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第19話「一つのブキを突きつめるのも偶にはいいかもよ?」

 ここは、とある都市の目抜き通りに面する喫茶店である。いつもの場所ではない。

 そこで、犬飼美咲はある人物――いや、正しくは妖怪というべきか。――と面会していた。

「今回は突然のことで混乱されてかもしれないでありますが、あの緋の国の鬼女と交友があるというあなたに、ひとつ我々妖怪互助会の


話を聞いてもらいたいのであります」

 そういうのは、以前美咲がサティスファクション都の家に行ったにすれ違った“妖怪”。黒ずくめのMIB。橘ミストルテンである。

「その前に質問したいんですが」

 明らかに喫茶店の空気がおかしいのは美咲にもわかる。そもそも、店員が注文を取りに来ない。近くまでは来るが、ここだけを素通り


していくのだ。まるで、この一角が誰にも感知されていないかのような。だが、質問はそこではない。

「妖怪互助会ってなんですか?」

 橘ミストルテンは、その言葉に一瞬眉をひそめた。そして何かを見定めるような目つきになる。

「そのままの意味に取ってもらって構わないであります。妖怪が互いに助ける会。妖怪互助会であります」

「助け合うんですか? 妖怪なのに?」

「何やら勘違いされておられるご様子でありますな。妖怪だから強い。単独でやっていける、と言う風に」

「違うんですか?」

「違うであります」

 橘ミストルテンは美咲の目を見つめながら、そう答える。

「残念ながら、妖怪というのは希少種になっているのでありますよ。我々が跳梁跋扈できた時代は既に過去。こちらがのうのうと過ごし


ている間に、人間は科学力を手に入れ、あっという間に地球の征服者気取りであります。そして今では妖怪はお互い肩身を寄せ合って細


々と生きているであります。その生活を守る為に、何かあったら互いに助け合うことをしているのでありますよ。その為の互助会なので


あります」

「大変なんですね」

 そうであります、と橘ミストルテン。

「そして、今回。犬飼美咲さん。あなたと会ってお話しすることは、妖怪互助会にとっては最優先事項なのであります」

 そう言うと、橘ミストルテンは腕組みを構えて見せる。

「緋の国の鬼女。今はサティスファクション都でありますか。とにかく彼の妖怪を恭順させる為に、あなたに一つ手を貸してほしい。そ


ういうお話をしたいのであります」

「恭順、っていうのは穏やかな言葉じゃないですね」

 美咲の不信をにじませる言葉に、橘ミストルテンはにべもない。

「そう。事態は既に穏やかならざる場面まで差し掛かっているのであります」

「それはまさか、都ちゃんが何かしようとしているとか、そういうことですか?」

 橘ミストルテンは大きく頷き、言う。

「そのまさかであります。サティスファクション都は、采の国の魔女、今はパッション郷でありますか。それと組み、何か大事を企んで


いるのであります」


 一方、いつものサティスファクション都邸。いつもの茶の間のちゃぶ台の側らで、サティスファクション都と城茂美がいつものように


ゲームに興じていた。プレイに熱中するサティスファクション都の髪は、長い分横に振れると茂美の顔にかかったりもするが、茂美はそ


の辺はあまり指摘せず、のんびりとしている。あるいは途方に暮れていると言うべきか。

 一戦終え、ふう、とサティスファクション都。

「なんとか慣れてきたわね、ファミZAP」

「元々ZAP使いなんだからすぐ慣れるもんだと思うんだが」

 覇気無く言う茂美は、そもそも、と続ける。

「ブキチセレクションがきてから相当経つのに、まだ慣れてなかったのか」

「ワサビとかベリーとかリミックスとかリペアとかボルシチとか、節操無く触っていたのよね。ファミZAPは、ZAPがメインブキだからこそあえてしなくても大丈夫、とか思ってたのよ。……まさか、そのせいでプレイ感覚が分からなくなるとはね」

