「その通りでありますよ。サティスファクション都。緋の国の鬼女。あなたは采の国の魔女、パッション郷と共謀して、この都市一円を妖怪しか住めないようにする結界を作ろうとしているであります」

 その言葉に、サティスファクション都は一瞬鼻白み、だがすぐに腹を抱え始めた。そしてくつくつと笑う。

「くくく。そりゃあ大事ね。人と一緒に住むのが楽しい私としても、それは阻止したいわね」

 くつくつと笑い続けるサティスファクション都に、橘ミストルテンは尚も居丈高だ。

「ネタはあがっているのでありますよ、サティスファクション都。言い逃れできないのであります」

「ほう……」

 すっ、とサティスファクション都の視線がすぼまる。もとより鋭利な瞳が、更に強い意志を帯びる。あまりの気配の強さに、他の黒服のみならず、橘ミストルテンも鳥肌が立った。

 それでも、橘ミストルテンは強気だ。

「……今からこの家を立ち入り調査するであります。逆らえば、どうなるか分かっているありますな、サティスファクション都」

 サティスファクション都は少し考えるそぶりを見せ、もったいつけてから、言った。

「何もなければ、どうなるか分かって言っているのなら、特に問題はないわね」

「結構。さあ、皆さん仕事でありますよ」

 パンパン、と拍手を打ち、橘ミストルテンは他の黒服達に行動を促す。まだ若干気押されている面々は、それに従うように動き始める。それを見て、サティスファクション都はまたくつくつと。

