四十七話
楽しんでもらえれば作者は嬉しいです。
それは突然だった。
「■■■■■■!!!!」
咆哮。
オレの周囲を取り囲む魔獣達にも劣らぬ、いやそれ以上の恐怖を体感させるソレにオレは絶望した。
レラフがまた新たな魔獣を召喚した。
そう思った。
だがすぐに知る。
違うと。
それは剣神たるレラフですら思わず後ずさる威圧感を発し、その姿を不意に消した。
いや消えたんじゃない、上だ!
かろうじてその姿を追えたのはオレとレラフのみ。
魔獣は完全に見失っている。
だが獣の本能なのか、危機を察知した魔獣が遅れて上を見上げる。
だが気付いたところで無駄だ。
それは大胆にも魔獣の群れのど真ん中に降り立ち、その力を見せつけた。
腕を振り払うだけで五体の魔獣が魔素の塵となる。
蹴り飛ばすだけで更に五体。
正気を取り戻した魔獣が一斉に襲いかかるが、それすらも一顧だにせず殲滅!
出遅れた残る数体の魔獣はすでに怯えて後ずさる。
《魔神》レラフが使役する魔獣が、だ。
無理もない。
その強さは剣神、剣龍クラス。
対抗できるのは同等の存在のみ。
使役されるだけの魔獣と、なりたて剣神のオレとではただその強さに圧倒されるだけだ。
これがヴェルガードの……鬼神の力か?
何故いまその力をふるっているかは分からんが、少なくともオレに対しては敵意を向けてはいないみたいだ。
『懐かしい気配を感じてはいたが……まさか鬼神がいるとはな』
『マスター、申し訳ありません。鬼神の存在に全く気付かないとは……』
『無理もないと思うが。……言い訳させてもらうなら、アレは今の今までその存在を巧妙にカモフラージュしていたし、何よりアタシ達が剣鬼の気配に慣れすぎたせいもある』
……そうか、オレの左腕のせいで。
違和感を常日頃から近くで感じていたら、遠くの違和感にも気付かなくなるわな。
『しかし、相変わらずの強さね』
『確かに。最盛期ほどとはいかないけどすごいな』
あれで最高の状態じゃないって…
イカン、スケールが違いすぎて頭が追いつかん。
その間にも残った魔獣を一掃した鬼神がレラフと対峙する。
「さすがにいまの状態で鬼神とやり合う気にはならんのぅ。非常に惜しいが…一旦出直すとしよう」
「■■■■■■!!」
逃げる素振りをするレラフを牽制するように、鬼神が吼える!
「安心せよ、いずれ必ず再会する。妾のモノにする為にも、のぅ」
不吉な事をのたまうレラフに鬼神が容赦なく襲いかかる!
レラフは突き出される拳を紙一重で避け、逆に鬼神にカウンターの蹴りを叩きこむ!
思わぬ反撃にたたらを踏む鬼神を尻目に
「属性剣技、嵐丸」
レラフが即座に剣技発動!
小さい球体が鬼神目掛けて放たれるが
「唯一剣技、炎獄」
鬼神の手から放たれる巨大な火球がそれを相殺!
世界全体がまるで震えるような余波に、コロシアムが崩れていく!
『バカ弟子、逃げるぞ!』
ファラに促されるが、オレの視線は力を使い果たしたせいか、石畳の上に倒れたヴェルガードへと向いてしまう。
「放っておけないな」
『…マスター、一応指摘しておきますがソレは鬼神ですよ?』
口調は丁寧だが、いつもよりルシスの声音が低い。
まぁ、親の仇みたいな存在だしな。
だがこいつには結果的に助けてもらった。
このまま置き去りにはしたくないし、あの正義感の塊であるオッサンにも頼まれている。
それにコイツは鬼神であって鬼神じゃない。
「すまんな、ルシス。今回は見逃してやってくれ」
ヴェルガードをヒョイっと持ち上げる。
『……マスターのご意思とあらば』
一応の納得。
だが今はそれでもいい。
さて急がないと瓦礫の下敷きになるし、ダッシュだ!
