四十六話
毎度どうも。楽しんで頂ければ幸いです。
七十を超える魔獣の咆哮に思わず体が震える。
上空から、地上から、地下から襲い来る脅威を前にオレは…
斬り伏せる!
「ファラ、ルシス!一気に全力で行く!」
『ああ!全部ぶっ倒せ!』
『出し惜しみはなしです、《剣殺》を常時発動します!』
突出したでかいネズミのような魔獣をまずは右手の紅刀で一刀両断!
次に二足歩行の巨大な牛のような魔獣の首を刈り、虎に似た魔獣を突き殺す!
その間にも次々と迫りくる魔獣を片っ端から斬り裂き、突き刺し、叩き殺す!
肩を咬まれようが止まらない。
肉を抉られようが止まらない。
流れる血はオレの分のみ。
魔獣は殺せば魔素の塵となるだけ。
だからコロシアムの石畳はオレの血しか吸わない。
……こんなに血が流れても死なないもんだな。
神剣の治癒のおかげでケガの治りは速い。
だが完璧ではない。疲労は蓄積し、ダメージも刻まれる。
無心で剣を振るい続けるが未だ魔獣は視界全体に広がっている。
なりたて剣神にはキツイ試練だ。
下らん愚痴をこぼしつつ、また一体魔獣をほふる。
空中から鷹に似た魔獣が自慢の爪でオレの肩を裂く!
一度ならまだしも三度も四度も重なるとキズはどんどん深くなり、更に治癒速度が遅れる!
もちろんタダではやられない。
剣鬼の左腕の膂力をもって無理矢理な態勢から蒼刀を振る!
鷹に似た魔獣が真っ二つに裂かれた。
ざまぁみろ。
空いたもう片方の紅刀は地中を移動する蛇のような魔獣に上から突き刺す。
その隙を突かれ、背中を獅子のような魔獣の爪で裂かれたがまだ耐えれる範囲だ!
返す刀で獅子のような魔獣を殺し、周囲を見渡す。
……まだ半分はいる。
最初から殺すつもりでこられたら、ここまで戦えなかっただろうな。
魔獣の遥か後方から見えるレラフは余裕の観戦。
オレがどこまで抵抗するかを純粋に楽しんでいる。
こちとらガチの肉弾戦を繰り広げているからさぞ楽しんでもらえているだろうな。
チッ忌々しい。
なら躍り狂ってやる。
四肢を喰い千切られようがオレは諦めんぞレラフ!!
……一人の剣使が戦っている。
血反吐を吐き、全身に傷を負いながら圧倒的な数と質を誇る軍団を相手に。
だがその姿に諦めなどは一切ない。
足掻いている。叩かれ、裂かれ、噛みつかれながらも剣を振り払い、魔獣を殺し続けていく。
人とはここまで愚かに抗い続けるものなのか。
…こんな人間は今までいなかった。
出会えなかった。
その戦いぶりは未だ未熟と言っていい。だが、この剣神の精神は高潔だ。
剣龍にも劣らぬ程に。
故に…こんな所でレラフに隷属化されるなど許せん!
世界の損失とすら断言できる。
今更ワシ一人の存在がどうなろうと、どうでもいい。
レラフの奴隷になるのも、まぁ抵抗はさせてもらうが屈服できるものならどうぞとすら思っていた。
だが……あの剣神だけはレラフの玩具にしてはいけない。
何故、彼の者が剣鬼の肉でできた左腕をもつのかずっと不審に思っていた。
剣鬼の自我は強い。恐らく左腕のみになろうとも、その宿主が気にくわない輩ならば内部からでも乗っ取るくらいに。
だが今は乗っ取るどころか宿主に進んで力を与えている。
本人が気づいているかは知らないが、時折左腕だけが異常な反応、動きをしている。
拒否反応すら起こさずに従順に従う。
その剣鬼の自我に迷いはない。
ならばその剣鬼も惚れ込んだのだ!
宿主の高潔さに!
諦めない強さに!
ならば!
ワシは!
このままでいいのか!?
否!断じて否!!
このまま人として生きよう。
ただ漠然と決めた。
前世が鬼神だろうが転生すれば別人だ。
この忌むべき力を封じておけば人の範疇でいられる。
だが、それもここまでだ!
あの剣神に助力する!
この力を…解放する!
あれはこの世界に必要な存在だから。
ワシとは違い、何かを成し遂げる男なのだから!
すでに勝敗は決している。
早いか遅いかの違いだ。
結果は確定した。
こちらの魔獣はまだ半数以上が残っているが、カインはボロボロだ。
魔素、体力ともに残量はわずかだ。
だがよくやった方だ。
妾の魔獣すべてを相手にしながら、未だ四肢の一つも喰い千切られていないのだから。
初めは玩具扱いしようと思った。
だが今は違う。
ヴェルガードと同等の扱いをしてもいいとすら思っている。
それ程の価値がある。
決して一回や二回で遊び飽きて捨てる玩具などではない。
「グッ…ヌゥ……」
自分の背後で拘束されている鬼神が呻いている。
その姿は蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のように抗っている。
決して逃げられない鎖と共に。
「無駄じゃよ、ヴェルガード。普通の剣使の剣技ならともかく、妾直々の拘束剣技じゃ。いかに抗おうとも解けはせぬ」
その無駄な足掻きに笑みしか浮かばない。
可愛いものだ。
その姿に嗜虐心が刺激される。
「ハアァ」とため息がこぼれる。
早く可愛がりたい。
一人ずつ丁寧に。
いや、二人同時にするか?
どちらにしろ早く早く早く!
このままカインの抵抗する様子を見ているのも楽しいが、すでに我慢の限界が近い。
…先にヴェルガードを楽しむか?
だがそれは数日がかりになる。
その間、カインを放っておいて死なれても困る。
ならば妾自身の手でさっさと終わらせるか。
決定すれば即実行。
剣を手に、カインの方へといざ行かん。
その瞬間だった。
自分の剣技が破られた感覚。
誰に?
拘束していたはずのヴェルガードに、だ。
「■■■■■■!!!!」
自身の魔獣にも勝る咆哮がコロシアム、いやこのゴルドーという都市全体に響き渡る!
そこにいたのは無様に捕らえられたヴェルガードがいたはずだった。
だが今は違う。
王者のように、覇者のように、堂々と君臨しているその姿は正に神だ。
これは誰だ?
外見は確かにヴェルガードだ。
だが中身は別物だ。
その存在感が違いすぎる。
はっきり言って別人だ。
これが…剣鬼の神?
これが…鬼神!!
ドス黒いオーラを放つヴェルガードがその存在を、本来の力を再び世界に知らしめる第一歩が、ここから始まる!
ヴェルガードさん覚醒です。