「無駄なのにねえ」

「果たして、そうでありましょうかね?」

 意味深な橘ミストルテンであった。


「なんだか騒がしいね」

「その中でゲームしようとする君の胆力は尊敬するよ」

 美咲と茂美は依然『スプラトゥーン』をしていた。どちらもブキをとっかえひっかえして、色々と思考錯誤している。

「茂美ちゃん、ファミZAPは駄目?」

「うん、ファミZAPはやっぱり性に合わないよ。やっぱり僕はチャージャーの方が向いてるようだよ。一撃で倒せないとイライラすらしてしまう」

「それはそれで一種病気の類かもしれないけど」

「今日の美咲は言うね……。そういう君だって、ファミZAPは合わない感じじゃないか?」

 そう話をふられた美咲は、そうだね、と。

「どうも、機動力のあるブキは、いつもと違って違和感があるなあ、って」

 その言葉に、茂美ははてな? と訝しむ。

「美咲。君はいつも機動力のあるブキの方を好んで使ってなかったか?」

「え? あ、ああそうだね。……でも最近は“ジェットスイーパー”も使ってるじゃない」

「そう言えばそう、だけど、あれも機動力増したはずなんだが……」

「……」

 言葉に詰まる美咲に対し、茂美は問う。

「美咲。いや違うな。君は、誰だ?」

 茂美の手には、既に何処からともなく現れた抜き身の刀が握られている。それを見て、美咲は唐突に笑う。

「はひっはひっ。やはり付け焼刃はー、いけないですねー」

「答えろ。君は、誰だ?」

 茂美の語気が強い。それを感じて、尚笑いながら、その者は答える。

「魔女の使い魔、じゃ分からないかー。とりあえず、今はシシデバルと名乗っている者ですよー。あなたの知っているパッション郷の、使いっぱしりですー」

「そうか。で、シシデバルとやら。美咲をどうしているんだ?」

 声に怒気をにじませ始めるる茂美に対して、シシデバルと名乗ったものはあくまで飄々と答える。

「何、ちょっとアンテナをつけてー、操っているだけですよー。そのアンテナさえ取れれば」

 ぃん。

 茂美の刀が横一閃。美咲の頭髪を、少し切り裂いた。その中に、シシデバルがアンテナと言ったものが、ちゃんと含まれている。それは淡い光を発しながら、消滅した。

「はひっはひっ。取ればいい、って言ったそばからかー」

「取れればいいはずだが?」

「まだ余韻があるだけー。すぐに元に戻るよー」

 と、言ったかと思うと、美咲は目をパチパチとして、周囲を見回し、自分の姿を確認し、それから茂美を見て、一息。それから、口を開いた。

「どういうことかな?」

「それはわりと僕も聞きたいよ。美咲、一体何があったんだ?」

「うーん、それを話すには複雑な事情があるんだけど……。ああ、そうだ! 今、ここはどうなってるかな?」

「なんだか変な状況だよ。家宅捜索みたいな状態だが」

 バタバタと黒服来た者達が行きかう状況を、茂美はそう評する。それを聞いて、美咲は。

「そうなんだ。じゃあ、まだちょっと話せないよ」

 と、どこか申し訳なさそうに言う。

「……どういうことだ?」

「今ネタばらしすると都合が悪いんだよ。この騒動がある程度進んでからじゃないといけないの」

「ネタばらし?」

 そこを追求しようとする茂美だったが、それは遮られる。先ほどからバタバタしていた黒服の1人が、美咲と茂美の居る所にやってきたのだ。

「……」

 しかし、何かするでもなく、テレビを、つまりゲーム画面を見つめている。

「……」

「……」

「……」

 三者を妙な沈黙が支配する。

 しばらくそんな状況が続く。茂美は、その黒服がの中でも頭一つ小柄な女性であると気付く。黒服を着ているが、威圧感というのが薄いのだ。こうやって調査の手を止めている辺り、黒服になってから日が浅いのかもしれない。

 その黒服の女性に、美咲が声を掛ける。

「あの」

「なんでしょうか」

 そう答える声が少し上ずっていたので、ちょっと不意を突かれた模様だな。と茂美は思う。努めて威圧感を出そうとしているのが、透けて見える。

 それが分かっているのかいないのか。美咲は更にもう一言。

「このゲーム、やってみますか?」


「で、平身低頭する心の準備は出来たかしら、橘ミストルテン」

 玄関で共に待ちながら、睥睨するサティスファクション都に対し、橘ミストルテンは依然弱気を見せない。

「そうやっていられるのも、今のうちだといっておくでありますよ。それよりも封印の中ですることを考えていた方が、いいのではないでありますか?」

「ふふふ」

 お互い、強気で睨みあっている。

 と。

「橘さん」

 黒服の1人が、橘ミストルテンに近づき、耳打ち。

 その言葉を聞いて、橘ミストルテンは表情をわざとらしいまでに明るくして言う。

「そうでありますか!」

 その言葉を聞いて、サティスファクション都は、ふうん、と。

「なにかあったのかしら?」

「見つけましたであるますよ、結界を発生させる“祭具”を!」

「……へえ。それは本当かしら?」

「まだ調子に乗っているでありますね、サティスファクション都。しかし、その鼻っ柱もすぐにへし折ってやるであります。さあ、見つけたモノをここに」

 そう言われた黒服の手に、その物があった。それは、今日美咲が持ってきた、木彫りの人形。

「それは……」

 サティスファクション都の表情が揺らぐ。そこに、弱みを見た橘ミストルテンはここぞ、とサティスファクション都に詰め寄る。

「これが、どうかしましたでありますか、サティスファクション都。そうでありますよね。これが、その“祭具”! それをまあ、隠しもしないで置いてあったそうでありますな。これは、中々笑わせてくれるでありますよ。大層余裕でありますな?」

 せせら笑うような橘ミストルテンに対し、サティスファクション都は無言である。

「さて! 目的の物は見つかったでありますから、後はこれを鑑定するだけでありますな! それで、どういう物か、すぐに分かるであります。ここで出来るかとお思いでありますかな? 大丈夫。ちゃんと鑑定士は連れてきているでありますからな。さあ、呼んでくるでありますよ!」

