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剣と龍と神  作者: カナメ
77/143

鬼神ヴェルガードその2

何とか年内には書けましたね。

本当ギリギリになりましたけど(汗)

予定より文字数が多いですけど頑張って読んで下さい。

バルト大陸から遠く離れた別大陸……今や『剣鬼』によって大部分が支配下に置かれ、生き残った人々は絶望していた。

別大陸をもはや制圧したと言えるこの戦果に、しかし『剣鬼』のトップである『八鬼王』の面々の表情は浮かないものだった。

結果には満足している。

しかしその過程が予想外だったのだ。

『八鬼王』の一人が重々しく口を開いた。



「まさかこの大陸を制圧するのに『八鬼衆』が三人も戦死するとはな」



これを口火に『八鬼王』の他の面々も喋りだす。



「確かに想定外の被害だ。『八鬼衆』だけではない、雑兵の消耗率も予想以上だ」



「雑兵などはどうでもいい。代替兵力である『剣精』で何とでもなる」



「やはり『八鬼衆』三人の死亡はデカイな。アレらの代わりなどすぐには見つからんぞ」



「大袈裟だな。たかだか『八鬼衆』の数人が死んだくらいで。しょせんは『刀刃解放』もまともに使いこなせん雑魚だろ?」



「それでもアレらはここ数百年では逸材だったのだ。……これで残る『八鬼衆』は二人か」



「その内の一人がキーリカの直属配下か。……忌々しい、奴の配下が『八鬼衆』随一の実力者など悪い冗談だ」



「『八鬼衆』で唯一の『刀刃解放』を使いこなせる奴だからな。我らに空席が出来れば次期『八鬼王』は間違いないな」



「それで、その次期『八鬼王』候補者筆頭を従えているキーリカは何をしている?未だに向こうで留守番か?」



「あぁ、まったく動きなしだ。一兵も動員していない。ヴェルガード様、直々のご命令なければこちらに帰還できんとほざいておるわ」



「ふん、巫女殿の言葉を信じてはいないという事か」



「それは貴様も同じだろう?」



「当然だ。だがあの時に大事だったのは誰の命令だったかではない。いかにロードギアに帰れるか、だ。そして巫女はそれを実行できた。我らにとってはそれで十分だ」



「違いない。事実、巫女とやらはあれ以降、姿を見せん」



「何が狙いだったのやら?」



「さて?我らのロードギア帰還を喜ぶ他者など存在するのか?」



「いないだろ」



「……あの巫女とやらの思惑など、どうでもいい。『八鬼衆』は減ったが、我ら『八鬼王』は誰一人として死んではいない。それで十分だ」



「確かに確かに。『八鬼衆』がたとえ全滅しようとも、我らが生きているかぎりは我らの勝利は揺るがぬ」



七人の『剣鬼』の王が自分達の有利を疑うことなく笑う。

ただその中の一人は自身以外の王を嘲笑するように笑っていた。

自分以外の全てを見下すような笑いに、しかし誰も気付くことなく会議は続く。最低限の連携内容を話し合い、別大陸の制圧を急ぐ為に。

しかし『八鬼王』の誰一人として予想出来ない事態は既に起こっていた。

もはや戦死扱いされている十郎太が『鬼神』ヴェルガードと戦った時点で。

この一連の出来事で今後のヴェルガードの行動指針は大きく変わる事を、今はまだ誰も知らない。



























「グギガガガききリィィィらラ!!」



もはや叫びなのかどうかすら怪しい発声をしながら、鬼甲状態の十郎太は地面スレスレを滑るように駆ける。

目指す先には二人の人影。

どちらを先に狩るかは気分次第。

故に動きは不規則で予測が難しい。

ジグザグ走行で迫り来る十郎太を、対峙するヴェルガードが不動で待ち構える。十郎太の予測不能な動きにも動揺すらしてないその様子に、鬼は本能で悟った。これはなぶる獲物ではない、敵だと。



「タルギぃラララああァ!!」



一秒前に予定していた進路を急遽変更、ヴェルガードの死角に回り込むように移動する。

将を射たんとするならまずは馬からを実行すべく、槍を構えた男から狩らんと、すでに体の一部と化した妖刀を突き出す!

人体などやすやすと貫く突きを、槍が阻まんとするが他愛もなく粉砕!!

