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停戦恋模様

王妃の間は広い。寝室と多数の部屋がある。

その内の一室でマーリンは女官長ノルンに怒られていた。


「あのような噂が上層階のメイドに蔓延するなんて、なんて嘆かわしい!それもこれも、マーリン様が御付のメイドに甘すぎるからいけないんですよ。分かっておりますか?!」


「はいはい。」


「中層、下層に蠢く間諜共の耳に入ったら、この国のメンツはどうなると思ってるんですか?!」


紺色の髪を逆立てそうな勢いで怒るノルンだが、対するマーリンはソファーで優雅に脚を組んでいた。


「そっちはノルンの目が光ってるから、心配してないよ。」


「!・・・だからって!上層階のメイドが花嫁様にあらぬことを吹き込む等言語道断ではありませんか!?」


「あらぬことって、何かな。」


「王が同性に現を抜かしている等と。」


「ああ、あれか。」


マーリンは天井を仰いだ。何時だったかの騒動を思い出したのだ。確かに発端はメイドが要らぬ事を吹き込んだせいだったと言えるのかも、と少し思う。


「とにかく!暫く花嫁様の御付はこの女官長、ノルンが致します!ついでにマーリン様御付の二人の根性も叩きなおしてさしあげますわ!!」


根性が叩き直るかどうかは知らないが、マーリンはアーシェ付きのメイドの人選に困っていたのでそれはいい案だと手を叩いた。


「それは助かる。しかし、中層以下の方は大丈夫なのかい?」


城では上層階、中層、下層階と居住区が分かれている。

それぞれに女官、つまりメイドが配属されている。

要人が居る上層階はそれは厳しい審査があるので身元は確かな者ばかりなのだが、これまで中層以下は間諜も潜りこんでいるのを前提として女官長ノルンが常に目を光らせていたのだ。


「私が目を光らせるだけで終わる訳ないでしょうが。きちんと代わりになる人材も育てておりました故、心配ございません!」


「なら安心だね。メイド達の管轄は女官長だったから、私がそうそう口を出す訳にはいかないと思ってたんだ。噂通り、冷酷非道な王としての処罰をホントにしないといけない事態にならないように、ノルンが頑張ってくれると助かるよ。」


「・・・分かりました。話は聞いてましたね、ヨーファ、メアンナ。これからはビシビシ行きますから、そのつもりでいるように!」


「「ヒィイ!」」


ノルンとしてはマーリンに意見をしていたのが、何時の間にか自分が頑張るという決意表明の場となってしまったような気がしたが、元より身元も確かで有能でもある二人を処罰する訳にはいかないとも思っていたのでそれに乗った。そして、睨まれた二人は縮み上がった。これまでのように妄想を垂れ流しにする訳にはいかないだろう。


 ※


「という訳で、上層階だけとは言え色々蔓延していた噂も沈下するだろうよ。」


「だったらいいんでゲスがね。他国まで要らぬイメージを持たれたら、これから外交がやりにくくなるとこだったでゲス。女官長の手腕に期待するでゲスよ。」


所変わってマーリンの執務室でマーリンはローウィンに今朝の経緯を話していた。ローウィンは早々に沈静化して欲しいと噂の数々を思い出して溜息を付いた。


「それより、血の粛清がないかってウキウキ間諜に見守られる方がイヤだよ。代替わりした当初のピリピリした空気なんて、もう私はかぎたくもないからね。」


「獣王は世襲制で無い分、代替わりは毎度内外不穏になったでゲスからね~。マーリン様が改革されたお陰でこれからは外の心配はなさそうでゲスが。」


リンステッドの王である、獣王は完全獣化できる者か、もしくは一番強い者がなる決まりである。その為、王が在位中に何度か決定戦やらを行う。

ちなみにヴェルヘルムとアーノルドの代では完全獣化できるのは二人だけだった。スピードではアーノルドが勝るが、総合的にはヴェルヘルムが強い。だが、今年は違うかもしれないと王に命じられて仕方なく戦ったりもしていたのをマーリンは良く覚えている。


