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剣と龍と神  作者: カナメ
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不死神ホト

戦乱の嵐です。蒔いていた火種が燃え上がってきてます。

『六剣神』の一人である《不死神》ホト。

彼は死体を愛する反面、生者にはあまり関心がない。

別にホトは死体から生まれたわけでもなければ、幼少期を死体に囲まれて育った特別な環境下にいたわけでもない。

むしろありふれた平凡な家庭に生まれ、育ち、成人した。

どこにでもいそうな青年になったホトは何故『剣神』になれたのだろうか?

いつ彼は『壊れて』しまったのだろうか?

その変貌のキッカケは?



『剣獣』と契約した際に?

初めて人を殺した時に?



どちらも否だ。

ホト自身が自分の異常さを自覚したのは十歳の時だ。

罠を仕掛けて兎を捕まえたホトは生きたまま解体した。

なぜ殺さずに生きたままだったのか、理由はない。

強いて言えばなんとなくとしか本人にも答えられない。

ただ解体中はひたすらに興奮したのを覚えている。

良心の呵責など一切なく、ただ楽しんだ。

その時、自分はどこか歪んでいるのだろうと幼心ながらに悟ってしまった。

しかしそれを表に出すことなく巧妙に隠したまま、ホトは成長していった。

自分はどこにでもいる平凡な人間だと他人に思い込ませたまま。

ある意味これはホトはホトなりに人間という群れに順応する為の処世術だったと言えるだろう。

だが成人して生まれ故郷を離れた時、今まで蓄積されたホトの欲望が弾けた。

すなわち視界に入ったあらゆる生物の殺戮だ。

小動物から大型の動物、更には人間……欲望はとどまる事なく『剣精』すらも捕らえて、殺す。

気に入った個体があれば愛でて保管する。

故郷を出た当初はさほど突出した力をもっていなかったホトは、やがて十数年の時を経て高位の『剣使』にまでのぼりつめていた。

そんな自由気ままに生きていたホトだが、ある日自分以上の異常者と出会う。



《魔神》レラフと。二人の出会った場所は小国同士の小競り合いに巻き込まれた小さな村だ。

村人は全滅。

金や食料などは一切残っていない。

もはや盗賊すらも寄りつかない、空腹の狼や鴉の食事場所に変わり果てた村での出会いに、レラフは笑った。

逆にホトは困惑した。

こんな辺鄙な地に何故、下着同然の着衣しか着ていない美女がいるのかと。



(まさか欲求不満?幻が見えるほどに?……バカか)



自身の思考に呆れながら下着姿同然の美女、レラフはホトに一歩、また一歩と近付いてくる。

油断なく身構えるホトだがレラフは止まらない。



(……殺るか)



自分の間合いに入られた場合は容赦なく斬るというホトの殺気に気付いたのだろうか?

レラフがようやく立ち止まった。



「お主、中々に楽しそうだな?そんなに死体が好きかえ?」



どうやら自分の趣味を満喫していた場面を見られていたようだ。

それも最初の方から。



「あぁ、好きだね!大好きだ!!愛している!!!」



だがそれがどうしたと言わんばかりにホトは誤魔化さずに堂々と叫ぶ。

ヤケになったとか、開き直ったわけではない。

ただ自分の趣味趣向を他人に宣言しただけだ。

……その内容が常識はずれである事は自覚しながらも。



「そうかえそうかえ。一切隠さず誤魔化しもしないお主の正直さにまずは拍手を」



レラフ一人分の乾いた拍手の音が寂れた村で響く。

いきなり褒められたホトにとっては、他人に自分の趣味趣向を認められる事は今後一生ないと考えていただけに少しばかり驚いていた。



「……まさか自分の趣味を理解してもらえるとは思ってなかった。君はワタクシと同類か?」



自分と同じ死体愛好家なのかというホトの問いに、レラフは否と答えた。



「少々似てはいるが厳密には違う。だがまぁ同じ穴のムジナなのは確かかものぅ」



妖艶に笑うレラフに理由はわからないがホトの背筋がゾクリとした。

興奮?

恐怖?

共感?

……どれが当てはまるのかホトにもわからない。

そんな二人の出会いは当事者たちにとってはいい出会いになったかもしれないが、ロードギア全体で考えるとこれは最悪な出会いと言える。

片や他人を極限にまで苦しめる事に快楽を見出だす異常者。片や死体にしか興味をもてない死体愛好家。

どちらも他人を害する事でしか人生を楽しめない人種だ。

そんな二人が意気投合したら?

