六十一話
ごめん、少しふざけた。
けど後悔はしてない(キリッ
何とも言えない雰囲気のなか、登録を済ませたオレはようやく傭兵ギルド所属の剣使となった。
いつまでも無職は駄目だしね、うん。
登録自体にさほどの時間はかからなかったが、その短い時間でオレとルシス……どちらが戦うのかはすぐに決まった。
まず初戦はルシスからだ。
あくまでオレ個人の観点だがマイペース同士、うまくやれると思う。
逆にオレが戦った場合、間を外しそうで不安だった。
あのフィフラは独特のタイミング、世界観で動いているフシがあり、中々に厄介そうだ。
つまり結論、天然さんには天然さんをぶつけろって事だ。
もちろん、ルシスにはもっともらしく説明し、フィフラとの対戦を頼んだ。
「登録完了です。では……どちらから戦われるかは決まりましたか?」
「あぁ。ルシス、頼んだ」
「はい。お任せ下さい」
フィフラは椅子から立ち上がると広々とした室内の中央まで歩いた。
ルシスもそれに合わせて前へ出る。
………………ここでやり合うのか?
戦闘の余波でこの建物が倒壊すんじゃねぇの?
そんなオレの不安が表情に出たのだろう、目敏いフィフラは説明してくれた。
「ご安心を、対戦は対戦でもこういう勝負内容で決めますので」
そう口にしたフィフラの手には……カード。
……………………………………………………トランプでやり合うのか?
「それは……また珍しい骨董品を持ち出しましたね。おおかたセトの提案ですか、勝負内容は?」
こちらからはルシスの表情は見えないが、声だけで推測するに呆れてる?
「ご明察です。私とはこのカードでの対戦で勝敗を決します。……ルールなどのご説明は必要ですか?」
「一応知ってはいるがなにぶん古い記憶だ。忘れている部分もあるから頼む」
「ではご説明します」
フィフラが懇切丁寧に説明を開始。
さすが通常時は受け付けをやっているだけある。
その説明は大事な要点をおさえ、実にわかりやすい。
…………わかりやすいのだが、説明を聞いていく間に何だかとんでもない事を口走っているぞ、おい!?
だがルシスは平然とフィフラの説明に耳をかたむけている。 …………あれ?
オレだけか?
フィフラの説明を冗談にしか聞こえないアホは。
「………以上です。何かご不明な点がありましたら説明しますがどうしますか?」
「いや結構、おかげで大分思い出した。礼を言う」
「これも仕事ですので。では早速対戦モードに入っても?」
「いつでもどうぞ」
未だ一人だけおいてけぼりをくらうオレなど気にも止めずに二人は真正面から対峙する。
「では、手持ちのカードから実体化ターンに突入。……失礼ですがここからは受け付けという役割から『七欲』の一人、フィフラとして対戦するので口調を素に戻します。あしからず」
事前に前置きしたフィフラの雰囲気が、次の瞬間にガラリと変貌する。
礼儀正しい少女から一転、荒々しいほどの殺気を隠すそぶりすらなく撒き散らす。
「さぁ!対戦開始だ!!血肉沸き踊る対戦をしようぜ、眼鏡のおね~さん!」
いやいや口調どころか声すら激変してんだけどフィフラさん!?
えっ、そっちがマジで素なの?
仕事中ネコ何匹かぶってんの!?
「……相変わらず『七欲』は個性派ぞろいだな。セトの趣味の悪さがよくよく実感できる瞬間だよ」
ルシスがやや辟易としているのが背中からでも伝わる。
『七欲』というものを事前に知っていただけに、あまりフィフラの変貌に関しては驚いていないようだ。
「さあさあさあさあさあさあ!先にこちらから手札をさらしてやるよ、別嬪さん!!『槍斧の騎兵』を実体化!」
フィフラが数枚のカードから一枚を抜き取り、地面に叩きつけた。
直後に三メートルはあろうかという騎兵が出現、槍斧を二度振り回しルシスを見下ろす。
………………………………あの説明マジだったのか。
曰く二人が手にしているカードは古代の遊び道具。
まるで現実のように実体化しているカードだが、プレイヤーに直接の害はないとの事。
つまりどう見ても本物にしか見えないあのデカブツ騎兵は実によく出来た幻……らしい。
こうして直接見てはいるが……信じられん。
あれが遊び道具って次元かよ!?