 宣言する橘ミストルテン。しかし。

「……それが」

 先ほどの黒服が、また橘ミストルテンに耳打ちをする。橘ミストルテンの表情が、すぐさま曇る。そして両眉を吊り上げ、茶の間へと向かって行った。


「あー。負けちゃった」

「ですね。でも、今度は大分塗れてますし、やられてないですよ。元からこういうのやってる分の上澄みがちゃんと生きてます」

「そうかな? でも、本当に塗るのと塗らないのとでは違うんだね。結構特異なゲームなのかも」

「そこを分かってくると、楽しいんだがな」

「このゲームは倒すのも必要ですけれど、塗るのも同じくらい重要です。塗ってみて、大分実感できたんじゃないですか?」

「ですね。となると、普通のTPSとは立ち回りも変わってくるということになるんでしょうね」

「そうですね、特に……」

 きゃいのきゃいの、とゲームに興じる三人の所に、橘ミストルテンがやってくる。そして怒鳴る。

「トカ! トカ鑑定士!」

 トカ、と呼ばれた女性。黒服の1人が跳ね立つ。

「あ、ひゃい!」

「何をしているでありますか、トカ鑑定士!」

「はい、あの、ゲームを」

「ゲーム!」

 橘ミストルテンは大きな身振りを見せる。如何にも怒っていますといった風情だ。それを見て、トカは身を引き締める。

「あなたの仕事は何でありますか、トカ鑑定士!」

「あ、はい! 妖力の鑑定です!」

「それが、仕事をほっぽり出してゲームでありますか!」

「しかし、妖力の方向性、発展性についての鑑定なら専門ですが、物品の調査は専門外です」

「それとゲームをしていることとの関連性はないでありましょうが!」

「いえ、せめてここの人達と親しくなれば、そういう物についての情報が得られるかと思いまして」

「もう! ああ言えばこういう言うでありますね! とにかく! 問題の物品は見つかったでありますよ! さっさと鑑定するであります!」

「分かりました! じゃああと一戦したら行きますので」

「ええ、そうして、じゃない! 今すぐ来るでありますよ!」

「ええー」

「ええー、でもないであります!」

 と、そこにくつくつと笑いながら、サティスファクション都が登場する。相変わらず見惚れるつややかな長い黒髪が印象的に光っている。そして、そこには本当に楽しそうに笑う様がある。

「別にこっちでやればいいでしょう、橘ミストルテン。くくく」

「何がおかしいでありますか、サティスファクション都」

「いや、別にね。妖力鑑定士って、わりと少なかったと記憶しているし、その運用は結構煩雑な手続きが居るはずなのに、それを都合よく連れてきている辺りの、必死さにね」

「……どういう意味でありますか」

 睨む橘ミストルテンの視線を受け止めて、サティスファクション都は答える。

「そのままの意味よ。本当に必死なんだな、ってね。さて、あなた」

 サティスファクション都の視線がトカに向く。視線に力があったのか、トカの返答が上ずる。

「は、はひ! なんでしょうか!」

「これ、ちゃんと鑑定してもらいましょうか」

 そう言って、いつの間にか持っていた木彫りの人形を、ちゃぶ台の上に置く。

「ちゃんと、出来るわよね?」

「は、はひ! やりますです!」

「ちょっと、サティスファクション都! 勝手に!」

 橘ミストルテンがそう言うが、トカの方も言われるがままにやり始める。木彫りの人形に手をかざし、そして触れる。

「んー」

「どうかしら? この辺りを壊滅させるような、人を駆逐するような、そんな妖力?」

 問い掛けるサティスファクション都に、トカは答える。

「……、いえ、これはもっと単純です」

「え?」

 と、橘ミストルテンがおかしな声を出す。それを見て、サティスファクション都はくつくつと。

「で、どういう妖力なのかしら?」

「んー。これはちょっと特殊な妖力です。単純な方向性を持った、特殊な妖力。これは……例自体は多いですが、ここまでの純度は珍しいですよ」

「つまり?」

「えーと、これは妖力の結界を作るとかそういう広大なエリアに発する事が出来るものではなく、単に所持者に幸運をもたらすという超局地的なエリアに効果がある妖力ですね。言わば、お守りの類ですよ。いやでも、ここまでのは見たことがありません。その筋に売れば相当の価値がありますよ」