あの後、瓦礫の山となる寸前にコロシアムを脱出。
人目をひかないようにヴェルガードを宿屋へと運びこんだ。
後日、ヴェルガードの行方を捜していたオッサンを回収。
宿へと案内した。
オッサンに先に事情を聞いておきたかったが……ヴェルガードの意識が戻るまでは待つことにした。
その三日後、ようやくヴェルガードは目覚めた。
まだ完全に体力が戻っていない事もあり、後日詳しい説明を話すと言われ承諾、その日は解散した。
ヴェルガードは再び眠った。
だがその翌日には二人の主従の姿はどこにも見当たらなかった……
ただ一通の手紙以外を残して。
「全く気配に気付かなかったぞ」
ため息しか出ない。
オレだけじゃなかったら気付けたかもしれないが……頼りのファラとルシスはヴェルガードがいる間は帰ってこなかった。
二人の心情を考えると無理もないが。
おそらく今頃、昼日中にも関わらず二人で酒場にでもいるのだろう。
とりあえず…手紙を読むか。
『こんな書き置きだけを残し、勝手に去る事を先に謝っておく。スマン!心苦しくはあるが、ワシ自身の力や存在にまだ整理できていないのが大きな理由の一つだ。だから説明するにしても恐らく要領を得ないだろう。ただ信じてほしいが、ワシは剣鬼ではない。中身…魂は鬼神らしいが肉体の方は人間だ。誓ってそれだけは真実だ。両親は正真正銘人間で血も繋がっている。正直、記憶と力を前世から受け継いだワシはこれらを持て余していた。なんせ人の身には強力すぎた力だからな。この世に誕生した時からすでに剣獣でもなければ剣龍でもない何かと契約していたワシは気味悪がられ、差別された。聖剣でも魔剣でもなく、神剣でもない剣を持つ子供だから仕方ないとは言えるな。ただただ強い力を持つ子供。
だからといって人間を支配するとか復讐だとかめんどくさい事はワシはせんぞ。ジイのおかげでそういうのには興味がない。結構、今の流されるがままの人生を気に入っているからな。この先も自由気ままに生きるつもりだ。また旅先にでも会えるその時までには、お主達に説明できるようになっている事を願ってくれ。ではまた』
「……親愛なる友人より、か」
剣神と鬼神が友人って。
まぁいいか。
ファラやルシスとは多少の確執があるにはあるが……あの突撃バカはそんなに嫌いじゃないし。
向こうもこちらを気に入ってくれたみたいだが、こっちも向こうを気に入っている。
なるほど、友人か。
悪くない。
少なくとも、どこぞのネガティブ思考で隠し事ばかり、更にはすぐに消息を絶つ友人よりは百倍仲良くなれそうな友人だ。
「さて、これからどうするか」
レラフを殴りそこねたしな…捜し出すにしても拠点だったここにはもう姿を現さないだろうし……あの執着ぶりから勝手に目の前に現れるからそれを待つか。
……この都市にいてもする事はもうないな。
旅の資金は余裕で稼いだし。
ならば早速あの酒好きのウワバミ二人に旅支度をさせなくては。
ただでさえ出発予定がズレこんでいるしな。
迎えに行くか。
今日明日には出たいな。
……この都市もすぐに寂れていくだろう。
闘技都市ゴルドーの目玉だったコロシアムは倒壊したのだから。
再建するにしてもコロシアム運営委員会はレラフの失踪と共に活動を停止。
国による再建計画も資金難の為に目処はたっていないと聞くし。
いずれこの栄えた時期を懐かしく思い返すであろう闘技都市ゴルドーには未だ人で溢れていた。
街の中央にそびえ立っていたコロシアムがなくなっても急には人々の営みは変わらない。
ただ……戦いの場を求める人間はすぐに出ていく。
稼ぎを求め、戦場へ。
大陸にきな臭い空気が流れる。
戦火という名の空気が……
これでゴルドー編は終了です。