「……先に手札をさらした方が不利なのはわかっているはず。わかっていてやったのなら、少しばかり軽率か単純にこちらをナメているのか……。面白い、その代償は高くつくと教えてやる」
おいおい、何だかルシスの人格すら変貌しそうな勢いなんですけど!?
何なのアレ?
使用者をハイにする危ないカードなの? 闘争心を煽る呪われた道具なの?
誰か教えて!
むしろただ一人ひたすらにおいてけぼりくらうオレを助けろ!
「やれやれ、フィフラの悪いクセがでたな~」
そんな心の絶叫を聞きつけた誰かが来てくれたらしい。
気配もなく、どうやってオレの背後に立ったかは今はどうでもいい。
とにかく再度の説明を求める。
何がどうなってこうなった?
そう聞こうとして後ろを振り返ってみればそこには変態がいた。
…………もう一度繰り返す。
後ろを。
振り返ったら。
裸の。
女がいた。
…………露出狂の変態だーーー!!
妙齢の女じゃなかったらすぐさま斬り捨てるレベルの!
ってか何で裸!?
何で裸なのおねえさん!!
大事な事だから二回聞くよ!
ねえ何でなの!?
心の中とは真逆に、目の前の全裸の女に対して開いた口が塞がらないオレは何も言えない。
「何を固まっているんだ、青年?」
いや、あんた今の自分の姿を鏡で見てみろ。
純粋な青少年を一発で駄目にする状態だよ、アンタ。
「?……あぁまだ名乗ってなかったかな?私は『七欲』の一人、シキロだよ。よろしく」
「カ、カインだ」
何とかオレも気力を振り絞って名乗り返すと、シキロと名乗った妙齢の女はニコリと笑った。
いかん、ここでようやく悟った。
こいつ天然の男たらしだ。
本人に自覚がないまま無意識で男をオトす魔性の女だ。
「いい名前だね。ちなみにフィフラが負けた場合は私が君の対戦相手だからよろしくね」
「は、はぁ……。それで対戦内容は?」
「あれあれもうフィフラに勝つ気でいるの?それは見通しまだ悪いんじゃない?」
「ルシスは負けませんよ、例えそれが実戦でも遊びでも」
断言したオレはルシスに視線を戻す。
「『重装長槍兵×3』を実体化」
ルシスは手持ちのカードから三枚を引き抜き、全身を隙間なく鎧で身を固めた長槍兵を展開。
「実体化ターンエンド、戦闘突入…………突き殺せ」
ルシスの命令と同時に、正面から突撃してきた『槍斧の騎兵』が『重装長槍兵×3』に刺殺。
フリではあるが苦しがるように『槍斧の騎兵』がバランスを崩し落馬、消滅した。
「ヒュ~やるじゃん眼鏡美人さん!無駄なく的確なカード展開だったぜ!」
自分の手札がやられたと言うのに、フィフラは嬉しそうにルシスを賞賛した。
「楽しそうな所わるいがこれでフィフラの残りライフはあと半分だろ。そろそろ全力を出さんとボロ負けだぞ?」
忠告するルシスに、しかしフィフラは不敵に笑う。
ただの笑顔じゃない。
犬歯を剥き出しにした闘争心全開の、狂喜の笑顔。
「いいね~その余裕っぷり!その余裕が徐々になくなって、しまいには焦る表情が私はたまらなくタマラナク好きなんだよ~……。だから、たっぷりと今の内に堪能しときな、勝者の美酒を。最後には敗者の苦汁が待ってるんだからさぁ~」
ヒャハハハと笑い声をあげるフィフラに、ただの負け惜しみとは言い切れない絶対の自信が垣間見えた。
何かしらの切り札でもあるのか?
説明の段階では特にそれほどのルールブレイカーたる反則のようなカードはなかったはず。
バランスよく考えられた、実によく出来たカードだった。
カードとカードの相性さえ噛み合えば、勝負は確かに最後までわからないが、すでにフィフラは軽率な動きでライフを半分にまで減らしている。
ここからどう逆転する気なんだ?