間違いなく悪い方向に加速するだろう。



「妾の見立てではお主、高位剣使じゃろう?S級かえ?」



「あぁ、そうだ」



「ふむ……更なる強大な力とやらに興味はあるかえ?」



「強大な力?……それは今以上のものか?」



「そうとも。S級剣使など比べるまでもない圧倒的な力じゃ。興味はあるかえ?」



この言葉にホトがどう答えたかは言うまでもない。

こうしてレラフの推薦で『候補者』になったホトは、龍との死闘を乗り越えて『剣神』へと至る。

手にした『神剣』の力と、何よりその特性にホトは狂喜した。

死を司り、死を操り、死を支配し、死を統べる。

『神剣』の一本、《不死神》を手にホトは世界を旅する。

かつて英雄と名高い強者の死体を求めて。

あるいは悪名高い極悪人の死体を求めて。

墓を掘り起こし、強制的に支配下に置いていく。



およそ百年に及ぶ死体収集コレクションは、四百を超える。 そのどれもが生前は高位剣使だ。

大半が歴史に名を残した者ばかりだが、中には無名のまま命を落とした猛者もいた。

ホトはそれらを嬉々として収集した。

自分の趣味を満喫して楽しむ為に。

だがそんな楽しい趣味も、今は中断せざるを得ない。

ロードギアを戦火と戦禍に染め上げる為に。

他の二人が動いている時に自分だけ楽しんでいるわけにはいくまい。

何より予定していた計画を早めたのはホト自身なのだから余計にそうだ。



「さて、レラフの方は上手くやったみたいだな。別大陸は今や帰ってきた『剣鬼』によって阿鼻叫喚の地獄絵図だ。ならこっちの大陸も更なる地獄絵図に塗り替えないとな」



話は少し変わるが、『剣神』ラーズが女王でもあるアースガルズ王国はこのバルト大陸どころか、世界で一番の大国である。

そんな超大国に挑める勢力は、現在のところロードギア全体を見渡しても皆無である。

だがこの国を除外して世界規模の戦火は拡大するのか?

否、世界最大最強の勢力をもつ国を除外するなど、ホト達は考えていない。

むしろ巻き込む気満々だ。

それが例え同じ『剣神』が相手であろうとも。

その為の下準備や実行はホトの担当だった。

『剣神』同士の直接対決は当分先であると考えているホトはまず、アースガルズ王国に拮抗できるだけの勢力を作る事にした。

作ると言っても一から作るわけではない。

今現在にあるものだけで作ればいいのだから。



「そういうわけだからお三方、頼むよ」



「「「承知」」」



ホトの指示に頭を下げた三人は全員すでに死んでいる。

ならば何故動くのか?

《不死神》の支配下にあるからだ。

ちなみに三人はただの一般人ではない。三人全員が中堅国家の王達である。

元々は三人の王達の国は一つの国だった。

しかし後継者争いによる内乱で三つに分裂、およそ二百年にわたり争いあってきた。

世代が変わり、戦争は膠着していたが未だに三国間の関係は悪い。

そんな三人の王全員を仲良くさせて会合させたのが、誰であろうホトだ。

本人達の意思など絶賛無視してだが。

そもそも既に三人の王達に意思など存在しない。

前述した通り、もはや死人なのだから。



「長年争い合ってきた三人の王が和解し、協力してアースガルズ王国と戦う……まるで絵本のような展開だ」



仕掛け人であるホトがわざとらしく語る。



「さぁ、英雄譚を始めよう。三人の王が、一人の悪名高い女王を倒す物語を!」



バルト大陸においても戦火は急速に拡大していく。

これらの背景に三人の『剣神』が暗躍している事を知っているのは極々限られた一部の者だけ。

大半は何も知らぬまま、世界は荒れ果てていく。



分裂した三国が一つの国に戻った事により国民達は歓喜した。

長年、同じ国の住民同士が争い合ってきたのだから当然だった。

ちなみに一つの国として統合する時に抵抗した各国の貴族はホトが全て殺し、操っている。

統合は速やかに行われ、二百年ぶりに一つの国として蘇る。中堅国家三つが統合された結果、国力はアースガルズに次ぐ大国となった。

そして一つとなった大国は統合してから一ヶ月経たずに周辺諸国に攻めこんだ。アースガルズに次ぐ大国の攻勢に抵抗できる国などなく、攻められた国々はことごとく殲滅、制圧された。

その勢いは止まることを知らず、その魔の手はアースガルズ王国のすぐ近くにまで迫っていく。

二つの大国が戦争に突入するのは誰の目から見ても明らかであり、大陸最大規模の大戦はもはや避けられない状況であった。



「勝っても負けても楽しい戦争になりそうだ。これでまたアレの出現が早まったかな?あぁ……早く速く現れてくれ」



ホトの願いは叶うのか?

結果など誰にもわからぬまま、二つの大国は開戦した。

次話はトゥアラ回です。

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