「完全な自業自得ってやつだな」

 と言いつつ、茂美はちゃぶ台の上にのっぺりと突っ伏す。

「……、城。何だか今日は調子悪いみたいだけど、そんなに美咲に袖にされたのが堪えてるの?」

 ぴくり、と突っ伏した茂美が反応を見せる。そして、突っ伏していた顔をそろそろと上げる。

「誰か分からない人にほいほい付いていった美咲のことなんて……」

「なんて?」

 オウム返しするサティスファクション都に対して、茂美は顔を渋ませて答えた。

「放っておけないけど、付いても行けなかったからこうなってるんだよ! 一々言わせないでくれ!」

「いや、一々言わせるわよ? というか、それは友情から? それとも、愛情から?」

「黙秘する」

 そう言うと、茂美はちゃぶ台に顔を突っ伏し直した。そのままの態勢で、今度は茂美が言う。

「強引に話を変えさせてもらう」

「んー……、……。まあいいわ。美咲がいないんじゃあ攻めても面白くなさそうだし。で、なに?」

「ZAP使いからして、ファミZAPの評価ってどんな感じなんだ?」

 茂美は未だ突っ伏したままである。聞くにしては酷い状態だが、サティスファクション都はその辺は気にしない。

 答える。

「ファミZAP、“N-ZAP83”はねえ、“遊撃”向きのZAPね」

「“遊撃”?」

 疑問を、顔をあげて聞く茂美に、そうよ、とサティスファクション都。

「“遊撃”、つまり規則正しく行軍するんじゃなくて、適宜で行動して戦果をあげるタイプね」

 そもそもね、とサティスファクション都は続ける。

「ZAPシリーズはメインが射程がそこまで長くなく、且つ四確、四発当てないと、だから連射力はあっても真正面から戦うというのには若干の不利があるブキな訳。そこを応用力の高い“スプラッシュボム”と味方に位置を知らせるだけでなくクイックリロードの使い道もある“スーパーセンサー”で戦闘向きにしたのが“N-ZAP85”、黒ZAPね? それと、メインの塗りの速さと範囲の手頃さにサブの塗り要員“スプリンクラー”にスペシャルの塗り要員“トルネード”を付加して塗り専になった“N-ZAP89”、赤ZAPね? そのどちらも使い道は面白いんだけど、“遊撃”するにはどちらもこれ! という武器が無かったのよ。一応、出来るって言えば出来る方なんだけどもね?」

 そこで一旦言葉を切ると、サティスファクション都はすぐに言葉を紡ぐ。

「“N-ZAP85”は“スプラッシュボム”を使ってじっくり戦うタイプで、どちらかというと普通に進軍する方が強いブキ。“N-ZAP89”は基本的にメインしか速攻性のある攻撃手段がないから適当に動いていたら突発時にどうしようもなかったりするブキと言えるわね。で、ここから“N-ZAP83”の、ファミZAPの話に入っていくわよ? 付いて来てる?」

「なんとかね」

 そう答える茂美の言葉を待たないくらい食い気味にサティスファクション都は語りだす。

「じゃあ、ファミZAPの“遊撃”向きな所をきっちりと教えてあげましょうか」

 そう言うと、いつものように何処からかホワイトボードが出てくる。そこに、サティスファクション都はマジックでキュキュッキュと文字を書く。

 そして言う。

「“N-ZAP83”という“遊撃手”について。話していきましょうか」


「都ちゃんと、郷さんが、結託して何かをしている、ということですか?」

 美咲の問いに、橘ミストルテンは鷹揚に頷く。

「そうであります。パッション郷の方には動きがあるのであります。魔女の使い魔。今はシシテバルとか言っているのでありますが、それが動いています。そして、この間突いてみれば、サティスファクション都の方にも、動きがありましたであります。鬼女の走狗。今はニシワタリでありますか。それが動いて、姿を見せなくなりましたであります。あなたも気付いているはずであります。最近見かけないでありましょう?」

「……」

 それについては確かにそうだ、と美咲は思う。ここ数日、ニシワタリの姿を見ていない。それについてサティスファクション都に尋ねても。

「そういうこともあるわよ」

 と返されるだけだった。そういうこともある、というのは確かにそうではあるが、こうやって橘ミストルテンに言われると、少し気にはなってしまう。

(でも)

 と美咲は考える。

「それだけで何かをしている、というのはやっぱり早計なんじゃないでしょうか。……ちょっと姿が見えないだけで、証拠は何もないのではないですか?」

「そこでありますよ」

 したり顔をする、橘ミストルテン。その表情に良からぬものを感じ取れるものだった。これは、かなりヤバいことを言ってくる。そう予測出来るが、席を立とうと動くよりも先に、その言葉が耳に忍び込んできた。

