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剣と龍と神  作者: カナメ
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六十三話

「ねえ、もう一回!もう一回だけやろ!」



負けたフィフラはしつこくルシスに再戦を申し込んでいた。



「……あいつはアレか?自分が勝つまでやり続けるってタイプか?」



「クスクス、可愛らしいでしょ?結構周りが大人だらけだから外見も中身も早熟なんだけど……カード対戦に関してだけは年相応になるのよ~」



暢気に微笑むシキロは、ルシスにしつこく付きまとうフィフラを楽しそうに見つめている。

まるで娘を見るような母親の慈しむような目で。



「……何か失礼なこと考えてませんか、カイン?」



「い、いや。妹を可愛がっている優しいお姉さんみたいだな~って思っただけだよ、はは」



「……そうですか」



ははっ、本当に女は鋭いな。



「しかしルシスはすごいですね。『享楽好きの騎士王』を使ってまさか『暗黒騎士』に毒を盛るなんて……普通は考えつかないですよ」



「確かに、すごいな」



あの騎士王は『暗黒騎士』の特殊スキルを利用する為だけに選ばれたカードだった。

『享楽好きの騎士王』は普段から奇行好きで、その身に毒すらも馴染ませるほどに自由奔放な王だったのだ。

ゆえに『暗黒騎士』の特殊スキル《血河ある限り我は倒れず》で吸収してはいけないものまで、その身に蓄えてしまったのだ。

敵の血を吸う事で回復したフィフラのライフは、猛毒の血を馴染ませた『享楽好きの騎士王』のせいで猛毒の状態異常を招き、結果毒死となった。



「そして切り札として時間稼ぎの為に『盾の勇者』を投入した、と。確かに『盾の勇者』には特殊スキル《神の盾は血路を開く》の効果で時間稼ぎにはもってこいです。そこまで考えてのカード展開はなるほど、フィフラ以上ですね」



そう評価し終えたシキロを、フィフラが「私より上はセト様しかいない!」と駄々をこねている。



「それで……こちらが対戦には勝ったんだ、次は君の出番だろシキロ?対戦内容は?」



だがこちらはそれに付き合う時間が惜しい。

すぐにでもセトに会い、『鬼界』へと向かいたいのだから。



「せっかちですね~カインは。まぁいいでしょう対戦内容は…………」



「内容は?」



ゴクリと唾を飲み込む。

出来ればカード対戦は無しの方向で頼みたいが……!



「特にありません」



「はっ?」



何を言ってんだこの変態露出狂女は?



「厳密に言えばすでに私とカインの勝敗は決しています」



……いつの間に?

困った事にまったく自覚がないんだが?



「私のオッパイに触るか否かの誘いがあったでしょ?アレですよ」



「はぁ!?アレが!?……それじゃあオレがもし仮に万が一でも触ってたらルシスの勝利も意味はなかったってか?」



「まぁそうなりますね」



よっしゃーー!

セーフ!!

ギリギリセーフ!! 少し前のオレ、よく我慢した!!

偉いぞ、オレ!!!