勢いそのままに突きは止まることなく人体に到達……



「させるか!」



寸前にヴェルガードの妖刀が振り下ろされ、十郎太の妖刀が地面に突き刺さる。



「ギルギラりぃあぶィ?」



不可解な鳴き声を上げた十郎太は直後にすさまじい勢いで剣をはねあげる!

あまりにも強引で力任せな行動。

だがヴェルガードは力に逆らう事なく、最小限の動きでそれを見事に受け流し、剣技発動。



「破壊剣技、衝破」



まるで全ての動きが一連の動作のように放たれる剣技!

予測すらしてなかったタイミングで放たれた剣技は十郎太に直撃!

だが十郎太の全身を覆う鬼甲の肌が難なく衝破を弾き無効化。

傷一つはおろか、吹き飛びもしない十郎太を見て、ヴェルガードは無意識に舌打ちした。



「やはりかたくてかたい。我ながら厄介な剣技を作ったもんだ」



「若!!」



「ジイ、下がれ。得物を失っては戦いようがないだろ?」



「しかしこのまま引き下がってはあまりにも不甲斐なく…!」



「いつも雑魚はジイに任せきりだったからな、ちょうどいい運動になる。こいつはワシに任せてジイは住民の避難を手伝え。まだまだ避難が遅れてるぞ」



ヴェルガードの言葉に忠臣はわずかな時間だが迷った末に



「…………承知。ではまた後ほど!」



やけにあっさりと死闘の場を後にした。だがヴェルガードは気付いていた。

忠臣の苦渋の決断を。

心底納得はしていない事を。

だがあえて多くを語らずに去ったのはヴェルガードを信頼しているからこそ。

ならば……。



「それに応えなくちゃ男じゃないわな」



先ほどに比べて気力が充実しているのをヴェルガード自身も感じてはいたが、十郎太もそれを敏感に感じとっていた。

一旦退くのも視野に入れるが、眼前の敵から逃げられる隙が見当たらない。

ならばどうする?



「アギィィラシりルヲをかぁァァ!!」



十郎太が出した答えは強行突破。

勢いを分散させない為にもヴェルガードめがけて一直線、最短距離で駆け走る。もはや武器など持っていようが、いまいが関係ない。

鬼甲状態である十郎太の体当たりが直撃すればヴェルガードも無事では済まない。

最悪の場合は原型すら留めず、肉の塊になる可能性さえある。



「さて、どうしたものか?」



緊迫した状況とは裏腹に、今日の晩御飯は何にしようかというような気軽な態度で剣を構えるヴェルガード。

やるべき事を事前に決めているからこその余裕を持って一歩踏み出す。



「グゥラしゃアぁァァァァ!!」



もはや自分の意思でも止められない体当たりで殺す気満々の十郎太は、勝利を確信したかのように吼えた。

だが……。



「重力剣技、浮遊」



ヴェルガードの剣技によって十郎太は地面から強制的に三メートルほど浮かされ、無力化された。

地面に足がつかない状況はかなり不自由である。

万全の状態で力を使うには安定した足場が必須。

特に勢いを必要とする体当たりなら尚のこと。

思考能力をなくした十郎太に状況を打破する手段は皆無。

もはや上空でジタバタする以外に出来る事はなかった。



「ダリャがアぁァぎぃィ!?」



未だに現状を理解しきれていない十郎太はどこか戸惑ったように暴れ、叫んでいる。

それを眺めるヴェルガードはなんだかな~という心情で苦笑した。



「正気であれば考えて行動できるだろうに、所詮は知性のない獣と同様だな」



十郎太が正気ならばあらゆる剣技を駆使すれば何とかなる範囲であろうとヴェルガードは思っていた。

少なくとも無闇に暴れて叫ぶだけではないはず。

それとも少し時間を置けばあの獣も冷静になるのだろうか?



「そんな時間は欠片も与えんがな」



手足だけではなく全身を使って何とか浮遊状態から逃れんと暴れる十郎太を見上げ、妖刀の切っ先を向ける。



「封印剣技、鬼甲」



そしてヴェルガードにしか使えない剣技を発動。

徐々に黒く硬化した肌がボロボロと崩れ去り、暴れまわっていた十郎太の動きが止まった。

意識を失ったのだと、ヴェルガードは経験でそれを知っていたのでそのまま重力剣技も解除。

ドサリッと音をたてて力なく寝転がる十郎太に、ヴェルガードはゆっくりと歩み寄る。



「ふむ、やはり鬼甲に意識をのまれて気絶したか。……このまま放っておくわけにはいかんな」



街を半壊……とまではいかないが一部を瓦礫の山にした張本人だ。

放置しておけば街の住民やら警備兵に捕縛されるか、最悪の場合は止めをさされるだろう。



「こいつを助ける義理はないんだが、理由はあるからなぁー……。仕方ない、街の外に運ぶか」



よいせっと軽く踏ん張って十郎太を抱えたヴェルガードはその場から飛翔、瓦礫の山を軽々と飛び越えて民家の屋根から屋根へ、そして街を囲む外壁を難なく越えて街の外へと降り立つ。