「中も不穏にならないよう、頑張って改革するさ。」


幸い、ヴェルヘルムとアーノルドの友情は壊れなかったが、代々何度も戦わされて禍根が残ったという記録もある。流石に下克上には至ってはいないが、今後そうなったらリンステッドは終わりだとマーリンは思った。


「なんでこんなトコに堕ちるかなぁ。」


「何か言ったでゲスか?」


呟きに反応したローウィンに何でもないと首を振り、マーリンは異世界からこの世界に来た事を思い出していた。


 ※ ※ ※


「来るな!!」


先代獣王の治世の時、マーリンことマリは獣王の王妃の間に堕ちてきた。

すでに王妃は居たので、突然堕ちてきた闖入者に当然城は厳戒態勢へとなる。そして、一番強い獣王が出張ってきた。


「なんと、人間の雌なのに獣王たるワシに触れさせもしないとは!落人とは何と素晴らしく恐ろしい者よ。」


マリの魔法のバリアを破れなかった先代獣王は金色獅子の一族らしく、金色の鬣を震わせワハハと笑った。獣の姿のままで。


「ライオンが喋った!」


当時17歳だったマリは、自分の放った魔法にも獣王にも驚いた。驚いたマリを見て、ライオンの姿の獣王はまたワハハと笑った。

獣王は人間には排他的であるが、珍しい者は好むという好事家でもあった。そんな獣王に落人として迎えられたマリは王妃に可愛がられつつ、面倒な外交を獣王に押し付けられたりしつつ、なんとか国に馴染みそして国政に食い込んで行った。

リンステッドでは長らく宰相は空席になっていた。脳筋が多い獣人達では文官も少な過ぎる位なのだ。

宰相マーリンの発端は国政に関わるなら、男の方が都合がいいと魔法で変身したマリを見て、獣王が面白そうに笑った事にある。そしてそのまま面白がった獣王に宰相を押し付けられたのである。


「いい加減、何度も戦わせるのは酷じゃないですか。」


先代獣王は内には鷹揚であったが、気分屋で厳しい一面があり意見する者が少なかった。それはもちろん最強の獣王には逆らえないと言う事でもある。

その獣王に唯一勝てる人間、宰相マーリンの名はすでに内外に響き渡っていた。


「そうか?戦う事によって見えてくるモノもあると言うではないか。それに万が一アーノルドが勝ったら、次代の獣王はヴェルヘルムではなくアーノルドと言う事になる。間違える訳にはいかん。」


マーリンとなったマリより幾分か年下のヴェルヘルムとアーノルドは早くから完全獣化と判明していた為に城で寝起きさせられていた。そして王の命で戦うほかに、帝王教育を受けていた。もちろん彼らはマーリンとなる前のマリと面識があり、コテンパンにやられる為に頭が上がらなくなっていた。だが、頼りになるのもマリだったので、王の命で何度も戦わされる愚痴もマリへと吐かれる。

実力が拮抗していた為、傷だらけになるまで戦わされる二人を苦い想いで見ていたマリは、宰相マーリンとして獣王を諌めた。しかし獣王はそれすらも面白いと笑うだけで聞く耳を持たなかった。


「ヴェル、アル、ゴメン。王は多少の改革は目を瞑ってくれるのに、肝心な所で笑い飛ばすんだ。」


とうとう、それまで愚痴った事のないマリがそう愚痴った時、言われた二人は友情を感じた。これまで一方的に友人だと思っていた彼らだったが、それに応えてくれたと思ったのだ。


「いいんだ、マリ。いずれ俺が王すら超えて強くなれば、もう王も何も言えなくなる。代替わりしたら、俺達で国を変えていこう。」


「そうだ。俺もヴェルを支える将軍として頑張るから。」


「二人とも・・・!」


そんな熱い友情を三人が感じていた頃、あっけなく先代獣王は他界してしまう。流行の熱病に負けたのだ。


「そんな!」


まだ発展途上のヴェルヘルムは王となった。そうして不穏な空気が、主に外交をおろそかにしていた外から漂ってくる。そしていくつかの戦乱を経て、マーリンは『死神』宰相となり、将軍アーノルドは『一騎当千』の二つ名を得て、獣王ヴェルヘルムはマーリンの情報操作もあり、冷酷非道な王となった。