「その話はまた置いておいて、そういう結論が出た訳だけど、どうするのかしら、橘ミストルテン。結界なんて出来ないそうよ?」

 くつくつと笑いながら、橘ミストルテンを見やるサティスファクション都。その瞳は、人のそれとは隔絶した何かのものだ。

「いや、そんなバカな」

「なにがそんなバカな?」

「だ、だって。それ、だって」

「そうよね。これは、あなたが私をはめる為に用意した物だったはずだものね」

 周りの黒服、トカ、そして状況を傍観していた茂美が驚く。

「都くんを、はめる? 美咲、さっきばらせないって言ったのはこのことなのか?」

 茂美の混乱が見える言葉に、美咲は「うん」と頷く。

「あの場で言っちゃうと、有耶無耶になっちゃう所だったからね」

 一方で、サティスファクション都は、珍しく嗜虐の顔つきだ。

「そう。私と、パッションの繋がりが出来たのを知って、話をでっちあげて、捕まえて、組織の中での地位を上げよう、っていう欲ある話よ。美咲に目をつけたのはわりといいアイディアだったと思うけど、残念。既に目をつけていたのが他に居たのよね」

「だ、誰が……」

「そりゃあ、ここに居ない奴の1人。パッション郷よ」

『目をつけていたのは偶然ですけどね』

 突如スピーカーから声がする。トカを含む黒服達と橘ミストルテンは驚くが、他の者は聞いてただろうな、という顔である。

「盗み聞きかしら?」

『常時繋いでいてよく言いますね。まあ答え合わせとしますと、私の従者、シシデバルの触角を美咲さんに付けていたら、丁度キーワードに引っかかたんですよ。パッション郷、サティスファクション都、ニシワタリ、シシデバル。この4者の名前を短時間で言うと我が従者の触角が起動し、一時的に人格に乗り移るのです。そうなって、聞こえてきたのが、橘ミストルテンさん。あなたと美咲さんとの、喫茶店での会話です』

 黒服に動揺が走る。しかし、橘ミストルテンは顔を険しくする。

「しかし、同じ物に新たに力を込める時間は無かったはず。距離が離れすぎて」

『そこはそれ。餅は餅屋です。機動力ならピカ一の者がまだ盤面に出ていらっしゃいませんよね』

「そういうことデスヨ」

 またも唐突に声がする。死角からの声に、またも黒服達は驚くが、やはり他の面々は驚かない。美咲が声を掛ける。

「ニシワタリさん」

「そうデスヨー。マッタク。ワタクシ、こういうことの為に大人しく隠れてた訳じゃないんデスガネ」

『わたしのことを探っていたんですものね。それが今回は奏功したというところでしょうか』

「……」

「……」

 沈黙するニシワタリとサティスファクション都。ふふ、とパッション郷は一笑に付してから、続ける。

『まあ、それはさておき。ニシワタリさんの瞬行を活用して、渡ったそのよりしろを、わたしが幸運のお守りへと力の流れを切り替えて、それをサティスファクションに渡して事情を説明。そしてあなたを待ちかまえるという形になった訳です。さて、これであなたがわたし達をはめる作戦は無効になりました。で、どうするんですか? このまま、大人しく捕まりますか? 個人的には、それがお勧めですよ?』