更にそこから走ること数分、ヴェルガードは一旦、立ち止まった。

やや鬱蒼うっそうとした森の中で立ち止まる理由は特にないのだが、抱えて走る最中に十郎太が身動ぎしたのが立ち止まった最大の理由である。

ヴェルガードは周囲を警戒、敵影なしと判断し十郎太を地面に降ろした。



「うっ、うぅ……」



苦し気に呻く十郎太を冷めた目で見下ろすヴェルガード。

同時に、やはりさすがは『剣鬼』とも素直に感嘆していた。 鬼甲の暴走状態から解放され数分で意識を回復する寸前まできている、その回復能力に。



「普通の人間なら精神を消耗しすぎて衰弱死するんだが、やはり腐っても『剣鬼』か。……この場に放置しておいてさっきみたいに暴れられたら本末転倒だし、ジイとの合流は後回しだな」



やれやれとため息を吐きながらヴェルガードは近くの木に背中を預ける。

座りもせずに待つこと数分、待ち人ならぬ十郎太は意識を覚醒させた。



「こ……こは?」



「さて、どこだろうな?ワシも詳しくココはどこどこの何々の地名だとは知らんな」



ちなみに彼らが現在いる正式な地名は静瀞せいせいの森だという事を記載しておく。



「だれ……だ?」



十郎太からしてみれば立場的にも心情的にも即座に立ち上がり臨戦態勢に移りたかったが、体が言うことを聞かないので諦めるしかない。

為す術もない十郎太にはその場にいる誰かに話を聞いて、情報を入手、現状を把握するしか出来る事はない。



「誰でもいいだろ」



だがまぁ、ヴェルガードにはそんなこと関係なかった。

故に一言で拒絶した。



「…………」



さすがにこの状況下で二の句を告げるような十郎太でもない。

ともすれば若干の殺気すら漂わせるヴェルガードに畏怖すら抱いていた。

鬼甲によって意識を失う前に圧倒されたのも記憶に新しい、そしてこうやって両者が生きているという事は……つまりそういう事なんだと十郎太は理解していた。

だから多少の恐怖は押し殺して、十郎太は再度、口を開く。



「アンタが、オレを止めたのか?鬼甲状態のオレを?」



「………あぁ」



答えを期待していたわけでもなかった十郎太に、一拍の間を置いてヴェルガードは律儀に答えた。

内心では自分の殺気に恐れず質問した十郎太を空気よめないアホと罵倒しつつも、少しばかり褒めてもいた。

その神経の図太さに。

自身に殺気を向けられてただ身を縮こませる小物ではないという事に。



「いったい、どうやって?」



「秘密だ」



「教えてくれ、鬼甲状態のオレをどうやって止めた?」



「自分で考えろ」



「解らないから聞いているんだ。オレ自身の体に大したケガはないし、鬼甲の媒体でもある妖刀も無事だ。両方が無事なままに鬼甲が解除されるなんてそんな方法あるわけ……ない…………はず……」



そこまで口にした十郎太はやがてあり得ない結論に達した。 馬鹿な、そんなものは荒唐無稽だと自身を嘲笑するが一度辿りついた答えを、完全には否定しきれないのもまた事実だった。

鬼甲を解除する方法は三つある。



一つは鬼甲をまとう『剣鬼』に致命傷を与える。

これは鬼甲の硬くて堅い肌を貫通させる程の威力がある剣技をくらわせれば可能だ………そんな人外まがいの偉業を成し遂げる存在は非常に稀だが。

ちなみに過去の『鬼神大戦』時に鬼甲をまとう『剣鬼』の幹部が、『龍神』の一撃によって砕かれたのは有名な話。

あくまで『剣鬼』の間ではと補足する。



二つめは鬼甲の媒体ともなる妖刀の破壊である。

一つめの方法が直接的な手段とするなら、こちらは間接的な手段とも言える。

こちらの方が解除方法としては幾らかマシで、現実的である。

ただし、一つめに比べてあくまでマシであると強調しておく。

ちなみに、媒体ともなる妖刀を『刀刃解放』する事によって解放剣技、鬼甲は使用可能になる。

これは妖刀こそが『剣鬼』の心の支柱であるからこそ出来る剣技である。

ならばその支柱を叩き折れば?