「――――」

 それは何処の言葉かは分からない、日本語のようなでもそうでもないような、そういう言葉だった。それを聞いた途端、美咲は動くことが出来なくなった。

 口は辛うじて動く。

「何を……」

「いやなに。ちょっと軽い洗脳をさせていただいて、証拠をサティスファクション都邸に置いて来てもらおうと思っているだけであります。なになに、後遺症とかはないですから安心してくださいであります」

 証拠の捏造をしようとしている、と如何に鈍い美咲でもすぐさま理解出来る発言だ。しかし、逃げることも耳をそむけることも出来ない。ただ、相手の言葉が沁み込んでくる。

「――――」

 再び、謎の言葉。それを聞いてから、美咲は意識を失った。


「いい? ファミZAPの遊撃向きな理由について説明するわよ?」

 ノリがいいサティスファクション都に対して、もうどうにでもしてくれ、という感じで茂美は「はいはい」とおざなりに返事をする。

「まず初めに、サブが“ポイントセンサー”。これが“遊撃”には有利に働くわ」

「というと?」

「基本的に相手がいるかいないかを調べる、所謂クリアリングがあるでしょう? それ用には大変有用なのが、“ポイントセンサー”なのは分かるわよね?」

「ああ。相手の位置が丸分かりになるから、潜伏対策としても有用だな」

「そういうこと。このクリアリング性能を活かせば、敵がいるいないが分かりやすくなって、“遊撃”での攻め時、というのが分かるし、単に目の前に相手がいないのを確認するだけでも“遊撃”においては意味があるわね。安全に進めれれば、好みの位置を取りに行き易い訳だし」

 言っていることをキュッキュキュとホワイトボードに書き込むサティスファクション都。

 そして次に、と。

「スペシャルが“ダイオウイカ”。これは大きいわね」

「“ダイオウイカ”は基本的に強いしな」

「ファミZAPにおいては、その強さは単なるそれよりもより強固よ? 一つは、攻め入っていて不意を打たれても一確じゃなければなんとでもなる事。もう一つに、無敵のまま安全な位置まで逃げることができる事。この二つは“遊撃”をする上ではこの上なく長所となり得る部分なのよ。安全な逃げ道、というまあ、一つの保険として活用できるということね」

 最後に。とサティスファクション。

「これは総合的な部分になるけれど、ファミZAPは、ZAPシリーズなのよ」

「うん。……うん?」

 今一つ飲み込めない様子の茂美に、サティスファクション都はするすると語りだす。

「ZAPシリーズの利点、というのはメイン射撃時の機動力が高い事、というのは分かるわよね?」

「ああ」

「それを活用する為にヒト速を積むから、更に機動力は高くなる。すると、撃ちながら、塗りながら素早く移動できる。これはこのゲームでは有利なポイント。OK?」

「分かるよ。つまり、自分で素早く道を切り開きながら、駆け巡ることができる、って言いたいんだろ?」

「そういうこと。……そのフレーズは私が言いたかったけどね。まあいいわ」

 とにかく、とサティスファクション都。

「メイン射撃で素早く移動しながら道を切り開き、敵がいそうならとりあえず“ポイントセンサー”でクリアリング。まずいと思ったら“ダイオウイカ”で戦闘及び離脱。これによって高い“遊撃”性能を持つのが、“N-ZAP83”な訳。ここから、“遊撃”するブキだと、言える訳なのよ」

 どうよ、と言わんばかりのサティスファクション都に、成程な、と突っ伏しから顔だけ上げた茂美。それから二の句。

「でも、それ、強いのか?」

 一瞬、空気が固まったような、そんな錯覚を茂美は覚える。それは確かに錯覚だったが、それは確かに事実でもあった。

「そうなのよね……」とサティスファクション都。見るからにしょげている。

「“遊撃”が活きる、というのは結構味方依存でもあるのよ……。こっちがあちこち動いている時、こちら3で相手4って形にもなり易いし。勿論、こっちも勝ちを狙ってるから適当に動いている訳じゃないんだけど、わりと勝てない場合が多いのよね……。味方運さえあれば……」