「さすがマスターです、良く我慢しましたね。正直駄目かと諦めていましたが」



おい、ルシスさん。 そこは信じてよ。

むしろ信じようよ。



「とにかく私達『七欲』の二人は負けたから約束通り、セト様と会えますよ。すぐに会われます?」



「あぁ、頼む。セト……さんの都合はいいのか?急に会いに行っても大丈夫か?」



「セト様は常に暇を持て余してますからいつでも会えますよ~」



「……なら何でこんな回りくどい事を?」



まさか単なる暇つぶしかよ、おい。



「余興ですね。我々といかに戦い、どのような立ち回りを演じるのか……それを見るのが楽しみなんですよ」



「悪趣味ですね、相変わらず」



ルシスがぼそっと毒を吐いた。

しかしシキロは気を悪くするどころか苦笑しながら「私もそう思います」と同意した。



「では私がセト様のいる部屋に案内しますね。フィフラ、仕事モードに移って受け付け業務を再開して」



「は~い、わかりやしたよ~」



「ほら、口調。あと声も」



「……承知しました。あとはお任せ下さい、シキロさん」



何だかすごい切り替わりだな。

先ほどまでヒャハハハとか笑ってたとは思えない。

まるで別人だぞ。



「では参りましょう。セト様は最上階にいらっしゃいます」



「あぁ。……ところでシキロ、一つ聞いていいか?」



「何ですか?一つと言わず二つでも三つでもどうぞ。私のスリーサイズですか?」



「あぁ、それも知りたい……けどやっぱりいいです。だからルシス、背中に剣を突きつけるのはやめてくれない?それすごく危ないよ」



「そうですか?マスターにはこれくらいわかりやすい危機を感じていただいた方がいいのかと」



「せめて凶器はやめようよ」



そんなオレとルシスのやり取りにシキロがクスクスと笑う。



「仲が良いですね~」



「こんなのは日常茶飯事だよ」



うん、常に剣を突きつけられるのがね。



「羨ましい限りです。ところで私に聞きたい事とは?」



「あぁうん、なんだその~……シキロはいつまで裸なんだ?正直、今こうして階段を登っている間もひじょ~に眼福……ゴホン、目のやり場に困るんだが」



「私は常に裸ですから。少なくともこの建物内では」



常にですか、そうですか、ありがとうございます。



「……理由を聞いても?セトがそう命令したの?それとも自分の意思?」



おや、一応ルシスも気にはなっていたみたいだな。

これでセトの命令だからって聞いた日にはルシスさんセトを殺る気だろうな~。何か凍てつく殺意が肌に突き刺さってるしさ~ははっ。



「私の意思ですよ」



だがその心配は杞憂に終わった。

あっけらかんと即答したシキロを見て、ルシスの凍てつく殺気が霧散した。

ちなみに何故裸なんだという質問には「だって私、裸の方が好きなんです」との簡潔なお答えをもらった。

うん、なら仕方ないよね!



「こちらがセト様のお部屋です」



扉の前に立ち止まったシキロがノックする。



「セト様、お客様です」



「……どうぞ」



入室を促され、シキロが扉を開く。

ここに最初の『剣神』にして最強の男、『直刃』セトがいるのか……!

今更だが緊張してきたなあ。

入った部屋の中は、実にさっぱりとしていた。

というか物らしき物がない。

あるのはソファーのみ。

部屋の中心に置かれたそのソファーに、男が一人座っていた。

あれが……『直刃』!

最強の男はこちらを一瞥するとスッとソファーから立ち上がった。

その動き一つで嫌でも実感した。

こいつは強い。

正直、オレにはいつセトが立ち上がったのか認識出来なかったからだ。

予備動作などなく、無駄な動きは一切なければどだい無理な事を、この眼前の男はごく自然にやったのだ。

これが同じ『剣神』だと?

バカな、あまりにも格が違いすぎる!

人は、こんな高みにまで辿りつけると言うのか?

想像出来ない。

まったく。

一片たりとも。



「やぁルシス、千年ぶりかな?相変わらず綺麗だね」



「ふん、しばらく見ない間に世辞を覚えたか。多少は成長したようだな」



オレなど無視してセトはルシスに話しかけた。

格の違いを見せつけられたオレはただ人形のように立ち尽くし、状況を見守ることしか出来ない。



「僕だって千年も経てば世辞の一つや二つは覚えるさ。……ところで相方のファラは?彼女もてっきり来てるかと思い込んでたんだけど」



「……その件でここに来たんだ。お前などに会いたくはなかったが状況が状況だけに、背に腹はかえられん」



「……よほど切羽詰まってるようだね。あんなに毛嫌いしていた僕にこうやって会いに来るほどに。いいよ、僕に出来る事なら手伝うよ」



「……助けを求める側としては言ってはいけないんだろうが、何かこう薄気味わるいな、協力的な貴様を目の当たりにすると」



「酷い言い草だね、ルシス。まぁそうやって腹に一物隠さずにさらけだす君はやはり好ましいよ」



「……この千年の間に頭を強打した記憶はあるか?」



「何度もあるよ。それで僕に何をしてほしいの?他の『剣神』の抹殺?傭兵ギルドの即時解散?それともムカつく国があるから潰す?……最後のはルシスとファラがいれば事足りるから違うか」



……発言内容すべてがブッ飛んでいるのは冗談か?

いや、どれも本気なのだろう。

そのどれもが、きっとセトにとっては特に難しいことではないのだ。

価値観があまりにも違いすぎる。

千五百年も生きていると人間はここまでブッ飛んだ存在になるのか?



「どれも違う。というか貴様は考え方が我々寄りになっているな。長く生きすぎて老成したか?昔は血の気の多い生意気なガキだったが」



「ルシス達に初めて出会った時点で僕は五百才だったんだけどね。まぁあの頃は少しばかり血気盛んだったからねー……千年も経てば人間まるくなるよ」



年数のスケールが壮大すぎてついていけねぇー…。



「……さっきから君は無口だね、カイン?下では随分と面白い子だな~って印象だったんだけど」



いきなり話の矛先を向けられた形に、オレはろくに喋れもしない。



「マスター、こんな奴に緊張するだけ無駄です。たしかに最初の『剣神』として偉業を為し遂げましたが、中身はただの阿呆です」



いやいやそうは言うけどルシスさん、この男はその気になればオレなんかすぐに殺せる力量をもってるんだけど!?