『剣鬼』は内部から精神的な死を迎えることになる。



そして三つめである最後が先ほどヴェルガードが実行した内容だ。

解放剣技、鬼甲のまさに正反対に位置する封印剣技、鬼甲。これは『刀刃解放』を封印する為だけに作成されたヴェルガードのオリジナルである。

故に正確には唯一剣技とも言える剣技だが、あえてヴェルガードは新しいジャンル、封印剣技とした。

いずれは自分以外にもこの剣技が使える者が出ますようにと願いを込めて。



「そんな馬鹿なことが………いやしかしそれ以外に考えられない……」



一人ブツブツと呟く十郎太を、黙してヴェルガードは静かに見つめる。

逃げも隠れもしないと覚悟したからこそ、十郎太自身が気付くまでただ待つのみ。

そして、その時は訪れる。

結論が出たのか独り言がピタリと止まり、十郎太がおもむろにヴェルガードの方へと歩み寄り……すごい勢いでひざまずいた。

半ば予想出来ていた反応だけにヴェルガードはこれ見よがしにため息を吐く。

そして用意していたセリフを喋る。



「そんなに畏まるな、今のワシは昔のワシとは違うぞ。あの頃より激弱だ」



(あくまで魂は同じだけの存在だしな)



そんな心の声すらも聞こえていたのか、十郎太は跪いたままの姿勢で力強く否定した。



「いいえ、直接お会いした事はありませんが確かに貴方様こそが『鬼神』ヴェルガード様だとオレ……私は確信しております!今までの非礼を平にご容赦を!!」



土下座する勢い……というかすでに土下座に近い姿勢の十郎太の頭を、ヴェルガードは軽くコツンと小突いた。



「平伏する必要などない。少なくとも今のワシには逆にそれこそが非礼と知れ」



「!!?し、失礼いたしました!!」



背筋がゾクリとした十郎太は慌てて土下座したまま器用に後退、片膝立ちに姿勢を変更した。

それを見つめるヴェルガードは三度目のため息を吐く。



「まぁ今はそれで妥協しておくか。いずれは普通に立ち上がって会話しろよ…………えっとお前の名前は何だ?」



「十郎太でございます、ヴェルガード様!」



「いちいちそんなに声を張るな。ちゃんと聞こえている」



「はっ、失礼いたしました!!」



「……さっきよりも声がデカくなってるんだが。それよりもさっさと立て」



「し、しかしヴェルガード様の御前でそのような軽挙な事は」



「ふむ、ならば選択の時間だ」



「はっ?」



間抜けな声を上げる十郎太をあえて無視してヴェルガードは問う。



「今後、ワシに対してタメ口で会話するか、家臣の礼をやめるか選べ。言っておくが家臣の礼には平伏と今の姿勢全般が禁止事項だ。ワシが何を言いたいかは解るな?」



「は、はい!しかし『鬼神』たるヴェルガード様にそのような無礼な振る舞いは……」



「先ほども言ったはずだ。それこそ非礼だとな」



「も、申し訳ありません!!」



「謝罪はいらん、行動で示せ」



そこまで言われてようやく殊更ゆっくりと、慎重に十郎太は立ち上がる。

その様子はまるでいつでも『やっぱりさっきの取り消し』とヴェルガードに言われればすぐさま平伏出来るようにすら見えた。

実際その通りなのだろうとはヴェルガードにも解ってはいた。

だから冗談でもそんな事を口にはしない。



「さて、十郎太。今後のことだが……」



「は、はい」



「それを話す前に教えろ。何故、先ほどの街で暴れた?ワシには無意味な破壊行動にしか見えなかったんだが、上からの命令か?」



「そ、それは……」



そんな十郎太の反応で何となく全てを察したヴェルガード。



「包み隠さず、全てを話せ」



十郎太を威圧して嘘偽りを口にする事を禁じた。

退路を断たれた十郎太はやがてポツポツと語り出す。

現在の『剣鬼』の支配体制から始まり、その動向、そして今に至るまでの過程を隠さずに、ゆっくりと。



「…………以上で全てです」



「……なるほど、興味深い話ばかりだった」



十郎太から聞いた話はどれもがヴェルガードの知らないことばかりだった。

いや唯一、『剣鬼』の動向に関しては違った。