「……なめないでほしいでありますな」

『……?』

「大妖と呼ばれたのも昔の話なんでありましょう? それが今更、勢力として現れようなんて、虫のいい話であります」

「勢力なんて作ってないんだけどね」

 しれっと言うサティスファクション都に、橘ミストルテンは目を見開き、語気を荒げる。

「あなた方は知らないだけであります。妖怪互助会でも、それ以外でも、色々と虎視眈々。そんな状況が、私は許せなったであります!」

「勝手な話ね。こっちはその気はないのに」

『全くですよ。今更すり寄ってくるような輩に貸す物なんてないのに』

 サティスファクション都とパッション郷がばっさりと切って捨てる。

 だが、橘ミストルテンの怒りは留まらない。猛然とサティスファクション都を見据え、怒鳴る。

「この際、どうだっていいであります! こうなったら、実力行使でありますよ! サティスファクション都、覚」

 みなまで言わせてもらえなかった。口上をしながら飛びかかった橘ミストルテンは、その先にあった口に吸いこまれるように入って、そしていなくなってしまった。

 当然、その口はサティスファクション都のもの。その手が、口になり、大きくなり、橘ミストルテンを飲み込んだのだ。

「……食べちゃった?」

 美咲の問いに、サティスファクション都は軽く頷く。そして小さくなり、手に戻ったその腕を軽く振る。

「食べちゃったわね。でも」

 そう言って今度は反対の腕をふるう。するとそこがまた口となり、大きくなり、ペッ。と何かを吐きだした。

「元から生身を食べる趣味はないのよ、私」

 それは、小さな狐だった。尻尾が三本程あるのが特徴的だ。

「さあ、あなた達。こいつを連れてとっとと帰ってくれるかしら? それとも、私に食べられたい?」

 にんまりと笑むサティスファクション都の姿に恐れをなして、黒服達は小さな狐に戻った橘ミストルテンを担いで、逃げかえって行った。


「というのに、この子は結構肝が太いわね」

 サティスファクション都の評を受けるのは、橘ミストルテンが連れてきた黒服の1人、トカ鑑定士である。他の面々は恐々として逃げ帰っていったのに、1人だけゲームに興じている。

「ああ、あたしってちょっとおかしいってよく言われます」

「そういう問題じゃないと思うんだけど……、まあいいわ。で」

 サティスファクション都は、美咲に問い掛ける。

「どこまで教えたのかしら?」

「『スプラトゥーン』の話なら、まずやってもらってから、塗ることについて話をしたよ?」

「そう」

 サティスファクション都は穏やかに微笑んだ。あまり見られない、柔らかい笑みだった。

「なら、その先も、あなたが教えてあげるのはどうかしら」

「へ? あたしが?」

「あなただって、既に結構『スプラトゥーン』の熟練者よ? それに、教えることでより知ることもあるんだから、一つやってみてはどうかしら? さっきも、十分教えられていたみたいだしね?」

 そう言われ、美咲は、あー、とか、うー、とか、妙な声を出す。それを楽しそうに、サティスファクション都は見つめている。

「まあ、足りない所は、たぶんニシワタリとか城とかがフォローするわよ」

「あなたもしやがれデスヨ、サティスファクション」

「僕は、いくらでも手を貸すよ、美咲」

「あ、うん。分かった。じゃあ、とにかくやってみるよ」

 そう言って、美咲はトカに話かける。自分がどういう道筋で学んでいったかを、思い出しながら。

「じゃあ、まずブキの種類の話をしようかと思います。いいですか?」

「はい。あ、ブキ、って色々あるみたいですけど何種類くらいあるんですか?」

「それはですね」

 『スプラトゥーン』の授業が、また始まる。

ということで、『スプラトゥーン』話。一応の完結となりました。『スプラトゥーン』ネタ自体は十分なストックがあったりしますが、ずるずると話を続けるよりはちゃんと区切った方がいいか、という判断で今回で終了。ということです。でも、終わったと思ったらまだ書きたいネタがあるような、というので〆るのもったいなかったかとも。ぶっちゃけはなしのテンションの維持が難しいんですよ。なので、この話はここまで。次のゲームに移っていきたいと思います。

ということで、ご愛読ありがとうございました。次もそんなに遅くない時期にむにむにと書きだすと思いますので、その時はまた。

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