解説役として期待したい相手を確認するためチラリと後方に視線を向けてみると、そこには未だ裸姿のシキロがいた。
いや、もうさすがに服やら下着の一枚でも着てるかと思っていたのだが、甘かったようだ。
本人は特に気にすることなく平然としてる。
オレの視線に気付いたのか、ニコリと笑顔を向けてくる。
悪気や邪気など欠片もない笑顔。
だがそれゆえにタチが悪い。
内心ドキドキしながらも表面上は平常心を意識してシキロに話しかける。
「シキロは……ゴホン」
だがあえなく失敗。 裏声が出てしまった。
やはり内と外、共にバランスがよくないと駄目らしい。
オレの場合は特に。 貴族のような面従腹背は無理だな。
こらシキロ、笑うな。
尚更恥ずかしくなるだろ。
ふぅー……今日は暑いな。
よし仕切り直しはこれでOK。
「……シキロはこの対戦どう見る?現在の状況は明らかにルシスの一方的な展開だけど」
「クスクス……そうね~、何だかんだでフィフラが勝つんじゃないかな?あの娘、あのカード対決では滅多に負けたことないし」
「……ちなみに戦績は?」
「身内以外では全戦全勝」
「……すごいな。ちなみに身内を入れると?」
「セト様以外の全員には勝てるよ。私も善戦はしたんだけど負けちゃったし」
……よかった。
心の底からそう思う。
フィフラとの対戦相手がオレじゃなくルシスで本当によかったよ。
オレだった場合は瞬殺される自信あるからね、うん。
「でもあのルシスって綺麗な女の子も結構強いね。いかに効率よくダメージを与えられるかをよくわかっていたカード展開だったし」
「そう、なのか?」
まるでさっぱりわからん。
「うん、騎兵には密集した重装槍兵が実に効果的だからね。だからこそ手札を惜しまずに一気に三体も実体化してフィフラのライフを半分も削れた。これが並みのプレイヤーだったら手札を惜しんで最小限のダメージしか与えられなかったはずだよ。あの思いきりのよさは好印象だね。フィフラもよき好敵手に内心ワクワクドキドキでいっぱいかもね」
「へぇ……たかがカード対戦かと思ってたけど奥が深いな」
「そう、結構難しいんだよ~。特に高位ランカーの手札の読み合いは見えない火花が見える勢いだからね~」
「高度な心理戦、か。実戦でも役に立ちそうだな」
「うんうん、私たち『七欲』はこのカード対戦があるからこそ、こんなに強くなれたんだよ」
「な、何だと!?」
あのカード対戦はそんなにもすごい副次効果があったのか!?
「じょ、冗談だよ。本気に受けとらないでね。あくまでそうだったらいいな~とか夢が広がるよね~って意味合いだから」
「……だよな。びっくりしたわ」
危うく騙されるところだった。
いや冷静さを失うと与太話すら真に受けてしまうな、反省。
「ごめんね~まさか信じるとは思ってなかったから~……悪気はなかったんだよ」
「いやオレの頭が単純すぎたせいだから気にしないでくれ」
ほんとバカですんません。
「お詫びの意味も兼ねて……さっきから視線を感じる私のオッパイに触る?」
「ぶうぅーーーーーー!!?」
な、バレていた……だと!?
「バレバレだよ~。目はあまり動かしてないけど視線は時折感じたし」
は、恥ずかしい!
恥辱死しそうだ、マジで!!
穴があったら入りたい。
むしろ誰か介錯を頼む。
「す、すまん。男の逆らいがたい本能のようなものなんだ」
震える声で言い訳するとシキロがわかってるからと優しく頷いてくれた。
……アカン、マジでシキロに惚れそうだわ。
惚れてまうやろーーーー!!
不意に冷たい視線を感じた。恐る恐るそちらに目を向けると…………ルシスがジト目で見つめていた。
やばいヤバイやばいヤバイ!
何か命の危機を感じとります!
「どうした眼鏡美人のおねーさん?余所見してると負けちゃうよ~?」
「……フィフラ、対戦途中に中断はありますか?」
ないよ!
ないよねフィフラ!
「残念だけどないよ~。勝つか負けるか、どちらかをもってしか対戦は終わらないよ!」
よっしゃーー!
よしよしよし!
オレの寿命が分単位で延命されたぜ!! チキショー、ざまあみやがれバカ野郎…。
「そうですか……ならさっさと終わらせましょう」
「おやおや急に戦意が上昇したね~?何か押しちゃいけないヤル気スイッチ押しちゃったかな~?」
あぁ、押しちゃったよ。
押した相手は残念だがフィフラ、お前じゃなくてオレだけど。押しちゃいけない殺る気スイッチ入りました~!
この世の終わりだといわんばかりに項垂れるオレを見かねたのか、シキロが優しく声をかけてくる。
「オッパイ触ります?」
どないやねん!!!
ノリノリで書きました。
次話は真剣に書きます…………きっと、多分、メイビー。