「まあ、無理もないかなー。僕って半分以上は人間やめてるし。こういう反応はままあるから慣れてるよ」



あははーと能天気に笑うセトを見て、何故か無性に胸が痛む。

これは……



「恋ですか?」



「何でそこで茶々を入れるんだよルシス」



「冗談です。むしろ本気だったらワタシはセトを抹殺します」



「あはははっ怖いな。ルシスは恋敵はことごとく消し去るタイプだね」



楽し気に笑うセトはどう見ても普通の人当たりのいい兄ちゃんって感じだ。

オレとしたことが『直刃』という先入観に惑わされたか?



「それで本題に戻るけどルシスは僕に何を望むんだい?」



「マスターとワタシ達が敵対している『剣神』の一人がファラを『鬼界』に閉じ込めた。助けに行くためにセト、お前にゲートを開いてほしい」



「……なるほど、ファラが『鬼界』に。いいよ、ゲートを開こう」



「助かる。この借りはいずれ必ず返す」



ルシスがセトに向かって頭を下げた。

あっさり承諾してくれたセトに唖然としていたオレも慌てて頭を下げる。



「僕なんかに頭なんか下げる必要もなければ、借りを感じる必要もないよ。僕も昔は色々と迷惑かけたからね……特に『剣龍』族には」



「それでもだ。ありがとう」



「やれやれ、そこまで感謝されると何だかむず痒いね。何だったら『鬼界』に向かう際には『七欲』の何人かも同行させようか?そこにいるシキロもそうだけど連中はみんな超個性派の変人集団だけど腕は確かだよ」



実に魅力的な提案だが、甘えてばかりもいられない。



「ありがたいがそこまで世話にはなれん。……バルト大陸も少しばかりきな臭いから『七欲』メンバーは色々と忙しいだろ?」



「そんなのは『七欲』筆頭のゲハドが適当に調整するから気にする事はないよ。でもまぁあまり一方的な善意を押し付けるのは好ましくないかな?必要があれば連絡してくれ、『七欲』の一人や二人ならすぐに招集して行かせられるから」



「あぁ、人手が必要な時は頼らせてもらう」



「よし、じゃあ行こうか『鬼界』に。《聖域》はこの島内にあるからすぐに行けるよ」




こうしてトントン拍子にことは進み、『鬼界』へのゲートが開かれた。



「じゃあ二人とも気をつけて。

ここから先は敵地だから油断なく、ね」



「あぁ、改めて礼を言うセト。マスターとワタシがゲートを通ったらすぐに閉じてくれ」



「わかってるよ、『剣鬼』を無闇やたらとこちらに来させてはいけないしね」



手をヒラヒラするセトに見送られ、オレとルシスは『鬼界』へと向かった。

ファラ、もう少しだけ待っててくれ!

























「よろしかったのですか、あの二人に色々と役立つ情報を提供しなくても?」



「なんだい、随分肩入れするじゃないかシキロ。そんなに気に入ったのかい、あの二人を?」



「はい、中々面白い人達でしたから」



「……ゲートを開いただけでも充分すぎるサービスだからな。これ以上の貸し借りはルシスも嫌がる」



「……せめて『剣鬼』の大半が既に『鬼界』にはいない情報くらいは与えてよかったのでは?」



「現地に行けばわかる事だし必要ないだろ」



「セト様は優しいのか厳しいのか判断に迷いますね」



「身内には優しいさ」



「……やはりお告げにはなりませんでしたね、カインがセト様の子孫だと」



「随分と昔の話だからな。僕の遺伝子や血なんかきっと砂粒一つ程度しか残ってないよ」



「……アベルの方は如何いたしますか?」



「放っておけ。僕にとってはロードギアがどうなろうと知った事じゃない。アベルが世界を滅ぼしたいなら好きにさせるさ」



「カインとアベルが戦う時には介入しないんですね」



「互いに主義主張があってぶつかり合うんだ、邪魔するのは無粋だろ」



「……セト様が自らの意思で戦う機会はもうないのですか?」



「……安心しろ、裏で暗躍している連中が僕を無理矢理巻き込むさ。《奴ら》を本当にロードギアに降臨させるんなら、僕は喜んで剣をとるね」



「ならその時が来るまでは……」



「今まで通りダラダラ生きるさ。というわけで部屋に帰ったら膝枕してくれ、シキロ」



「はい、喜んで」

やっと六人目の剣神が登場しました。外見設定はピアスの穴を何ヵ所もあけてるホストみたいな兄ちゃんです。

さて次話はいよいよ『鬼界』に突入!

物語は加速する!!……予定です。

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