 ※ ※ ※


「へえ、そんな経緯があったんですね。」


異世界からの落人だったというマーリンの過去を聞いて、アーシェは感嘆の声を上げた。あのデタラメな強さは落人特有のモノだという。落人は帰れない変わりに、力を得るのだ。


「そ、だからヴェルが冷酷非道なのは敵に対してだけなんだよ。」


血生臭い話は弱い灰色猫族であるアーシェには伏せたマーリンはそう締めた。今のはマーリンなりに長い友人であるヴェルヘルムの印象アップキャンペーンのようなモノであった。


「やっぱり。」


そう言って、あ、口から出ちゃったと慌てて口を覆うアーシェにマーリンはこれ以上ない優しい顔をした。甘いのは百も承知である。アーシェがカワイイのがいけないとマーリンは思う。


「やっぱりって、何が?」


「あ、だって。ヴェルってこうなんというか、見た感じ怖いけど・・・優しいっていうのが最近分かったから。」


「・・・でも戦場では鬼なんだぜ。」


のろけのような返事を聞かされ、マーリンの印象アップキャンペーンは早々に終わりを告げた。血生臭い話をしてやろうと甘い笑顔が意地悪い笑顔へと変化する。


「もう!マーリン!今は戦争中じゃないし、マーリンのお陰で戦争にならないような国になったんでしょう。意地悪しないで!」


最近声帯が獣化したアーシェはマーリンがそれに弱いと知っている為、言い終わった後にニャーンと鳴いた。見事撃沈したマーリンは悶えている。悶えるマーリンを控えて居たノルンが残念な者を見る目で見ていた。


「ああ、カワイイ!後は耳と尻尾が生えれば完璧なのに!」


話そうと思っていた血生臭い過去は飛び、獣神が居れば何とかなるのだろうか、とマーリンは邪な目でアーシェを見た。灰色だが、髪はツヤツヤだし、碧の瞳は大きく輝いている。これに尻尾と耳があったら最強だろうとマーリンは思っていた。なくともアーシェは、対ヴェルヘルムには最強である。


「それよりこんなに頻繁に休憩して、大丈夫なの?」


こてりと首を傾げて真面目に尋ねるアーシェにマーリンは大丈夫と手をヒラヒラと振った。


「もう峠は越えてるんだ。後は微調整後のチェックだけだからね。」


その微調整で今頃、補佐官とローウィンはテンテコ舞いだろうが、補佐官はともかくローウィンは余計な事を考えては困るので忙しい位がちょうどいいとマーリンは思っていた。


「それに最近はアーシェのお陰でヴェルも書類仕事頑張ってくれてるからね。私一人忙しいってのは解消されたからいいんだ。」


そう、これまで書類仕事をマーリンにやってもらっていたヴェルヘルムは忙しいマーリンが居ない合間に王妃の間に通っていたのだが、真面目なアーシェに「仕事、しなくていいの?」と咎められ、書類仕事に精を出すようになったのである。

それでも宰相であるマーリンがやっていた事に比べれば微々たるモノであったが、補佐官の少ない脳筋体制のヴェルヘルムは結構苦労しているらしい。アーノルドも手伝いに招集される位である。

王妃の間の寝室へと繋がる獣王の私室の扉へ張った結界をチェックしたマーリンは、それを破ろうと頑張った形跡を発見し、獣王にやらせる書類をそろそろ上乗せする時期だな、と意地悪い笑みをケケケと浮かべたのだった。



のほほんとしてるのは上層階だけですよ、というこじつけ回。

ついでにマーリン達の過去も少々。先代が面白がったので、マリ=マーリンと知るのは少ないという裏事情。先代時代からの人達は落人マリは代替わりを機にどこかべつの国にいったんだろうとか思ってます。

ちなみに先代王妃は健在で、隠居して別のトコに居ます。

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