「味方運に頼る時点で攻略しているとは言い難いんじゃないか?」

 また、空気が固まる。今度も錯覚だ。だが、そうとしか言いようのない雰囲気になる。なんだよこいつ面倒くさいなあ、と茂美は思ったりするが、口には出さない。

「もうちょっと、強い動きを調べてくるわ……」

 そう言うと、サティスファクション都は立ち上がり、いつの間にか消えたホワイトボードがあった辺りを通り過ぎ、パソコンのある自室の方へと向かって行った。本当に調べるつもりのようだ。

「……流石に言葉を選ぶべきだったな」

 茂美なばつの悪そうな顔になるが、あの場面で他に言葉が思いつかなかったのも事実だった。この辺は実直さが仇となった格好である。

「ここで美咲がいれば、少しはマシなことになってたんだろうが」

「あたしがどうかしたの?」

「うわっ!?」

 声に驚いた、その声に驚いた様子の美咲が、茂美に言う。

「どうしたの、茂美ちゃん? 何かビックリすることあった?」

「君がいきなり居たことに吃驚したんだよ! というか何時から居たんだ!」

「ついさっき。都ちゃんが部屋に引っ込んでいくのが見えたけど、どうかしたの?」

「うん、あー。ちょっと自尊心に傷つけちゃったって感じかな?」

 あまり伝わらないだろうなあ、という気持ちで言ったそれは、当然ふんわりと受け取られる。

「あんまり変に追い詰めたりしない方がいいよ? あれでも大妖怪なんだし」

「そういうの、あんまり感じさせないあいつが悪いよ。……、美咲、それは?」

 茂美は、美咲が見慣れない物を持っていることに気付いた。一見単なる木彫りの人形だが、茂美の目からするとどうにも胡乱に映る。

「あ、これ? ちょっとしたお土産だよ。あの人にもらったの。えーと、橘なんとかさん」

「橘ミストルテン?」

「そう、その人。でも、これはあんまりあたしの趣味じゃないなあ、って思ったから、都ちゃんにあげようかなって」

「あいつの趣味でもなさそうだけどなあ。まあ、君から貰った、なら何でもいいとか言いそうな所はあるが」

「それは、あなたじゃなくて?」

「それもそうか……、何?」

「ちょっと都ちゃんに渡してくるね」

「あ、ああ。今、傷ついているから、腫れものを触るようにな」

 そう、部屋を去る美咲の背中に声を投げかけてから、茂美は不自然さを感じ、しかしそれがどこから来るのか理解できない。なんだか、もやっとした疑問が胸に残るままだ。その解が分かる前に、美咲が茂美のいる部屋へと戻ってきた。

 もやもやしたまま、茂美は尋ねる。

「どうだった?」

「うん、快く貰ってくれたよ」

「そうか。ならいいんだが。ところで、美咲。これからどうする? 『スプラトゥーン』、ちょっとやっていくか?」

「……、そうだね。都ちゃんがここに戻ってくるまで、やってようかな」

「決まりだな」

 そう言うと、茂美はゲームパッドを美咲に手渡す。

「で、何を使う? チャージャー練習してるんだっけ?」

「? あ、ああそうそう。でも今日はちょっと気分が違うから、……このままやってみようかな」

「おお、ファミZAPか。それはだな……」

 茂美は、先にサティスファクション都が言った話を、美咲相手にし始めた。

 この時は、まだこの後どういうことになるか、というのは分かっていなかった。だから楽しくゲームをしていただけだったのだ。

「細工は流々」

 だれかが呟いたが、そこにそれを気付ける者はいなかった。

ちょっと間が空きましたが、そう言う時もある。というのはさておき、このシリーズも徐々に大詰めに向かっている、はず。ちゃんと終われるか微妙な感じですが、まあなんとかします。

さておき。

N-ZAP83は良いブキですよ。個人的に遊撃するのが好きなので、というのもありますけれども。ダイオウイカでの生存力UPは地味にいいものです。でも、スプリンクラーが無くて塗れない!置けない!ってなりますけれども。どんだけスプリンクラー依存体質なんだ俺は。

とかなんとか。

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