十郎太は虚ろな心でさまよっていたから知らなかったみたいだが『剣鬼』はすでにロードギアへと帰還している点だ。

それを聞かされた十郎太は驚いていた。その反応から十郎太は嘘をついていないとヴェルガードは判断。

つまり、アルブドル山脈の一件から別大陸に『剣鬼』が降り立つまでに何者かが動いたという事になる。

そしてその時期の話を十郎太の会話内容で察したヴェルガードは共通点を見出だした。

その期間の間、あのしつこい女…《魔神》レラフが姿を見せなくなった時と符合する。

それまで粘着質だった絡みがなくなってすがすがしい日々を過ごしていたから気付かなかったが、いま振り返って考えれば明らかにオカシイ。



「つまりはそういう事、か。妙な所で縁がある」



レラフからしてみれば運命だと言いそうだが、それを聞いたヴェルガードは苦々しい顔を浮かべるのは想像に難くない。



「しかし『剣鬼』の支配体制も随分と様変わりしたようだな。よもや『鬼神』単独の支配から『八鬼王』とやらの複数支配体制とは……そこまでしなければ駄目だったということか」



「はい、私も詳しくは存じませんが『鬼界』に逃れた当初は相当ひどかったそうです。……こう言っては何ですが危うく同族同士によって滅びかけたとも伝わっております」



「……つくづく業が深いな、ワシは」



「…………」



枯れた老人のようなヴェルガードの吐露に十郎太は何も言わない、いや何も言えなかった。



「……話は戻るが十郎太、お前さんが暴れた要因ともなるアルブドル山脈での出来事だが間違いないか?」



気を取り直すように話題を変換するヴェルガードに、十郎太はすぐさま答える。



「はい、間違いありません。……あの場所で出会った全ての者にとってオレは…………取るに足りない弱者だったのです。それが悔しくて、でも自分では認められなくて……。オレは強いと勝手に思いたいが為に、オレは所構わず暴れ回る結果になりました。全部、オレの心が弱いばかりに…!」



後悔を口にする十郎太を、ヴェルガードは慰めはしない。



「過去は気にするな、未来を見つめろ……などと在り来たりな励ましはせん。だが自分自身の弱さを見つめ直す強さがあるなら、お前はまだ強くなれる。いずれはお前を弱者と見下ろした奴らを見返してやれ」



「……出来るでしょうか、オレに」



「難しいがやるしかあるまい?そうでなければお前はずっとそのままだ。乗り越えなければいずれお前は今日みたいな事を飽きずに繰り返し、そして後悔し、また続ける。死ぬその時まで、終わることなく」



「…………」



「それが嫌なら強くなれ。お前にその気があるなら、ワシも多少は助力しよう」



「!!ほ、本当ですか!?」



「ワシは考えなしに無闇やたらと拾った犬猫を放任する奴とは違う。拾ったからには責任をもつ……あとはお前次第だ」



「お、お願いします!オレに強くなる機会を……いや違う!オレが自分自身に後悔しないようにする機会を与えて下さい!!」



「あぁ、与えよう」



即座に応えたヴェルガードに十郎太はただひたすらに感謝を口にする。

それを聞き届けながらヴェルガードはある一つの決心をしていた。



(『剣龍』の片割れが『鬼界』に送られた、か……おそらくそれを迎えにマスターであるカインは『鬼界』に向かうはず。いや確実に行くな。例え単独であろうとも。なら……数少ない友人としては手を貸さないとな。貸しは返さないと気が済まないし、何より向こうにはワシが探していたアレがあるかもしれんしな)



こうして誰にも予想出来なかったヴェルガードの『鬼界』への帰還は思わぬ方向へと転がりこむ。

それが良い方向なのか、悪い方向なのかは現時点では誰も知らない、わからない。

これにて番外編は一旦終了です。

次話からは、新年からは主人公のターンだ!

長かった!

えっ?主人公って誰だっけ?

やだなぁ~カインですよ~。

…………なにそれ美味しいの?

……………………うん、美味しいよ!

ではでは皆様、よい年末を~。

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